第84話 苛立ち
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ベンチに座って、タオルを頭に掛けながら、息遣いが荒い里菜は、苦しそうだった。
スポーツ飲料が口から喉に通らず、疲れがたまっていく一方だった。
ゲームカウントは3―5。
里菜が二ゲーム負けている状況である。
「里菜、大丈夫ですか?」
苦しそうにしている里菜を見て、心配している唯が声を掛ける。
「これが大丈夫に見えるわけ? そうだとしたら、唯の目は節穴だよ」
「誰が節穴ですか。最初から大丈夫ではないですよね? この試合にも集中していないですし、『棄権』しますか?」
試合を途中でやめることを提案する。
「それだけは、嫌よ。あの女、見ているだけで、イラっと来るのよ」
「そうですか? 私にとっては、確かにあの人は嫌いですけど、それよりも今は、あなたを見ている方がイラっと来ますけどね」
「それ、どういう事よ。私があんたに何かしたっていうの?」
唯に対して、睨みつける里菜。
「ええ、そうですよ。ここに来て、練習態度も悪ければ、何一つ、人と会話をしようともしない。何不貞腐れているのですか? そんな態度で試合をするなら不愉快です。荷物をまとめて、返った方がマシですよ」
「あんたねぇ、言わせておけば、偉そうに! 何が言いたいわけよ!」
里菜は唯の服を掴んで、イライラが募るばかりである。
「もっと、冷静になりなさいと言いたいんですよ」
「私は冷静よ。あなたの指図なんて受けない!」
パンッ!
と、唯は里菜の頬を平手打ちした。
近くでそれを見ていた姫路以外にも、その試合を観戦していた部員たちも驚いた。




