第9話
猫の王、マルタンに会ってから早一週間が経過した。ボクらはケットシーやブライゼが貯めたお金を使って、オラクルハイトに猫カフェを開設すべくテナント探しをしていた。
「もうボクの中から出てきて大丈夫なの?ブライゼ」
「ああ。傷は完治したからな。これからは私も人化の術を使って人間の姿で活動しようと思う」
「そっか!ブライゼの傷が治ったようでボクも嬉しいよ!」
ブライゼも人化の術を使って人の姿になり、テナント探しに協力してくれていた。身長185cm程の大男で、やはり人間の時の姿も威圧感があるが、優しいので安心だ。
「こことか良いんじゃないか」
「オラクルハイトの駅から徒歩10分か!良いね!でも駅が近いとテナント料も高いんじゃないかな?」
「うむ、そうだな。一応私やマルタンが貯めた貯金はそれなりの額だが、無計画に使えばすぐになくなってしまうからな。どうしたものか」
「あれ?チェスさん?」
声がした後ろの方向を振り返ると、そこには魔術展覧会で会ったユーディットがいた。
「ユーディットさん!」
「こんにちは」
「あっ、ニアリー・シャルロットも!」
「チェスさん、お元気でしたか?そして、そちらの方は?」
「あ、改めて紹介するね!こっちはブライゼだよ!今は傷も回復したみたいで、人間の姿になって活動してるんだ!」
「お前はユーディットか。元気そうで何よりだな」
「はい!」
「なんだ?ユーディット、誰と話してるんだよーーって、チェスじゃんか!」
「イルミナも元気そうで何よりだな」
「その声…ブライゼか?お前も人間の姿になれたのか!で、ここで何してるんだ?」
「ああ、実はな…」
♢♢♢
「そうかー、ケットシーと触れ合える猫カフェを開きたいからテナントを探してんのか!」
「なんだろう、人間には愛嬌があるっていう理由でケットシー好きな奴も多いし、それと触れ合えて、かつカフェの機能を持ってる店って今までにない発想だな!絶対当たるぜそれ!」
「猫にも居場所ができるし、仕事が与えられるしで一石二鳥だしね」
「そうだよ。でも中々良い場所がなくて…」
「ああ!ならさ、アタシらの魔術師ギルドで猫カフェ開けばいいんじゃね?」
「えっ?」
「そしたら和むし、なんか依頼も多く来そうだし!どうだ?」
「良いのか?」
「ええ。猫さん達には魔法で仕事を手伝って貰えますし!」
「猫カフェ兼魔術師ギルドって感じでさ!どうだ?」
「それなら良いね!早速マルタンさんにもこの事を伝えに行こう!」
「ああ。きっと喜ぶぞ」
「それでな、ギルド名も決めたんだ!笑顔の魔法って名前に!依頼した人達みんなに笑顔が届きますようにって意味を込めてこの名前をつけたんだ!な、ユーディット!」
「うん!魔法が使えない人を下に見て、報酬をふんだくる魔術師もいっぱいいるけど、わたし達は笑顔を届ける魔術師でありたいなって」
「素晴らしいな。是非ともその笑顔を届けるのを私達にも協力させてくれ」
「おうよ!もうテナントは決まってんだ!良かったら二人とも来てくれないか?」
「ああ。良ければ他のケットシー達も連れてきていいか?」
「もちろん!これから仕事する場になるんだもんな、いいぜ」
「じゃあ連れてくるね。マルタンさん達、喜んでくれるかな」
こうしてチェスとブライゼはマルタンをはじめとする猫達を連れ、イルミナとユーディットが魔術師ギルドを展開する予定のテナントへ向かった。
「じゃーん!!ここがアタシらが魔術師ギルドを開設する予定のテナントだぜ!」
「これは広いな。この広さなら猫達ものびのびと動けるだろう」
イルミナ達に連れてこられたテナントは、高級ブティックや宝石店に周囲を囲まれた小綺麗な場所だった。
「素晴らしい広さだ!イルミナ殿、ユーディット殿、本当に我らにこのようなスペースを与えてくれるのか…?」
「はい!その代わり、わたしたちの依頼に協力して頂くことにはなりますが…」
「もちろん構わんよ!私は基本的な属性魔術を一通り扱える。どのような形で協力してほしい?」
「そうだなー、例えばアタシの受け持つ依頼は魔力を込めた宝石のマジックアイテムを作製するものが多いんだけど、その宝石の原石を水魔法で研磨したりしてほしいかな!」
「水の水圧で宝石を研磨したりカットするアレか!承知!」
「おうよ!そういうのを手伝ってほしいな!そして実はだな、アタシら以外にも魔術師が来るんだよね。そろそろ到着って言ってたんだけど…」
イルミナは魔法端末の画面を見ながら操作を続けている。するとピロリンという音と共に、彼女の表情も変わる。
「おっ、もしもし?」
イルミナは通話機能を使い、遠隔で会話を始めた。どうやらチェスが暮らしていた世界の携帯端末と通話機能は大差ないようだ。
「イルミナー!元気ー?」
「アミーシャか!今どこにいるんだ?」
「イルミナ達がいるテナントのすぐ目の前!外に出てきて!」
「よっしゃ、わかった!」
イルミナとユーディットはテナントの外へと足を踏み出す。ボクとブライゼも外へと移動した。
「イルミナ!ユーディット!」
「ふふ、元気にしてたかしら?」
「アミーシャ!イングリッド!よく来てくれたなー!」
「魔術師学校以来ね。こうして4人集まるのは」
「1億アトロも貰ったんだって?凄いじゃん!」
「ニアリー・シャルロットで入賞したのよね?ふふ、わたし達も一流魔術師の仲間入りね」
「そうなんだよな!アミーシャもイングリッドも夜通し製作に手伝ってくれたしな!アタシらの一流魔術師への第一歩!その努力の成果がこれだ!」
4人の女性の魔術師達はワイワイ賑やかに会話をしている。そして、その途中でユーディットがボクらをアミーシャとイングリッドに紹介した。
「あっ、アミーシャちゃん、イングリッドちゃん、紹介するね。こちら、神れ…いや、ケットシーのチェスさんと、ドラゴンのブライゼさん。そして、そのケットシー達のボスのマルタンさんと、その配下の大勢のケットシーさん達だよ」
「チェスです。よろしくお願い致します!」
「あっ、よろしくー!」
「礼儀正しくていい子だね」
チェスは褒められて顔を赤く染める。
「ふふ、照れ屋だな」
「違うよ!女の子に褒められることなんてあまりなかったから…」
イルミナ達はわははと笑った。そして、アミーシャとイングリッドはテナントの内装を見学し、これから猫カフェも兼ねた魔術師ギルドを立ち上げる事をイルミナ達から説明された。
「良いんじゃないそれ!あたしそんなアイデア思いつかなかったよ!」
「名案ね。癒やされに立ち寄るもよし、一般人にとっての魔術師ギルドの敷居の高さを取り払う事が出来るかもしれないわ」
「というわけで、もう金は払ってきたし、いっちょ内装をセッティングしますか!チェス、ブライゼ、そしてマルタン!手伝ってくれ!」
「うん!」
「ああ」
「承知!」
こうして、この世界に笑顔の魔法を振りまく第一歩が始まろうとしていた。