EP 17
灯台下暗し!? 最強のメイドと緊急休戦協定
翌朝のダイニングルームは、いつものように騒がしかった。
「旦那様ぁ♡ おはようございます♡ 夢に私が出ませんでしたか?」
フレアが背後から太郎に抱きつき、豊満な胸を押し付ける。
「い、いや? 別に……(夢の中ではラーメン食べてたな)」
太郎が素っ気なく答えるが、フレアはお構いなしだ。
「フレア様! いい加減にして下さい! 朝からベタベタと!」
「シッシッ! 太郎様に近づかないで! 鬱陶しいですわ!」
サリーとライザが、手で払うようにフレアを威嚇する。
「いや〜ん、旦那様ぁ。小物達が寄ってたかって私をいじめるのぉ。怖いわぁ〜」
「誰が小物ですか!」
ギャーギャーと始まる口論。
その騒音に、新聞を読んでいた竜王が限界を迎えた。
「いい加減にしないか、貴様ら」
デュークが低い声で唸る。
「朝くらい静かにしろ。主が困っているだろうが。飯が不味くなる」
最強種の威圧に、三人はビクッと肩を震わせた。
「……はい」
「申し訳ありません……」
しゅんとして大人しくなるサリーたち。
そこに、絶妙なタイミングで静かな足音が近づいてきた。
「太郎様。朝の目覚めに良い、特製のハーブティーを淹れました」
サクヤだ。
彼女は一糸乱れぬ所作で、湯気の立つティーカップを太郎の前に置いた。
透き通るような黄金色の液体から、爽やかな香りが立ち上る。
「ありがとう、サクヤ」
太郎はカップを手に取り、一口啜った。
「ん……。美味しいな。香りが良くて、頭がスッキリするよ。流石はサクヤだ」
「もったいないお言葉です。太郎様に喜んで頂き、嬉しいですわ」
サクヤは慎ましやかに、しかし嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔には、長年連れ添ったパートナーのような阿吽の呼吸があった。
「そうだ。城下町でさ、評判の**『魚介系ラーメン』**を出す店を見つけたんだ。煮干しが効いてて美味いらしいよ。行ってみようよ」
太郎が提案すると、デュークが新聞を畳んだ。
「ほう、魚介系か。それは面白い。豚骨とはまた違った奥深さがありそうだ」
「楽しみですね。お供します、太郎様」
サクヤも当然のように頷く。
そこへ、ジャーキーを咥えたフェリルも飛び込んできた。
「ラーメン!? 行く行く! 僕も行く!」
「よし、フェリルもおいでよ」
「分かった! ご主人!」
「じゃあ、行ってきます!」
太郎、デューク、フェリル、そしてサクヤ。
「食」で繋がった四人は、楽しそうに連れ立って城下町へと出かけて行ってしまった。
パタン。
扉が閉まる音が響く。
残されたのは、フレア、サリー、ライザの三人だけ。
ダイニングルームに、気まずい沈黙が流れた。
「…………」
「…………」
「…………」
最初に口を開いたのは、フレアだった。
「ねぇ……ちょっと待って」
フレアの表情から、先程までのふざけた色が消えていた。
「もしかして、もしかしてだけど……私達で牽制し合って、キャットファイトをしてる中……」
フレアは閉ざされた扉を指差した。
「太郎様と一番仲が良いのは、サクヤさんで無くって?」
その言葉に、サリーとライザがハッとした。
「言われてみれば……。サクヤさんは何時も料理や身の回りのお世話で、太郎様と一緒に居て……」
サリーが冷や汗を流す。
太郎がリラックスしている時、そこにはいつもサクヤがいる。
「サクヤさんの料理は『美味しい、美味しい』って……。それにサクヤさんは美人で、スタイルも良くて、料理が上手くて、優しくて、献身的で……」
ライザが指折り数えていき、顔面蒼白になった。
「完璧超人ですわ……!」
彼女たちは気づいてしまった。
派手に喧嘩している自分たちを他所に、サクヤだけが着実に、静かに、太郎の「胃袋」と「信頼」という要塞を攻略し続けていることに。
「こ、こんな不毛な争いをしてる暇は無くってよ!!」
フレアが立ち上がった。
「小物の貴女達と争うのは一時休戦よ! 今は共通の『脅威』を確認すべきだわ!」
「えぇ、そうですわね! このままでは外堀も内堀も埋められてしまいます!」
「行きましょう! 私達も後を追いますわよ!」
「えぇ!」
昨日の敵は今日の友。
三人の女性たちは、鬼気迫る表情で城を飛び出した。
目指すは城下町のラーメン屋。
太郎の隣の席(と心の席)を死守するため、乙女たちの追撃戦が始まった。




