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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 22

禁断の果実クサヤと、鼻もげる追撃戦

ある晴れた日の午後。

城の廊下ですれ違いざま、太郎とサクヤの間で「暗号」のやり取りが行われた。

太郎は声を出さず、口の動きだけでこう伝えた。

(……ク・サ・ヤ……)

その瞬間、サクヤの瞳が鋭く光った。

彼女は無言で深く頷く。

(……準備は万端です。良いモノが入荷しました……)

言葉は不要。

二人の間には、長年の戦友だけが持つ、重く、そして臭い絆があった。

数分後。

二人は忍びの如き足取りで城の裏口を抜け出し、姿を消した。

目指すは、人里離れた街外れの廃小屋。

誰にも邪魔されず、そして誰にも迷惑(悪臭被害)をかけずにアレを楽しむための、秘密のアジトである。

一方、城のリビング。

「あれ? 太郎様がいらっしゃいませんわ」

サリーがキョロキョロと周囲を見渡す。

「そういえば、サクヤもいないな。昼食の仕込みの時間だというのに」

ライザも首を傾げる。

その時、二人の脳裏に最悪の可能性が閃いた。

「まさか……駆け落ち!?」

「あるいは不倫旅行!?」

「大変ですわーーッ!!」

フレアが叫び声を上げた。

「あの泥棒猫エルフめ! ついに実力行使に出ましたわね! 許せません!」

フレアは昼寝をしていたフェリルを叩き起こした。

「起きなさいフェリル! 緊急事態よ! 今すぐ旦那様の匂いを辿るのよ!」

「ふあぁ……? 嫌だよぉ、眠いし……」

「ビーフジャーキーあげるから!」

「……ちぇっ。仕方ないなぁ」

フェリルは渋々起き上がると、クンクンと鼻を鳴らした。

「ん……? ご主人の匂いは……こっちだ。街の外に向かってる」

「でかしたわ! さぁ、追撃よ!」

フレアを先頭に、サリー、ライザ、そしてフェリルの「不倫調査隊」が城を飛び出した。

街を抜け、森へ入り、人気のない荒野へ。

進むにつれて、フェリルの様子がおかしくなっていった。

「う……なんか……嫌な予感がする……」

フェリルの尻尾が完全に股の間に丸まっている。

「どうしたのフェリル?」

「臭い……。なんか、とてつもなくヤバイ匂いが混じってる……」

「えぇい、軟弱者! 狼王のプライドはないのですか!」

フレアに叱咤され、フェリルは涙目で鼻を鳴らし続ける。

しかし、目的地の小屋が見えてきたあたりで、限界は訪れた。

「ぶふっ!!?」

フェリルが突然、何か見えない壁にぶつかったかのように仰け反った。

「だ、だめだ……! は、鼻が……鼻が死ぬぅぅぅ!!」

「えっ、ちょっと!?」

最強の嗅覚を持つ狼王が、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

痙攣する指先で、前方にあるボロボロの小屋を指差す。

「あ……あっち……。ご主人たちは……あの『腐敗の魔窟』の中に……ガクッ」

「フェリルーーッ!!」

ライザが叫ぶが、フェリルはもう動かない。気絶している。

サリーが青ざめた。

「あ、あのフェリルちゃんを一撃で!? 一体、あそこにはどんな強力な結界トラップが!?」

「くっ……! きっとサクヤの仕業ね。毒ガス魔法の類かしら!」

フレアは口元を袖で覆い、決意の表情で小屋を睨んだ。

「上等ですわ! 私達を阻もうとしても無駄よ! 愛の力で突破して見せます!」

「望むところだ! どちらが先に太郎様の元へ辿り着けるか、花嫁レースの開始よ!」

「私も負けません!」

三人の乙女たちは、未知なる「悪臭」へと突撃を開始した。

「うっ……!?」

小屋まであと50メートル。

先頭を走っていたライザが足を止めた。

「な、何だこの匂いは!? ドブ川と腐ったチーズを煮込んで天日干しにしたような……!」

「うぷっ……! 目が、目が痛いですわ!」

サリーも涙目になり、咳き込む。

しかし、彼女たちは諦めない。

鼻をつまみ、口呼吸に切り替え、ジリジリと小屋へ迫る。

だが、「特級呪物・クサヤ」の威力は、距離が縮まるごとに指数関数的に跳ね上がっていく。

あと30メートル。

「ぐ……あぁ……!」

ライザが膝をついた。

「すまない……太郎様……。私は……ここまでだ……」

彼女はそのまま地面に突っ伏した。物理的な耐久力があっても、呼吸器へのダイレクトアタックには耐えられなかった。

あと10メートル。

「ま、魔法障壁マジック・バリア……! 全然効きませんわ……!?」

サリーがよろめく。

風魔法で空気を浄化しようとしたが、あまりの濃度に魔力が追いつかない。

「太郎様……そこに……いるの……です……か……?」

バタリ。大魔導師、小屋のドアノブに手を伸ばす幻覚を見ながらリタイア。

「はぁ……はぁ……! 小物の貴女達とは根性が違いますわ!」

唯一残ったのは、不死鳥のフレア。

再生能力で鼻の粘膜を修復しながら、強引に進む。

「旦那様! 今助けま……おごぉっ!!?」

小屋の隙間から漏れ出た、一際濃厚な「焼き上がり直前の煙」がフレアを直撃した。

それは、生物としての防衛本能を強制的に発動させるレベルの刺激臭。

「こ、これは……生物兵器……!? サクヤ……貴女、旦那様諸共……心中する気……!?」

ドサッ。

最強の再生能力も、精神的ダメージ(臭い)までは癒やせなかった。フレア、玄関マットの上で撃沈。

こうして、小屋の周りには、泡を吹いて倒れる美女と狼の死骸(気絶)が転がることとなった。

一方、小屋の中。

外の地獄絵図とは裏腹に、そこは酒飲みたちにとっての「桃源郷エデン」だった。

七輪の上では、干物がパチパチと音を立てて脂を滴らせている。

部屋中に充満する、独特かつ強烈な発酵臭。

しかし、今の二人にとって、これは最高のアロマだった。

「くぅ~! この香り! たまりませんなぁ!」

太郎が一升瓶(芋焼酎)を傾け、グラスに注ぐ。

「はい、太郎様。一番美味しい部分が焼けましたわ」

サクヤが手際よく身をほぐし、差し出す。

パクッ。

口に入れた瞬間、強烈な香りが鼻を抜けるが、その後に広がるのは濃厚な旨味の爆弾。

「んん~っ!! 美味いッ!!」

「焼酎が進みますね。やはり、クサヤは伊豆諸島産に限ります」

「いやぁ、最高だね。城だと皆が嫌がるから肩身が狭いけど、ここなら誰にも文句言われないし」

太郎は窓の外を一瞥した。

擦りガラスの向こうに、何やら倒れている人影が見えるような気もしたが、湯気と煙でよく見えなかった。

「ん? なんか外、静かだね。鳥も鳴いてない」

「ふふ、きっとこの芳醇な香りに酔いしれて、静かに聞き惚れているのでしょう」

サクヤは涼しい顔で、気絶しているフレアたちの方角へ煙を手で扇いで送った。

「さ、もう一枚焼きますか」

「いいねぇ! ジャンジャン焼こう!」

太郎とサクヤは、倒れ伏す妻たちを肴に、最高の晩酌を楽しんだ。

後に、この小屋周辺は「魔の臭気地帯」として、近隣の魔物たちさえも近寄らない絶対不可侵領域として恐れられることになったという。

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