EP 15
過保護な母鳥と、小学生レベルの頂上決戦
昨夜の「ナーガの黒焦げステーキ事件」を経て、サクヤに料理を教わったことで自信をつけたフレア。
翌日の朝食の席は、さらに混沌としていた。
「さぁ、旦那様♡ お口を開けてくださいな」
フレアは椅子の距離をゼロにし、太郎に密着していた。
その姿はまさに、巣の中で雛に餌を与える母鳥そのもの。フォークに刺した極上のステーキを、太郎の口元に突き出している。
「はい♡ 旦那様、美味しいお肉ですよぉ♡ あ〜ん」
「い、いや、フレアさん……自分で食べれるから。僕の手、動くから」
太郎が冷や汗をかきながらフォークを受け取ろうとするが、フレアはそれを許さない。
「そんなぁ……。食べてくれないと私、悲しくて死んじゃいます。心臓が止まって灰になっちゃいます」
ウルウルと瞳を潤ませるフレア。
「えぇ!?(そんな重い!?)」
「死なないだろ、貴様。不死鳥だろうに」
向かいの席で、山盛りのご飯をかきこんでいた竜王デュークが、冷静かつ的確なツッコミを入れた。
しかし、その程度の言葉でフレアは止まらない。
この茶番を目の前で見せつけられていた、本妻たちの堪忍袋の緒がついに限界を迎えた。
ガタンッ!!
サリーとライザが同時に立ち上がった。
「いい加減にして下さい! フレア様!!」
サリーがテーブルを叩く。
「朝からベタベタと! 太郎様が困っているのが分かりませんの!?」
「そうですわ! 大体、貴女は『世界の管理者』でしょう? 不死鳥には不死鳥の仕事が有るはずですわ! さっさと帰って仕事をして下さい!」
ライザも指を突きつけて抗議する。正論だ。あまりにも正論すぎる。
だが、フレアは涼しい顔でフォークを下ろし、優雅に紅茶を啜った。
「あら〜?」
フレアは流し目で二人を見下ろした。
「何か小物が騒いでますけどぉ……。私と旦那様が熱々な事が、そんなに羨ましいんですのね? 嫉妬かしら? みっともない」
プチン。
サリーとライザのこめかみで血管が切れる音がした。
「こ、小物ですってぇぇぇ!?」
「誰が小物ですか! 私は大魔導師で、彼女は剣士ですわよ!」
「はいはい、人間の中では強いんでしょうねぇ。すごーい」
フレアの心のこもっていない棒読みの賞賛。それが一番の煽りだった。
「大体! 不死鳥の貴方が、人間の太郎様と結婚だなんて許されません事よ! 生物学的にも、倫理的にも、世界の秩序的にも!」
ライザが必死に理屈を並べる。
すると、フレアは小首をかしげ、ニヤニヤと笑いながら言い放った。
「えぇ〜? 太郎様と不死鳥が結婚してはいけないなんて……」
フレアは子供のように指を振った。
「星が何回回って、何時何分何秒に決まったのかしら〜?」
「…………は?」
あまりにも幼稚な、小学生レベルの屁理屈。
数万年を生きる伝説の聖獣が放ったとは思えない言葉に、その場の時間が止まった。
「キ、キイイイイッ!!」
サリーが地団駄を踏んだ。
「憎たらしい! 何ですかその言い草は!」
「ふふん、答えられないなら私の勝ちね♡ さぁ旦那様、続きをしましょう♡」
「ふざけないで! 表へ出なさい! その性根、魔法で叩き直して差し上げますわ!」
「望むところよ! 魔剣の錆にしてくれます!」
「あら、やる気? 小物の分際で、私に勝てると思って?」
バチバチバチバチッ!!!
三人の間に、紅蓮の炎と、極大の魔力と、鋭利な闘気が渦巻いた。
ダイニングルームの窓ガラスにヒビが入り、シャンデリアがガシャガシャと揺れる。
「ひぃぃぃ! 朝から戦争だぁ!」
「ぼ、僕の朝食が……!」
太郎が悲鳴を上げる横で、フェリルが呟いた。
「ねぇデューク。女って怖いね」
「うむ。触らぬ神に祟りなしだ。……主よ、早く逃げた方が良いぞ」
朝食の席は、もはや食事どころではない、女たちのプライドを賭けたバトルのリングと化していた。




