8. 始祖の血脈
目を覚ますと一触即発状態の雰囲気に何が起きているのだと視線を動かしてみる。
椅子に腰掛ける金髪の男性とその横に立つ銀髪の女性。
この人達は一体誰だ。
「…私の命令を聞かないつもりか。」
冷たい視線をニコライに向けたままそう言った彼は小さくため息を零している。
「ハンナ、おはよう。」
「おはよう。…これどういう状況…?」
「そこの二人がハンナを贄にしたいって言ってる。」
「私の贄になるのだ。その人間も本望だろう。」
「だってさ。」
「本望って…貴方が誰かも知らないですし、ニコライの贄になるのだって嫌なのに。」
「その割に今も供給しているではないか。」
「これは不可抗力です。」
「ふぇふぁふぁ。」
「何言ってるかわからないよ。」
仕方ないと首から牙を離したが、溢れる血を舐め取る姿に離れる気はなさそうだ。
「頑なに人間の血を飲まなかった彼とは思えないですね。」
「元来、私と同じだ。」
「シルヴェストルと同じなんて心外だよ。俺はハンナを贄にするつもりはないし、誰かと共有なんて絶対出来ない。」
「っ。」
「それと今の俺なら瞬殺できるよ。」
「貴方如きが始祖の血脈であるシルヴェストル様を倒せると本気で思っているの!?」
「ん?もしかしてイングリッドに教えてないの。」
「…。」
「言いたくないなら別にいいけど。ハンナのことは諦めなよ。俺のだから。」
「諦めるつもりはない。」
「?」
「兄である私が居れば十分だろう。その人間は必ず殺す。」
「ということはニコライがシルヴェストル様の弟君?」
「そうだ。そこの人間、ニコライに気に入られたからといって勘違いするなよ。」
強い殺気はニコライと兄弟というだけあって相当のもので、赤い瞳に睨まれていると蛇睨まれた蛙のように恐怖で動けなくなる。
「俺がいるから大丈夫だよ。でも少し眠ろうか。目を覚ます頃には追い返しておくね。」
耳元でそう言うと意識を奪っていった。
それと同時に口元に浮かべられていた笑みが消え、冷たい表情のままシルヴェストルと同じように殺気だけを彼らへ向けている。
「それで?本当に俺の物に手を出すつもりなの。」
「私は暗殺者を統べる始祖の血脈だ。弟とはいえ、私の指示に従うのがあるべき姿だろう。」
「任務以外は従うかどうか俺が決める。だからハンナのことは諦めて。」
そういうと早く出て行けとでもいうように外へと促すのだった。