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もしも明日、手紙が届いたら。  作者: 今井マイ
8/13

8通目

保育園を退職した私は、部屋から出ることができなくなっていた。うつ病だった。


トイレと食事以外は一日中ベットの上で過ごす。スマホでひたすらWeb漫画を読んだり動画を垂れ流して見たりゲームをすることを繰り返した。それ以外のことはまるでやる気が起きない。

突然退職したから今頃人手不足で困っているだろう。親切に教えてくれた先輩に対して、何もできなかった山田さんに対して、「ごめんなさい、ごめんなさい」とブツブツとつぶやいていた。


時よりドアの前に母がやってくる。「体調どう?」「何か1つでもやりたいことないのか」「いい仕事見つかるといいね」「ご飯置いておくからね」など声をかけてくるのだが、私の機嫌でどうも返事を返したくない時がある。すると母は、「ごめんね、私が保育園なんかが良いって言ったから、しまったね。」と懺悔する。別にあんたに言われて入ったわけじゃない!!!と反論すると、ドアの前から去っていった。


私がすべて悪いのだ。就活をもっとまじめにしていたら就職先を間違えることはなかった。何となく栄養士になりたいと思わなければ。学生の時にやりたいことを見つけていれば、もっと友達に恵まれていたら…親に言われるがまま生きて来なければ、


ラインも、インスタも、ツイッターもすべて見る気力をなくした。特にインスタは、保育園の時の先輩方、おまけにいじめのリーダー核の人とも交換してしまったので見る事も恐ろしかった。突然辞めた私をきっと恨んでいるはずだと思い込んでいたので、いつメッセージを送ってくるか恐怖であったし、履歴書で住所を見て自宅までくるのではないかという被害妄想まであった。


せっかく地獄から抜け出したのに、新たな地獄に変わっただけだった。


新しい情報を流さない私に対し、学生時代の友人たちは何も反応がなかった。深い交友関係を持つタイプではないので愚痴を聞いてもらうような友人もいない。そうだよな、卒業したら赤の他人だ。人は簡単に疎遠になっていくことを知った。


早く消えなければと思った




ある日の夜、いつものように部屋で画面を見ていると、一通のメッセージが届いた。

カノンさんだった。

メッセージの内容は、「元気?」という三文字の言葉。それ以上は何もない。



たった数ヶ月しか一緒に過ごしていないのに、私のことなんかひとつも知らないくせに、カノンさんのように絵の才能も、明るい性格もなにもないのに。どうして連絡をくれるのか理解ができない。彼女にとっては何気ないたった三文字の言葉が、ひたすら温かかった。


「元気ですよ」そう返すはずだった。できなかった。あふれだした言葉を書きなぐる。

こんなものを読んだら嫌われるとわかっているのに、重い女だと思われて距離を取られてしまうのに、止まらなかった。

電話がかかってきた。カノンさんだった。メッセージの続きを泣きながら話す。

カノンさんは静かに、「うん、うん」と相槌を打ちながら聞いてくれた。


私の涙が止まった時には、すっかり辺りが明るくなっていた。

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