第92話 聞きたい事
「それで、どうやったら唯姉と里菜姉が、試合中に互いにビンタし合うんだ? 咲弥姉に聞いた時は、びっくりしたけどな」
「その事ですか……。あれは、ちょっとですねぇ……」
「あ、それそれ。私も聞いてみたかった!」
目の前から迫ってくる川の流れに当たりながら、三人は話をする。
「別に大したことではないですよ。ちょっと、里菜にイラっときたので、やっただけです」
「いやいや、唯ちゃん。イラっときただけで、あそこまで、注目を浴びるような事じゃないから!」
「そうですか? 家では、たまに普通の事ですけど……。ね、あっちゃん」
「ん? ああ、たまーにだけどな。姉ちゃん達は、俺とは違って、今よりも昔は、毎日のように喧嘩してたよな。それを見せられる俺の身になって欲しかったけど……」
「あはは……。すみません……」
敦也に昔の事を言われて、薄ら笑いをする唯。
「で、敦也君は、本当のところ。誰が一番好きなの?」
「はい⁉」
いきなり穂乃果に聞かれた敦也は、質問の意味が全く理解出来ない。
「もー、とぼけないの! 唯ちゃん・里菜ちゃん・咲弥ちゃんの誰が好きかってことよ!」
「穂乃果さん!」
「あんたらを見ていたら、雰囲気で分かるのよ! それに、本当の姉弟じゃないんだから、あーんな事や、こーんな事もしているんでしょ?」
「していません! からかわないでください!」
穂乃果を自分の手で口封じして、これ以上、余計な事を話させないようにする。
「あっちゃん。今の忘れてくださいね!」
少し涙目になっている唯は、敦也の方を振り返って言った。
「あ、ああ……」
敦也は、何一つ、気にしていなかった。