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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 35

禁断の香り、くさや。~城外隔離施設での密会~

納豆巻きの成功により、太郎国に発酵食品ブームの兆しが見え始めていた。

だが、太郎にはまだ満たされぬ欲望があった。

それは、納豆など比ではない、臭気レベル最大級の魔物。

(……くさやを食べたい!)

伊豆諸島の特産品、独特の発酵液に漬け込んだ干物。その強烈なアンモニア臭は「使用済みの靴下」や「銀杏」に例えられるほどだが、その味は濃厚な旨味の塊。

これを七輪で炙り、ちびちびとむしりながら、熱々の日本酒(熱燗)を流し込む。

(くぅ~っ!! 想像しただけで喉が鳴る!)

だが、現実は非情だ。

納豆ですらギリギリだったのだ。くさやを城内で焼こうものなら、バイオテロと認定され、即刻城から追い出されるだろう。サリーの極大魔法で消臭(焼却)されかねない。

(ならば……城の外でやるしかない!)

深夜、太郎はこっそりと厨房へ忍び込んだ。

そこには、仕込みを終えたサクヤがいた。

「サクヤ……ちょっといいかな」

「あら、太郎様? こんな時間に如何なさいましたか?」

太郎は懐から一冊の本を取り出した。

『究極の珍味・くさやの作り方(くさや液の素付き)』。

「サクヤ、これを作ってほしいんだ」

サクヤは本を受け取り、パラパラとめくった。

そして、顔色を変えた。

「こ、これは……なんと……魚を腐らせた液に漬け込む? しかも『世界一臭い』との記述が……」

サクヤが疑念の眼差しを向ける。

「太郎様、本気ですか? 以前の納豆とはレベルが違いますよ?」

「サクヤ! 僕を信じてくれ!」

太郎はサクヤの手を握りしめた。

「今まで僕が紹介した食べ物で、不味い物はあったかい!? ラーメンも、納豆も、最初は変だと思っても美味しかっただろう!?」

「……っ」

サクヤは押し黙った。確かに、太郎の持ってくる「日本の食」は、常識外れだが味は間違いない。

「……分かりました。私も料理人として、未知の味への探究心は捨てきれません。一肌脱ぎましょう」

二人は城を抜け出し、城壁から数キロ離れた森の中にある、今は使われていない狩猟小屋へと向かった。

ここなら、どんな異臭を放とうとも城までは届かない。

「よし、ここだ。早速焼こう!」

太郎はスキルで購入した『新島産・青むろアジのくさや(真空パック)』を取り出した。

そして、七輪に炭を熾す。

ジュウゥゥ……。

網の上に乗せた瞬間。

小屋の中に、この世のものとは思えない刺激臭が充満した。

「うっ!? こ、これは……!!」

サクヤが鼻を押さえて後ずさる。

「くっさい! ……でも、これだぁぁぁ!」

太郎は恍惚の表情で煙を吸い込んだ。

皮がパリッと焼け、脂がしたたり落ちる。

「よし、焼けた! いこう!」

太郎は焼きたての身をむしり、口に放り込んだ。

「んんっ!!」

凝縮された魚の旨味と、塩気、そして鼻に抜ける強烈な香り。

すかさず、湯煎しておいた熱燗を猪口ちょこで流し込む。

「くぅ~っ! たまらんっ!!」

至福。これぞ大人の味。

太郎はサクヤにも身を差し出した。

「ほら、サクヤも」

「……失礼します」

サクヤは恐る恐る、臭いの元凶を口にした。

「んっ……ふむ」

最初は顔をしかめたが、すぐに目を見開いた。

「……美味しい。塩辛いだけでなく、熟成された深いコクがあります。この香りも、食べているうちに食欲をそそる芳香に変わりますね」

「だろ? この香りがたまらないんだよ」

「えぇ……。お酒が進むのが分かります」

二人は七輪を囲み、煙に巻かれながら、深夜の密会(宴会)を楽しんだ。

衣服や髪に、とんでもないニオイが染み付いているとも知らずに。

「ふぅ、美味しかったな」

「えぇ、勉強になりました」

夜明け前。

太郎とサクヤは、満足感に包まれて城へと帰還した。

静まり返った城の廊下を歩き、リビングへ入った、その瞬間だった。

「……ん? 何か、ドブのような……」

早起きしていたサリーとライザが、リビングで紅茶を飲んでいた。

二人が入室した途端、彼女たちの表情が凍りついた。

「!?」

「ぎゃあああああ!!!」

サリーの悲鳴が城中に木霊した。

「た、太郎様!? 何ですのそのニオイはっ!!」

サリーが鼻をつまみ、涙目で後退る。

「くっ……! 鼻が曲がりますわ! 何かの呪い!? それとも魔界の瘴気!?」

ライザもハンカチで口元を覆い、窓を全開にした。

エルフや魔術師は感覚が鋭い。彼女たちにとって、くさやのニオイを纏った二人は、歩く生化学兵器そのものだった。

「い、いや、これは『くさや』といって、美味しい干物で……」

「問答無用です!!」

サリーが杖を振った。

「『アクア・ウォッシュ(大洗浄)』!!」

ザバァッ!!

大量の水が太郎とサクヤを直撃した。

「このニオイは酷すぎます! 今すぐお風呂に入ってきてください! 三回……いえ、十回洗うまで出てきてはダメですわよ!!」

「そ、そんなぁ~!」

強制的に大浴場へ放り込まれた太郎とサクヤ。

体中をゴシゴシと洗いながら、湯船に浸かった。

「……酷い目にあったな」

「はい……。髪の毛までニオイが染み付いていましたから」

だが、二人の顔は笑っていた。

あの味を知ってしまった今、もう後戻りはできない。

あの旨味は、怒られるリスクを冒してでも食べる価値がある。

太郎は小声で言った。

「……ほとぼりが冷めたら、また作ろうな」

サクヤも悪戯っぽく微笑み、小指を立てた。

「えぇ、太郎様。今度はマヨネーズと七味も試してみましょう」

湯気の中で交わされた、臭くて固い絆。

太郎国に「闇のくさや同盟」が結成された瞬間であった。

後に、このニオイにつられたデュークが「我にも食わせろ」と小屋に乱入してくる未来は、そう遠くなかった。

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