第54話 二人だけの世界だと思った
数学の授業が始まる二分前——
敦也は、教科書と参考書を取ろうと、リュックの中を探すが、見つからない。
(あれ? 教科書と参考書を忘れた? やべぇ、どうしよう……)
少し焦っている様子の敦也に気づいた唯が、敦也の右肩を軽く叩く。
「あっちゃん、どうしたのですか?」
「あ、うん。どうやら、数学の教科書と参考書を家に忘れて来た感じなんだよね。ノートはしっかりと持ってきたのに……」
まだ、リュックの中を探している。
(これは……! 来たのかもしれません‼)
唯は、チャンスが回ってきたと、確信した。
「見つからないのでしたら、一緒に見ますか?」
と、唯は自分の教科書と参考書を持って、敦也を誘う。
「すまない、唯姉。頼むよ。勉強の邪魔にならない?」
「大丈夫ですよ。むしろ、こっちの方が勉強に集中できますから……」
なぜ、そこまでして、喜んでいるのだろうと敦也は思った。
数学の授業中、敦也は唯の机に自分の机をくっつけて、椅子も少し移動させる。
「ねぇ、唯姉。ここ、どういう意味?」
と、数学の教師が黒板に書いてあるのを写していた敦也が、唯に分からないところを訊く。
「そこはですね……。——と、解けば、簡単ですよ」
「あ、なるほど。そういう事だったんだ」
敦也は、唯の説明に納得する。
「あっちゃんは、もう少し、授業に集中した方がいいですよ。一年の基礎は、二・三年の応用に生かされますからね」
「あ、うん。分かった」
敦也は頷く。
「それならいいんですが……」
心配そうに見つめる唯。
「ちょい…ちょいちょい……」
と、後ろから康介がシャーペンで敦也の背中を突いて、話しかけてくる。
「お二人の世界を邪魔して悪いんだけど、敦也、さっきのところ、説明してくれない? 俺、居眠りしてて、聞き逃してしまった」
敦也にお願いする康介。
「別にいいよ。俺もさっき、唯姉に訊いたところだから、教えられると思う」
と、敦也は後ろを振り返り教えようとする。
康介は、チラッと唯の方を見ると、唯は康介を睨みつけていた。
(うぉ! やばい、仏様が怒っている! 俺、何かしたか⁉)
康介は、ビクビクしながらも、敦也に教えてもらった。
(もう、あっちゃんは、人が良すぎますよ。でも、こうして、男友達が普通にできるのは、プラスかもしれませんけど……。それ、教えたのは私なんですからね!)
唯は、なぜか、康介に対して、嫉妬していた。




