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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 10

天空からのクレーマーと、絶品すき焼きの魔力

太郎国、城の中庭。

夕暮れ時、そこには天国のような香りが充満していた。

「さぁ、煮えてきたぞ! 卵を溶いて待つんだ!」

「うひょー! この甘辛い匂い、たまんねぇ!」

今日は『すき焼きパーティー』の日だ。

太郎がスキルで出した巨大な鉄鍋の中では、特製の割下わりしたがグツグツと音を立てている。

霜降りの最高級黒毛和牛、白菜、焼き豆腐、シラタキ、そして春菊。

それらが醤油と砂糖の甘美な海で踊り、食欲をそそる湯気を立ち上らせていた。

「いただきまーす!」

「んんっ! 熱々のお肉に冷たい卵が絡んで……最高ですわ!」

「ご飯が進みますね!」

サリーとライザが頬を緩める。

「パパ! お肉おかわり!」

「お野菜も食べるんだぞ〜」

平和。圧倒的な平和。

世界の憂いなどどこ吹く風で、太郎たちは鍋を囲んで盛り上がっていた。

しかし、その平穏は突如として破られた。

ゴオォォォォォォォッ!!!

上空の空が、夕焼けよりも赤く、禍々しい色に染まった。

季節外れの熱波が中庭を襲う。

「な、なんだ!?」

「空が燃えている!?」

見上げると、巨大な炎の塊が、隕石のような速度で城へと落下してきていた。

ドォォォォォォン!!!

中庭の端に着地した衝撃で、庭木が燃え上がり、衝撃波で鍋の湯気が吹き飛ぶ。

炎の中から現れたのは、翼を広げた巨大な不死鳥フェニックスだった。

「わぁ〜! フェニックスだ!」

「きれ〜い! おっきなトリさ〜ん!」

月丸と陽奈は、花火の延長だと思って無邪気に指差して喜んでいる。

だが、その「トリさん」は、ブチ切れていた。

『……あ、貴方達……』

地響きのような声が響く。

『私が……私がこんなに1人で働いてると言うのに……何をしてるのおおおッ!?』

フレアの絶叫と共に、周囲の気温が10度上がった。

彼女の目は血走っており、全身から「殺意」と「過労」のオーラが噴き出している。

「なんだ……フレアか」

しかし、鍋を囲む最強種たちの反応は薄かった。

デュークは箸を止めず、煮えたばかりの特上ロースを卵にくぐらせた。

「何しに来たんだ? あぁ、言っておくが、我の肉は分けてやらんぞ?」

「げぇぇ……フレアかよ。面倒くさい学級委員長が来たな」

フェリルも嫌そうな顔をしつつ、豆腐をハフハフと頬張った。

「あっち行っててよ。今、すき焼きに集中してるんだから」

その態度が、フレアの理性の糸を完全に焼き切った。

『キイイイイッ!? 何なの! その態度は!?』

フレアが翼を羽ばたかせ、熱風を巻き起こす。

『本当に調停者なの!? 私だけ働かせて! 西の大陸も南の島も全部私一人で回って! お肌もボロボロで! なのに貴方達は「肉はやらん」ですって!? 詫びもしないの!?』

怒りのあまり涙目になるフレア。

今すぐにでも「獄炎ヘル・フレア」でこのふざけた宴会場を焼き尽くしてやろうと、魔力を練り上げた。

その時だった。

グゥゥゥゥゥ…………キュルルルッ……。

轟音のような腹の虫が、フレアの体内から響き渡った。

張り詰めた空気が一瞬で凍りつく。

「…………」

フレアの動きが止まった。

そういえば、昨日の朝から何も食べていない。

目の前には、世界一美味しそうな肉の鍋。鼻腔をくすぐる醤油と砂糖の焦げる香り。

『あ……』

フレアの翼から力が抜けた。

『身も心もボロボロで……お腹が、空いたわ……』

その場にへたり込む巨大な鳥。

その哀愁漂う姿を見かねて、鍋奉行の太郎が立ち上がった。

「まぁまぁ、フレアさん」

太郎は新しい取り皿と生卵を用意し、優しく声をかけた。

「色々と事情はあるみたいだけど……良かったら、すき焼きでも食べる? 美味しいよ」

フレアがビクッと顔を上げた。

『え!? ……い、良いの!?』

「うん。肉ならまだ沢山あるからさ。ほら、こっちおいで」

太郎の手招きに、フレアは躊躇いながらも頷いた。

シュウウウ……。

炎が収束し、光の中から絶世の美女が現れた。

ただし、その顔は疲れ切っており、髪はボサボサ。まさに「仕事帰りの疲れたOL」そのものだった。

フレアは恐る恐るテーブルに着いた。

太郎が、一番良い肉をさっと煮て、溶き卵が入った器に入れて差し出す。

「はい、どうぞ」

「……い、いただきます」

フレアは箸を受け取り、震える手で肉を口に運んだ。

パクッ。

「…………!!」

口に入れた瞬間、フレアの瞳孔が開いた。

とろけるような脂の甘み。濃厚な割下の味。それをマイルドに包み込む卵のコク。

空っぽの胃袋に、温かい幸福が染み渡っていく。

「ん〜〜っ! 美味しいいいッ!!」

フレアが頬を両手で押さえ、叫んだ。

その目から、過労の涙とは違う、感動の涙がポロポロとこぼれ落ちる。

「な、何これ!? 世界の終わりみたいな美味しさじゃない! サンドワームの干物とは大違いよ!」

「だろう? 白滝も美味いぞ」

「この春菊も最高だね」

デュークとフェリルが、いつの間にか具材を追加してくれている。

フレアは夢中で箸を動かした。

「美味しい……美味しいわ……!」

怒りも、疲れも、殺意も、すべてが鍋の中に溶けていく。

こうして、太郎国を焼き尽くすはずだった業火は、すき焼きの鍋の火加減を調整する「丁度いい火力」として、平和に利用されることになったのだった。

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