EP 5
お土産はSランク魔獣!? 太郎、ギルドを追放される
爽やかな朝。小鳥のさえずりと共に、太郎は目を覚ました。
隣では愛する妻たちがまだスヤスヤと眠っている。
今日も平和な一日が始まる――そう思いながら、太郎は伸びをして窓を開け、庭を見下ろした。
「ん~、いい天気だ……ん?」
太郎の動きが止まった。
手入れの行き届いた王宮の中庭に、『牛』がいた。
いや、ただの牛ではない。全長5メートル、隆起した筋肉、巨大な戦斧を握りしめたまま絶命している、Sランク魔獣『ミノタウロス』の死骸が、花壇を押し潰して鎮座していた。
「ミ、ミノタウロス!? な、何で!?」
太郎が悲鳴を上げると、死骸の陰からひょっこりと銀髪の少年――フェリルが顔を出した。
「あ、ご主人~!? おはよ!」
フェリルは血まみれの手をブンブン振り、犬のように尻尾(幻覚)を振っている。
「見て見て! 僕が早起きして狩って来たの! 凄いでしょ? 褒めて褒めて!」
「えええ!?」
猫がネズミを捕ってくる感覚で、迷宮のボスを狩ってきたのか。
太郎が呆然としていると、今度は空が暗くなった。
ドスゥゥゥゥン!!!
「うわっ!?」
庭にもう一体、巨大な物体が落下してきた。
石化の邪眼を持つ怪鳥、『コカトリス』だ。
「ふん。散歩ついでに狩ってきてやったわ」
漆黒のローブを纏ったデュークが、空から優雅に降り立った。
「フェリル如きに後れは取らん。これは朝飯のスープの出汁にでもするが良い」
「デュークまで!? 散歩ついでに災害級の魔物を狩らないでよ!」
朝から庭が死体の山(Sランク)になっている異常事態に、城内はパニックに陥った。
「ヒィィッ!! ミノタウロス!? コカトリス!? 敵襲だぁぁぁ!!」
宰相マルスが窓から顔を出し、白目を剥いて泡を吹いた。
そして、騒ぎを聞きつけた妻たちが、仁王立ちでバルコニーに現れた。
「一体どういう事なんですか! 太郎様!」
サリーが青筋を立てて怒鳴る。
「私の植えたバラが! ミノタウロスの下敷きになっていますわ!」
「この魔物をどうするんですか!? 処理するだけで莫大な費用がかかりますのよ!?」
ライザが冷徹に告げた。
「今月の太郎様のお小遣い、抜きにしますからね!」
「ひぇぇ!? そ、それだけは勘弁して!」
太郎は青ざめた。お小遣いがなくなれば、100円ショップスキルが使えない(心の安定剤が買えない)。
「えっと、えっと……こ、この魔物を処分しないと……そうだ! 冒険者ギルドだ! ギルドで素材として売れば、お小遣いも減らないし、庭も片付く!」
数十分後。
王都のメインストリートを、一台の巨大な荷馬車が走っていた。
御者は国王である太郎。
そして荷台には、はみ出さんばかりに積まれたミノタウロスとコカトリスの死体。
「ど、どいてくれぇぇ! 急用なんだ!」
街は阿鼻叫喚の巷と化した。
「ミ、ミノタウロスだあああ!?」
「コカトリスの目が合うぞ! 逃げろぉぉぉ!」
「国王陛下のご乱心だあああ!? 魔物を引き連れて攻めてきたぞ!!」
悲鳴が溢れる中、太郎は涙目で馬に鞭を入れた。
そして、冒険者ギルドの前で急ブレーキをかけた。
「お義父さーん!!」
騒ぎを聞きつけ、ギルドマスターのヴォルフが飛び出してきた。
「何でい、朝っぱらから騒がしい……って、ミノタウロス!? コカトリス!?」
ヴォルフは腰を抜かしそうになった。
「頼むよ、お義父さん! 買い取ってくれ! 庭に落ちてたんだ!」
「落ちてるわけねぇだろ!!」
ヴォルフは叫びながらも、プロの職員たちに査定を命じた。
職員たちはガクガク震えながらメジャーや魔導具を当てる。
「ひぃっ……新鮮すぎる……まだ温かいです」
「こっちは石化袋が無傷……国宝級の素材ですよ……」
ギルド内がてんやわんやしていると、背後から無邪気な声が聞こえた。
「ご主人~! 待っててね~!」
ズズズズズ……。
地面を削る音と共に、フェリルが全長3メートルの**『レッドオーガ(赤鬼)』**の死骸を片手で引きずってきた。
「こいつも居たから持ってきたよ!」
さらに上空からデュークが。
「主よ、これを忘れているぞ」
ドサッ!!
獅子の体に鷲の翼を持つ『グリフィン』が投げ落とされた。
「えええええええ!?」
ヴォルフと職員たちの絶叫がハモった。
ギルドの前は、もはや魔物の展示会場と化していた。
「まだまだ、仕留めた魔物が森に置いてあるからな」
「うん! キマイラとかバジリスクとか、あと10体くらいあるよ!」
二人の「ペット」が得意げに胸を張る。
それを聞いた瞬間、ヴォルフの堪忍袋の緒が切れた。
「た、太郎さん……」
ヴォルフがゆらりと立ち上がった。その額には青筋が浮き上がっている。
「うちのギルドの解体場はパンク寸前だ……。それに、こんな大量のSランク素材が一気に出回ったら、相場が崩壊して世界恐慌が起きちまうんだよ!!」
ヴォルフは指を突きつけ、雷のごとく怒鳴った。
「あんた……今後一切! ギルドに入る事は禁止だ!! 無期限出禁だぁぁぁ!!」
「ええええええ!? そ、そんなぁぁぁ!!」
太郎の絶望的な叫びが響き渡る。
小遣い没収の危機に加え、主要な換金所を失った太郎。
フェリルとデュークは「なぜ主は喜ばないのだ?」と不思議そうに首を傾げていた。
こうして、太郎国に「魔物持ち込み禁止令」という新たな法律が(妻によって)制定されることとなるのだった。




