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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どうぞ添い遂げてください

「スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢! 貴様とは婚約破棄だ!」

 王立学園の卒業パーティーで第一王子の声が響き渡った。


 でも、声の大きさで人の目を集めただけで、皆は興味無さそうだ。

 そうは言っても、名指しされた自分くらいは相手をしなくてはいけないだろう。

「はあ……面倒くさい。早く帰りたいのに」

 淑女らしからぬ独り言をつぶやいて、殿下の前に進む。


 殿下の腕に絡みついているのはアリサ・グレイン男爵令嬢。殿下の側近の二人が、殿下とアリサ嬢を守るように左右に立っている。学園では有名な嫌われ者の四人だ。


「殿下、何のご冗談ですの? 私、殿下と婚約なんてしてませんのに」

「たとえ婚約していなくても、自分が一番王子妃に相応(ふさわ)しいと思っているのだろう! 現に学園を卒業する歳になっても婚約者の一人もいない! 私の妃の座を狙ってるからだろう!!」

「はぁ…。私が王子妃に一番相応しいのは事実ですが、アリサ様が殿下と添い遂げたいとおっしゃるのでしたら、やぶさかではありませんわ。でも…、アリサ様にそのお覚悟はお有りですの?」

「ひどぉい! あたしの身分が低いからって! あたしと殿下は真実の愛なのに!!」


「まあ、素晴らしいお覚悟ですわー。では私はこれで」 

 「!」の連発に耳が痛くなったのでさっさと離れたいのですが、何故か殿下たちは離してくれない。


「スカーレット! 貴様のその偉そうな態度は目に余る! 私を差し置いて生徒会を牛耳るし!」

 殿下に人望が無いだけですわ。


「このパーティーの企画にも手を出させない!」

 今まで散々あなたの思いつきに振り回されましたので。誰が尻拭いをしたと思って?


「私を責任者にすべきであろう!」

 殿下にお金を預けようなんて人はいませんわ。


「学園に提出書類も自分の名前にするし!」

 計算一つしてない人の名前を書けと?


「他にも、学園のカフェテリアに私が行くと、私を避けるよう皆に命令したであろう!」

 身分を笠に着て傍若無人に振る舞うから避けられるんですよ。


「慈善活動も私を置いて行っただろう!」

 殿下がすっぽかしたんでしょう。


「私と婚約したいのならそう言えばいいものを、アリサに嫌がらせをしおって!」

 うーん、かなり誤解されてる……。


「ひどいですスカーレット様! 私の書いたレポートをズタズタにするなんて!」

 あー、そうされた事にして提出を誤魔化したんですね。きっと一度や二度じゃ無いですね。



 私ってば結構頑張ったんだなー、などとしみじみ思っていたら、殿下が爆弾を落とした。

「そんなお前には罰を与えなくてはならない! スカーレット! お前をモナミ火山の人身御供(ひとみごくう)とする!」

 会場の空気が一瞬で変わりました。


 モナミ火山は百年に一度噴火する火山。ひとたび噴火すれば、溶岩が山や町を焼き尽くし、風に乗った火山灰が国中に降り積もって全てをを灰まみれにし、噴火の煙が雲となって太陽の光を遮り、国に甚大な被害を与える。

 ここ最近活動が活発になり、噴火も目前ではと言われていますわ。


 噴火を抑える手段は一つ。魔力のある人が噴火口に飛び込み、噴火する力をその人の魔力で相殺する事。人身御供、つまりは「生贄」ですね。

 しかし、魔力があるのは貴族のみ。

 誰かを選んで生贄にするわけにもいかず、今までは死罪になる犯罪者を生贄にして来ましたが、この数年は死罪になる者が出てません。国王はどうするつもりなのかと貴族たちは不安に思っていたのでしょう。



 満足げな殿下に何か言うべきかと口を開こうとしたら、目の前に旋風(つむじかぜ)が起こり、次の瞬間、そこには黒髪黒瞳の大柄な美丈夫が黒いマントをたなびかせて立ってました。

「スカーレット。迎えに来た」

「ルア様。もう約束の時間ですか?」

「ああ。皆が待っている。スカーレットのご家族も」

「まあ、お待たせしてはいけませんね。それでは皆様、これにて失礼い」

「そいつは誰だ!」

 空気を読め、殿下。

「スカーレットの夫だ」

 ルア様も売られた喧嘩を買わないで。ああっ、皆の目が「このまま帰らせ無い!」と言ってる!


「……殿下、こちらはお隣の魔族国の国王のルア様です。私たち、これから結婚しますの」

 会場中にざわめきが起こる。

 ルア様が言うには、「国王と言っても魔族は独立独歩でな。私は人間で言う『管理人』みたいなもので、別に偉くは無いんだ」だそうですけど。

 ってか、隣の国の国王の顔も覚えて無いの? 殿下!


「…魔、魔族国の国王と言えば、妃が何人もいるではないか!」

 何でそう中途半端な知識は有るの……。

「殿下、『妃が何人も』ではなく、『何度も結婚した』の間違いですわ。ルア様は魔族。見た目は二十代ですが、実年齢は227歳です。結婚の一度や二度や三度あって当然です」

 そして全て円満に離縁してますよ!


「お前は、私の妃の座を狙いながら、他の男にも粉をかけていたと言うのか!」

「殿下の妃の座なんて、狙った事ありません! 私は八年前からルア様一筋ですわ!」

「八年も私を裏切ってたのか!」

 なんでそうなる!


「スカーレット。何なんだ? この愚かな男は」

「この国の第一王子ですわ……」

「ああ、今回の生贄か」

 それ言っちゃ駄目ーーー!


 私の反応に、「冗談では無い」と気付いたようだ。

「な…何をふざけている。生贄になるのはスカーレットだろう。この毒婦が!」

 さすがに殿下の顔が引き攣ってるが、人を罵るのは忘れない。

「スカーレットが毒婦? お前は本当に愚かだな。八年前から何も変わって無い」

 あー、もう言うしかないか。


「殿下。『八年前』と聞いて何か思い出しませんか?」

「?」

 うん、忘れてますわね。そうだろうと思ってました。


「私たちは十歳でした。皆で離宮に行った時、殿下が『黒くてキラキラするデーモンラビットの毛皮が欲しい』と言い出して、側近三人と離宮を抜け出して魔境の森に入ったもののデーモンラビットの群れに襲われそうになり、殿下たちを探しに来た私をデーモンラビットの中に突き飛ばして自分たちは逃げたのが、八年前です」

 会場が静まり返る。 

「その時、私を助けてくれたのがルア様だったのです。殿下は謝罪にも来なかったので、私がどうやって助かったのか知らなかったのでしょう」

 殿下たちはやっと思い出したようだ。気まずそうだが、今更だ。


「ルア様に助けられて、そのまま転移で王宮に送ってもらった血塗れ傷だらけの私を見て、国王陛下は殿下たちを見限ったのです。人を犠牲にして自分が助かろうとする者なら、他の人のために犠牲にされても自業自得と……。八年前から、殿下たちはいずれ来る噴火のために生かされていたのですわ」

 それでも、成長して変わるかもしれないと期待していた陛下の親心は無駄に終わりましたわね。今頃、婚約破棄をやらかした報告が行ってるでしょう。

「間もなく、人身御供となる人が公示されるでしょう」


「ただ、八年の間に側近の一人が、あまりの殿下の身勝手さに離れてしまいまして、四人の予定が三人になってしまいましたの」

 離れた所にいた元側近がへたり込んだのが見えた。隣に、多分婚約者が寄り添ってる。目が覚めて良かったですわね。


「けれど、その代わりに殿下と添い遂げるお覚悟のアリサ様がいらっしゃる。なんて素晴らしい真実の愛!」

 三人より四人の方が魔力が大きくなって、噴火も抑えられます。今回は歴史に残る軽被害で済むかもしれませんわ。

 アリサ様が真っ青です。自分が言った事ですのに。

 撤回は出来ませんわ。と言うより、させませんわよ、我が身が生贄になりたく無い全貴族が。

 


「それでは皆様、ごきげんよう」

 すっかり静かになった殿下たちを置いて、私たちは今度こそ会場から去った。






 ルア様の転移魔法で魔族国の城に転移すると、何かお城中がキラキラしてる。光が舞い、花びらが踊ってる。

 八年前にルア様に一目惚れしてから何度も押しかけ…お邪魔した城だが、こんなのは初めてだ。

「どうしたんですか? これ」

 きょときょとと見回して花びらに手を伸ばす私。

「結婚式なんだから当然だろう。主だった貴族も集まってる。その後は盛大な宴をするぞ」

「え……。四回目の結婚なのに?」

 きっと親族だけの結婚式だと思ってた。

「スカーレットは一度目だろう。一生の思い出になる結婚式にしなくては」

「あ……ありがとう、ルア様」

 十歳の時、決死のプロポーズを軽くいなされても、諦めないで良かったー! 

 それから八年間粘って粘って、アプローチを続けて、「スカーレットが成人して、王立学園を卒業しても気が変わってなかったら、婚約を飛ばして結婚する」と約束をもぎ取った。


 ほんっとーに! あの日デーモンラビットに殺されなくて良かったー!


 殿下たちを探す時に魔道具を持って行ったので、森に一人残された後、必死で魔弾砲を擊ちまくり、魔斬剣で切りまくったおかげで、森の魔波動の歪みに気づいたルア様が転移して現れてくれて、ルア様との魔格の差を悟ったデーモンラビットたちがあっという間に逃げ去り、私は助かった。

 何が起こったか分かってないボロボロ状態の私に「大丈夫か。よく頑張ったな」と声を掛けてくれて、抱き上げてくれて。それ以来、私はルア様一筋だ。


 ちなみにルア様の三度の離縁の理由は、「飽きたから」。これは別れた妻たち(美人)にも会って確認した。

 寿命が長い魔族なので、五十年も過ぎると飽きてしまうそうだ。さらに、

「何で一度付き合った人とまた付き合うの」

と、この国には『元さや』という概念は無いらしい。安心。


「私、人間で良かった」

「どうした?」

「人間なら、五十年後にルア様に飽きられてもあまり長い間一人で生きなくてもすむでしょう?」

 私はルア様と添い遂げる!と握りこぶしに力を込めると、

「馬鹿な事を言ってないで、着替えて来なさい」

と呆れた声で言われ、控えていた侍女たちに花嫁の化粧室に連れ込まれた。


 


 その時、これからルア様の気合いが入りまくってる煌びやかで華やかな結婚式場に足を踏み入れ、私って思ったより愛されてる?と気付く事になるとは、まだ知らなかった。


2024年8月25日 日間 総合ランキング9位

ありがとうございます!

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