EP 39
深海の死闘! 押される竜王
神殿の最深部で、戦いの火蓋が切って落とされた。
「まずは小手調べだ! 『アルティメット・バースト(竜王の咆哮)』!!」
デュークが大きく息を吸い込むと、口腔内に圧縮された破壊のエネルギーが臨界点に達する。
放たれたのは、全てを消し飛ばす極太の光線。
「ふん!」
しかし、魔王デュランダルは眉一つ動かさなかった。
手にした漆黒の魔槍を無造作に振るう。
ズパァァァン!!
信じがたいことに、竜王のブレスが縦に真っ二つに斬り裂かれ、神殿の壁に弾かれて爆散した。
「ほう、少しはやるようだな」
デュークがニヤリと笑うが、その目は笑っていない。
周囲には、親玉を守ろうと大量の魔族たちが殺到してきていた。
「よし! 僕だって!」
太郎は『雷霆』を構え、指の間に『必殺の矢』を3本同時に挟み込んだ。
主の戦意を感じ取った雷霆が、バチバチと紅い火花を散らす。矢じりに膨大な魔力が注がれ、赤雷の光が周囲の水を赤く染め上げた。
「行けッ!!」
弦が弾ける音と共に、三筋の紅い閃光が奔った。
矢は空中で枝分かれし、正確に魔族の群れを捉える。
ドゴォォォォォォンッッ!!!
水中で巨大な爆発が発生した。
衝撃波と雷撃が魔族たちを飲み込み、一撃で数十体が蒸発する。
「な、なんだこの威力はァ!?」
「に、人間じゃないぞコイツら!」
生き残った魔族たちが怯んだ隙を、もう一人の修羅は見逃さなかった。
「ふふっ……私の包丁も血に飢えていますわ」
サクヤが愛用の包丁(ミスリル製)を逆手に持ち、艶やかに微笑んだ。
水流を味方につけたかのような滑らかな動きで、魔族の懐に飛び込む。
「新鮮なうちに捌いてあげます……秘技! 『百連抜刀』!!」
銀色の斬撃が網の目のように空間を切り裂いた。
サクヤが通り過ぎた後、数秒の遅れを置いて――。
「あ……」
魔族たちの体が、サイの目状に崩れ落ちた。
まさに神業。食材の下ごしらえのように、敵は細切れにされた。
「よし! 後はデュランダルだ!」
太郎が叫び、視線を玉座の方へ向ける。
そこでは、次元の違う戦いが繰り広げられていた。
ガギィィィン!! ズドォォォン!!
デュークの剛腕と、デュランダルの魔槍が激突するたびに、激しい水流が発生し神殿が揺れる。
「どうした竜王! 動きが鈍いぞ!」
デュランダルが水の膜を纏い、超高速でデュークの背後に回り込む。
「チッ……!」
デュークが裏拳で迎撃するが、デュランダルは既にそこにはいない。
逆に、デュークの脇腹に魔槍の一撃が入る。
「ぐぅッ……!」
堅牢な竜鱗が削られ、赤い血が海に滲んだ。
「ハハハ! ここは深海! 水圧、抵抗、全てが私の味方だ! 空を飛ぶ事しか能のないトカゲが、私の領域で勝てると思ったか!」
デュランダルは水を得た魚――いや、魔王として、その力を遺憾なく発揮していた。
対してデュークは、深海という極限環境に加え、水中での動作抵抗により、本来のスピードとパワーを出せずにいた。
炎のブレスも威力は半減し、動きも精彩を欠いている。
「くっ……おのれ、チョロチョロと……!」
デュークの拳が空を切る。
徐々に、しかし確実に、竜王が押され始めていた。
「このままでは……デュークが負ける!?」
太郎の背筋に冷たいものが走った。
最強の助っ人が敗北すれば、全滅は免れない。
深海の闇が、三人に重くのしかかろうとしていた。




