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ボケた私の夢日記

作者: 出雲 寛人

いよいよボケたらしい。


どうやら私は何度も同じことを家族に聞いてしまっているようだ。


それもそのはず、私は100歳を迎えるのだ。


寄る年波には勝てないということなのだろう。


身体も痛く、歩くのも辛い。


追い討ちをかけるように、ボケが襲ってきた。


もはやどうでも良くなってきた。


何も出来ないのだから。


眠い。


そうしてスッと目を閉じた。


「おめでとうございます!あなたはボケチップを手にしました!」


マジシャンのような風貌の全身黒の怪しい男が目の前で叫んでいた。


「冗談は現実世界の中だけにしてくれ。」


「この夢の世界も、現実世界の延長線にあるようなものですよ!ここは、ボケた人しか入れない夢の世界です!」


なんだか否定するのも面倒だ。


「そうなのか。では、その夢の世界では何が出来るんだ?」


「若者に会えます!」


「会ってどうするのだ?」


「それはあなた次第です。ひとまず、1人連れてきました。どうぞ。」


わけがわからない。

急にそんなこと言われても。


そして目の前に現れたのは若い二十代くらいの髪をだらしなく伸ばした青年であった。そして怪しい男の姿は無かった。


無言の時間が続く。


さすがに気まずくなり、話しかけた。


「君は?」


少しの間の後、ボソボソとした声で言った。


「就活生。」


「そうか。なぜここにいるんだ?私は今このよく分からない世界に来たばかりでどうしていいか分からないのだ。」


「全身黒いマジシャンみたいな男に『おめでとう!あなたはモチベーションチップを手に入れた!』と言われました。」


どうやらモチベーションを失ってもこの世界に来るらしい。


「なるほど。」


また暫く2人は沈黙に包まれる。


「就活は上手くいっているのか?」


「いや、なんかもうやる気はないです。」


「どうしたんだ?何かあったのか。」


「もう学生の頃からずっと、やる気が出ないんです。」


「きっかけはあるのか?」


「部活頑張ったのに負けてしまったことですかね。」


「そうなのか。それはさぞかし悔しかったろう。」


「とても。チームのみんなと必死に頑張っていたのに、勝てませんでした。」


そこからあらゆるものに対する熱がなくなったのか。おそらく全てを部活に注ぎ込んでいたのだろう。


「おじさんはな、もうすぐ100歳になるんだ。」


青年は黙って聞いている。


「100歳になる手前でボケてこのわけわからん世界にいる。だが、人生は楽しかったぞ。私も部活熱心だったがダメで落ち込んだ時期はあったが、その辛い時を仲間や家族に支えられてきた。あんたはそういう存在はいないのか?」


「いません。家族もいないし、友達も今は就職して散り散りです。」


「そうか。私は家族や友達にはなれないかもしれないが、力になりたい。」


そう言ったところで、目が覚めた。


あれ、今すごい体に情熱があったがなんだったのだろう。


よく思い出せない。


そういえばボケたんだった。思い出せなくて当然か。


そしていつもの1日を過ごし、瞬く間に空は暗くなり、眠った。


「こんばんは!今宵も夢の世界へようこそ!」


そういえばそうだった。昨日もこんな夢を見ていた。怪しい男は続きをどうぞ楽しんでと言い残し、昨日の青年が目の前に現れた。


そして私は今までの人生での苦労したことやチャレンジしたことについて話した。


青年も少しずつではあるが、自分の話をするようになった。


「怖いんです。頑張って、またダメだったらどうしようって思ってしまいます。」


「怖いかもしれないが、行動に移すしかない。ダメだったらダメでまたここで私に話してくれればそれでいいよ。私は君の冒険談が聞きたいんだ。自分のために頑張れないのなら、私のために頑張ってみてくれないか。無理しなくていい。あんたのペースで少しずつ前に進むんだ。」


「分かりました。けれど、何をしたらいいのでしゃうか。」


「今あんたは私と話して私を幸せにしてくれている。そういう人を1人ずつ増やすんだ。そしておそらく仕事というのはあんたが幸せにしたい人を幸せにするために行うものなんだ。」


「考えてみます。」


そこで目が覚めた。


また何か夢を見た気がする。


ボケてどうしようもない自分と思っていたが、なんだか不思議と活力が湧いてきた。


そして生き生きといつもの1日を過ごし、眠った。


もうあの青年は現れなかったが、次々と若者と対話するようになった。


そして目が覚める度に生きる活力が湧いてくるのだった。


そして100歳になった日の夜眠った。


するとそこにはマジシャンのような全身黒の怪しい男が立っていた。いや、以前は怪しく見えていたが今は違う。


その男は言う。


「おじさん、ありがとうございました。あなたのおかげで、この夢の世界システムを作ることができました。ボケて生きる活力を失った老人と、モチベーションを失った若者をマッチングさせるシステムです。そうすることでお互いに活力を与えることができます。」


よく見てみると、一番最初に夢の世界で話した青年の成長した姿であった。


「あんただったか。こちらこそ礼を言わしてもらうよ。あんたのおかげでボケてからも楽しく生きてこれた。」


「お互い様ですね。では改めて、100歳の誕生日おめでとうございます。」

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