1話 アリス・Q・イングラム
とあるマンションの一室
閉ざされたカーテンは、朝日を嫌い、その光を遮る
部屋は一年を通して暗く、天井にある光源は、ここ数年その機能を使ったことがない
そんな部屋の主人は、今日も寝ていない
ここ4日の睡眠時間が5時間にも満たない少女は
時計の示す時間に、今日も寝れなかったと
目をこすり、瞳の下のクマをより濃くする
「今日の天気は・・・」
情報端末であるデバイスを操作しデバイスモニターに
今日の天気予報を表示させる
「う~ん・・・午後から雨かな
なら、今日はサブのレプリカで行こうかな」
そういって、部屋に陳列された、数着のフルプレートの中から
今日、学園に着ていくの鎧を選ぶ少女
メインの鎧は、正装であるがため最近は中等部への進学式で着たくらいである
あと数着あるレプリカの鎧は彼女本人ですら
外見では識別するのは難しいほど精巧に作られていた
普段なら、お気に入りのレプリカを着ていくのだが
いつものレプリカだと、耐水性が生活防水程度しか無いのである
なら、多少防御能力が下がっても、耐水性がある鎧を選んだのだ
学園に行く準備を整えカバンと荷物
フルフェイスの兜を小脇に抱え、自室の扉を開く
そして、中学2年生の少女の部屋とは思えない暗く異質な部屋を後にし
髪型を整える為洗面台に立つのだが
「ちょっとアリスどいてよ」
「姉さん、後から来て文句言わないでよね」
「うるさいわね、髪型なんてどうでもいいでしょ
中坊がオシャレ付いてんじゃないわよ」
「姉さんこそ、ケバイ化粧なんてして、ナニ調子こいてんのさ」
「フン!お子様にまだ早かったわね
化粧こそが大人のオシャレなのよ
あんたは、少しはファンデで
その目の下のクマを隠すくらいはしなさいよ」
「そんな化物みたいな顔がオシャレだって?
冗談はやめてよね」
「ダレガ!バケモノだってぇぇぇ!!!!!
このメンヘラが!!」
「メンヘラ言うなぁぁ!!!」
姉は妹の髪を引っ張り
妹は姉のほっぺたを引っ張る
そんな不毛な争いは数秒も立たず
一人の強者の出現で終を迎える
「ジュリア!アリス!どきな!
今日は早出で忙しんだ!
アンタ達はさっさと朝食食べて学園に行きな!」
2人の視線の先には
スーツでビシッと決めた母親の姿がそこにあった
「「おかあさん・・・・・」」
2人の姉妹は洗面所から退散し
姉のジュリアは、文句を言いながらも妹の髪を綺麗に整える
妹は照れくさそうに、無言で焼きたての食パンに姉の好きなハチミツをぬる
そんな一時の朝の時間を終え
姉妹はそれぞれの、フルフェイスの兜をかぶり
マンションの一室を後にするのだった
いつもより少し早く家を追い出されたアリス
それは、何時も乗るバスより、1本早い時間のバスで
学園に向かうことになる
バスを降りたアリスは少し足を進め
自分の乗ってきた方面と違うバス停にたどり着く
それは、何時もなら、この時間にある人物がバスで学園に来るからだ
何時もは、アリスの乗るバスの方が遅いので会うことはないが
たまたま早く来たのなら、彼を待つのも【在り?】だと足を止めた
数分待つと彼が乗っているだろうバスがバス停に付き
乗っいた乗客がほぼ降りてから、最後にバスから出てきたのは
リーゼントの形を気にしながら登場する男
「おはよう、今日はあの変態は一緒では無いの?」
「おはよう、アリス、今日も早いのか?」
「あぁ、母がね早出らしく、姉と一緒に家を追い出されたのよ
それより、髪型がきまらないの?」
それは、足を止め会話をしながらも、鉄雄は自慢のリーゼントにクシを当て
髪型を整えていたからだ
「あ・・・あぁちょっとな気になる事があって
まぁあの変態の事なんだが、昨日晩から連絡が取れないんだ
どうせ、面白いこと見つけて連絡するの忘れているだけだろうがな」
「?それは、テツが気にする事なの?」
「いや、奴の妹が気にしててな
連絡無しで帰ってこなかったのは始めてらしいんだよ」
(まぁ、リルは謹慎中らしいし
マリアさんは携帯もってないから連絡が取れないし
紫音は携帯でないって言うんだから気にするわな
だけど、紫音に何かあったらリルがい動くだろうから
何を心配しているのか意味がわからんけどな?
だいたい昨日、露天風呂がどうとか混浴がどうとか言ってたから
マリアさんと2人で、ホテルか温泉にでもしけこんでいるんだろうし
まぁ、そんな事を鈴には言えないし
他に面白いことを見つけたのかもしれんし
まぁそのうちひょっこり帰ってくるだろうし
ほんと鈴の心配性にも限度があるだろ)
「え?彼に妹がいたの?」
「ん?・・・・・そうかアリスも知らなかったんだよな」
鉄雄は学園の校門の方を指差し
「あそこに居る、ちっさい青い髪のデカリボンを知ってるか?」
「三千風鈴でしょ?あの生徒会長に喧嘩を売った?
中等部の2・3年で彼女を知らない人間は居ないとおもうわよ
それに、四条さんや、桜ティオーノ
あと、あの小早川とも一緒にいるのだから、有名人でしょ
それで、彼女がどうかしたの?
彼女があの変態の妹とか言わないでよ
それとも、手をつないでいる、小等部の女の子が妹なのかしら?」
「そっちは、俺の妹だ」
「は?」
あまりの驚きにアリスの兜は高速で鉄雄の顔に振り向く
「そして、おさっしの通り、あの三千風鈴が、紫音の妹だ」
アリスの兜は、またもや高速で、校門に向かって歩く小さな少女に向く
「はぁぁぁっぁぁぁ~~~~~~~?」
アリスの驚きの声は、周りに居た人間をも驚かした
鉄雄は胡桃・鈴との距離が開くと
思考が停止しているアリスの肩を軽くたたき現実に戻すと
そろそろ行くぞ!と促すのだった
鉄雄は中等部本校舎に近づくまで少し話をする
昨日の晩御飯をどうするか鈴は紫音に電話したらしい
アリスには、言わなかったが、マリアの御飯の事も含め
どうするか聞きたかったらしい
だが、その電話は電波が悪いか電源がオフの為繋がらなかったと
その時は気にもしなかったが、夜の9時を過ぎても
一向に繋がらない、こんなことは初めてらしい
今まで紫音は、何かあれば事前に連絡をしてきたし
どんな状況でも、リルから連絡が有ったのだから
それが無いと言う事は、鈴を不安にさせていた
だが、そんな鉄雄の話もアリスの頭には半分も入ってこない
それは、あの三千風鈴が、あの変態の妹だったと言う衝撃的事実
アリスは鈴と直接話したことはないが
学園中等部の有名人の一人である彼女の事は知っている
知っていると言っても、噂されている事くらいであるが
人当たりの良い人物、相手が誰であろうと態度を変えないとか
そうでなくては、あの生徒会長に喧嘩は売れないだろう・・・
色々は噂はあるが、悪い噂は生徒会長関係以外では聞かない
それより何より、可愛いし愛らしい
自分がロリとは言わないが、可愛い子は可愛い
男子でも、女子でも、誰しもが彼女を一度は抱きしめたいと思うだろう
そんな三千風鈴の事はアリスの頭を一瞬よぎって通り過ぎた
それ以上に鉄雄の妹の事がアリスの頭をグルグルと巡っていた
小等部の制服、5年か?6年か?
アリスは小さい時から、妹が欲しかった
姉はもう要らないだから、妹が欲しかった
もしいたら可愛がって可愛がって可愛がるのにと
そして妄想を膨らます、それ程までに、妹が欲しかった
後ろ姿しか見てないけど
テツの妹なら可愛いことは決まっている
そして、その可愛い子から、アリスお姉ちゃんとか言われよう物ならと
いや・・オネエチャンッテ、ベツニ、テツと付き合ってるわけではないよ
でも、一緒に買い物とか行きたいな、あの子とお揃いの洋服(鎧)とか買ったりして
テツに
「お前ら姉妹の様に仲がいいな
いっそ本当に姉妹になってしまうか?」
とか、言われたら・・・・どうしよう
フルフェイスの兜の中で、顔を真っ赤にしながら
鉄雄の話を話半分で聞き流していた
アリスはこの日時間があれば人知れず、鉄雄の妹を検索していた
そんなアリスにデュエルを申し込む、バカが数人いたが
今日のアリスは手加減をする時間は無い
全ての相手を瞬殺するのだった
そんな日の放課後
アリスは中等部校舎の出口で足を止めた
悔しいことに朝見た天気予報はあたってしまったのだ
いや、予報より激しい雨であったのだ
「やばいわね・・・これだけ激しいと
この鎧ではきついかもだね・・
傘を持ってくれば良かったわ」
いや、アリスが望めば傘はあったのだ
雨で足を止めたアリスに、傘を譲ろうとするファン達は沢山いた
だがアリスは全てを断った
騎士であるアリスが、他人の傘を借りるわけにはいかない
傘を借りれば、貸した人間が雨に濡れると言う事だから・・・
それでなくても、半分以上の生徒が傘を持ってきてなくて
カバンを雨よけにしたり
器用に風魔法で頭上の雨を取り除いたり
布を硬化させ傘がわりに使ったりとしていたが
アリスにはその行為は自身の信念に反する行為だと移る
だからしない!
根本的にそんな魔法はデバイスに登録してないから出来ないのだが
出来てもしない!
ならば、バスの時間に合わせて、ここから走っていくか?
その姿は想像するだけで無様である
ならしない!
色々と考えを巡らしていたアリスに声をかける人間がいた
「アリス傘がないのか?これ使うか?」
アリスを呼び捨てにする人間は数少ない
普段なら呼び捨てにされた時点で、いやその声だけで
相手が誰なのか気が付くアリスなのだが
すでに何人にも声をかけられていたアリスは
反射的に、その申し出を断ろうとした
「お心遣い感謝しますが、それだと貴方が・・・って、テツか」
「ん?俺だと何かまずいのか?」
「いえ、それだとテツが濡れるでしょ?」
「教室に戻れば、紫音の置傘があるから、これ使えば?」
差し出される傘を受け取ると
「ありがとう、ならお礼とは言えませんが教室までお供させてください」
「物好きだなアリスも」
鉄雄の居るクズクラスの下駄箱は旧校舎にある
なので、本校舎の下駄箱の端に設置されている来客用や緊急用
または、先生や高等部の生徒が使えるように設置されているスリッパに履き替える
これは誰でも使っていい物でもある
2人は軽い会話をしながら旧校舎に向かうが
アリスは鉄雄の妹の事をどう聞き出そうかと言葉を選び
鉄雄に悟られないように、普通に会話をする
中等部本校舎を抜け、学科塔も半分は抜けたそんな時である
鉄雄の携帯が鳴る
「もしもし、丁度よかった聞きたいことがあったんだ」
「あぁ紫音が昨日から行方不明なんだが、どこにいるか知らないか?」
「やっぱり知ってるのかよ、後でいいから、鈴に教えてやってくれ
かなり心配してたんでな」
「だろ、ブラコンにもまいったもんだ
あの変態は殺しても死なないのにな
それで用事は?」
・・・・・・・・・・
「わかった、電話してみるよ」
鉄雄は電話を切ると
「悪いな、急用で一箇所電話を掛けさしてくれ」
アリスは、無言で頷く
「やぁこんにちは、今7:3メガネから電話があったんだけど」
「あぁ・・・・・・うん・・・・・・」
「帰って用意してだと2時間後くらいだろうな」
「ありがとう、ミカさん、それでは後で」
電話を切る鉄雄に・・・
「テツ!」
「あぁわるいな、急ぎのようだったんでな」
「ミカさんて、だれ?」
その言葉に掛かる重圧は、普通の人間なら押しつぶされそうではあったが
そのプレッシャーを、すでに数日前に体験していた鉄雄にとって
慣れたもんであるが
この質問の返答には困るのだ
本当の事を言うか?ティオーノ先輩の部下?嘘くさいだろ
なら、初体験の相手?それこそ言えないが・・・・
まぁ普通に答えるわな
「ちょっと知り合いに、ケンカの助っ人を頼まれたからな
それの移動を、ミカさんって人にお願いしただけだ」
「そう・・・・なら私も行きますね」
「あぁ、先輩の知り合いってだけで・・・・・?
なんて言った?」
「そのケンカ私も行くって言ったの」
「まて!マジでまて、毎度毎度人のケンカに乱入しやがって
今回はなんと言われようとも連れて行かないからな」
アリスは、右手を胸に置き
「それでは、誰がテツを守るのですか
それにカンカをしに行く訳ではないですから
仲裁をしにくんですよ」
「いやダメだろ、だいたいケンカって言っても・・・あれだし・・・」
「いえ、もう決めましたから」
あちゃぁぁ・・・・ケンカって言わなきゃよかった
アリスは、言いだしたら頑固だからな、意地でもついてくる気だ
今まで何回、俺のケンカについてきて、俺以上に暴れまわった事か
おかげで、ゴネレバ連れて行ってもらえると思ってるからタチが悪い
でも今回は、面倒な話しだし
井門のおっさんや、ティオーノ先輩絡みだからな・・・
先輩はまだ、学園にいるかな・・・
鉄雄は念話で、居るか居ないか分からない相手に話しかける
『ティオーノ先輩?いるかい?』
『ん?宮守か?』
それは、丁度帰り支度をしていた蓮に届くのだった
『よかった、まだいた、ちょっと相談なんだが
友達に話し聞かれてさ
そいつが付いてくるって言って、俺の話を聞いてくれないんだ』
『あぁ、井門の依頼の話か・・・・
そいつは、シオンと仲がいいのか?』
『あぁクズクラス以外の数少ない友達だろうな
紫音のスキル事も知ってるしな
先輩も知ってると思うが、名前は【アリス】
漆黒のフルプレートアーマーの騎士だ』
『あぁ、噂は聞いてる
面白そうだから連れてこい、後々シオンにバレても
先に謝っちまえば、アイツは
「ま、いっか、きにするな」って言うだろうから』
『だな、それじゃぁ後で』
『おう』
「アリス・・・」
「何?なんと言おうと付いて行くわよ」
「付いて来るのはいいが
条件がある」
「何?」
「一回家に帰って、それなりの準備をしろ
まずは変装してくれ身元が分かるような格好は無しだ
それでなくても、アリスの鎧は目立つんだからな
あと秘密厳守と、死にたくなければ本気装備で」
「テツ・・・貴方何とケンカする気?」
「さぁ?知らね」
笑いながら答える鉄雄
「知らないって?どういう事よ」
「さぁ、詳細は集まってからだしな
覚悟がないなら来なきゃいい
だいたいアリスが来ても役にたたないだろうしな」
役に立たない?????
私が今までテツのケンカを何回仲裁してあげたと思ってるのよ
それに、相手が達人級でもない限りテツ1人くらい守り通してあげるわよ
「わかったわ、そこまで言うなら条件を呑むわ
帰って準備をしてそれからどうすればいいの?」
「そうだな、今から2時間だと、6時すぎ位に電話して迎えにいくよ」
「そう、なら準備に時間かかると悪いので先に帰らしてもらうわ
もし置いて行こうものなら、そのリーゼント潰すわよ」
「ハイハイ・・くれぐれも、身元が分かるような格好はするなよ」
鉄雄は遠まわしに、いつもの鎧で来るなと念を押すのだった
鉄雄はアリスと別れ、紫音の置傘で家路に急ぐ
アリスも家に帰ると、自室に引きこもり・・・
なんで、あんなこと言ったのよ・・
それに、やっぱり私って足でまといなんだろうか
結局何の役にも立っていなかったのかな・・
どうしよう、もし付いて行って何の役にたたなかったら・・・
でも私の出来ることって守る事だけだし・・
薄暗い部屋の中で、一人落ち込んでいくが
約束の時間までは残り少ないく
装飾の少ない黒い鎧を着込む
これは訓練用の鎧であるが、本気で組手をするため
普段のレプリカの鎧より防御力は高いが、その反面すこし重い
そして、変装と言うほどではないが
父親が着ている、大きめの黒のジャージを着込む
左の太ももには、昇龍の刺繍があり
パーカー付きの上着の背中には2人の天使の刺繍が入っていた
そして、押入れに陳列された盾から
どこにでもある様な長方形に近い盾を選ぶ
そして、自身のメインの武器ではなく
使い勝手の良い西洋剣を手にする
元々は、正式な騎士剣であったが
数百年の時を越えて、その刃は潰れ寿命が来たため
祖父の家の倉庫に仕舞こんでいた、この剣を見つけたアリスは
祖父に頼み込み、譲り受け
訓練用にその西洋の騎士剣を愛用していた
アリスの準備が終わるのを待っていたかのように
鉄雄からの電話があり
アリスは意味不明に、マンションの屋上に呼び出された
迎えにくるって言ってたけど
なんで屋上?まさかヘリコプター?ありえないでしょ
そんな事を考えながら、屋上に上がると
2人の人影を目にする
1人は、黒い特攻服を着た男
いつもの様に、幅広のズボンに、リーゼント
それだけで鉄雄だと解るが、いつもと違うのは
上着の特攻服の丈は脇腹が見えそうなほど短く
背中には一文字【蹴】と大きく書かれていた
そして、鉄雄と楽しそうに話しをしている女性
無造作にされた髪型
多少・・・多少・・大きい胸・・だが
力みのない姿勢、多少だらしなく見えるが
アリスは、その女性に異質な力を感じとり
兜の中で額に一筋の汗を流す
「アリスか?なんだその派手なジャージは?」
「テツが変装しろっていうから
父親のジャージを借りたんだけど?・・・ヘン?」
変だろ?どんなヤンキーオヤジなんだよ
・・・それ以前に、アリスってセンスがねえのかよ
そういや、こいつ私服も鎧だったよな・・
鉄雄は左手で頭を抱え空を仰ぐと・・・
全てを諦めたのだった
「いや、完璧な変装だ、恐れ入ったよ」
「ふふ、任せて!」
ヤッタ!テツに褒められた!
「アリス先に言っとくが、秘密厳守他言無用だからな」
「わかってるわよ
何回言うのよ!たかがケンカでしょ?」
「はぁ・・・ミカさんよろしく」
「ほほい、いくよー」
「な!」
目の前がくらむ
一瞬であるが、アリスは立ち眩み寸前で、足を踏ん張る
いや、そこには踏ん張る地面もない、全ての感覚が不安定になった瞬間
目の前の景色は変わっていた
1秒前まで、アリスの家が入っているマンションの屋上に居たはずなのに
今は緑に囲まれた山の中、そして目の前には平屋の古い一軒家が現れたのだ
?????
「びっくりしただろ、空間転移、まぁワープだわな」
「え?・・・・・・・・・」
「内緒だからな」
内緒って・・・・嘘でしょ・・ありえないでしょ・・・・・空間転移って?
どういうことよ・・・・
「紫音いわく、考えるだけ無駄だぞ!らしい
中に入るぞ」
促されまま、建物に入ると
外見からは、ありえない室内が現れた
築100年は超えていそうな外見なのだが
中はまるで、最近のオシャレな室内
まるで、住宅メーカーの住宅展示場の一室の様な風景が広がっていた
すごい・・・そんな言葉が口から漏れた
「おう、来たか」
「レ・・・・蓮・・・・ティオーノ先輩?!」
鉄雄は軽く手を上げ挨拶をすると
そのまま台所の冷蔵庫を開けコーラを取り出す
この家に初めて来たのは数日前だが
わがままし放題の鉄雄、この男遠慮という言葉を知らない
そして状況に付いてこれないアリスに
「アリス何か飲むか?」
無言で首を振るアリス
そのまま、リビングに入った場所で直立不動のまま動きをとめるのだった
そんな事など、気にするでもなく
ミカはソファーの定位置に倒れこみ、TVの電源を入れる
蓮は動きを止めたアリスを見て、一度鼻で笑い視線を目の前のノートPCに戻す
鉄雄はアリスに座るように促し
軽く紹介していくのだった
アリスの緊張も解けた頃
リビングに転移してくる2人の人物
1人はどこかのサラリーマン風のメガネを掛けた男と
もう1人は、秘書風のメガネ美人
「すいませんね、少し遅れました」
「あぁ、ちょうどいい暇潰しがあったから、かまわん」
井門は蓮の言葉を聞き
その暇つぶしの言葉の先に、1人の存在に気が付く
そして初対面の人物に視線を向けると
「初めまして、確か【アリス・イングラム】さんですね
私、【井門端相談所】の所長の井門と申します
相談所と言いましたが、裏を返せば何でも屋ですし
所長といっても、私一人の小さな会社なので
気兼ねなくお願いします
また御用のさいは、何でも言ってください」
簡単な挨拶と共に名刺を渡す井門であった
井門は1年と少し前、仕事を辞め独立し今は請負や下請けとして
以前の仕事を続けていた
それは、以前の親会社の下では出来ない仕事が多く
隠れてしていたのだが、だんだんバカらしくなり
独立して、大手を振って好き勝手しだしたのだ
ただ、広げすぎて、信じられないほど忙しかった
「少し確認なのですが
イングラムさんが、ここに居ると言うことは
今回の件に参加すると考えていいのでしょうか?」
「アリスと呼んでもらって構いません
そして、ケンカだと聞いてますが?
なんであろうと、友人を守るのは
騎士の家系に生まれた私の役目です」
『悪い井門さん、アリスの奴頭固くて
一度言い出すと、人の話を聞かないんだよ』
『ええ、そのようですね、さすがは紫音さんの友人と言ったとこでしょう』
軽く念話で謝る鉄雄だが
それほど気にもしない井門である
「では、質問ですが
貴方は人を、人間を殺す覚悟はありますか?」
その言葉にアリスは怒りを覚え
拳を握り声を荒らげ
「あるわけがない!
相手が誰であろうと、どんな悪人だろうと
私は殺さないし殺させない!
そして、守ると決めた人間を守る為ならば
この命に代えても守ってみせる」
蓮と鉄雄は心で「おお~~~」声を上げ
その揺るがない信念に声援を送るが
井門の考えは違う
「矛盾してますね・・・
人の命は守る、ですが騎士道精神で
主を守るためなら自身は死んでもいいと?
それに、先ほどの言葉は
自分1人守れない人間が言っていい言葉では無いですね
残念ですが・・いや恵まれてたのでしょう
本当の人間の死に目に遭ったことが無いのでしょね」
アリスは一度口を開け
声が出ないまま・・口をつぐみ歯を噛み締める・・・
目の前の男の言っていることは正論であった
この平和な現代において、人の生死を掛けた争いなど有りはしない
それが、どんなに恵まれている事かは
アリス自身が一番理解していた事実である
そして、その平和な時代で私にできることは
些細なケンカの仲裁くらでしかない
そう、弱い自分に出来ることは少ない
人のケンカに首を突っ込み勝手に仲裁する
そんな小物じみた事で、無理やり自己満足をするしかなかった
目の前のメガネの男の言うとおり
生死の掛かったケンカも試合もした事は無い
一生、そんな生死を掛けた争に自分が加わることは無いと分かっていた
安全な社会の秩序に守られているからこそ
殺させないとも、殺さないとも、口から出た言葉であって
理想でしかない、その言葉が嘘であると
自分が一番良く知っているからこそ
薄っぺらい心を覗かれたようで
返す言葉も浮かばず
悔しくて
恥ずかしく
情けなくて
アリスの瞳から何かが溢れ出す
そして・・・・アリスは
騎士として
願ってはイケない事を願ってしまう
今の世の中が、平和ではなかったら
人の命がやり取りされる時代だったなら
そんな世の中に成ってしまえばいいと・・・
そんな世界なら騎士として私は、何かが出来るだろう
弱い私に出来る事は少ないだろうが
それでも、この世界に居るよりも何かが出来ただろう
なぜ・・・
私はこの世界に・・・
この争いの無い平和な時代に・・・
生まれてきたんだ・・・
アリスの流す涙は
何に対しての涙なのか
それは本人にも分からない
ただアリスは、人知れず兜の中で涙を流す
まるで置物の様に動きを止めた鎧がある
そんな鎧に話しかける、メガネの男
「返事が無いと言うことは
何か思うところがあるのでしょう
まぁ、他の方みたいに表情を変える事なく
人殺しをするよりはマシですね
私的にはギリギリ合格でしょうか?」
合格?
その言葉で、アリスの視線は目の前の男に動く
井「蓮さん、鉄雄さんは?」
蓮はソファーに深く腰をかけたまま一言
蓮「かまわん」
鉄雄は諦め顔で一言
鉄「好きにしてくれ」
井「では、みなさんの許可が下りましたので
アリスさんにも参加してもらいます
それでは、先にアリスさんには契約してもらいたい事が幾つかあります
念書も無い簡単な口約束の契約ですが、絶対厳守でおねがいします」
ア「それは、テツとも約束しましたが・・」
井「それは、ただの約束でしょう
私が行うのは、契約です、口約束でありますが
もしそれを破るようであれば、それなりの処分をさせてもらいます
貴方と同じように、私にも守りたいものが在ります
ただアリスさん、貴方と違う所は
その為なら、人を殺す覚悟が有ると言うことです
貴方を殺す訳ではありませんが
たぶん此処に来た手段は、ミカさんの空間転移でしょう
このように、貴方が知りえないスキルを使う存在は
まだ沢山います、その存在の中に
記憶の改ざんを得意とする存在もいます
もし、ですが、私達を裏切る行為をした場合
貴方の記憶から私達の存在に対する記憶を改ざんさせてもらいます
そして、2度と私達に近づかないように記憶に埋め込ましてもらいます」
ア「そんな事が・・」
アリスは驚きとともに、鉄雄の顔に視線を移すと
それに気がついた鉄雄は
鉄「まぁ、記憶操作ができる奴はいるからな
それに井門さんは本当にそれを実行する
辞めるなら、今だぞ」
ア「一度言ったことを変える気はないわよ
井門さん条件を教えて」
井「今回の事は他言無用で
そして、アリスさんの信念を、不殺、殺さずの信念を捨ててください」
ア「なんでですか!」
井「簡単な話です、その不殺の信念を貫くだけの強さも力も持っていないからです
もし、貴方が今回見逃した人物から、貴方の身元割れ報復の為
貴方の家族・友人・知り合いが傷つくことがあった場合
貴方は、見逃したその判断を胸を張って声に出して言えますか?」
ア「・・・・・・」
井「そして、貴方に何かあった場合
何の力もない貴方には何もできないでしょう
最終的に対処するのは、私達になるのです」
ア「それは・・・テツや、蓮先輩も一緒ではないのですか?」
井「・・・・それは逆ですね
こちらの4人に覚悟などと言う物は微塵もありませんよ
私の主と同じく、楽しければ、それでいいという
常識ハズレの人達ですから
ある意味、みなさんの暴走を止めるために私がいるのですよ」
蓮「いやいや、アレに比べたら、俺なんて常識人だぞ」
鉄「一緒にするなよ
ティオーノ先輩もアイツも、人間じゃぁねえ」
井「私に言わせれば、一緒ですよ
アリスさん、頭に入れておいてください彼等は特別なんです
今回彼等についていけば、その意味が分かると思いますが
貴方は別です、彼等が今回死んでも私も私の主も気にもしませんが」
鉄「気にしろよ!」
井「鉄雄さん、気にして欲しければ、少しは作戦予定通り動いてください
毎度毎度、無駄に危険地帯に飛び込んでいくんですから
そんなに好き勝手して、死んでも私の責任ではありませんので」
鉄「井門さんの作戦は、大雑把すぎるんだよ」
井「そうですか?鉄雄さんには、散々作戦を無視されましたから
細かく指示するのはもう止めましたが
それでも勝手に動くんですから
私の身にもなってください」
メガネの奥で、反省をしないリーゼントを睨むが
どうせ無駄だと視線をアリスにもどす
井「すいません、話を戻します
アリスさん、貴方に何かあれば
勝手に作戦に参加させた私が怒られますので
今回は自粛してください
後は、どんな事が有ろうと味方である彼等の邪魔をしない事くらいですね
ミカさんに、アリスさんの護衛に付いてもらう予定ですが
ミカさんが邪魔だと判断した時点で空間転移で強制退場してください」
ミ「わかったぁー」
ア「私に護衛なんて要りません
達人相手でも、そう簡単に負けない自信はありますよ」
騎士である自分が守られる訳には行かないと
強くでるアリスだったが
井「その判断もミカさんに任せます
私では、強さの見極めはできませんので」
ア「・・・・・・・・」
蓮「井門よ、そのへんでいいだろ
邪魔だったら、すぐ出て行ってもらうから
それより、時間はいいのか?急ぎだったんだろ」
井「ですね、多少の余裕はあったんですが
思いの他、時間を取られましたね
彼女の事は皆さんにお任せします
では、本題に入らせてもらいます」
井門は一度、メガネの位置を修正すると
持ってきていた、ノートPCを開く
アリスの動向の話しに飽きてきた蓮は話を無理やり終わらせ
今回の話しを進めるのだった
井「それでは、今回の作戦ですが
先に成功報酬をお伝えします
完全成功の場合3億、その場合予定では
蓮・ミーティア・ミカ組に1億
鉄雄・アリス組に1億
私が1億と、細々とした計算は全てが終わった後となりますが
よろしいですか?」
蓮「あぁ任せた」
鉄「今回は太っ腹だな井門さん」
ア「さ・・・3億?どういう事?何をする気なの貴方たち!」
蓮「オイ!一々うるさいぞ、イングラム
もうお前に裂く時間は、もうないと思え」
蓮の静かな言葉に、さすがにアリスも口を紡ぐ
蓮の噂も、色々きいているが、蓮の強さをその目で見たことのないアリスは
その噂の全てを信じているわけでもなかった
ただ、3年のクズクラスのボス的存在である彼を怒らすのはヤバイと感じていた
井「では作戦の依頼内容ですが、人物の救出となります
今の情報では、女性が2人と男性が1人
未確認ですが数名増える可能性があります
すでに彼女達は拉致されてから3日は経っていると思われます
また、完全成功の条件は、救出対象の無事救出
これには、女性2人の持ち物や衣類に関して全ての所持品の回収も含まれます
また最低条件として、救出対象が死んでいた場合
3人の死体の回収、欠損部分は出来るだけ少なくお願いします
そして、絶対条件として女性2人の衣類の回収
もし破かれたり切られたりし、破損部分が全て回収ができない場合
証拠隠滅として焼却また、その場合
ミーティアに渡してある新しい服にきせかえてもらい
古い衣服は、人目につかないように回収してもらいます」
ア「し・・・死体の回収って・・・・」
ミ「うるさい!
先程、レン様が言っただろ
それ以上邪魔するなら、今すぐ殺すよ」
ミカの一声に
全身に身の毛もよだつ寒気をかんじたアリス
今まで生きてきて初めて感じるほどの威圧
アリスの師ですら、ここまでの殺気を操る事はできない
その恐ろしさに意識が飛びそうになり
背筋に嫌な汗をかきながら、あの女性を怒らしたら
いや、力関係は、蓮先輩の方が上?・・上なのか?
彼等を怒らすと、自分は終わると、震える心に刻む
蓮「ミカ、後にしろ時間がもったいない」
蓮の言葉に、ミカは静かに一歩引く
井「基本の依頼内容は終わりです
次に皆さんに与えられた制限時間ですが
予想で申し訳ありませんが今夜0時
それを過ぎた場合、他組織の介入の可能性があります
そうなった場合、救出作戦は失敗
その時の状況に応じて、作戦内容を変更させていただきます」
井門は一度言葉を止め、蓮と鉄雄の顔を確認し
PCを使い、空中にディスプレイを浮き上がらせ
元造船所の見取り図を浮き上がらせる
井「場所は千葉県の造船所
去年廃業した造船所工場跡地
100メートル級の船の造船所なので
その敷地は建物全体を含めば
かなり広い場所となります
周りは24時間稼働する工場が多数在り
多少大きな音がしても不自然では無い場所です
開けた場所と、高い建物がある為
射線が通り屋外ではライフルでの狙撃の可能性もあります
そして、今回の救出する人物を拘束する組織でありますが
詳しい詳細は省きますが
私が把握しているだけで、その組織の人間が約20
元アメリカ軍人、及び、アメリカ系傭兵が100と少し」
空中に映し出された見取り図を指差し説明を続ける
井「侵入経路は大きく3つ
建物東は、造船施設の巨大施設と海に繋がっています
ここからの侵入は無理と言う前に
考えられて無い様で危険度は、かなり低いと思われます
よって、建物正面南側、大きく開けた場所な為、危険度は一番高め
次に建物裏手北側、危険度中
最後に建物西側は入り組んだ場所となるため、移動が難しいですが
危険度は低めだとおもいます
作戦としては
ミーティアは周辺の索敵と監視です
場所が入り組み、近場に一般人もいる為
ミカと2人での監視予定でしたが
ミカは護衛に付いてもらう予定なので
大変でしょうが1人でお願いします
蓮は単独での行動
鉄雄はアリス、ミカと合同
メインは鉄雄、アリスは自身の身の安全を最優先で
ミカは姿を消して、アリスの護衛
行動開始は、今から約30分後20時
質問はありますか?」
蓮は、地図のある場所を指差し
蓮「俺は此処から、こう行く」
それを見た鉄雄は、一番いい場所をとられたと思うが
一緒に行かないといけなくなった人物の事を考えると
鉄「アリスが居るからな、俺はどこから行くか・・」
そんな会話を他所に
アリスは肘を曲げ小さく手をあげる
ミカの視線の中、下手に声を出そうものなら
その場で、何をされるか分からず
小さく手をあげてみたアリス
井「アリスさん、なんでしょか?」
ア「わ・・私は・・・いえ
そこまで情報が有ると言うことは
もしかして、救出対象の人間が何処にいるか知ってるの?」
井「はい、9割近い確率でなら、その位置は特定できています」
ア「なら、ここに来た時みたいに
空間転移ってやつで、すぐに救出したら
私は、守る対象を最優先して救出すればと思うのだけど」
鉄「オイオイ、アリス
それだと、面白くないだろ?」
蓮「あぁ、楽しくもないな
ただ単に救出すればいいなら
このミカでも、ミーティアでも単身で、それも数分で終わる話しだ
俺や宮守に話が来た時点で
そう、せざる得ない事情が有ると言う事だが
それすらも理解出来てないのか?
この鎧女は無能か?」
鉄「そう言うなよ、ティオーノ先輩
一般人のアリスから見れば
今回の仕事は別世界の話しだろうからな」
蓮「まぁいい、俺は自分の準備をする」
蓮にしてみれば、面白そうな足手まといが増えただけで
自分の邪魔さえしなければ、どうでも良いと
自身の準備に動き出す
井「そういう事です、アリスさん
いつもの事なので内容を省きましたが
敵戦力の殲滅や、相手中心人物の拘束は当たり前の事なんですよ
今回は、私の主が不在なので
蓮さんや鉄雄さんの力を借りることにしました
またもし救出のみをした場合
身元が割れている人物は、再度誘拐拉致されるでしょう
また逃げるにも、その人物の家族に被害が出ないと言えない状態なのです
小さな危険や事後処理、後の安全も含めての依頼なんですよ
だからこそ3億という破格の金額なのです」
ア「それは、権力者?十士族?の関係者ということ?」
井「いえ、彼女達は一般人ですが
彼女達の持っているであろう情報を考えれば
3億でも安いと言う事です
それに拉致から時間が立ちすぎてます
ですから、急ぎの依頼となったわけです」
アリスにとって、守ることが最優先であった
それは戦いにおいて、先頭に立ち背後にいる味方を守ることこそが
騎士の努めだと考えていた、それでいいと思っていた
だが、守り救出した後の事までも視野に入れ動く存在をしり
今その考えに、その信念に小さなヒビが入ろうとしていた
鉄「そうだ、井門さん、紫音と連絡ついたのか?」
井「イエ、ですがこちらの状況は知っているはずなので
あちらが動ける様になり次第、合流予定です
鈴さんの方にも、予定ではありますが
午前3時までには、帰らせますと伝えてあります」
鉄「そうか、なら淋しくないように胡桃にでも遊びに行かすかな」
鉄雄は携帯を取り出し、妹に電話をするのだった




