第111話 ちょっとした話
「おはよう」
「あ、おはようございます」
食堂でトレイを持って並んでいる時、唯が後ろを振り返ると敦也がいた。
「あの後は、ぐっすり眠れたのか?」
「はい、おかげさまで眠れましたよ」
「そう、それならよかった」
「あっちゃんの方はどうなんですか?」
「俺? 俺は、眠れたよ。あの後、結局、朝まで寝てしまった」
「そうですか。あの事は、二人には内緒でお願いします」
「ああ、分かってるよ。知られたら、後々面倒だからな」
敦也は小さく頷く。
朝食をカウンターで受け取り、それぞれの席に座る。
「そう言えば、敦也君、昨日の夜、どこ行っていたの?」
「え?」
ご飯を食べている敦也に留依は、いきなり訊いてきた。
「昨日の夜中、出て行くのを見かけたのだけど」
「ああ、あれ? 眠れなかったから外に出ただけだ」
「それなら、私は唯ちゃんを見たんだけどなぁ」
と、夏海が言った。
それを聞いていた里菜と咲弥は、静かに反応する。
「もしかして、二人で怪しい密会とかですか?」
ニヤニヤと、俺を見る留依は、攻めてくる。
「そんなわけないだろ。俺は、外に出て行ったけど、誰にも会わなかったぞ」
「本当に?」
「本当だ。一人、歩いて、眠たくなった頃に帰ってきたからな」
「つまんないの……」
留依は、はぁ、とため息を漏らす。
それを聞いていた穂乃果は、深夜に帰ってきた唯を思い出す。
(ああ、あれは敦也君と偶々、会って、話をして帰ってきたのね。あの後、気持ちよさそうに眠っていたし……)
(そういう事だったのですね。まぁ、人それぞれという事でしょうか)
と、拓も何か察して、敦也に何も言わなかった。
だが、里菜と咲弥だけは、敦也の誤魔化しに嘘があると、見抜いていた。