第66話 数時間前の出来事
「さて、今日は待ちに待ったゴールデンウィークのイチゴ狩り、しっかりと、皆でイチゴを採るぞ!」
敦也達の父親は、張り切っていた。
昔、お世話になっていた知り合いの農園に、毎年、家族揃って、イチゴ狩りに行くことになっている。
だが、敦也、ただ一人は、歳を重ねるごとに目的が変わっていた。
イチゴ狩りもいいが、この時期、毎年、公開されるアニメ映画を優先したいのである。
敦也の町にも、映画館はあるのだが、公開日が二カ月ほど遅れて、上映されるため、この日を毎年楽しみにしている。
イチゴ狩りに行くぐらいなら、映画を見に行った方がマシだ。と、思っており、自分だけ、その町の大型ショッピングモールに降ろしてもらうように頼むのだが、これを邪魔する者たちがいる。
「父さん、俺、イチゴはいいから、映画の方を見に行きたいから、途中で卸してくれない?」
と、申し出る。
「父さんも、お前の意見を通してあげたいところなんだが、娘達のあの目を見ると、どうしても命が欲しくて……な。だから、今回もイチゴ狩りの後で映画を見に行くことにしてくれ、頼む!」
父親は頭を下げて、敦也にお願いする。
「そうですよ。あっちゃん、お父さんが、ここまで、お願いしているのですから、その言葉に答えてあげないといけませんよね?」
「そうだよ、敦也、父さんのためにイチゴ狩りに行かないとね」
「そうそう、あっくんの用事は、後で、お姉ちゃん達が付き合ってあげる」
そう、これが毎年のやり取りである。
このため、敦也はチケットを後で四人分、ネット購入しているのである。
「マジかよ……」
敦也は、天井を見上げた。
それから、出発前に誰が、敦也の隣の席に座るのか、公平にじゃんけんで決める。
「姉ちゃん達、早く、決めてくれよ」
敦也は、荷物を車内の後ろに運ぶ。
「敦也、ありがとう。ごめんね、父さんが、娘に甘くて……」
「別にいいよ、母さん。母さんも、そんな事くらいわかっていただろ?」
「それはね……。でも、娘に甘すぎるのは、どうかと思うわ。母さんが、今度、厳しく言っておくわね」
「あはは……。くれぐれも、心を折らないようにね……」
敦也は、母親に対して、父も大変だと思った。
「良し! 勝った!」
と、拳を挙げたのは、咲弥だった。
「「ま、負けた~」」
負けた二人は、ガッカリした。
こうして、家族揃って、イチゴ狩りに向かった。




