5話 リーゼントで語る男
「さて、宮守!庭にでろ」
「はいはい、わかってるよティオーノ先輩」
鉄雄は具足、そして篭手を装備し、軽く体を動かし準備を整えていく
蓮も軽く体をほぐすが、装備は無い
「あれ先輩?木刀は?」
「俺も本来は、素手だ、このままでいい」
「まぁ、どっちでも変わんないけどな」
そんな事どうでもいいやと
サングラスを掛け直し、体を動かす鉄雄
そんな態度すらも、イラついてくる蓮であった
「さぁ、いくぞ宮守」
実に1年ぶりとなる、2度目の対戦である
前回は、決着が着く前に終わったが
完全に蓮が圧勝していたのだが
今回は勝手が違う
前回のように、左右前後に殆ど動けない場所でない
広い庭、その全部を使えるのだ
それに、すでに侍と蓮が戦っている所を見て動きは確認している
鉄雄は勝ちを確信する
「さて、スマートに勝って、ミカさんにカッコイイ所をみせないとな」
そういって、ミカに手を振る
ノリの良いミカは、手を振り返すのだった
鉄雄のやる気は、どんどん上がっていく
蓮の苛立ちも、どんどん上がっていく
「よっしゃぁぁーーーー」
叫ぶと同時に、蓮に襲いかかる鉄雄
鉄雄の右足での連続蹴り
速さで上回る蓮は、その全てを、拳で迎撃する
踊るように両足で舞を披露する鉄雄に対し
足を止め、目の前で繰り広げられる、鉄雄の蹴りに対処するが
大ぶりの回し蹴り、蓮は難なく躱すが
鉄雄のそれは、体を軸にし回転しながら連続で蓮を襲う
蓮は3度目の蹴りを、その拳で迎撃するため殴り付けるのだが
太いズボンで、隠した鉄雄の足の軌道は隠され
蓮の拳は空を切る
そして、鉄雄のズボンが通り過ぎた場所に鉄雄の姿は無く
いきなり蓮の背中に軽い衝撃が走る
振り向くと
「1ポイント!」
声を上げ、指を一本立て、ミカにアピールをする鉄雄の姿がそこにあった
「宮守!次だ!」
今度は蓮から、仕掛ける
当てればポイントなるなら、空手ではなく
ボクシングスタイル、小さく構え、フットワークと早いジャブで攻撃に移る
だが、鉄雄に、ジャブ数発を裁かれると
鉄雄の死角に出ようと鉄雄の横にまわると
そこには鉄雄の変則の蹴りが在った
それは、偶然にも構えを取った蓮の腕にあたり防御される
いや、わざと当てた、威力も無い軽い蹴りを
その威力も何もない蹴りは、より蓮を苛立たせる
鉄雄にしてみれば、蓮が苛立つほど、動きや攻撃は単調になる
それが、蓮が冷静せを装って、単調にならない様にすればする程
動きの選択肢が狭まっていってる事を鉄雄は理解していた
蓮はボクシングスタイルをやめ
慣れ親しんだ、普段の空手に似た型で攻撃に移る
鉄雄は、左右にフラつきながら、蓮の攻撃を捌いていく
そして、おおきく、蓮の周りを攻撃しながら移動する
それは、蓮の死角に潜り込むようにだが
蓮も対応していく、目の前で、右に左に動く鉄雄にたいして
すでに数分の攻防を交わしてくのだったが
一瞬の出来事であった
自身の右方向に移動した鉄雄を追うように
右手を大きく右に振り、その反動で右を向くが!
そこには飛んでくる、鉄雄の足
右腕は間に合わない、左手で弾く蓮
だが、地面につけた手で体支え
その体を真横にし、同時に繰り出された、もう一つの足が
蓮の脇腹にめり込む
そして、倒れるように、地面に転がる鉄雄は
ブレイクダンスの様に地面で回転し、ポーズを決める
「2ポイント!」
その言葉に、蓮は拳を握り
「なぜだ、なぜ見失う、10倍の意思加速ですら、追いつけない
宮守、お前は何をヤっているんだ」
起き上がった鉄雄は
両手を翻し、呆れたように答える
「いたって普通の事だろ?
緩急を使ったフェイント、動きの誘導、死角からの攻撃
やり方は違うが、根本は、あの侍と一緒だ、万倍に意思加速しようが
その意識、意思、視界が操作され、騙されているんだ対応は出来ないさ
そうだな先輩、意思加速を最大までしてみてもいいよ
結果は変わらないからな」
普段、鉄雄の組手の相手は紫音なのだ
元から、お山の大将だった鉄雄にとって
前世の記憶が戻った紫音に負けた事は
鉄雄にとって、大きな衝撃的事件である
それからだ、数万倍に加速された紫音を相手に
あらゆる方法を考え、試してきた鉄雄
そして、今では、同じ条件下なら
数万倍に加速された紫音であろうと、引けを取らない
意思加速にその戦い方を頼る蓮に負けるはずがないのだ
「最後だ、ティオーノ先輩
今言った意味を、理解しろ
そして、一瞬で終わらしてやる」
鉄雄はゆっくりと、蓮にむかって歩く
そして、鉄雄の攻撃圏内に蓮が入る瞬間
鉄雄は腰を捻り肩を入れる
蓮は鉄雄の歩く姿から、リズムが変わった瞬間
100倍近くまで、その意識を加速させ
鉄雄の蹴りの機動を脳裏に浮かべ、それを弾くため左手を動かす
どれだけ意識を加速しようとも
この世界の肉体を持つ蓮では、その肉体の加速は4倍程度である
それ以上の酷使は肉体を極度に傷めるのだ
だが、鉄雄の蹴りは無い、その行動はフェイントであり
鉄雄は、それに引っかかり、腕を動かしたのだ
それに気がつく蓮、加速された腕を無理やり止めるが
その反動は身体全体に伝わり、刹那の時間だが硬直させる
その視界の中、鉄雄が、蓮の視界にある左腕に隠れる様に
体をずらして行くのが見て取れた
100倍の意思加速の中その動きは、スローモーションであり
蓮の意識は、その動きに釣られて徐々に左に移っていく
その鉄雄の動きに集中することにより、視野角が狭まり
意思加速であっても、その思考は徐々に遅れ出す
そして、鉄雄が左に動いたと、その脳は錯覚してしまうのだ
そう、蓮の意識は左へと
そして、視野が狭くなった、視界の片隅で
鉄雄が速度を上げて逆方向に移動していくのに気がつかなかったのだ
鉄雄は、サングラスの奥で、蓮の瞳を常に確認していた
それも、顔の向きは他所を向き
視線を悟られないために
外からは色が濃くみえるサングラスを付ける念の入れ方だ
鉄雄は軽く、肩を入れ、フェイントを掛ける
これは、さきほど戦った中で見せた数発の蹴りの初動と同じものである
それを何度も見せることで、蓮の脳裏に刻み付けていたのだ
そのフェイントに、引っかかり左腕を数倍の加速で動かす蓮の姿を確認すると
その瞳が身体がブレる、それが、加速させた腕を無理やり止めた事を理解する
昔、シオンが同じ反応をしていた事から、その動きの意味を知っていたのだ
そして、上半身を2倍程度の肉体加速をつかって
瞬間的に蓮の左腕の死角に飛び込む
だが、下半身は3倍程度の肉体加速で左に飛ぶのだった
その間も、常に蓮の瞳から目を離さない鉄雄
蓮の瞳孔が僅かだが絞られ、左に流れていくのを確認すると
蓮の背後へと回るのだった
そして、蓮の肩が叩かれる
振り向く蓮その頬に突き刺さる鉄雄の指
視界に映るは、舌をだし笑う鉄雄のすがたであった
そうして、鉄雄は、縁側で座るミカの元に走り
ミカの目の前で膝を突き、右手を差し出し
「デートよろしくお願いしまっす!!」
それを握り返すミカがいた
鉄雄は左手を突き上げ叫ぶのだった
「よっしゃぁぁぁーーーーーー」
「蓮、いっただろ、1000倍の加速でも見失うって」
「なぜだ?意思加速の視界の中から、突然消えたぞ
ありえないだろう?」
「・・・・視界・・・・・・・・」
「高峰が言うには、意思加速と、視界に頼りすぎ
その為、行動予測や、先読み、の力が弱いとの事です」
「かれも・・・3・・・・・」
「その彼も、高峰も意思加速は基本3倍程度だとの事
はじめに、意思加速10倍までと、言ったのも
制限を付けたことで、10倍の意思加速を意識的に使わさせ
後の先を、誘発させ、行動を制限させ
行動予測をしやすくしていたらしいです・・
私には、意味が分かりませんが」
「3倍?それでも、あの視界から消える動きは説明できないだろ?」
「・・・・」
「おい、ネタバラシは止めてくれや
ティオーノ先輩、それでいいのか?
相手の戦いかた技やスキルを、全て聞かないと戦えないとかか?
ハッ!ヘタレかよ」
「・・・・・・」
返す言葉が浮かばない蓮
そして、蓮にとって、初めて同年代の人間に負けた事となる
紫音と出会う前の蓮ならば
前世の魔王レイならば、その力を解放し
鉄雄ごと、ここ一帯を壊滅させたかもしれないが・・・
「ふふふ、はっはっはっはっは!!!
完敗だ!ああ、文句無しに、宮守、お前の勝ちだ!」
大いに笑う、手も足も出ず、一方的に負けたのだ、もう笑うしかなかった
それも、負けたから相手の技やスキルを教えろと
武人としての、誇りすら、忘れてしまっていたと
無様!まったくもって無様であったと
自分の情けなさに、自分の弱さに笑うしかなかったのだ
「まぁ、初めに提示した条件を鵜呑みにして
その条件下で戦った事が、敗因だろうけどな
だいたい攻撃魔法は禁止してたけど
他のスキルの使用を禁止してないだろ
俺はスキルを使ってたからな
頭を使って、それ以外の方法や、物事を考えれば
抜け道は、いっぱいあったんだ、それに気づいて
もしも、先輩から、スキルの使用を禁止されたなら
俺は手も足もでなんだろうしな
だいたい、ここにティオーノ先輩が居た事で
紫音の罠にハマったと、思ったから
その時点から、先輩と戦うために色々仕掛けてた訳だったし
スキルや、能力と言った言葉を使わないようにして
先輩の意識から、その事を浮かばないようにしてたんだ
そして昼飯の時、こっちの条件を飲んだ時点で
俺の勝ちは決まってたようなもんだ」
「ここに来た時点で戦いは始まってたって事か?」
「いや、先輩と戦うイメージは
1年前のあの日からしてたからな
それに、俺の前で、侍と戦ってくれたから
だいたいの動きは確認できたし
対処法も侍さんが見してくれたからな
あの時点で、ほぼ俺の勝ちは確定してたんだ」
鉄雄の言葉に、蓮は納得してしまうのだった
そして、全て終わったかかの様に思われたが
少し乱れた、リーゼントを整える鉄雄
だが、今ひとつ、キマらない・・・・
「あぁーーーーーん~~・・・侍さん、もう一回お願い出来ないか?
どうも、お茶を濁らせられた気がしてな
俺の性格的に白黒つけないと、気が済まなくてな」
その言葉に、静かに立ち上がりる高峰
だが、それに、待ったを掛ける蓮
「まて、その前に、もう一回相手しろ!」
「は?いやだって、俺は、侍とやりたいんだ」
鉄雄と蓮は言い合いを始めるが
その間に入って来て鉄雄の前に立ったのは
その手にナックルを付け、やる気まんまんの桜である
表情が歪む鉄雄
今ならまだ、その意思加速に頼る戦いをする
ティオーノ先輩相手なら負ける事はないだろうが
だが、桜ちゃんは別だ!
駆け引きが出来ない桜ちゃん
そして、そのパワーに全振りした様な能力値は
鉄雄にとって、天敵に近いものだ
あの侍も、先輩相手よりも、桜の方が戦いにくそうにしていた
そして、鉄雄自身には、侍が桜相手に使っていた合気道に近い技を持っていない
鉄雄の戦い方は蹴りのみである
「ハハハハハ・・・・・・」
後ろを向いて、いきなり走り出す鉄雄
追いかける桜
ため息混じりに、諦める蓮
紫音は、そんな鉄雄の姿を見て笑うと
「そうだ、ミカ、今週の撲殺少女録画してるか?」
ミカは、その言葉に、右腕をつき出し拳を握り親指を立て、ニヤリと笑う
「よっしゃ見ようぜ!」
ミカは、ソファーに座り
リビングのTVの電源を付け、HDDデッキを起動さる
紫音もソファーに腰を掛けると
トコトコと歩いてきた胡桃が
ミカと紫音の間に座り紫音の腕に捕まるのだった
そして、3人は今週の【撲殺少女いのり】第5話「標的は元都知事」を見るのだった
そして、鈴とミーティアは昼食の片付けをし
高峰はただジッと佇む
紫音達が、アニメを見終わった30分後
そこには、息を切らし、縁側に倒れる鉄雄
桜から逃げるため、この家の周りを30分近くも逃げ回り
体力の限界を超え、自慢のリーゼントが乱れまくった姿があった
こうなると、鉄雄は使い物にならず
マジの手合わせは、また次回という事となり
鈴・桜・ミカ・ミーティアは女子会を開き
紫音と蓮と鉄雄、そして何故か胡桃は、高峰に指導を受ける
ユーリは、通訳おわれるのだった
そして、夕方を迎え、ユーリと高峰は帰り支度を始める
そんな2人に鈴はお土産を渡すのだった
高峰には白米で作った、おにぎり、中身は鮭、コンブ、高菜と数種
ユーリには、お手製の、チーズケーキとアップルパイをホールで
「帰って、ギャルコレルさんや友達と、一緒に食べてください」と一言添えて
そして、ミカ・ミーティアと、蓮・桜、そして2人の両親に
切り分けた、チョコレートケーキとアップルパイをお土産として渡す
そして、紫音も、ユーリにギャルコレルに渡してくれと
綺麗にリッピングされた包を渡すのだった
高峰は鈴に一礼して、ユーリと共に転移していった
「俺らも帰るか」と、紫音の言葉で
紫音、鈴、鉄雄、胡桃は、ミーティアに転移してもらい
三千風家に帰るのだった
当たり前の様に、鉄雄はミカとデートの約束をし
連絡先を交換していたのだった
そこには、黒光りしビシッと極ったリーゼントがあった
紫音は思うのだった
なかなか面白かった
それにしても、鉄雄のやつが蓮に勝つとはな
一回鉄雄の持ってるスキルについて、詳しく聞いてみないと
ただのスキルで、勝てる訳無いしな
桜さんの、ナックル見て、何か言ってたし
鉄雄のやつも隠し事多いいな
まぁそのうちでいいか
後は、ユーリ達を付けて行ったリルの帰りを待ってから
蓮にチクってと・・・
そう、クスクス笑いながら、昨日買った生地にハサミを入れる
平和ボケした紫音であった
だが、この頃、世界では衝撃的大事件が起こっていた




