EP 40
女王の献身、そして黄金の閃光
深海の神殿は、魔王と竜王の激突により崩壊寸前だった。
水流のハンデを背負ったデュークは、魔王デュランダルの猛攻に防戦一方となっていた。
「くたばれ! 堕ちた竜王よ!」
デュランダルが勝機と見た。
漆黒の魔槍に全魔力を込め、デュークの心臓めがけて突き出した。
回避不能の超高速の一撃。
「しまっ……!?」
デュークの反応が遅れる。
その切っ先が竜王の胸を貫こうとした、その刹那。
「デューク様!!」
悲痛な叫び声と共に、戦場に巨大な影が割り込んだ。
リリアーナだ。彼女は人の姿を捨て、本来の姿である巨大海竜『リヴァイアサン』へと戻り、デュークを庇うようにデュランダルへ体当たりをした。
ズドォォォォン!!
「なっ!?」
デュランダルの体勢が崩れる。だが、魔王の殺意は消えない。
「己! 小賢しい魚風情が!」
デュランダルは軌道を変え、体当たりしてきたリリアーナの巨体に向けて魔槍を突き立てた。
ズブッ……!!
鈍い音が水中に響く。
魔槍はリリアーナの脇腹を深々と貫いた。
「グゥ……ッ!!」
リリアーナが苦悶の声を上げ、巨大な体が力なく神殿の床に沈んだ。青い血が海中に広がっていく。
「リリアーナ!!」
太郎が絶叫する。
かつてはデュークに怯えていた彼女が、身を挺してデュークを守ったのだ。
その光景が、太郎の魂に火を点けた。
「畜生! デューク!! お前がやらないでどうするんだ!」
太郎の叱咤に、デュークの目が大きく見開かれた。
守られた屈辱。そして、傷ついた友への怒り。
竜王のプライドが、限界を超えて燃え上がった。
「……フッ。良かろう、どうなっても知らんぞ!」
デュークは太郎の背中に手を当てた。
「受け取れ、主よ! 我が全竜気を!!」
ドクンッ!!
「ぐ、ぐわ……ッ、熱い……!!」
太郎の血管に、溶岩のような熱いエネルギーが流れ込んでくる。
それは人の身には余る、覇王の力。
太郎の全身が黄金のオーラに包まれ、髪が逆立った。
「うおおおおおおっ!!」
太郎は『雷霆』を構えた。
震える手で『必殺の矢』をつがえる。
雷霆は主と竜王、二人の意志を感じ取り、限界を超えた魔力を矢に注ぎ込む。
バチバチバチバチッ!!
矢は紅い雷光を超え、黄金の閃光となって輝き始めた。周囲の海水がその熱で沸騰し、泡となる。
「行くぞ!! 全てを貫けぇぇぇぇ!!」
太郎が弦を離した。
「『ドラゴニック・バースト(竜王雷轟撃)』!!」
放たれた矢は、黄金の龍の形を成し、咆哮を上げながらデュランダルへと殺到した。
「ぬかせぇぇぇ!」
デュランダルは魔槍を構え、真正面から受け止めようとした。
だが、その力は魔王の想定を遥かに超えていた。
パリィィィィン!!
「なっ……魔槍が!?」
漆黒の槍がガラス細工のように砕け散る。
黄金の龍は止まらない。そのままデュランダルの胸板を貫き、背後へと突き抜けた。
ドゴォォォォォォンッッ!!!
神殿の後壁が消し飛び、巨大な風穴が開く。
「ば、バカな……」
デュランダルは胸の大穴を見つめ、膝をついた。
「この私が……人間と、トカゲ風情に……やられるとは……」
体が崩れ、光の粒子となって海に溶けていく。
「おのれぇぇぇ……ぎゃああああああ!!」
断末魔と共に、魔王デュランダルは大爆発を起こし、塵と化して消滅した。
神殿に静寂が戻る。
沸き立った海水が徐々に冷えていく中、太郎は弓を下ろし、荒い息をついた。
「はぁ、はぁ……やった……やったああああ!!」
太郎は拳を突き上げた。
デュークも、ふらつきながらサングラス(割れずに残っていた)をかけ直した。
「ふん。世話の焼ける主だ」
その口元は、微かに笑っていた。
「やりましたね、太郎様、デューク様」
サクヤも包丁を納め、二人に駆け寄った。
深海の巨悪は去った。しかし、戦いにはまだ続きがあった。
三人の視線は、床に倒れ伏した巨大な海竜――リリアーナへと向けられた。




