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4. 怪我

暗殺者にこの場所に連れて来られてからどれくらい経ったのだろうか。

ニコライと名乗った彼は特に何をすることもなく、毎日食事を提供してくれる。

これは一体どういう関係なのだろう。

人質かと思っていたのだが、公爵家へ何かしている様子もなく。

外出も狩りに出るくらいのものだ。

その間に何度か逃げてみたが、今いるこの場所は山奥のようで結局彼に捕まってしまっている。

そして前回、深い眠りに落ちたニコライに気付かれないようそっと小屋を後にしたのだが、小屋から少し離れたところまで来たところを腹を空かせた熊に襲われ、助け出された。

寝起きの彼の機嫌は悪く、殺気を向けたまま次やったら足の腱を斬って二度と歩けなくすると脅されたのは記憶に新しい。

だからこそ、彼に直接逃してもらう方法を考え実行したがそれも無駄だったとため息をこぼした。

そんなある日。

少し遅くなると言って外出した彼。

ならばと棚にある本を1つ手に取ってからベッドに横になる。

この生活に慣れてしまっている自分に苦笑しながらも、今出来ることはこれしかないと言い聞かせた。

ぽつりぽつりと聞こえてきた雨音は一気に勢いを増し、先程まで快晴だったのにと山の天気が変わりやすいことをしみじみ感じる。

窓から見える景色は既に暗く、少し肌寒くなってきたと木の扉を閉めて暖炉の薪を追加していった。

横に干していた洗濯物は全て乾いたよう。

タオルや服を畳み、タンスにしまっていると扉が開く音が聞こえてくる。

いつもなら声をかけてくるのに何も発言しないことに違和感を感じ、手を止めて扉に視線を向けるとびしょ濡れ姿の彼が見えた。

いつまでも立ち尽くしたままなんて風邪でも引きたいのかと声を掛けようと思っていたが、彼の身体が傾きそのまま床に倒れ込んだ。

何が起きたと近付いてみると足元に感じるぬるりとした不快感。

それが彼から流れ出た大量の出血であることを理解するまでに時間が掛かってしまったが、先ずはベッドに寝かそうと何とか引き摺ってみる。

5分ほど格闘したが、意識の無い男性の身体を簡単に運べるはずもなく早々に諦めた。

ベッドからマットレスを外し、床に置いて多めのバスタオルを引いてからうつ伏せの彼を仰向けで寝かしてみれば、生気の無くなったような青白い顔色をしている。

こんな状態で何故小屋に帰って来たのだろうか。

戻るよりも先に止血するべきだったと大きなため息を溢してから意を決して服を開けさせれば、胸元から腹部にかけて見える大きな斬り傷。

かなり深いのか、赤黒い血が吹き出ている。

このままでは出血多量で死んでしまうだろうと素人目にもわかるため、まずは薬草を取りに行くのが先決だろう。

土砂降りになった雨に意を決して外に飛び出していく。

こんな時に屋敷にあった医務室の手伝いをしていたことが役に立つなんてと思いながら山の中を散策していた。

幸いなことに、小屋の周辺にいた凶暴な動物は彼によって全て狩られたようで遭遇することはない。

時期的に生えてないかもしれないと思ったが、自然豊かな山には代替品になる木の実や葉が豊富にあるためなんとか集まりそうだ。

小屋に戻る頃にはびしょ濡れの泥だらけという酷い状態だったがかまってる暇はない。

寝かせていた彼の口元から血が流れているのを見るとあまり時間もないだろう。

この止血草は激痛を伴うと聞いているが、意識のない彼なら大丈夫だろうとタンスに入っていた綺麗なエプロンをガーゼ替わりにして潰した薬草を染み込ませて傷口に一気に当てれば、目を覚ますことは無かったが痛みからか痙攣しているようだ。

直視していたら離してしまいそうだと目を閉じて治まるのを待っていると彼から静かな呼吸音が聞こえてくる。


「…良かった。」


もし、この方法が効かなかったら私にできることは何もなかったと安堵しながら傷口を塞ぐための薬を作るべく準備を始めた。

本当はもう少し優しい止血草を一緒に混ぜて作るのだが、手持ちはこれしかないと諦めしっかり潰してから桶に入れた水に混ぜ、タオルに吸わせれば緑色に変化してく。

少し垂れるくらいに軽く絞り、止血していたエプロンの代わりに傷口に乗せれば完成だ。

後はニコライの体力次第だろう。

濡れている服を全て脱がせてから暖炉のそばまでマットレスを動かせば、少しずつ乾いてるようだ。

私もこのままでは風邪を引いてしまうが、まずは泥だらけの身体をなんとかしたいとエプロンドレスを脱いで小屋の外にある井戸へと向かった。

井戸までの道は多少雨漏りしているが、屋根があるため大丈夫だろう。

水を何度か被り、汚れを落としてからバスタオルを固定して脱いだ服と血だらけだった彼の服を洗っていく。

石鹸があってよかった。

泡を洗い流してからキツく絞り小屋の中へと戻れば室内はしっかり暖かくなっているようだ。

少し荒くなった吐息が聞こえているということは傷の修復に伴う発熱が始まったのかとバスタオル姿のまま冷たい水にタオルを浸し、額に乗せれば気持ちいいのか。

少し落ち着いたようだ。

邪魔にならない位置で髪を乾かし、服を着替えてから洗い終えた服を干していく。

脱がせるときに彼の腰にかけたバスタオルだが、一枚では物足りないと何枚も重ねてから小さく息を吐いた。

雨が止んだらもう少し薬草を取りに行こうとそう考えているとうとうととし始め、深い眠りに落ちていくのだった。

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