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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 18

行列の掟と、完璧なるメイドの脅威

城下町の片隅にある、知る人ぞ知る名店『魚介中華そば・海神わだつみ』。

店の前には、開店前から長蛇の列ができていた。最後尾は角を曲がった先まで続いている。

「うわぁ、凄い行列だなぁ……。人気店とは聞いてたけど」

太郎が列の長さに圧倒される。

しかし、ラーメン求道者であるデュークは腕を組み、満足げに頷いた。

「ふん。それ位に美味しいと言う物よ。待つ時間すらも、空腹という最高のスパイスになる」

「なるほどねぇ。あ、煮干しのいい香りが漂ってきた」

「うむ。この香りの強さ……ふんだんに高級煮干しを使っておるな」

太郎とデューク、そしてフェリルとサクヤは、ラーメン談義に花を咲かせながら楽しそうに並んでいる。

その様子を、電柱の影から見つめる三つの影があった。

サリー、ライザ、そしてフレアだ。

「……なんて二人だけの世界なのかしら! 周りが見えていませんわ!」

サリーがハンカチを噛む。楽しそうな太郎の笑顔が、自分たちに向けられたものでないことが悔しい。

「我慢できないわ! 私は中に入るわよ!」

「あっ、ちょっと! フレア様!?」

ライザの制止も聞かず、フレアが飛び出した。

彼女はツカツカと列を無視して、太郎たちの元へ割り込もうとした。

「旦那様ぁ♡ 偶然ですわね! 私も一緒に……」

「待ていッ!!!」

雷のような怒号が響いた。デュークだ。

彼はフレアの襟首を掴み、鬼の形相で睨みつけた。

「な、なによ! 放しなさいよ!」

「貴様ら! 神聖なラーメンの前に、順番も待てずに割り込むとは! 何たる不埒者ふらちものか!」

デュークの黄金の瞳が、本気の殺気を放つ。

「ラーメンへの冒涜は、この竜王が許さん! 並ぶ覚悟無き者に、啜る資格なし! 最後尾へ出直せェッ!!」

「ひぃぃぃッ!?」

世界の管理者を相手に、ただのマナー違反でブチ切れる竜王。その迫力に気圧され、フレアはすごすごと引き下がった。

「くっ……覚えてらっしゃい……!」

フレア、サリー、ライザの三人は、ズコズコと肩を落として列の最後尾へと回らされた。

遥か彼方の最後尾から、楽しそうな太郎たちの背中を見つめるしかない。

やがて順番が来て、太郎たちが店内に案内された。

カウンター席に着いた瞬間、サクヤが動いた。

サッ。

流れるような手付きで懐から清潔なハンカチを取り出し、太郎が座る丸椅子をサッと払う。

「太郎様、どうぞ」

「あ、ありがとう」

太郎が座ると、すかさずコップに水を注ぎ、箸を取りやすい位置にセットする。

その間、わずか数秒。無駄な動きが一切ない。

「魚介ラーメンかぁ。楽しみだね」

「えぇ、太郎様。紙エプロンもご用意しておりますわ。汁が跳ねるといけませんので」

「気が利くなぁ、サクヤは」

ラーメンが到着し、太郎が夢中で麺を啜り始める。

その間も、サクヤのケアは止まらない。

水が半分になれば、太郎が言う前にサッと注ぎ足す。

汗をかけば、すかさずおしぼりを差し出す。

それでいて、自分も上品にラーメンを味わっているのだ。

まさに阿吽の呼吸。長年連れ添った夫婦以上の連携だった。

一方、店の外。

ガラス窓にへばりつくようにして、その光景を見ている三人がいた。

ギリギリギリギリ……。

窓ガラスにヒビが入りそうなほど、サリーたちが歯ぎしりをする。

「あ、あんなに甲斐甲斐しく尽くしていたら……サクヤさんに心を奪われてしまうかも!」

フレアが危機感を露わにする。

あそこまで自然な気遣いは、一朝一夕ではできない。

「私達も、もっとアピールしないと! このままじゃ本当にサクヤさんが正妻(奥様)の座に……!」

サリーが焦る。魔法の腕では勝てても、「居心地の良さ」という最強の武器で負けている。

「ぜ、絶対に負けませんわ……! 料理の腕は敵わないとして、剣の腕なら……私は……!」

「剣の腕でどうやって旦那様を癒やすのよ、この脳筋!」

ライザが迷走し、フレアがツッコむ。

そうこうしている間に、太郎たちが店から出てきた。

「ぷはー! 美味かったな、魚介ラーメン!」

太郎は満面の笑みでお腹をさすった。

「えぇ、大変美味しゅうございました。出汁の取り方が絶妙でしたわね」

サクヤも満足そうに微笑む。

「よし! この味を再現出来るか、城で研究だ! サクヤ、手伝ってくれるかい?」

「勿論です。舌が覚えているうちに、試作しましょう」

「面白い! 我も審査員として参加しよう!」

「味見は任せて! チャーシュー多めで!」

太郎たちは新たなミッション(ラーメン再現)に燃え上がり、楽しそうに城への帰路についた。

取り残されたのは、まだ行列の半分も進んでいない三人組。

「…………」

秋風がヒュルリと吹き抜ける。

「結局……私達は歯ぎしりするしか有りませんでしたね」

フレアが力なく呟いた。ラーメンも食べられず、太郎との接点も持てず、ただサクヤの株が上がるのを見せつけられただけ。

「サクヤさん……」

強敵とも……いえ、最大の障壁ですわ」

サリーとライザは、遠ざかるメイドの背中を見つめ、改めて兜の緒を締めた。

このままでは、太郎国は「メイド・イン・タロウ」になってしまう。

妻としての、そして新妻(自称)としての意地を見せるべく、三人は無言で頷き合った。

(まずは……ラーメンを食べてから作戦会議よ!)

彼女たちの戦いは、まだ始まったばかりである。

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