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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 19

月下の決意 〜三人の乙女と、超えるべき壁〜

「完璧」。

その言葉がこれほど重くのしかかるとは。

サクヤは美人で、優しく、気配りができて、その上天才的な料理人。

ただのメイドではない。太郎の隣にいることが一番自然に見えてしまう、その「現実の壁」に、三人の女性たちは直面していた。

それぞれの夜が、静かに更けていく。

【城の屋上・フレアの私室】

夜風が吹き抜ける開放的なテラス。

フレアは、姿見の前で立ち尽くしていた。背中から伸びる炎の翼が、月明かりの下で揺らめいている。

「何故? ……何故、この不死鳥たる私が、あんなエルフ如きに、このような劣等感を抱かなければならないの?」

彼女は鏡の中の自分を見つめた。

美貌には絶対の自信がある。神々しいまでの力もある。

けれど、今日のラーメン屋でのサクヤの所作――あの一点の曇りもない献身と、それを受け入れる太郎の安らいだ表情が、脳裏から離れない。

「私が持っている『美しさ』や『力』だけでは、旦那様の心を掴めないの? 私は……サクヤに負けてしまうの?」

フレアは優雅に翼を羽ばたかせた。キラキラと炎の粉が舞い散る。

数万年を生きてきたプライドが、小さく軋む音がした。

だが、彼女は鏡を睨みつけ、強く唇を噛んだ。

「……嫌よ。私は負けないんだから」

彼女は両手で自分の頬をパンと叩いた。

「料理だって覚えたわ。掃除だって洗濯だって、やってやれないことはない! 必ず旦那様の最高の奥様になるんですから! 見てなさいよ、小物エルフ!」

【城内・子供部屋】

柔らかな常夜灯が灯る部屋で、サリーは娘の陽奈の寝顔を見つめていた。

スヤスヤと眠る天使のような顔。

「陽奈……。生まれて来てくれて、ありがとうね」

サリーはそっと娘の髪を撫でた。

太郎と共に異世界を旅し、数々の苦難を乗り越え、この子を授かった。

その「絆」は誰にも負けないはずだ。

「私には、太郎様と一緒に冒険してきた思い出がある。魔法だって沢山覚えた。太郎様との間に陽奈も生まれた……」

けれど、不安が胸をよぎる。

思い出は過去のもの。日々の生活リアルを支えているのは、今はサクヤの比重が大きいのではないか。

「……でも、それだけじゃ、太郎様の心を未来永劫、繋ぎ止めておく事は出来ないのかな……」

サリーは陽奈の小さな手を握りしめた。

その温もりが、迷える母に力を与える。

「……ううん。弱気になっちゃ駄目よ!」

サリーは首を振った。母は強し。

「陽奈の為にも、私は『無敵の奥様』なんだから! 料理が負けてるなら、魔法と愛嬌でカバーすればいい! サクヤさんには負けないわ!」

【城の中庭】

静まり返った月下で、鋭い風切り音だけが響いていた。

ライザは一心不乱に愛剣を振るっていた。

玉の汗が頬を伝い、地面に落ちる。

「ハッ! ……フッ!」

一通りの素振りを終え、ライザは荒い息をつきながら自分の手を見た。

剣ダコで硬くなった掌。無数の傷跡。

サクヤの白く滑らかな手とは対照的な、武人の手だ。

「私には剣がある。太郎様と冒険して、共に背中を預けて成長した思い出もある。月丸もいる」

彼女は視線をベンチに向けた。

そこには、母の稽古をじっと見守る息子、月丸の姿があった。

「……こんなガサツな女じゃ、太郎様は私を好きでいてくれないのか?」

美味しい料理で胃袋を満たすサクヤ。

戦場で血を浴びる自分。

平和になった今、求められるのはどちらなのか。

ライザは剣を握りしめ、月丸を見た。

月丸は、母の剣技に憧れるような瞳で見つめ返してくれた。

「……終わってたまるか」

ライザはニヤリと笑った。

この剣で太郎を守ってきたのだ。この手で月丸を育ててきたのだ。

自分を偽る必要はない。

「私は、諦めが悪いんだから!」

ライザは月に向かって剣を突き上げた。

「私のやり方で、太郎様を支えてみせる。絶対に太郎様のお側にいて、『最強の奥様』になるのよ!」

三者三様の夜。

不安を抱えながらも、彼女たちは決して退かないことを選んだ。

全ては、愛する太郎の隣に立つために。

「サクヤ」という巨大な壁は、彼女たちの女としてのレベルを、皮肉にも一段階上げようとしていた。

一方その頃、当の太郎は。

「ふごぉ……ラーメン……大盛りで……」

幸せそうに寝言を言いながら、深い眠りについていた。

明日の朝、パワーアップした妻たちの愛(と圧)が彼を襲うことを、まだ知らない。


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