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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 25

落ちぶれアイドルと、ガチ恋のギルドマスター

「はぁ……。世知辛いなぁ……」

青空の下、太郎は深いため息をついた。

現在の所持金、ゼロ。

度重なる騒動(主に最強種たちの破壊活動)の修繕費や食費の管理を理由に、妻たちから「お小遣い制(今月分没収)」を食らってしまったのだ。

「ラーメン食べたい……。チャーシュー麺、味玉乗せ……」

稼ごうにも、Sランク魔物の死骸を持ち込みすぎてギルド機能をごく潰しにした前科により、『冒険者ギルド出禁』中。

八方塞がりな太郎は、空腹を抱えてトボトボと城下町を彷徨っていた。

すると、広場の片隅から、どこか悲壮感漂う歌声が聞こえてきた。

「~♪」

そこには、スーパーの裏で拾ってきたような「みかん箱」の上に立ち、手作り感満載の衣装を着て歌う人魚姫――リリーナの姿があった。

「聞いてください、新曲です。『月曜日の社畜』……」

かつて『絶対無敵☆スパチャ』で国中の金を巻き上げたトップアイドルの面影は、もうない。

ブームという波は引き、今はひっそりと「地下アイドル(地上のみかん箱)」として活動していたのだ。

彼女は虚空を見つめ、マイク(木の棒)を握りしめて歌い出した。

(イントロ:哀愁漂うアコースティックギターの幻聴)

「ガンガンガンガン! アタマガガン!」

「目覚まし時計の 『キーン』 が辛い」

「月曜日だ 朝からバックレしたい~」

「布団の宇宙から 帰還 したくない」

歌詞が重い。

ファンタジー世界の住人には意味不明なはずの「月曜日」や「目覚まし」という単語が、妙なリアリティを持って響く。

(Bメロ)

「満員列車は嫌だ~ 寿司詰めギュー詰め」

「汗と香水の スメルハザード」

「ドナドナドナドナ~ 会社に運ばれる」

「魂抜けた サラリーマン行進」

「うぅ……なんて悲しい歌なんだ……」

通りがかりの市民が涙を拭っている。意味は分からないが、魂の叫びだけは伝わっているようだ。

(サビ)

「電車が 止まってくれれば~ (あぁ、神様!)」

「会社に 隕石落ちてくれ~ (せめて台風!)」

「宝くじよ 当たってくれぇ」

「ルルルールルルー 現実逃避行」

太郎は額を押さえた。

(……そうだった。僕が彼女に教えた歌だ。「日本の労働戦士ヒーローの歌だよ」って嘘ついて……。まさかこんな場末で歌われることになるなんて……)

全ての元凶は、自分にある。

罪悪感に苛まれる太郎。

しかし、歌はクライマックスへ。

(Cメロ)

「せめてコンビニで朝飯~ 癒やしを求めて」

「誰だよ エビマヨ買い占めた奴ぅ~ (許せん!)」

「ツナマヨじゃ嫌だ オカカしかねぇ~」

「『ご縁』 しか結べぬ 侘しい 朝だ...」

(ラスト)

「もう一回だけ ベッドに戻りたい……」

リリーナが歌い終えると、パラパラ……と寂しい拍手が起きた。

だが、その中に一人だけ、異様な熱気を放つ男がいた。

「うおおおおお! リリーナちゃぁぁぁん!!」

「LOVE LOVE! 愛してるぜ~! ハイ! ハイ! ハイハイハイ!!」

最前列で法被はっぴを着て、両手にサイリウム(発光魔法の棒)を持って激しく踊る(オタ芸)中年男性。

その動きはキレッキレで、周囲の観客がドン引きして距離を取るほどだ。

「……ん?」

太郎はそのハゲ上がった頭と、立派な髭に見覚えがあった。

「あれ……ヴォルフさん? ギルドマスターで、ライザのお父さんの?」

そう、国の重鎮ヴォルフが、仕事をサボってドルオタ活動に勤しんでいたのだ。

「リリーナちゃーん! 今日も歌詞が染みるぜぇ! スパチャ(投げ銭)だー!」

ヴォルフがジャラジャラと金貨を投げ込もうとした、その時。

「……お父様?」

地獄の底から響くような、冷え切った声がした。

ヴォルフの動きがピタリと止まる。

「げぇっ!?」

振り返ると、そこには般若のような形相で剣の柄に手をかけた、娘のライザが立っていた。

偶然、太郎を探しに来ていたのだ。

「ら、らら、ライザ!? これは違うんじゃ! これは、その、文化的な視察で……!」

「何が視察ですか! こんな大衆の面前で、いい歳をして『LOVE LOVE』だなんて……! 恥を知りなさい!」

「ひぃぃ!」

「お母様に言いつけます! 『お父様が若い人魚に入れあげて、家のお金を貢いでいた』と!」

それはヴォルフにとって死の宣告に等しかった。

ヴォルフの妻(ライザの母)は、かつて「鬼神」と呼ばれた伝説の冒険者であり、家庭内でのカーストは絶対的なのだ。

「ま、待ってくれ! それだけは! 母さんには言わないでくれぇぇ! 殺されるぅぅ!」

「問答無用です!」

ライザが踵を返して立ち去ろうとする。

絶体絶命のヴォルフ。

その時、救いの神(あるいは悪魔)が割って入った。

「まぁまぁ、ライザ。ちょっと待ちたまえ」

「太郎様!? なぜここに?」

太郎はニッコリと笑い、ヴォルフの肩に手を置いた。

「ヴォルフさん……。熱心な応援、感心しましたよ。ですが、リリーナは僕がプロデュースしたアイドルです」

「む、婿殿……?」

「彼女を応援するなら、プロデューサーである僕(事務所)を通して頂かないと……困りますねぇ?」

太郎の目が「商談」の色を帯びる。

ヴォルフはゴクリと唾を飲んだ。この婿、いつになく強気だ。

「ど、どうすれば良いんじゃ……? ワシの命(妻への報告)がかかっておる……」

「簡単なことですよ」

太郎は耳元で囁いた。

「僕に対する『ギルド出禁処分』。あれを解除してください。そうすれば、僕からライザを説得しましょう。なんなら、リリーナの握手会への優先参加権も差し上げますよ」

「なっ……!?」

ヴォルフは葛藤した。ギルドの平和か、自分の命と推し活か。

答えは一瞬で出た。

「……分かった! 解除する! 今すぐ解除するから、母さんには黙っていてくれ!」

「交渉成立ですね」

太郎は満面の笑みでライザに向き直った。

「ライザ。お義父さんも仕事のストレスが溜まってるんだよ。『月曜日の社畜』の歌詞に共感して、涙していただけさ。今回は見逃してあげよう?」

「むぅ……太郎様がそう仰るなら……」

ライザは渋々ながらも剣を収めた。

ヴォルフはその場にへたり込み、安堵の涙を流した。

「助かった……感謝するぞ、婿殿ぉ……!」

「いえいえ。これからもリリーナを贔屓にしてあげてくださいね(僕の財布のために)」

こうして、太郎は裏取引により見事「ギルド出禁」を解除させ、再び魔物の素材を換金する権利(ラーメン代)を手に入れた。

一方、わけも分からず大金(ヴォルフの投げ銭)を手に入れたリリーナは、

「やっぱり世の中、スパチャね……! 月曜日なんて怖くないわ!」

と、みかん箱の上で高笑いするのであった。

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