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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 33

騎士団長の陥落と、新たな居候(予定)の誕生

「フレア様! もう一度言います! 貴女には世界の調停者としての崇高な義務があるはずです! それを放棄して、このような場所で何をしているのですか!?」

ハンバーガーショップの店先。

ヴァルキュリアの悲痛な叫びが響き渡る。

しかし、対する不死鳥フレアは、小指で耳をほじりながらあくびを噛み殺した。

「調停者ぁ~? あら、そんな面倒な肩書き、とうの昔に忘れましたわぁ」

「なっ……!?」

「今の私は、旦那様の『最高の奥様』。それ以外のアイデンティティは持ち合わせておりませんわ」

「ふ、ふざけないでください! 世界の均衡をなんと心得る!」

平行線をたどる議論。

間に挟まれた太郎は、オロオロと手を挙げた。

「あのぅ……どちら様でしょうか? さっきから僕のこと睨んでますけど……」

ヴァルキュリアはハッとして、居住まいを正した。

コホン、と咳払いを一つ。

「失礼しました。改めて名乗らせていただきます。私は天使族、神兵騎士団・族長ヴァルキュリアと申します。……貴方が、佐藤太郎殿ですね?」

「はい、そうですけど……(天使族? 神兵? またヤバそうなのが来たなぁ)」

ヴァルキュリアは太郎をじっと観察し、確信を持って告げた。

「貴方は……この世界の住民ではありませんね?」

「!? よく分かりましたね」

太郎が目を丸くする。異世界転移者であることは、あまり公にしていない秘密だ。

「えぇ。貴方をこの世界によこした、あの自堕落でズボラな女神、ルチアナ様は私の上司ですから」

「あぁ~、あの女神様か……」

太郎の脳裏に、転生の間でポテチを食べていた女神の姿が浮かぶ。

「自堕落」という評価に、妙に納得がいった。

「そういや僕、前世のアパートで飯食べてたら、天井を突き破ってトラックが降ってきて……そのまま押し潰されたんだっけ」

「……はい?」

「いやぁ、今思い出しても無茶苦茶な死に方だったなぁ。部屋の二階、トラックだったのかなぁ」

太郎が遠い目をしながら語る死因に、ヴァルキュリアは絶句した。

「と、とらっく……というのが何かは存じませんが、天井から……? なんと不条理な……お辛い目に遭われたのですね」

「まぁ、そのお陰でこの世界に来て、サリーやライザたちに会えたから、結果オーライかな」

太郎が笑うと、左右の妻たちが頬を染めた。

「太郎様ったら♡ どんな運命でもお慕いしますわ!」

「太郎様に会えて幸せですわ♡ トラック様に感謝しなくては!」

その愛に溢れた光景を見て、ヴァルキュリアの毒気が少し抜かれた。

「まぁ……ルチアナ様が選ばれた方ですので、根っからの悪人だとは思いませんが……しかし、最強種を堕落させるその手腕、警戒が必要です」

その時だった。

『お待たせしました~! ダブルチーズバーガーセットのお客様~!』

店員の声が響く。

「あ、はい!」

太郎はヴァルキュリアとの会話を中断し、トレイを受け取った。

「ありがとう! くぅ~、これこれ! 出来たてのハンバーガーだ!」

包み紙を開くと、熱々のパティととろけるチーズ、そしてスパイシーなソースの香りが爆発的に広がった。

その暴力的なまでの「食欲をそそる匂い」は、風に乗ってヴァルキュリアの鼻腔を直撃した。

「……っ!?」

ヴァルキュリアの肩がビクッと跳ねる。

天界では「カスミ」や「聖なる果実(味薄い)」ばかり食べている彼女にとって、その脂と肉の匂いは未知の劇物だった。

「た、太郎殿? そ、それは……一体……?」

「え? ハンバーガーっていう食べ物なんですけど……」

太郎がキョトンとして説明しようとした、その瞬間。

グゥゥゥ~~~~~~ッ!!!

雷鳴のような、あるいは猛獣の咆哮のような音が、ヴァルキュリアの腹部から盛大に鳴り響いた。

「…………」

「…………」

静寂。

真っ赤になるヴァルキュリア。

「は、はわわ! ち、違います! 今のは武者震いというか、神聖な共鳴音が……!」

必死に取り繕う騎士団長。しかし、その目はハンバーガーに釘付けだ。

太郎は苦笑いして、自分のトレイを差し出した。

「えっと……お腹空いてるなら、食べますか? まだ口つけてないんで」

「よ、よろしいのですか!? い、いえ、しかし私は調査に……!」

「冷めると美味しくないんで。どうぞ」

太郎の優しさに、ヴァルキュリアの理性が決壊した。

「で、では……毒味として……!」

彼女は震える手でハンバーガーを掴み、小さな口でかぶりついた。

パクッ。

ジュワァァァ……!

「んんっ!?」

肉汁が舌の上で踊り、チーズのコクが脳を揺らす。

ジャンクフード特有の、背徳的な旨味。

「お、美味しいいいぃぃぃぃぃッ!?!?」

ヴァルキュリアが叫んだ。

「な、何ですかこれは!? 口の中で肉と野菜が聖戦ジハードを繰り広げています! 天界の食事が泥に見えるほどの衝撃!」

あっという間に完食し、包み紙についたソースまで舐めとる勢いだ。

「良かった。気に入ってくれたみたいで」

太郎がホッとする。

しかし、ヴァルキュリアはハッとして、キリッとした顔(口元にケチャップ付き)で太郎を指差した。

「こ、こんな美味しい物を……こんな、神をも狂わせる『禁断の果実』を作り出せるなんて……!」

「え? いや、作ったのは店の店員さんで……」

「太郎殿! 貴方は危険極まりない!」

ヴァルキュリアの中で、謎の三段論法が成立した。

美味しい = 危険な誘惑 = 監視が必要 = もっと食べたい。

「決めました! 私が! 私が、この剣にかけて太郎殿を保護(監視)します! 貴方がこれ以上、世界を『食』で征服しないように!」

高らかに宣言するヴァルキュリア。要するに「私もここに住んで毎日これを食べさせろ」と言っているだけだ。

「えええええええええ!?」

太郎、サリー、ライザ、フレアの声が重なる。

最強種三柱に続き、まさかの「天使族の騎士団長」まで居候(予定)に。

太郎の胃痛と食費の負担は、天界レベルへと上昇したのであった。

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