EP 11
トライバードのパスタと、初めての装備
冒険者ギルドでの緊張する商談を終えた三人は、親睦会も兼ねて街のレストラン『大樹の梢亭』へと足を運んだ。
レンガ造りの洒落た内装で、お昼時ということもあり店内は賑わっている。
「はい、お待たせしました」
運ばれてきたのは、湯気を立てる皿料理。
「これ、トライバードのクリームパスタが美味しいんですよ。卵とお肉を両方使った親子パスタなんです」
ライザが慣れた手つきで勧めてくれた。
太郎はフォークでパスタを巻き取り、口に運ぶ。濃厚なクリームソースと、弾力のある鳥肉の旨味が口いっぱいに広がった。
「んんっ! 本当だ、美味しい!」
「でしょ? このお店は卵が新鮮だから、ソースが濃厚なの」
「いいなぁ……。アルクスはこんな美味しい物が食べれるんだから。村じゃ塩味の煮込みばっかりだったもん」
Sallyがとろけるような顔でパスタを頬張る。
「ふふ、これからはいっぱい食べられるわよ、サリー」
ライザは微笑ましそうにサリーを見守り、それから真剣な表情で太郎に向き直った。
「ところで、太郎さん。これからの活動方針についてですが……太郎さんはどうしたいと思っていますか?」
太郎は水を一口飲み、考えていた計画を話した。
「うん。僕の『100円ショップ』のスキルを使うには、対価となる『素材』が必要なんだ。村ではゴミを回収していたけど、それだけじゃ限界がある」
太郎はフォークを置いた。
「だから、冒険者になって魔物を討伐して、素材を得てポイントに変える。そのポイントで100円ショップの便利な品を出して、ギルドを通じて商売をしようかと思ってる」
循環型のビジネスモデルだ。
素材回収 → ポイント化 → 商品購入 → 販売 → 利益。
そして自らの身を守る力もつく。
「なるほど。理にかなっていますね。素材はお金にもポイントにもなる。一石二鳥というわけですか」
ライザは感心したように頷いた。
「分かりました。では、まずは太郎さんの装備を整えることから始めましょう。今のパーカーとジーンズでは、魔物の爪ですぐに引き裂かれてしまいますから」
昼食を終えた一行は、レストランを出て、大通りの一角にある武具屋『鉄と革の店』へと向かった。
店内には鉄と油の匂いが立ち込め、所狭しと剣や鎧が並べられている。
「いらっしゃい!」
恰幅の良い店主が声をかけてくる。
ライザは商品棚を眺めながら、太郎に尋ねた。
「太郎さんは得意な武術等は有りますか? 剣や槍など」
「えっと……ポポロ村に居た時に、自警団の人から弓の基本だけは教わったんだ。まだ全然下手だけど、剣よりはマシかなって」
「太郎さん、毎日練習して頑張ってたものね! ゴブリンの時だって、スリングショットで見事に当てたし!」
サリーが横から援護射撃をしてくれる。
「ふむ、遠距離支援ですね。太郎さんの立ち位置を考えれば、前衛に出るより後衛で全体を見る方が合っているでしょう」
ライザは即座に判断を下した。
「店主。彼に合うサイズの『軽量革鎧』と、初心者でも扱いやすい『短弓』を持って来て下さい。矢筒もセットで」
「かしこまりました。お連れさんは背が高いから、調整済みの良いやつがあるよ」
店主が奥から持ってきた革鎧を、太郎は試着室で身につけた。
パーカーの上から胸当てと肩当てを装着し、腰には矢筒を下げる。少し重いが、守られている安心感がある。
試着室のカーテンを開けると、二人が待っていた。
「どうかな……?」
「おぉ……!」
サリーが目を輝かせた。
「カッコ良いわ、太郎さん! なんか一気に『冒険者』って感じになった!」
「ええ、よく似合っていますよ。動きやすさを重視した作りですが、急所はしっかり守られています」
ライザも満足そうに頷き、微調整のために革ベルトをきゅっと締めてくれた。
「うっ、ちょっと苦しい……」
「これくらい締めておかないと、走った時にズレますよ。……うん、これで完璧です」
「ありがとう、サリー、ライザさん」
鏡に映る自分を見る。
そこにはもう、ただのコンビニ店員ではない、異世界を生き抜く覚悟を決めた一人の青年の姿があった。
「よし、行こう!」
装備を整えた太郎たちは、いよいよ最初のクエストを受けるべく、再び冒険者ギルドへと足を向けた。




