EP 42
宴と、女神の変な歌
深海での冒険を終え、太郎一行は新たな仲間(?)リリーナを連れて太郎城へと帰還した。
リビングに集まった留守番組のサリーとライザに、事の顛末を報告する。
「えぇ〜!? 人魚の国と同盟ですって!?」
サリーが素っ頓狂な声を上げた。
「わ、私達が知らない間に何が……? ラーメン屋台を引きに行ったはずが、なぜ国交樹立の話になっているのですか?」
ライザも目を白黒させている。
たった数日の間に、深海へ行き、魔王を倒し、同盟を結んで帰ってきたのだ。常識では追いつかない。
「うん、まぁ……そういう事になったんだ」
太郎はニッコリと笑い、分厚い羊皮紙の束(条約案や貿易協定のメモ)をテーブルに置いた。
「細かい手続きとか、調整とかの実務は任せるね、マルス」
「はああああ!?」
宰相マルスの顔色が土気色になった。
ただでさえ激務なのに、前例のない異種族間、しかも深海国家との国交事務。仕事量は倍増どころではない。
「うぅ……い、胃が……腹が痛くなってきた……キリキリと……」
マルスはその場にうずくまり、胃薬(太郎印)を求めて手を伸ばした。
「頼んだよ、我が国の頭脳。……そして、こっちがシーラン国から来た大使のリリーナちゃんだ。仲良くしてくれよな!」
太郎が背中を押すと、青い髪の少女が元気よく飛び出した。
「初めまして! リリーナです! 地上のこと、たくさん勉強しに来ました! よろしくお願いします!」
ペコリと深々とお辞儀をする愛らしい姿に、サリーとライザの表情が和らいだ。
「あら、可愛らしいお姫様」
「礼儀正しいですね。ようこそ太郎国へ」
「へへっ、ありがとうございます!」
場が和んだところで、太郎が高らかに宣言した。
「よし! 無事に帰ってきたし、新しい仲間も増えた! だから、今日は宴会だ!」
その夜。
城の中庭で、月下の大宴会が催された。
サクヤとデュークが腕を振るった「深海食材とラーメンのコラボ料理」が並び、酒が振る舞われる。
「カンパーイ!!」
「この焼きそば、美味しいですわ!」
「デューク様のチャーシューも絶品ね!」
陽奈と月丸もリリーナに懐き、一緒になってジュースを飲んでいる。
盛り上がりが最高潮に達した時、リリーナが立ち上がった。
「リリーナ! 皆さんに感謝を込めて、歌います!」
「おっ、いいねぇ!」
「よ! 頑張れ! リリーナ!」
太郎が手拍子を始める。
深海の歌姫による、神秘的で美しいバラード……を誰もが期待した。
リリーナはコホンと喉を鳴らし、満面のアイドルスマイルで歌い出した。
「聴いてください! シーラン国に伝わる勇気の歌、『タミフルの誓い』!」
「……え?」
太郎の手が止まった。
リリーナがリズミカルにステップを踏みながら歌う。
♪〜
ガンガンガン! アタマガガン!
視界が回るよ 39度!
インフルエンザ大魔王 やっつけろ!
「ぶふっ!?」
太郎が飲んでいた酒を吹き出した。
♪〜(サビ)
今だ! 必殺! タミフルパーンチ!
コウ・セイ・ザイ! ビーム!(キラッ☆)
リリーナがバチーンとウィンクを決める。
♪〜(2番)
ガンガンガン! アタマガガン!
二日酔い将軍 許さない!
今だ! 必殺! ズルヤスミ!(有給消化!)
「イェーイ!!」
リリーナがポーズを決めて歌い終えると、サリーたちがパチパチと拍手をした。
「不思議な歌詞ですけど、ノリが良いですわね!」
「『ユウキュウショウカ』? 強力な魔法の呪文かしら?」
何も知らない異世界人たちは盛り上がっている。
しかし、太郎だけは顔を引きつらせていた。
「な、何だこの歌……現代日本の医療用語と社畜用語が混ざってるぞ……」
「え? 女神ルチアナ様から教えて頂いた、シーラン国に古くから伝わる神聖な歌です!」
リリーナが得意げに胸を張る。
「…………」
太郎は夜空を見上げた。
そこには、恐らく酒瓶片手にニヤニヤしているであろう、ジャージ姿の女神の顔が浮かんだ気がした。
(あの駄女神……何という物を教えてんだよ!! 深海の純粋な子に!!)
タミフルパンチに抗生剤ビーム。そして有給消化。
この世界の「神話」や「伝承」のいくつかは、あの女神の酔っ払った戯言が起源なのかもしれない。
「さぁ太郎様もご一緒に! ズルヤスミー!」
「い、いや、僕はいいよ……」
苦笑いする太郎をよそに、宴の熱気は冷めやらない。
種族も、文化も、そして歌のセンスもごちゃ混ぜの、賑やかで温かい夜。
太郎国の夜は、笑い声と共に朝まで更けていくのだった。




