第96話 一人ぼっち
「ママは! ママは!」
と、唯は修二に泣きついた。
「ママは……」
泣き叫ぶ唯に言いづらそうな表情をしている修二は困っていた。
唯の母、修二の妻である由利は、他の男と浮気をして、唯だけを残し、家を出て行ってしまったのだ。
唯と離婚届の用紙だけを残して。
それは修二が再婚して五ヶ月後の事だった。
一人、取り残された唯は、行く当てもなく、一人ぼっちである。
そんな時、敦也は、無意識に唯の頭を撫でた。
「ゆーいー、いたいの、いたいの?」
と、敦也は、唯を心配そうに見つめた。
さすがの子供でも、泣いている女の子がいれば、少しは察することができる。
「ぐすっ、ぐすっ……。あーちゃぁああんんん! わぁああんんん!」
と、敦也の中で泣く唯を暖かく抱きしめた。
「そうだよな。唯ちゃんを一人にしては駄目だよな、敦也」
修二は二人をギュッと、抱きしめる。
「俺も腹を括るか。俺は二人共、幸せにしてやる。だから、二人共、優しく、思いやりのある子に育ってくれよ」
「パパ、苦しい……」
敦也は、嫌そうだった。
唯に抱きつかれ、その上、修二に抱きつかれるのは苦しい。
「ま、それはそうと決まったら、ご飯にするか! 二人共、お腹が空いただろ、今から料理するから待ってろよ!」
そう言って、修二は台所に行ってしまった。
「離れてよ!」
「嫌っ!」
「なんで?」
「あーちゃんは、わたしのものなの! だから、や!」
唯は、絶対に敦也から離れない。
「それって、おとなになっても?」
「ん!」
と、唯は答える。
「はい、はい……」
敦也は唯の答えに呆れ果てた。