EP 4
増えた食客、繰り返される歴史
サウナでの裸の付き合いを経て、新たな仲間(弟分)となった狼王フェリル。
意気揚々と城に帰還した一行だったが、城内は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。
「た、太郎様ぁぁぁ!!」
宰相マルスが転がるように走ってきた。その顔色は紙のように白い。
「フェ、フェ、フェンリル!? 何故、北の氷雪大地の王がここに!? しかも若者の姿で!?」
マルスは胃を押さえてガクガクと震えている。
「な、何故ここに!? 敵襲ですか!?」
出迎えに来たサリーも、フェリルの放つ強大な冷気を感じ取り、杖を構えて警戒する。
しかし、当のフェリルはニカッと屈託のない笑顔を見せた。
「よろしくな! 人間! 僕、ここんちの子になったから!」
「……は?」
「というわけなんだ。アハハ……」
太郎が乾いた笑いを浮かべる。
その横でライザが静かに近づき、太郎の襟首を掴んだ。
「……太郎様。ちょっとこちらへ」
「あ、はい」
ドナドナのように連行される国王。
その背中は雄弁に「終わった」と語っていた。
城の大会議室。
太郎は上座ではなく、床の上で見事な土下座を決めていた。
正面には、腕を組んで仁王立ちするサリーとライザ。
「どういう事ですか? 説明してください」
サリーの声温度は絶対零度に近い。
「全く……。デュークだけでも胃が痛いのに、あろうことかフェンリルまで連れてきて……」
ライザが頭痛を堪えるようにこめかみを揉む。
世界を滅ぼせる災害級の魔物を、野良犬感覚で拾ってくる夫に、彼女たちの堪忍袋の緒は切れかけていた。
「い、いや!? な、成り行きでこうなって……。サウナで意気投合して……」
太郎がしどろもどろに言い訳をする。
そこへ、お茶を運んできたサクヤが助け舟を出した。
「まぁまぁ、お二人とも。フェリル様は意外と素直ですよ? さっき『お手』もしましたし。愛嬌は有るかと」
「お、お手……? 狼王が?」
サリーたちが毒気を抜かれた顔をした、その時だった。
バンッ!!
会議室のドアが勢いよく開かれた。
「ご主人! 何処に行ったのさ!?」
銀髪の青年、フェリルが入ってきた。
「探したよ! お風呂上がったから、僕はお腹空いたよ! 何かちょーだい!」
「ハイハイ……」
太郎は慣れた手付きでウィンドウを開き、『徳用ビーフジャーキー(スパイシー味)』の袋を取り出した。
「わーい!」
フェリルは袋を受け取ると、その場でバリバリと袋を開け、ムシャムシャと食べ始めた。
「んんッ! 美味しい! やっぱりコレだね!」
幸せそうに尻尾(見えないがあるように見える)を振るフェリル。
その姿を見て、サリーとライザは顔を見合わせた。
「……この光景、何処かで見たような」
「えぇ……。強烈なデジャブを感じますわ」
すると、間髪入れずに。
ドォォォン!!
再びドアが豪快に開かれた。
今度は黒い服の初老の男、デュークだ。
「主よ! ここに居たのか! 我も腹が減ったぞ! ラーメンの前に前菜をよこせ!」
「ハイハイ……」
太郎は無表情で、もう一袋ビーフジャーキーを取り出した。
「うむ。気が利く」
デュークもまた、フェリルの隣に座り込み、ムシャムシャとジャーキーを食べ始めた。
「んぐっ……んぐっ……」
「むしゃ……むしゃ……」
並んで干し肉を貪る、狼王と竜王。
中身はただの腹ペコ兄弟だ。
サリーとライザは、深く、長いため息をついた。
「……うん」
「食いしん坊が増えましたわね」
彼女たちは悟った。
怒るだけ無駄だ、と。
太郎国は今日から、世界最強の動物園(猛獣コーナー)として、新たな歴史を刻むことになったのである。




