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もしも明日、手紙が届いたら。  作者: 今井マイ
6/13

6通目

「確か叶望さんは4号館4階って言ってたな…」


佐竹先輩が学内の地図を見ながら頭をかしげている。パンフレットの裏表紙にある地図を上下逆にしたり、辺りを見回してようやく自分の場所を理解したようだ。

学内は鮮やかに装飾され、フォトスポットには人が溢れている。道端では似顔絵制作をしており、行列が出来ている。壁には色とりどりの絵が貼られ、凡人にはよく分からないオブジェが並んでいる。美大の文化祭ってこんなに楽しいのだと思った。

しばらくして叶望さんがいる4号館にたどり着き、4階まで階段で上がっていく。

廊下を進んでいると、「絵画コース3年 展示会」という張り紙が出てきた。矢印の通りに進んでいくと、いた。叶望さんが廊下に置かれた机で受付をしている。

「叶望さん!!」

佐竹先輩がそう叫ぶと、

「佐竹ちゃん!!」

叶望さんは椅子から立ち上がって駆け寄ると、ぎゅっとハグをした。ジャマになってしまうと思って後ろから見ていたら、

「ミナちゃんもありがとうね!」

そう言って私にもハグをしてくれた。誰かとハグをするのは初めてだったので恥ずかしかったが、凄く温かい気持ちになった。一か月しか一緒に働いていないのにどうしてこんなにも仲良くしてくれるんだろうか、私にとっては凄く疑問であった。

叶望さんはバイトの時とは違って髪の毛をおろしていた。私服もとてもオシャレであり、その姿は「女子大学生」という言葉が似合うようだった。

2年半ぶりの出会いをした後、叶望さんが展示の案内をしてくれた。これは友達の〇〇ちゃんの絵だとか、優秀賞に選ばれた絵だとか説明を受け、展示の最後の方に差し掛かった時、叶望さんは「これが私の絵」と照れながら1枚の絵をさす。


それは、淡い青色で書かれた女性の顔の絵だった。絵の中の女性はこちらを見て笑っている。絵の主は叶望さんの妹だそうだ。心なしか顔のパーツが似ているように思う。

「妹がね、今年博物館の学芸員に就職したのね、お祝いに書きたくなったの」

「凄い…!優秀ですね、なかなかなれないのに」

佐竹先輩がうらやましそうに言う。

「ちっちゃい頃からずーっとなりたいって言ってて、ついに叶えてさ。カッコイイよね」

同じ夢を持ち続けるということ自体が凄いのに、それを叶えてしまうというのはどれくらいの確率なんだろうか、夢すら持っていない私が恥ずかしくなってきた。


幼い頃は私も「夢」のようなものは持っていた。最初はケーキ屋さん、次にお花屋さん、中高生の時はピアニストになりたかった。私は幼稚園から高校生の時までピアノを習っており、自分でもそれなりに上手いと自負していた。しかし、ピアニストの親を持つ友人と出会ったことで井戸の中の蛙だと知った。それ以来何かになりたいという気持ちを持つことなく、母に勧められた栄養士という資格欲しさに大学へ行った。つまり「何となく」人生を進んでいるのである。そのため夢を持っているというだけでまぶしく感じた。


「今度妹の職場行く予定なんだけど、来る?」

叶望さんが言うと、佐竹先輩は喜んで頷いていた。正直人の勤務先を見に行くというのは気がひけるが、身内の人がそういうのなら良いのかと思い、私も同調する。元々博物館に行くことはすきだったので楽しみが増えた。

「そういえばバイト辞めたんだしタメ口で良いよ。カノンって」

「じゃあカノンって呼ぶ!」

私は黙っていると、「ミナちゃんもだよ!」と声をかけられる。

「いきなりため口はハードルが…!じゃあ…カノン…さんで」

「さんね!オッケー!これからよろしく」


こうしてカノンさんと友達としての関係が始まった。


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