EP 36
深海からのSOS 〜女王リリアーナの願い〜
ある日の午後。
太郎、デューク、サクヤの「ラーメン同盟」の三人は、城下町に新しくできたラーメン店『麺屋・あじさい』から出てきたところだった。
「ふむ……。あの魚介スープ、中々だったな」
「ええ。ですが、少し麺の湯切りが甘かったですわね」
「チャーシューの厚みは評価に値するぞ。だが、やはり我らの『ドラゴン火炎担々麺』には遠く及ばん」
ラーメン談義に花を咲かせながら歩いていると、ふいに周囲の空気が湿り気を帯びた気がした。
人混みの中から、透き通るような青い髪と、深海のような瞳を持つ絶世の美女が静かに歩み寄ってきた。
「……もし。勇者太郎様でいらっしゃいますか?」
鈴を転がすような美しい声。
太郎は足を止めた。
「は、はい。僕が太郎ですけど……(凄い美人さんだなぁ)」
太郎が見惚れていると、隣にいたデュークがサングラスをずらし、フンと鼻を鳴らした。
「貴様……リヴァイアサンか」
「えっ!?」
太郎が驚いて女性を見る。
以前、ビーチでデュークに恫喝され、大量の財宝を置いて逃げ帰ったあの巨大な海竜だというのか。
「はい。お久しぶりです、デューク様。……リリアーナです」
リリアーナは優雅にドレスの裾をつまみ、恭しく一礼した。
人型をとったその姿には、かつての巨大な怪物の面影はなく、高貴なオーラが漂っている。
「リリアーナ? 君は一体……?」
「実は私、この沖合の海中にある国、**『シーラン国』**で女王をしているのです」
「女王様だったの!?(あんなにペコペコしてたのに)」
「そうなんだ。で? そんな女王様が、僕に何か用かな?」
太郎が尋ねると、リリアーナの表情が曇った。
「……はい。実は今、シーラン国で緊急事態が起きているのです。民達が、原因不明の**『謎の病』**で次々と倒れてしまって……」
「謎の病?」
「はい。体が動かなくなり、高熱が出て、皮膚が変色してしまうのです。私共の抱える優秀な医者に見せても皆目見当もつかず、治療法も見つかりません。途方に暮れ、頭を悩ませていた時に……勇者太郎様の事を思いだして、恥を忍んで参った次第です」
以前、太郎たちが国を救った噂や、常識外れの力(100円グッズ含む)を持っていることを小耳に挟んだのだろう。
サクヤが口元に手を当てた。
「まぁ、大変ですね。海の中の病となると、地上の薬が効くかどうか……」
「主よ。どうする?」
デュークが腕を組み、太郎を見た。
「我は知らぬ仲ではないが、面倒ごとは御免だ。だが……決めるのは主だ。貴様が行くと言うなら、付いて行ってやらんこともない」
デュークなりの遠回しな「助けてやろうぜ」という合図だ。
太郎は迷わずに頷いた。
「うん、行くよ。困っている人がいるなら放っておけないし、リリアーナさんにはバカンスの時にお土産(財宝)も貰ったからね」
「おぉ……! ありがとうございます、太郎様!」
リリアーナがパァッと顔を輝かせた。
「では、善は急げだ。サクヤも来てくれるかい? 料理の知識が役に立つかもしれない」
「勿論です。未知の深海食材にも興味がありますし」
「よし、出発だ!」
一行はリリアーナの案内で、港へと向かった。
人気のない桟橋で、リリアーナが海に向かって手を広げる。
「では、参りましょう。深海への道を開きます……『オーシャン・ゲート』」
海面が割れ、光り輝く水の階段が現れた。
さらにリリアーナは魔法で三人を大きな空気の泡で包み込んだ。
「これで水中でも地上と同じように呼吸ができます」
「すごい! 天然の潜水艦だね」
太郎たちは泡に包まれ、海の中へと沈んでいった。
色とりどりの魚たちが舞い踊り、太陽の光が青く揺らめく幻想的な世界。
しかし、深く潜るにつれ、光は届かなくなり、静寂な闇が広がり始めた。
やがて、海底に巨大なドーム状の結界に守られた、珊瑚と真珠で作られた美しい都市が見えてきた。
「あれが、私の国……シーラン国です」
海中国家シーラン。
太郎たちを待ち受けるのは、未知の病と、深海に潜む新たな謎。
ラーメン屋台の店主から一転、ドクター太郎(?)としての戦いが始まろうとしていた。




