EP 41
深海の盟約と、小さなお姫様大使
崩壊した神殿の床に、巨大なリヴァイアサンが横たわっていた。
魔槍に貫かれた傷は深く、青い血が止まらない。
「ぐ、ぐっ……」
リリアーナの呼吸が浅くなっていく。致命傷だ。
太郎が駆け寄ろうとしたその時、デュークが無言でリリアーナの傷口に手をかざした。
「……動くな」
デュークの掌から、暖かく強大な黄金の光が溢れ出す。
『超・再生』。
竜王の生命力を分け与える最上位の治癒魔法だ。
光が傷を塞ぎ、失われた血を補っていく。やがて光が収まると、そこには傷一つない人間の姿に戻ったリリアーナがいた。
「あ、ありがとうございます……デューク様」
リリアーナが涙ぐみながら身を起こす。
「ふん。借りを返しただけだ。我を守って死なれては、目覚めが悪いからな」
デュークはそっぽを向いたが、その耳は少し赤かった。
魔王デュランダルが消滅したことで、魚人たちを苦しめていた魔力吸収(謎の病)は嘘のように完治した。
太郎たちは英雄としてシーラン国に凱旋し、国賓待遇で盛大な宴が開かれた。
「美味しい! この深海エビの踊り食い、最高です!」
「うむ。この海藻酒とやらも、中々いけるな」
サクヤとデュークが舌鼓を打つ横で、太郎はリリアーナと共に王宮のバルコニーにいた。
翌朝、謁見の間。
リリアーナは玉座から降り、太郎たちの前にひざまずいた。
「太郎様、デューク様、サクヤ様。この度は本当にシーラン国を救って頂き、誠に感謝致します」
「頭を上げてください、リリアーナさん」
「……そして、今回の件で痛感いたしました。私達だけでは、国の窮地を脱する事は出来ない事が身に染みて分かりました」
リリアーナは真剣な眼差しで太郎を見つめた。
「そこで、どうか太郎国とシーラン国とで、『友好の義(同盟)』を結びたく思っております」
海中国家との同盟。それは太郎国にとって、海洋資源や新たな魔法技術を得られる大きなメリットがある。
だが、太郎は慎重だった。
「それは、良い事だと思うが……それはシーラン国民の総意と見て良いのか?」
王族だけで勝手に決めて、民が反発しては意味がない。
リリアーナは力強く頷いた。
「はい。昨晩、民たちとも語らいました。皆、命の恩人である太郎様の国とならばと、大賛成しております。私共の総意です」
「分かった。……太郎国とシーラン国は同盟を結ぶ」
「おぉ! 感謝致します、太郎様!」
リリアーナが感極まった声を上げる。
太郎は続けて、具体的な提案をした。
「ただ、いきなり全ての民が自由に行き来すると、文化の違いとかで戸惑うことも多いと思うんだ。地上と水中じゃ環境も違うしね」
太郎は現代知識に基づき、現実的なプランを提示した。
「だから、まずは大使の交換とか、一部の商人による限定的な交易とかから始めて、少しずつ、段階的にお互いの理解を深めていくのが良いと思うんだけど、どうかな?」
「勿論ですとも! 勿論ですとも! さすが太郎様、そこまで考えてくださるとは!」
リリアーナはパンと手を叩き、控えていた侍女に合図を送った。
「リリーナ!」
「はい、お母様!」
柱の陰から、元気な返事と共に一人の少女が飛び出してきた。
リリアーナと同じ青い髪に、透き通るような肌。まだ幼さが残るが、愛らしい人魚の姫君だ。
「リリーナ。これから太郎様に仕えなさい。貴女はシーラン国の代表、初代大使ですからね。シーランの名に恥じぬよう務めなさい」
「はい、お母様! お任せください!」
リリーナは太郎の前に立ち、元気いっぱいに頭を下げた。
「リリーナです! 地上のこと、たくさん勉強したいです! よろしくお願いします、太郎様!」
キラキラした瞳で見つめられ、太郎は頬を緩めた。
「よろしくね、リリーナちゃん」
こうして、新たな仲間(お土産?)と共に、太郎たちは地上へと帰還することになった。
海中国家との同盟、そして元気な人魚姫の来訪。
太郎国はますます賑やかに、そしてカオスになっていくのであった。




