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もしも明日、手紙が届いたら。  作者: 今井マイ
13/13

12通目

私は鬱病を完治させ、ある食品企業の事務員として働き始めた。包装資材を管理する仕事だ。

ハローワークの方曰く食品企業の事務員は倍率の高い求人であるため運が良かったらしい。



しかし、人間関係ではそうもいかなかった。私の席の近くには運悪く性格の悪いおばさんがいる。

新人の私が呼びかけをしても無視するのだ。1度言うだけでは聞こえていないふりをするので、あれ、聞こえてないのかな~という感じで3回呼んでやるのだ。そうするとうるさいというような顔で漸く応対してくれる。毎日戦いに行く日々なのであった。


毎日ポストを見に行くが、カノンからの手紙は未だ来ない。ラインなどSNSで話しかけても返信は来なくなった。役目を果たしたということか、きっと二度と連絡をするつもりはないのであろう。そんな気がする。



文通を始めてからカノンに1度だけ出会った時があった。仕事を辞めてから9ヶ月経ち、鬱病がある程度良くなった時に好きなアーティストのライブをカノンが誘ってくれた。

ライブの講演後、感想をあらかた言い終わった後に、

「100均を辞める時に手紙を送ってもいいですかって聞いたら、めんどくさいって言ってたよね。どうして手紙を書いたの?」

ずっと気になっていたことだったので恐る恐る聞いてみた。


「一番みなちゃんに効くと思ったからだよ」

カノンは前を向きながら話した。

「私ね。最初の手紙は別にみなちゃんの為を思って書いたわけじゃないんだよ。ただ自分が思ったことをそのまま書いただけなの。だから嫌われたらそれまでだと思ってた。」


「昔ね、みなちゃんと同じく新卒で飲食店で働いていた時ね、逃げたの。別に嫌いな人がいたわけじゃないの。ただ、毎日どんどん自己肯定感をそがれていくの。ピーラーで野菜の皮を剥くみたいにね。どんどんどんどん無くなってくの。でもそれに気付くまでかなり時間がかかったのよ。ここは良い人ばっかりで恵まれてるとか、私は必要とされてるんだとか自分に言い聞かせてね、忘れようとしたの。だけどある日気づいたのよ。別に逃げてもいいんだって。自分のやりたいことをやっても良いんだって。その時の勢いに任せて逃げちゃった。」

「だからね、みなちゃんが仕事辞めて鬱になってるって聞いた時、本当にムカついたのよ。どうして逃げる決断が出来たのに後悔なんてしてるんだろうって。自分のこと可哀想だって思ってるせいだって書き殴る感じで手紙を書いたんだよ。でもみなちゃん、返信に「鬱病の人を正論で殴るのはやめてください」って書いたでしょ?あれでうれしくなっちゃって。なんだ、この子はこういうこと言えるんだって。凄く好きになったんだよ。そのあとの文通も楽しかったし」

「なかなかいい性格してるね」少し傷つきながら私は言った。

「あはは、よく言われるぅ」


カノンが文通してくれたのは気まぐれのようなものだと思う。私は当初カノンのことを他人に優しく交友関係も広いという完璧な印象を持っていた。しかし実は自分の我が強いために他者を遠ざけ、信頼できる友人も少なかったようである。人間関係で常に受け身をとっていた私とは真逆の性格だ。そりゃあ言っていることも違う。しかしその真逆な性格は私にとって大きな憧れとなった。


他人からの許可なんていらない。自分が生きたいように生きていていいんだ。

そう気づかせてくれたあの人のことが私は大好きだ。


今でも時々カノンが何をしているのかと想像し、貰ったおもちゃの指輪を眺める。






そうだ、新しい便箋を買いに行かなければ。用事を思い出して外に出る支度を始める。職場で出来た新しいペンフレンドに返信を書かなくてはならない。



靴を履き替えて玄関に行く。

1人しか住んでいない家の扉はなんだか軽く感じるのであった。





拙い文であるにも関わらず、最後まで読んで下さりありがとうございました。


カノンの手紙は実際に友人から言われた言葉を参考に書きました。

小説は趣味で少しだけ書いたり消したりしています。

今回最後まで書くことが出来たのは見てくださった皆様のおかげです。

また時間やアイデアがあれば何か書きたいと思っていますので、お暇な方は閲覧して頂けると幸いです。

本当にありがとうございました。


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