EP 3
狼王、サウナで整い、新たな名を刻む
荒野での喧嘩(じゃれ合い)を終えた三人は、汗と埃を流すために、いつもの『王立公衆浴場・極楽湯』へとやってきた。
「な、なんだ? ここは?」
フェンリルが湯気立ち上る建物をキョロキョロと見回す。
極寒の地で暮らす彼にとって、温かい蒸気が漏れ出る場所など未知の領域だ。
「ここは『銭湯』だ。黙って付いて来い。……まぁ、楽しめ」
デュークが先輩風を吹かせながら暖簾をくぐる。
三人は服を脱ぎ(フェンリルは脱ぎ方が分からず、また太郎が手伝った)、浴室へと足を踏み入れた。
まずは体を洗い、広い湯船に浸かる。
「はぁ〜……」
「……ほう」
フェンリルがお湯に肩まで浸かった。
最初は熱さに驚いたが、すぐに芯から温まる感覚にうっとりとした表情になる。
「気持ちいい……。氷の城では味わえない感覚だ」
「フッ、まだ序の口だ。よし、次はサウナだ」
デュークの先導で、三人はサウナ室へ。
高温の蒸気が充満する室内。氷雪の王であるフェンリルにとって、そこは灼熱地獄――かと思いきや。
「くぅ……。この熱気……悪くない……」
冷え切った体が強制的に解凍されていく感覚。
汗がダラダラと流れ落ちるが、それが不思議と心地よいデトックス効果を生んでいる。
じっくりと蒸されること10分。
「よし……限界だ。行くぞ、氷風呂(水風呂)だ!」
太郎の合図でサウナ室を飛び出す。
汗を流し、目の前の水風呂へダイブ!
「「「ああああああああああ!!」」」
「ひゃっ! 冷たっ! ……いや、最高だ!!」
フェンリルにとって氷は専門分野。しかし、極限まで熱した体を急冷する快感は別格だった。
血管が収縮し、脳内麻薬がドバドバと溢れ出す。
そして、露天スペースのベンチへ。
「…………」
「…………」
「…………」
三人のオッサン(と青年)は、真っ白に燃え尽きた灰のように座り込んだ。
風が心地よい。意識が宇宙と一体化する。
フェンリルは初めて「整う」という境地を知った。
風呂上がり。
脱衣所のベンチで、太郎はキンキンに冷えた『特濃牛乳』を三本用意した。
「ほら、これを飲むんだ」
「また牛乳か。……ゴクッ」
フェンリルは腰に手を当て、一気に飲み干した。
サウナで乾ききったスポンジのような体に、濃厚なミルクが染み渡っていく。
「プハァッ!!」
フェンリルが瓶を置く音が響く。
「お、美味しい! さっきよりも数倍、いや数百倍美味しく感じる! なんだこれは!?」
味覚が研ぎ澄まされ、牛乳本来の甘みとコクが爆発している。
感動に震えるフェンリルを見て、デュークがニヤリと笑った。
「どうだ。参ったか」
「くっ……!」
フェンリルは悔しげにデュークを睨み、そして太郎へと詰め寄った。
「デューク!! お前は、何時もこんな美味しい物や素晴らしい体験をしていたのか!?」
「当然だ。主と契約した特権だからな」
デュークが勝ち誇る。
その言葉を聞いた瞬間、フェンリルの理性が弾けた。
「ズルいぞ! 許さん!」
フェンリルは太郎の胸ぐら(バスローブ)を掴み、叫んだ。
「僕と契約しろ! 人間! 僕はデュークより強い! 氷も操れるし、夏場は涼しくしてやるぞ! さぁ契約しろ!」
「えぇ!? い、いきなり!?」
太郎が困惑する横で、ブチ切れた竜王が吠えた。
「貴様ァ! 我が貴様より弱いだと!? ふざけるな! 調子に乗るのも大概にせよ!」
「なんだとトカゲ! 現にさっきの喧嘩じゃ僕が押してただろう!」
「あれはハンデだ! 手加減してやっていたのだ!」
ドガッ! バキッ!
風呂上がりの脱衣所で、最強種同士の殴り合い(ステゴロ)が始まった。
棚が倒れ、ドライヤーが吹き飛ぶ。
「あぁもぉ! やめろって! 弁償代がかさむだろ!」
太郎が二人の間に割って入る。
「仲良くするなら契約してあげるから! 喧嘩するなら出禁だぞ!」
ピタリ。
二人の拳が止まった。
「……本当か!?」
フェンリルが目を輝かせて尻尾を振った(幻覚が見えるほど振った)。
「あぁ、本当だ。デュークも、いい加減認めなよ。喧嘩するほど仲が良いって言うだろ?」
「フン……。主がそう言うなら仕方あるまい。我の弟分としてなら認めてやろう」
「誰が弟分だ! まぁいいや、契約だ!」
フェンリルは太郎の手を取り、魔力を通わせた。
契約成立の光が淡く輝く。
「じゃあ、名前を付けてくれ! ご主人! カッコいいやつな!」
「名前かぁ……」
太郎は少し考えた。
フェンリルだから……そのままでもいいが、愛称があった方が呼びやすい。
「フェリルってのはどう? 響きも可愛いし」
「フェリル……」
狼王は口の中で何度か呟いた。
「フェリル……フェリル……。悪くない。いや、良いぞ!」
彼はニカッと笑った。
「僕の名前はフェリルだな。よろしくな! ご主人!」
「よろしく、フェリル」
「やれやれ、騒がしくなるな」
こうして、太郎国に新たな最強の居候、狼王改めフェリルが加わった。
しかし、家に帰った後、「また男を拾ってきたのですか!?」と、サリーとライザに正座させられる未来が待っていることを、三人はまだ知らない。




