第134話 帰った後の緊迫感
家に帰った途端、何も一つ動きたくない敦也は、荷物をリビングに置いたまま、床に寝そべっていた。
まだ、シャワーを浴びていないせいか、着替えたはずの服からは、少し汗臭い匂いがする。
(このまま、眠ってしまったら、絶対に唯姉が怒る。洗濯物も出していないし……、でも、今、里菜姉がシャワー浴びているからなぁ。起き上がりたいけど、体が動かん……)
敦也は、床に寝そべったまま、荷物の中から三日分の洗濯物が入っているビニール袋を持ち、ゆっくりと体を壁で支えながら歩き始めた。
(とにかく、洗濯ものでも出しておいて、後は、里菜姉がシャワーを浴び終えるまで待つ。咲弥姉は……後でシャワー浴びてもらえばいいだろう。少し悪い気はするけど、仕方がないよな)
敦也は、洗面所に辿り着くと、まだ、里菜は、シャワーを浴びている。
今のうちに洗濯かごに服を入れ、上から体重をかけて押し込む。
「ん? 誰? 唯? それとも、咲弥? どっちでもいいんだけど、新しい石鹸を取ってくれない? もう、残り少ないからさ、泡が立たないんだよね。ねぇ? 聞いてる?」
気配で気づかれたのか、里菜は、風呂場の向こうから話しかけてくる。
(やーばい。今、ここにいるのは、俺だし、覗きに来たとか、勘違いされたら面倒だな……。でも……しかし……)
「おーい、石鹸、石鹸頂戴! ねーってば‼」
敦也は返事せずに黙ったまま、棚の方からいい香りがする石鹸を取り、箱から取り出して、袋を破り、中身を出す。
(さて、これを、どう渡すかね……)
困り果てた敦也は、風呂場の扉まで行き、扉を少し開けて、背を向けながら左腕を隙間から伸ばして里菜に渡そうとした。