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第4話

あれから一夜明け、森の中。すっかり疲れも取れたボクらは、オラクルハイトを目指し、エマの作ったゴーレムに乗りながら道を進んでいた。


「そういえば猫さんのお名前はなんて言うんですか?」


「名前…ですか?」


「はい。見たところ、今は羽が生えていないし、喋り方も柔らかくなってるし。なんだか不思議な猫さんだなぁって」


「(ふむ…そういえばあなたの名前を聞いていなかったな。元いた世界ではなんていう名前だったのだ?)」


「そうですね、名乗っていませんでした。ボクの名前は白石黒音。元いた世界では名前で呼ばれたり苗字で呼ばれたりしてましたね」


「(クロネか。どうだろう、この世界での名前を私がつけるというのは)」


「なんかいい名前があるんですか?」


「(黒と白にちなんで、チェスというのはどうだろうか!猫の名前としても中々だろう?)」


「チェス…ですか。いいですね!なんか猫っぽいです!」


「(うむ!今日からあなたはチェスと名乗るがいい)」


ブライゼがボクにチェスと名付けると、ボクの中に暖かい何かを感じた。


「なんだろう…あの時ブライゼさんがボクの中に入った時みたいに、力が湧いてきた…!」


「(この世界における名付けとは、魂の定義を決める儀式のようなものでな。強力な力を持つ者に名前をつけられると、名付けられた者にも力が与えられるのだよ)」



「凄い!なんかボク、ブライゼさんに助けられてばかりですね….情けないなぁ」


「(良いのだよ。他者を助ける事こそが私の存在意義なのだから)」


一連の流れを終えると、ボクはエマにブライゼに名付けられた名を名乗った。


「ボクはチェスです。猫のチェス。よろしくお願いします!」


「チェスさんですね!こちらこそよろしくお願いします」


「あ…エマさん、そういえばなんですけれど」


「なんでしょう?」


「その…ボクって喋る猫じゃないですか?なんかこう、違和感というか、恐怖を感じたりとかしませんか?」


「猫って、ケットシーの事ですよね?」


「ケットシー?」


ブライゼも夜にその名前を言っていたな、とボクは思い出していた。


「はい。ケットシーというのは猫の別名で、いわゆる魔物に分類される存在です。ですが、言葉を話し、意思疎通もできるので、魔物の中では比較的危険性が低いため、街に住み着いて人間とも共存してます」


「つまり、この世界における猫って人語を喋るのが普通だし魔物に分類されるって事?」


「そうなりますね。ですが、ドラゴンのような羽の生えた姿にもなれるケットシーは見たことがないし、それになれるのはチェスさんだけかな」


「そっか。教えてくれてありがとうございます、エマさん。じゃあアレですね、喋る猫はそんなに珍しくないって事か。良かった〜…」


「何をそんなに心配してたんですか?」


「いや、なんといいますか、喋る猫なんて実験体とかにされかねないなって」


「あ、ケットシーは実験体にされることもありますよ。魔術とかマジックアイテムの効果を測るために」


「え!?」


「ほかにも毛皮を取るために殺されたりもします」


「ちょ、ちょっと!!」


「ただ、それも一昔前の話です。この国、イレイン王国では昔ある国王がドラゴンと交わした盟約により、ケットシーを殺生したり、実験隊として虐待する事は禁じられました。今現在はオラクルハイトをはじめとする街ではケットシーは溢れかえっていて、人間と仲良く共存していますよ」


「(そしてその国王と盟約を交わしたドラゴンというのが私だ)」


「ブライゼさんが?」


「(ああ。私は昔メスのケットシーに助けられてな。それ以来、ケットシー達に魔術や狩りを教え、ケットシー達の界隈では有名人なのだよ)」


「そうなんですね…ありがとうございます。ボクも転生したタイミングが早かったら毛皮を取るために殺されてたかも….」


「ところで…さっきからブライゼさんって言ってますけど、誰のことなんですか?」


「あ、そうですね。その事に関しても説明しなきゃ。ブライゼさん、変わってもらってもいいかな?」


「(ああ、いいぞ)」


ボクはブライゼに身体の主導権を渡した。ボクの身体からは再び竜の翼が生え、瞳もエメラルドのような緑からトパーズのような黄色に変化し、身体の黒い模様も若干変化する。


「改めまして、はじめまして。私はブライゼ。このケットシー、チェスの中に潜む竜だ」


「わあ、姿が変わった!夜に会った時みたいに羽も生えてる…」


「ふふ、そう身構えなくても良い。人格は変化したが、あなたに危害は加えない」


「えっと…ブライゼさんはドラゴンさんなんですか?」


「そうだ。しかし訳あって致命傷を負った為、今はチェスの中で傷を癒している。こうして表に意識を出して他者と意思疎通はできるがな」


「チェスさんの中で…?精神世界みたいなものですか?」


「そうだな。それに近い。チェスのスキル、収納によって、私は今魂のような存在になって匿われているというわけだ」


「なるほど…ドラゴンさんの姿を見る事は出来ないから残念だけど、きっとかっこよくて強いんだろうなぁ。今の猫の姿でもかっこいいし」


エマは目をきらきらさせながらブライゼに話しかける。ブライゼは心なしか照れている様子だった。


「あ、見えてきましたね、オラクルハイト」


「(ああ、懐かしい。ここに来るのも何年振りだろうか)」


ボクらは地平線の彼方を見渡した。すると、大都市の門が目に入った。巨大で、繊細な装飾がなされた荘厳な門だった。


「あっ、あれがオラクルハイトの入り口?なんか大都市なだけあって凄く大きな門だね」


「はい。わたしも初めて来ましたが、入り口の門からこんなに大きいなんて。今日ここでわたしの作品を披露するんですよね。緊張するなぁ…」


「(ふふ、私達もあなたの作品が高く評価される事を祈っているよ)」


「ありがとうございます!そろそろ検問ですね。チェスさん、そしてブライゼさんはケットシーだから検問はないですが、どうしますか?ここで別れますか?」


「(いや。ここまで一緒に来たのだし、折角だからあなたの作品を見させていただこうかな。チェスはどうかな?)」


「うん、そうだね。ボクも興味が湧いたからエマさんの作品を見たいな」


「というわけで。エマ、あなたに同行させてもらっても良いか?」


「いいですよ!わたしも一人じゃ心細かったので。わたしの晴れ舞台、見ていてほしいな」


検問を終え、3人はオラクルハイトの中へと入った。


♢♢♢


オラクルハイト。この世界でも有数の魔法都市。そこは多種多様の魔法で溢れかえっており、魔法のるつぼとも呼ばれる都市である。イレイン国外からもまだ見ぬ魔法を求めて足を運ぶ冒険者や勇者パーティも少なくなく、一般人も日々研鑽され続ける数多くの魔法の革新的さの魅力に取り憑かれる者が後を絶たない。


その魔法都市、オラクルハイトで、4年に一度の魔法で作られたマジックアイテムの作品を披露する、魔術展覧会が今日開かれようとしていたーーー



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