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第133話 帰宅
「あっちゃん、着きましたよ。起きてください」
唯が敦也の耳元で優しく囁く。
「すー、すー」
だが、起きる気配が全くしない。
頬がピクリとも動かない。
「唯、敦也。まだ、起きないの?」
「そのようですね。私が起こしても何一つ反応しません」
「だったらさぁ、この際、あれをすればいいんじゃない?」
後ろを振り向いて、前の席に座っていた里菜が、両手の指の動きで、ジェスチャーする。
「そうですね。それしかないですよね」
唯は、敦也の腹部や脇の部分をくすぐり始める。
「ふっ……」
敦也の意識が少しずつ覚醒し始める。
「ふははは! ははははははっ‼」
こしょばゆくて、敦也は大声で笑った。
「ようやく起きましたか……。あっちゃん、もう、着きましたよ。早く、車から降りてくださいね」
「お、おう……」
笑い終えた敦也は、いつの間にか耳から取れていたイヤホンを回収し、音楽を止めた。