EP 37
深海の歓迎と、奪われた魔力
巨大な泡に包まれた太郎たちは、海底に広がる幻想的なドーム都市、シーラン国へと到着した。
結界を抜けると、そこには水なしでも呼吸ができる不思議な空間が広がっていた。建物は色鮮やかな珊瑚や巨大な貝殻で作られており、神秘的な青い光に満ちている。
「女王陛下が戻られたぞ!」
「あの方が噂の勇者様か?」
リリアーナの帰還を知り、魚人や人魚たちが集まってきた。
彼らは皆、ヒレや鱗を持つ美しい姿をしていたが、その表情にはどこか影があった。
「ようこそ、シーラン国へ。本来なら宴を開いて歓迎したいところなのですが……」
リリアーナが申し訳なさそうに言う。
「気にしないでください。それより、すぐに患者さんたちの元へ」
太郎の言葉にリリアーナは頷き、一行を王宮の奥にある療養所へと案内した。
療養所に入った瞬間、重苦しい空気が肌にまとわりついた。
真珠貝のベッドの上には、多くの魚人や人魚たちが横たわり、苦しそうな呻き声を上げている。
「うぅ……熱い……」
「体が……動かない……」
彼らの皮膚は本来の輝きを失い、どす黒く変色していた。
「これは酷い……」
サクヤが患者の一人に近寄り、脈を見る。
「脈拍が異常に速いです。それに、極度の脱水症状にも似た衰弱が見られます」
太郎はウィンドウを開き、100円ショップの『非接触型・デジタル体温計』を取り出した。
魚人の額にかざし、ピッと測定する。
「40度超えだ……。みんな高熱にうなされている」
太郎は首を傾げた。ウイルス性の病気なのか、それとも毒なのか。
しかし、その時。
後ろで腕を組んで様子を見ていたデュークが、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「……ふん。これだから人間(と魚)は脆い」
「デューク? 何か分かったのか?」
デュークはサングラスをずらし、黄金の瞳を細めた。
その視界には、太郎たちには見えない「力の流れ」が映っていた。
「病ではない」
「えっ?」
「魔力が吸収されているのだ。こいつらの生命力ごと、根こそぎな」
「魔力が……吸収!?」
リリアーナが息を呑む。
魔力は生物の生命維持に直結するエネルギーだ。それを無理やり吸い取られれば、当然体は弱り、抵抗力を失って様々な症状が出る。
「意図的なものを感じるぞ。……あちらの方角からだ」
デュークが指差したのは、窓の外、都市の北側の暗い海域だった。
そこには、ドームの結界ギリギリの場所に、古びた石造りの建物がぼんやりと見えていた。
「北……あそこには、『深淵の神殿』があります」
リリアーナの顔色が蒼白になった。
「神殿?」
「はい。かつて邪神を封印したとも伝えられる、立ち入り禁止の古い遺跡です。まさか、あそこから……?」
「邪神か何か知らんが、我のバカンスを邪魔する不届き者がいることだけは確かだ」
デュークがボキボキと拳を鳴らした。
原因が分かれば、あとは叩くだけだ。
「行きましょう。その神殿に、元凶がいるはずです」
太郎が決断すると、サクヤも包丁(戦闘用)を取り出した。
「えぇ。美味しい魚料理のためにも、海の平和を取り戻しましょう」
「あ、ありがとうございます……! どうか、民たちをお救いください!」
リリアーナが深く頭を下げる。
太郎、デューク、サクヤの最強ラーメン同盟は、病魔の根源が潜む北の神殿へと向かうことになった。
静まり返った深海の闇に、新たな戦いの気配が漂い始めていた。




