表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/203

EP 31

激突! ラーメン三國志 〜醤油・塩・豚骨の乱〜

とある日の午後。

城の厨房に、意外な人物が姿を現した。

「サクヤよ……。我に、ラーメンの作り方を教えるのだ」

腕を組んで仁王立ちするのは、竜王デューク。

その目は、かつて神代の戦争で見せた時よりも真剣だった。

「あら、デューク様。食べる専門ではなく、作られるのですか?」

王宮料理長のサクヤが包丁を置き、微笑む。

「うむ。あの『トンコツ』の衝撃が忘れられん。我の手で、あの黄金のスープを再現したいのだ」

「構いませんよ。ちょうど私も、エルフの味覚に合う繊細なラーメンを開発したいと思っていたところです」

二人が麺打ちの準備を始めた、その時。

「待ったァァァァァ!!」

厨房の勝手口が勢いよく開いた。

エプロンと三角巾を装着した太郎が、燃えるような瞳で立っていた。

「た、太郎様?」

「聞いたぞ二人とも! ラーメン作りだと!? ラーメン愛なら、僕だって誰にも負けないぞ!」

太郎は厨房に入り込んだ。

「僕の『現代知識』と、サクヤの『技術』、そしてデュークの『火力』……。これらを合わせれば、伝説の一杯が作れるはずだ!」

こうして、種族を超えた奇妙な「ラーメン研究会」が発足した。

それからの数日間、城の厨房は戦場と化した。

小麦粉の配合、かんすいの比率、出汁の温度管理。

三人は寝る間も惜しんで、鍋と向き合った。

「麺のコシが甘い! もっと打つのだ!」

「スープの濁りは心の濁りですわ! アクを取りなさい!」

「隠し味に100円ショップの『魚粉』を投入!」

互いに高め合い、切磋琢磨し、ラーメンの道を極めていく三者。

しかし……知識と技術が深まるにつれ、決定的な亀裂が生じ始めた。

ある日の試食会。

鍋を囲んだ三人の空気が凍りついた。

「……何を言ってるんだ? ラーメンと言えば**『醤油』**だろ!? 鶏ガラベースに香り高い醤油ダレ。これぞ王道、これぞ故郷の味だ!」

太郎が寸胴を叩いて主張する。

「いいえ、違います」

サクヤが冷ややかに首を振る。

「素材の味を極限まで引き出す**『塩ラーメン』**こそが至高です。透き通るような黄金色のスープ……それこそが洗練されたエルフの答えです」

「愚か者どもめ」

デュークが鼻で笑った。

「何を言ってるのだ? ガツンとくる獣の脂! 髄まで溶かし尽くした白濁スープ! **『豚骨ラーメン』**こそが究極であり、最強のラーメンだ!」

三人の視線がバチバチと火花を散らす。

譲れないこだわり。それはもはや宗教戦争にも等しい対立だった。

「ならば! 己の究極のラーメンを作り、皆に決めて貰おうじゃないか!?」

太郎が宣戦布告する。

「良いでしょう。私の『塩』で、貴方達の舌を浄化してあげます」

「望む所だ。我の『豚骨』で、ひれ伏させてくれるわ」

ここに、第一回・太郎国ラーメン選手権の開催が決定した。

決戦の日。

城の食堂には、審査員としてサリー、ライザ、ヒブネ、マルスの四名が座っていた。

目の前には、三つのドンブリが湯気を立てている。

エントリーNo.1:太郎作

『哀愁の昭和ノスタルジー・特製中華そば(醤油)』

太郎のスキルで取り寄せた高級醤油と、鶏ガラ、煮干しを合わせた、昔懐かしくも奥深い一杯。

エントリーNo.2:サクヤ作

『幻の黄金清湯チンタン・岩塩仕立て(塩)』

エルフの秘薬とも言われる湧き水と、厳選された岩塩、そして魔法で熟成させた丸鶏のスープ。

エントリーNo.3:デューク作

『暴虐の超濃厚・ドラゴン・トンコツ(豚骨)』

竜の炎で一瞬にして骨を粉砕・乳化させた、ドロドロになるまで旨味を凝縮した破壊力抜群の一杯。

「いざ、実食!」

審査員たちが麺をすする音が、食堂に響く。

ズズッ……ズズズッ……。

静寂の後、審査員たちが顔を上げた。

「ん〜っ! 醤油ラーメン、あっさりしてるけどコクがあって好きよ! 毎日でも食べられそう!」

サリーが太郎に微笑む。

「いいえ、この塩ラーメンの完成度は凄まじいですわ。シンプルだからこそ誤魔化しが効かない。中々に美味しいです」

ライザはサクヤの器を空にした。

「いやいや、この豚骨ラーメンのパンチ力も負けてないわよ。仕事の後の疲れた体に染み渡るわ」

ヒブネはデュークのスープを飲み干した。

「どれも美味しゅうございますなぁ。甲乙つけ難い……」

マルスは三杯とも完食し、満足げに腹をさすった。

判定の結果は――「全員優勝(引き分け)」。

「みんな違って、みんな良い」。

平和な太郎国らしい、大団円の結末……のはずだった。

厨房の裏口。

三人の料理人は、夕日を背に並んで座り込んでいた。

「……満足か?」

デュークが低く唸る。

「まさか」

サクヤが唇を噛む。

「まだだ! こんな結果に満足してたまるか!」

太郎が拳を握りしめた。

「美味しい」と言われたことは嬉しい。だが、彼らが求めていたのは「妥協なき頂点」だ。

誰が一番美味いのか。その答えが出るまで、彼らの戦いは終わらない。

「醤油のキレが足りなかったか……」

「塩のミネラル分を調整する必要がありますね……」

「豚骨の粘度が甘かったか……」

三人の瞳には、狂気にも似た探究心の炎が燃え上がっていた。

「……ラーメン道に、終わりは有りませんね」

「えぇ。もっと高みを目指すぞ」

「我に続け! 今度はスープに『竜の涙』を入れてみる!」

「僕は100円ショップで『究極の味の素』を探してくる!」

審査員たちが満腹で動けなくなっている間に、ラーメン馬鹿たちの果てなき旅路は、第二章へと突入しようとしていた。

太郎国の国民が、全員肥満になる未来も、そう遠くないのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ