おバカな王太子はやりたい放題。二人の男爵令嬢を妻とし、公爵令嬢を側妃に。贅沢三昧していたら、簀巻きにされちゃった。
「エレーヌ・カルティウス公爵令嬢。貴様との婚約を破棄する。貴様はここにいる可愛いマリアとミルディアを虐めたであろう。そんな非道な女を私は許しはしない。」
そう言い放ったのは、エレーヌの婚約者であるハドル王太子殿下。
その彼の両脇にはピンクのフワフワな髪の二人の令嬢がべったりとくっついている。
そう二人の男爵令嬢が。
「ハドル様ぁ。エレーヌ様ったら酷いんです。私を噴水へ突き落として。」
マリアがハドル王太子の腕に胸を押し付けながら、そう訴えれば、もう一人の男爵令嬢ミルディアももう片側から胸を押し付けながら、
「私なんて階段から突き落とされてぇ。それはもう怖くて怖くて。」
マリアがミルディアに向かって、
「階段なんてっ。私なんて、屋上から突き落とされてぇ。」
「屋上?それを言うなら、私なんて、崖の上から突き落とされてぇ。すごくすごく怖かったんですう。」
「崖の上?それなら私は魔王城の上から落とされてっ。」
「魔王城っ?それなら私は天空の城から落とされてっ…」
「それなら私はっ…天空の城の更に上から落とされてっ。」
「それなら私は更に更に上から落とされてっ。」
「それなら私はもっともっと上から落とされてっ…」
聞いている皆は思う。
これだけ高い所から落とされてよく二人は生きているなと…
二人はハドル王太子殿下に両脇から抱き着いて、
「私はその胸ばかり大きいミルディアより、酷い目にあっているんですうっ。」
マリアが訴えれば、ミルディアも、
「私だってそちらの胸しか大きくなく頭が悪いマリアよりも、うんと可哀そうなんですうう。」
「それを言うなら、私は胸しか大きくなく、頭も悪くて、万年学年で最下位の成績を取っているミルディアよりももっと可哀そうなんですう。」
「それを言うなら胸しか大きくなく頭も悪く、学年でさらに最下位で、人として最低なマリアよりももっと可哀そうなんですっ。」
聞いていた皆は首を傾げる。そんな最低女より可哀そうな女ってどれだけ最低なんだ?
そしてあたりを見渡せば、エレーヌ・カルティウス公爵令嬢はすでに姿を消していた。
そりゃそうだよな。こんな馬鹿げた連中を相手している暇はないよな。
ハドル王太子は怒りまくって。
「この王太子たる私の言葉を無視していなくなるとはどういう事だ?」
側近の宰相子息が、
「カルティウス公爵令嬢からの伝言です。このような話は王家からカルティウス公爵家へ正式にお願い致します。そもそも何回目の婚約破棄でしょうか。わたくし忙しいのですのよ。失礼致しますわ。との事です。」
マリアとミルディアに強請られて、何度もエレーヌに婚約破棄を訴えてきた。
しかし、エレーヌが言うのには、自分の一存では決められないので、国王陛下と王妃から直接、カルティウス公爵と話し合ってくれと言われるだけで、仕方ないので、
父である国王へ訴えれば、
「くだらない。そなたとカルティウス公爵令嬢との婚約は解消する訳にはいかない。政略なのだ。何か?私の決定を不服とするのか?」
ハドル王太子は必死で訴えた。
「マリアとミルディアが虐められているのです。あんなエレーヌみたいな悪女と私は結婚したくありません。」
国王は不機嫌に、
「下賤な女どものいう事を真に受けるとは…マリアとミルディアは男爵家の女だろう?マリア・アドル男爵令嬢、ミルディア・カテリア男爵令嬢。」
ハドル王太子は目をきらきらさせながら、
「彼女たちといると癒されるのです。私は二人を未来の王妃にと。」
母である王妃は頭を抱えて、
「彼女達?何故に複数形なのです?二人の王妃なんて聞いた事は無いわ。」
ハドル王太子は必死に父と母に訴える。
「王妃が二人いれば華やかで良いではありませんか。ですから。私は。マリアとミルディア二人に王妃になってもらおうと。そして、悪女エレーヌは婚約破棄をしてやろうと。しかし、泣いて縋るのなら、エレーヌは側妃にしても…私にしてはものすごーい温情なのです。エレーヌは泣いて喜ぶことでしょう。」
王妃は叫ぶ。
「貴方。馬鹿なの?大馬鹿なの?」
国王も天を仰いで、
「ああ…今日もいい天気だなぁ。」
王妃が怒りまくって。
「陛下、現実逃避をしてはいけません。屋根があるのに空が見えるはずはないでしょう。」
ハドル王太子はにこやかに、
「ともかくエレーヌとは婚約破棄を致します。息子は私しかいないのですし…親戚関係は年寄りか女ばかり。私が未来の国王だ。ハハハハハハ。可愛いマリア。ミルディア。二人の王妃と共に王国を盛り上げるぞ。」
国王と王妃二人は呟いた。
「王国は終わったな…」
「ええ。王国は終わりましたわね…」
ハドル王太子はマリアとミルディアと結婚した。
エレーヌは側妃として強引に迎えた。
マリアとミルディアは、エレーヌが側妃だということに不服であったが、
ハドル王太子は可愛い二人に向かって、
「エレーヌとは真っ白な結婚だ。仕事をエレーヌにさせておけばいい。私が愛しているのはそなたたちだ。二人王太子妃なんて王国は過去にも現在にもないだろう。さぁ二人とも美しく着飾っておくれ。」
マリアは嬉しそうに、
「はぁいーー。ミルディアなんかには負けないんだから。」
ミルディアも、
「私もマリアなんかに負けない。」
胸元がはだけた真っ赤なふりふりドレスをマリアが作って、豪華なルビーの首飾りとイヤリング、そしてティアラで自分を飾れば、ミルディアだって負けてはいない。胸元をぎりぎりまで攻めたキンキラキンのドレスに、黄金の冠。首にはずっしりと重い金をふんだんに使った首飾り。裾は金のフリルを豪華に200パーセント増しに使ったドレスを作って。
二人は夜会でハドル王太子の両脇にべったりとくっついて、それはもう王宮の(毒花ではなかった)華として、(品の無くではなくて、)華麗に彩った。
側妃のエレーヌは、控えめの紺のドレスを着て、ハドル王太子の後ろに控えている。
ハドル王太子の命で、エレーヌも夜会に出席させたのだ。
決してエスコートなんてしない。
両脇にいる可愛すぎるマリアとミルディアだけで手いっぱいで。
ハドル王太子は生意気なエレーヌが、後ろに控えめに立たせていることに大満足だ。
そもそも、エレーヌの高飛車な公爵令嬢たるところが嫌いだった。
マリアやミルディアのような、胸の露出が多い可愛げのある女の子が大好きなのだ。
「マリア。ミルディア。今日も可愛いな。エレーヌとは大違いだ。」
振り返ってエレーヌを見れば、エレーヌは黙って俯いている。
王太子としての仕事をすべてエレーヌに押し付けて。
それはもう、気分がよくてよくて。
マリアがこれ見よがしに、ハドル王太子におねだりしてくる。
「私の部屋の調度品、もっと可愛いのがいいわぁ。なんかお堅くてとても嫌。」
ハドル王太子は目尻を下げて、
「解った解った。すべて買い替えよう。お前好みの家具にしよう。」
「マリア。嬉しいーー。」
ミルディアが膨れて、
「私も私も。新しい家具が欲しいーー。すべて熊さんのマークがついたお店の家具がいいー。」
「解った解った。ミルディアの望む家具を揃えよう。」
「嬉しいーーー。」
ミルディアがハドル王太子の頬にキスをする。
マリアも負けじとハドル王太子の頬にキスをする。
べったりと頬に二人の口紅の跡がついた。
ハドル王太子はマリアとミルディアが望むだけの物を買い与えた。
宝石でもドレスでも調度品でも…
誰も、ハドル王太子の贅沢に何も言わなかった。
一年間は…
しかし、とある日…
騎士団がずかずかと部屋に入って来て、ハドル王太子は簀巻きにされた。
「私は王太子だぞーー。何をするんだーー?」
王宮の庭に放り出される。
マリアも、ミルディアも同じく簀巻きにされて放り出された。
両腕を組んで立っていたのは、
父である国王と母である王妃、そして側妃のエレーヌであった。
国王はハドル王太子を睨みつけて、
「一年間我慢したが、もう我慢ならん。お前達はいくら金を使ったと思っている。このままでは王家は破産してしまう。」
王妃もハドル王太子を睨みつけて、
「まったく、馬鹿な子とは思っていましたけれども?お前達は使ったお金を返す為に、強制労働所送りと致します。」
ハドル王太子は叫ぶ。
「私は唯一の王位継承者だっーーーー。私がいなくては王族はっ。」
するとエレーヌがにこやかに微笑んで、
「わたくし、特別に時期女王になることになりましたの。まぁわたくしも王家の血を引いているのですから…その資格もありますわね。」
ハドル王太子の祖父の妹が、カルティウス公爵家に嫁入りしているのだ。王家を出ているが、王家の血は引いているエレーヌ。
ハドル王太子は焦る。
「女に王位継承権はないはずだぁ。政治はどうする?」
「そもそも、貴方、わたくしに王太子殿下としての仕事を丸投げしていましたわよね。」
エレーヌに言われてしまった。
そうだった。
遊び呆けていたのだった。
マリアとミルディアは泣き叫ぶ。
「私たちは王妃様になるのよーー。」
「強制労働所送りはいやぁーーーー。」
国王の冷たい声が響く。
「三人を辺境の労働所へ運べ。」
泣き叫ぶ三人は簀巻きにされたまま、馬車に押し込まれて、運ばれていくのであった。
父にも情はあったようだ。
強制労働所というけれども、ハドル元王太子は、国境警備隊の事務の仕事をコツコツとやらされている。
しかし、廃嫡されてしまった…子供ができないよーに、しっかりと措置されてしまった…
マリアとミルディアは、国境警備隊の大勢いる騎士たちの洗濯係だ。
他の女性達と共に一日中。男どもの洗濯を手作業でやっている。
そして、今でも二人はハドル元王太子の妻である。
パンとスープしかない貧しい食卓で、簡素な擦り切れたドレス姿の二人が、ハドルに対して訴えてくる。
「やーーーーん。手が荒れちゃった。」
「私なんてもっと荒れているわ。」
「それを言うなら、私なんてあかぎれが…」
「私なんて血がだらだらよ。」
二人はまったく変わらず、そろって可哀そうアピールしている。
仕方がない。
給料が出たら手荒れクリームを二つ買ってやるか…
まぁ借金を返済しながらなので、生活は楽ではない。
安いクリームしか買えないが。
ハドルは、窓の外を眺め、元自分の側妃だったエレーヌを思い出す。
やはり好きにはなれない。
側妃としたが、彼女とは白い結婚だった。
風の噂で、彼女がとある公爵令息と未来の王配として、結婚したと聞いた。
まぁ…もう関係ないけれども…
ハドルは今日も二人の妻を連れて、国境警備隊へ仕事に向かうのであった。