第95話 今と昔
「——というのが、最初だったな」
と、敦也は、懐かしそうな眼をしていた。
「なるほどねぇ~。唯ちゃんは、小さい頃はお茶目な女の子だったんだね。今とは、正反対な性格みたいだけど……」
「もう、穂乃果さん、やめてください!」
ニヤニヤと、唯をからかう。
「私、そんな子でしたか?」
「唯姉は、そうだったよ。どれだけ、俺が苦労したことやら……」
敦也は昔の事を思い出して、やれやれと思った。
「それで? 話の続きは?」
「そうだな……」
再び、敦也は唯との思い出を語りだす。
二人が結婚してから数日——
「あーちゃん、あーちゃん」
と、唯は敦也から離れることなく、毎日のように敦也が行くところ、引っ付いていた。
「…………」
敦也は、唯を無視し続けたまま、一人遊んでいる。
「ふふふ……。二人共、本当の姉弟のようね」
「ははは……。敦也は唯ちゃんをこれっぽっちも相手にしてないような気がするけど……」
敦也に抱きつく唯は、新しいおもちゃを見つけたかのように、敦也の気を引くようにいろんなことをする。
だが、その一方で、敦也は唯の事など、どうでもよく、一人、お絵描きや本を読んだり、おもちゃで遊ぶ。
「こっち、こっち向いて!」
悔しそうにする唯は、いつも涙目になっていた。
寝る時も家族揃って、一緒であり、何をするのも同じ事をしたがる年頃であった。
そんなある日の事——