4話 おっぱい大好き鉄雄くん
蓮の「イケ!桜!」
桜は、その言葉で、右腕をクルクルと大きく回し
「いくよ~~~~~ん」と口ずさみ、前に進み出る
高峰は、相変わらず、右手に木刀を持ちだらりと下げていた
そんな高峰に飛び込んでいく桜
駆け引き?技?連携?そんな物はこの桜には関係ない
その拳には、紫音の作り上げたナックル
蓮に解禁された50%の力と、速度強化魔法をかけ
ただ、力いっぱい殴るだけである
高峰はその拳すら軽くいなすはずだったが
襲ってくる木刀の向きを変えるのに然程力はいらない
それでも相手が拳ならと多少の力を込めて、桜の拳、ナックルを狙う
蓮は、その行為に鼻で笑う
桜の力を舐めるな、俺や紫音の様に、速度特化では無いぞ
そのパワーに加減は無いぞと
そう、桜の拳に、高峰の木刀が押し負けるのだった
高峰は体を反らし、桜を躱し、攻撃体制を取るのだったが
ここで、蓮や紫音の相手なら、攻撃の仕草や、防御の構えをすれば
2人は、それに対応する行動を起こし
知らず知らず高峰の手の中で踊る事になるのだが
桜は違う、高峰の行動など気にもしない、攻撃あるのみである
繰り出す、拳、蹴りと、その一撃一撃は
速度は追いつかないまでも、蓮や紫音の攻撃力の比ではないが
その一撃が必殺の威力を持っている
だが、高峰も木刀を握る手に力を込め
桜の攻撃を弾き躱し、的確に桜の防具の上を攻撃するのだった
それでも、多少の攻撃で怯む桜でもない
この程度の攻撃は、蓮のシゴキに比べると、虫に刺された程度であるのだ
桜も、ただ攻撃している訳でもない、いや何も考えては居ない様な攻撃であっても
蓮から、桜は【拳聖】をも越えると言われているのだ
その本能で攻撃は、徐々に高峰の動きに追いついていく
高峰にとって、動きを誘導出来ない桜は戦いにくい相手でもあったが
そもそも、今の桜では、本来の自力が違いすぎるのだ
最初は、いい勝負をしていた桜だったが
それも、数分であった
それでも、桜の力技を完全に殺しきれない高峰は
その場を、大きく動くように、交わしていた
蓮と紫音、2人相手ですら、数歩動く程度だったのにだ
それほどに、桜の力は高峰にとっても驚異なのも確かであったが
女性である、桜に攻撃を仕掛ける事自体が
高峰にとって不利でしかなかったのだ
「さて、俺も入るぞ、シオン見とけ、連携というのを見してやる」
木刀を肩に担ぎ、立ち上がる蓮
そして、高峰と桜の戦いに乱入するのだった
すでに、2人掛りで許可を得ていたが
蓮と紫音、2人掛りで立ち向かっても、高峰には勝てなかったのだ
だいたい、連携とか、そんな練習をしたことがない2人
好き勝手動く2人に連携など有ったものではない
だが、蓮と桜、2人は幼き頃から連携の練習をしていた
いや、叔父である【鼓智之 (つつみともゆき)】に、させられていたのだ
桜の攻撃を避ける様に動く高峰の行き先を、蓮の攻撃が潰していく
そして、幾度かの連携攻撃の末、蓮の攻撃が高峰に当たるかと思われた瞬間
蓮と桜の視界から、高峰は一段階速度を上げ消えるのだ
先に反応したのは桜だった
気の動き気配を感じ取れる桜だからこそ反応できたと言えよう
視線も向けず、左手を大きく横につき出し、高峰を襲う
だが、高峰は姿勢を低くして交わすと
桜の膝の裏を蹴りバランスを崩させると桜を投げ飛ばした
転がりながら、態勢を整え立ち上がる桜
だが、これ以降、速度を上げ、多少本気になった高峰を捉えることは無理であった
桜の攻撃は、いなさず、合気道の様に桜を投げ飛ばす
蓮の攻撃は、その動きを誘い誘導し弾くと
蓮が交わしきれない、ギリギリの速度で攻撃を当ててくるのだ
結局、蓮と桜の連携をもってすら、捉えることはできなかった
息を切らす2人に対し、さほど呼吸が乱れない高峰
「ムリかぁ・・・・ジジィクラスとは恐れいったな・・
だけど、あの消える動き、どこかで・・・」
「てつ、終わったみたいだぞ」
「紫音さぁ・・・アレと戦えと言うのかよ?」
黒いリーゼントが力なく下に垂れた
とてもとても嫌そうな顔の鉄雄がそこにいた
「あぁ、お前なら1擊くらい入れれるだろ?」
「うわ、めんどくせぇ、無理くせぇ、帰りてぇ」
「おいシオン、どういうことだ?
宮守はそこまで強いのか?」
紫音は蓮の言葉を鼻で笑い
「いや、弱いけど?」
まるで馬鹿にされた鉄雄といえば
もう逃げ帰る事をあきらめながら
「あぁ紫音の言う通り、弱いけど
それでも、アノ侍に一撃入れるくらいなら出来んこともないし・・・」
「どおいういことだ?」
「さっき手合わせして、核心したが
あの侍と、てつは同じ様な技を使うからな
この場で、高峰と同等の力を持ってるのは
てつと・・・(もう1人いるけど・・)まぁ、てつだけだろ?
まぁ見てな、てつ!一撃入れたら100万だすぞ
それに、綺麗なおねーさんに、いいところ見せたら、デートしてくれるかもよ?」
その紫音の言葉に、リーゼントは跳ね上がり、目を輝かせる鉄雄は、ミカに振り向き
「マジか?ミカさ~~~ん、この侍にかったら、デートお願いします!」
「デートォ?」
「カラオケとか、ご飯でも食べに行きませんか?」
「いいよ~」
「よっしゃぁぁ!紫音一撃100万だな、10擊で1000万だろ?」
「ちょっと待て、一撃だけだ、だけど勝ったら1000万だすぞ
それよか、お前の好みは、ティアだと思ったが?」
それを聞いた鉄雄は、小声で
「どう見ても、ミカさんの方が、オッパイがでかいだろ」
「そっちかよ、でも最低でも一撃いれろよ」
「ハッ!デートとデート代が掛かってんだ、マジでいくぞ」
「おい紫音、あんなんで宮守は、ホントに勝てるのか?」
「やる気になってるからな、まぁ見とけ」
鉄雄は、妹の胡桃の冷たい視線を無視し
桜に近づく
「桜ちゃん、その武器貸してもらえるかな?」
「ナックル~?」
「あぁ、それそれ、できれば具足もお願いできるかな」
そう言って、桜からナックルを受け取ると
鉄雄は目を凝らしてナックルを見つめるのだが
「あれ?おかしいな、アクアベートされねぇ?
もしかして、個人専用装備か?」
「おい、てつ、アクアベートって何の事だ?」
紫音に首だけ振り向いて
「あ?この・・・・・・
あぁ~~~・・・
何でもない
そんな事より、デートが先だ!」
そう言って、言葉を濁す鉄雄
自分が使っても意味が無いと
ナックルを桜に返しながら
やべぇ、スキルとか、能力って言葉はまだ禁句にしとかないとな・・・
そんな事を考えながら、具足を装備し
自前の篭手を装備し
鉄雄は軽く蹴りをだして具足の重さを確認し
「さて、侍さんよ、あんたの動きは見してもらった
だから、このまま戦って勝って
変態に卑怯だと、言われてデートが御破算に成るのはイヤだからな
俺の戦い方を教えとく、そうと言っても、足技オンリーだと思ってくれ
それに、この靴は特殊だからな
木刀で受けてもらっても攻撃してもいい
後この手に付けた篭手は防御や、受け専用だから
拳や肘での攻撃はしない」
嘘か本当か、疑問に思うが
高峰はもともと、全てに置いて先入観無しで対処するのだから
関係ないと言えば関係ないのだが
鉄雄の申し出に、軽く首を縦に振る
鉄雄の靴は、紫音によってカスタマイズされた、特殊な靴であり
そのツマ先や踵には、特殊な金属が使われていた
鉄雄は一度、大きく高峰を観察する
気になるのは、持ってる木刀ではない、足元を隠すほどの袴である
鉄雄も、同じ様な足元を隠すほど長いズボンを履いている
それも、片方に両足が入るほどの太さである
その姿は、高峰と同じく袴と、かぶっていた
そして、先ほどの戦いから、その用途を理解していたのだった
「さて、紫音や、ティオーノ先輩を手玉に取る相手だ
初めから本気で行かしてもらうし
デートの為に、悪いが負けててもらうぞ!」
そう言いいながら、無造作に高峰に近づき蹴りを見舞う
高峰は木刀で受け流すのだが、その衝撃に違和感をかんじるのだった
鉄雄の攻撃速度
それは蓮や紫音と比較にもならない
桜と比べても、1ランク下がると言ってもいい程である
だが、高峰は違和感を拭えない
鉄雄の攻撃の合間に、攻撃を仕掛けるのだが
その全てを躱されるか、篭手で受け流される
それに、先読みが効かない
桜の様にコチラの動きを気にせずに攻撃して来る訳でもなく
コチラの動きを確認して、誘導した幾つかの動きを完全無視し
選択外の動きで攻撃してくるのだ
その動きは高峰の予想を超えてくる
それは、高峰の思考を、その行動を刹那の時間であるが削り取る
そして、鉄雄の攻撃、受けに関して違和感を感じていた
2人の戦いは、静かに始まり淡々と過ぎていく
その盛り上がらない戦いは、見ていたものにとって、暇であった
そんな時、高峰が後ろに大きく飛び退いたのだった
今まで、紫音や蓮、桜と対峙してきて
ここまで大きく間合いを開けたのは初めてである
「げ!逃げられた、100万が・・・」
残念そうな鉄雄に紫音が
「さっさと一撃入れないから、バレるんだろ」
高峰は何かを確認するかのように、木刀を2,3度振るうと
木刀を両手で持ち正眼に構えるのだった
それに反応する蓮、自分相手には、構えすら取らず
常に片手でしか相手しなかった高峰が
宮守に対して構えを取ったことが、信じられなかったのだ
そして、初めて高峰のから攻撃に移るのだった
倉庫での戦いで、紫音が見た地面を滑るかの様な、独特の移動法から
正眼の構えからの袈裟斬り
鉄雄は、それを横に一歩踏み出し身体を捻るように交わすと
左足で高峰の右脇腹を蹴ろうとするが
戻ってきた木刀に、その蹴り足を刈られるそうになると
木刀を踏むように弾くと、左足も木刀の勢いで、少しはじかれ
体制を崩した鉄雄は、左足を大きく開くように
体制を低くし左手で地面を付き、立て直すのだったが
左足の着地地点に視線を送った、その一瞬
鉄雄の左肩を襲う木刀の存在がソコにあった
蓮は勝負あったと核心するが
鉄雄はソレを、右手で左に押すように機動をズラすと
地面に付けた左手を軸に、逆立ちをする様に、後方に飛び退き
額に汗を浮かばせ
「ちょっとまて、今の肉体加速か?」
「あ・・・高峰さんは、てつと同じ10倍程度の意思加速つかえるぞ
肉体加速も3倍程度なら使えるはずだ」
「は?先に言えよ、もう少しで負けるとこだったがな!
まぁいいや、俺も使っていいんだな
あと、魔法は使っていいのか?」
そう、高峰は適度に3倍程度の意思加速を使っていたが
鉄雄は使って居なかったのだ、それもそのはず
鉄雄は、高峰が意思加速が使えないと思っていたからだ
そして、意思加速を使ってない高峰相手に
使ったのがバレて、後で紫音に言いがかりをつけられ
お金もデートも無しにされるのが嫌だったのである
「あぁ、何やってもいいぞ」
「そうか、なら、そこを、どいてくれ、ここの庭全部を使う」
そういうと、チラッと、紫音と蓮に視線を送ると
右手を、ポケットニ突っ込み少し嫌そうな顔をして
「あぁ~~見せるの嫌なんだけどな・・・
デートの為だしな・・・・ジュワッチ」
サングラスを取り出し、装着する
「その歳で、ウルトランマンかよ!
小学生じゃぁ無いんだぞ、恥ずかしくないのかよ!」
「知らないのか?今やってるは、ウルトラウーマンなんだぞ
奥様向のイケメン時代が終わり、ヒロインが変身するんだ
そも父親向けの、ボインちゃんが!!
変身した姿は、ピッチピチのタイトスーツ姿の
ウルトラウーマン!!視聴率はうなぎのぼり!!
今、小学生男子から、高校生男子、中年オヤジまで、大人気なんだぞ!!」
「マジか!!」
「マジだ!!!金曜、午前1時15分からだ!!」
「深夜枠じゃねえかよ!!
まぁいいや、てつが、その気になったから
俺達も縁側に移るぞ蓮
ここだと鉄雄の邪魔になる」
移動しながら、蓮は紫音に問いただす
「どういうことだ?」
「あぁ、てつの奴、金と、おっぱいに負けて、全力を出すつもりだ
蓮も聞いた事あるだろ、てつの本来の戦い方を」
紫音は両手で、豊満な、おっぱいを下から持ち上げ触る仕草をするが
誰も突っ込まない
「そういえば、立ち止まっての戦いより
横移動をメインとした蹴りだったか?
それより、意思加速も強化魔法も無く、高峰の本気を出させたのか?」
「それに、初めにユーリが言ってただろ
万倍の意思加速でも、高峰を見失うと」
「言ってたな、だが、ジジィも消えるからな
あのクラスなら出来るだろ?」
ん?あぁそうか、あの動きは
前に宮守と戦った時感じた、視界から消える感覚だと?
「いっとくが、てつも消えるぞ」
そう言って、紫音は縁側で座っていた胡桃の横を陣取り座る
胡桃は、今まで1人で寂しかったのか、そっと紫音にすりより
紫音の服の裾を握る
蓮も紫音の「てつも消える」の言葉に「ありえない」驚く
どう見ても、自分より弱い男が、親父 (オヤジ)クラスなハズはないと
以前の鉄雄の動きとさきほど見た
高峰の消える動きを重ね頭を悩ませながら
桜と並んで縁側に座るのだった
蓮は考えていた
蓮や紫音の戦い方は、意思加速・魔力感知・肉体加速を使った物で
あっちの世界での戦い方が、基本になっている
鼓道場でも、速さを重視しているし
接近格闘であるので、その技や動きを体に覚え込ませ
気配感知、動体視力、反応速度、反射神経等で
対処できるようにしている、その基本は空手にある
なら剣道ではなく、剣術はどうだ?
常に立会いの距離は離れていて
空手とは違い、動きの、読み合いが主となってくる
それはそうだ、真剣で戦う以上一撃で決着が付くのだから
侍である高峰は、読み合いに特化した能力者だと考えれば
俺や紫音は、すでに読み合いの時点で、負けていたと言う事か
チッ、今まで読み合いに特化した人間とやってきてないのが敗因か
ジジィや、オヤジだと、レベルが違いすぎて気づかなんだ・・・
ん?と言うことは、あの宮守は、高峰と同じく読み合いに特化しているのか?
庭の中央で対峙する、高峰に宮守
対照的な2人
木刀を正眼に構え、微動だにしない高峰に対し
鉄雄は左足を前にだし体を斜めにして、リズムを取るように前後に動く
それに釣られ高峰も、たまにピク・・・と動くが、その場から動こうとしないのだ
「なんの読み合いだ?さっさと戦えよ」
「蓮?わかんねぇの?」
「何がだ?」
「てつの奴、リズムを取りながら、いくつものフェイントを入れて
それに、釣られて高峰がたまに反応してんだよ」
「なんだと?」
紫音に言われ、鉄雄を凝視する蓮だが
何がどうフェイントなのかが理解できない
「説明しろ」
「ムリだって 俺にも分からんからな
俺とヤル時だって、あそこまでは駆け引きしたことないしな
きっと達人レベルの化かし合いなんだろうな」
「なら、なんで、その事が、お前がわかる」
「ん?くるみに聞いたから
くるみは、フェイント全部理解できてるみたいだしな」
蓮は紫音の隣に座る、少女に視線を向けると
胡桃は、鉄雄をジッと見つめ
高峰と同じように、鉄雄の動きに、反応しているのだった
そして、胡桃は紫音の袖を引っ張る
それは、鉄雄が、幾つものフェイントを使い
高峰の動きを観察し
どの動きに反応して、反応しないか、そして、どう動くか・・
そして高峰の、反応、そして反応に対してのフェイントを確認していく
だが、2人の間に交わされた、そんな騙し合いもそろそろ終を告げる
「蓮、てつの観察が終わったみたいだ
そろそろ動くぞ、たまに消えるから見逃すなよ」
蓮の視線は再び、高峰と鉄雄に戻るのだが
先に動き出したのは、鉄雄である
改めて速度強化の魔法をつかっていたので
先ほどより早い踏み込み、桜を凌ぐ勢いである
一直線に高峰に襲いかかる鉄雄
ソレを無視して、高峰は自身の左に木刀をなぎ払うと
正面にいたはずの鉄雄の姿がソコにあり
「チッ」と言う言葉と共に篭手で木刀をはじく
金属を叩きつけた様な音が響きわたり
高峰は一気に数メートル移動する
ソレを追うように、鉄雄は回り込み攻撃をする
避ける高峰の動きはそのまま鉄雄に対する攻撃になるが
それをも先読みし、横に移動する様に受け流しながら移動すると
フェイントといくつも入れながら
高峰に対し虚実の蹴りを繰り出すが、高峰も防御しながら距離をあけながら
鉄雄の攻撃のスキをついて、いくつもの虚・実の攻撃をくりだす
庭を大きく回るように繰り広げられる攻防
鉄雄の蹴りは、その太いズボンの裾を使いまるで踊るように舞う
そして、その太い裾で、高峰の視界を遮りその達人の読みを狂わす
高峰は、独自の歩行術で、ある時は近づき、ある時は離れ
匠に距離を調整し、繰り出す攻撃は、虚実・・いや実実・・
紫音や蓮でも、気を抜くと
その目にフェイントであるはずの攻撃が幻の様に移る
今、距離をとって高峰の動きを見ているからこそ
その達人級であろう動きが見えてくるのだった
2人の攻防にも、終わりが近づく
鉄雄は、上段の回し蹴りを囮に
高峰の膝を狙って蹴りを繰り出すが
高峰も上半身を後ろに反らし躱すと
鉄雄めがけて木刀を振り下ろす
先に鉄雄の蹴りが高峰の膝に当たっかの様に見えたが
高峰の袴の中に、膝は無く鉄雄の蹴りは袴を揺らす
その蹴りをだした態勢の鉄雄を襲う木刀だが
それに手を掛けて、まるでアクロバットの様に側転し
膝で高峰の顔を狙う鉄雄だが
木刀を肉体加速を使い力技で鉄雄ごと持ち上げ、放り投げる高峰
逆さで落ちていく鉄雄は、両手を付き逆立ちの体制で
追撃してくる高峰の木刀を右足の靴の踵と土踏まずの段差をつかって
100分の1秒にも満たない時間固定する
逆立ちで、反撃してくるとは、思わなかった高峰だが
それでも、それに反応し対処するのだが
一瞬である、両手で持つ木刀の自由を奪われていたのだ
それに、気づき反応するのに、100分の5秒ほどのスキができたのだ
そう、そのスキに、鉄雄の右足とほぼ同時に出された左足の蹴りが
高峰の腹部に決まるのだった
鉄雄は、逆立ちのまま、ブレイクダンスをするかのように立ち上がり
右手の親指と中指でサングラスを整えながら
「よっしゃぁぁ!!100万ゲット!」
「おぉーーーー」
紫音は声を上げ、拍手する
胡桃も嬉しそうに小さく拍手するのだった
その一方、蓮や桜、ユーリまでもが、その驚きを隠せないでいた
蓮と桜、2人掛りで、負けた相手に、鉄雄が一撃入れたのだ
それこそ、信じられない光景であった
ユーリは、長いこと高峰と一緒にいるが
この高峰が一撃入れられた所など初めて見るのだった
それも、元魔王のレンではなく、ただのこの世界の子供にだ
そして、この場に置いて、最も怒らしてはならない人間を苛立たせる
「どういうことだぁぁーーーーー宮守ーーー」
蓮が叫ぶ!それも、その言葉に覇気をのせ、大気を震わせながら
鉄雄は、その覇気を受け流すように、軽く後ろに飛び退くと
「どういうことって、何がだよ?」
「どうして、そんなに強い?!シオンより弱いお前がだ!
1年前戦った時は、俺の相手にならない程弱かったはずだ」
鉄雄は乱れたリーゼントを両手で整えながら
「そうか?今も弱いぜ、今の一撃もそれほどダメージは無いはずだ
ただ、ここ1年以上、紫音に負けたことは無いけどな」
「なんだと?」
怒りの形相で紫音を睨む蓮
「あぁ、同じ条件下なら俺は、てつに勝てないぞ
それに、高峰!一撃入れれたぞ、これでまた稽古付けてくれるんだろうな」
「・・・・こいつ・・・・・」
高峰の言葉に、一瞬時間が止まり
何事かと鉄雄が口を開く
「?紫音どういうことだ?」
「あれ?通訳!」
紫音と鬼の形相の蓮の視線の先には、怯え震えるユーリの姿があった
今の蓮の威嚇で、以前の魔王であった【雷帝・レイ】の事を思い出し
心底恐怖する、ユーリ
高峰は、すかさず気を張り対処し事なきを得た
胡桃は紫音に守られていたし
桜やミカにとって、蓮が怒る事なぞ日常の一コマでしかない
そんな時
リビングに転移してくる2人の人影
「あれ、何かあったの?そろそろ、お昼ご飯だよ
くーちゃん準備手伝って」
無言で頷き鈴に駆け寄る胡桃であった
そして、ノリノリで、変な踊りをしながら歌う紫音
「めっしっめし、今日のお昼は、山菜おこわ~~~おにぎりだぜ!!
ミカ、奥に足の短いテーブルあったよな?
持ってきて、こっちのと繋げようぜ」
「ササイおっこぁ、ササイおっこぁ、なんだろな?食べたことな~~いぃ」
紫音の適当な歌に続くように
即席のうたを口ずさみながら、テーブルを取りに行くミカ
「やったぁ!鈴の山菜おこわは、絶品だからな!ヨダレが!」
「てっちゃん汚い!
みんな汚なぃ!服どうにかしてよ」
縁側から、リビングに入り込もうとした鉄雄を見て鈴が叫ぶ
「てつ、こっちこい、俺の服貸してやる」
「高峰さん」
鈴の呼びかけに視線を送る高峰
「今、アメリカ暮らしなんでしょ?
日本食、食べたいかと思って
皆とは別に、味噌汁と、焼き魚の用意も、しているんだけど
食べられますか?」
「・・・・・・・は・・・・・・・・」
「それじゃぁ、白いご飯も持ってきますね
あ、綺麗に服の埃払って手を洗ってくださいね」
頷く高峰は、玄関に周り洗面所で綺麗に手を洗うのだった
そして、取り残された、鬼の形相の蓮も
周りを見渡すと、大きく息を吐き、洗面所に手を洗いに行くのだった
そして、何事も無かったの様に、昼ご飯の準備を整える皆の姿に
ユーリも徐々に、平常心を取り戻したのだった
そして、大皿に積まれた、山菜おこわの、おにぎりを始め
十数種類の、オカズが用意されたのだ
高峰の前には、白いご飯、味噌汁、焼き魚、それと漬物の付け合せである
蓮・桜・ミーティア・ミカ
紫音・鈴・鉄雄・胡桃
ユーリ・高峰
総勢10人での楽しい昼食会が開かれたのだった
そして、ユーリは驚くのだった
こんな美味しい料理は、食べたこと無いと
アメリカでは、大味の食べ物や、味の濃い食べ物
後は、バーガーや、肉なのだ
気を抜いたら太ってしまうから大変なのだが
こんな、美味しく繊細な料理を食べたのは
向こうの世界と合わせても、初めてと
感動しながら、食卓に並んだ食べ物に、使い慣れない箸を伸ばす
高峰は終始無言で、出されたご飯に箸を伸ばす
そして、食べながら、さっきの高峰の言葉の通訳をユーリに頼むと
「一撃をいれた、この男だけなら
今後手合わせをお願いしたいだって」
それを聞いて蓮は、お昼を食べ終わったら
鉄雄と勝負がしたいと言い出す始末
だが、鉄雄にしてみれば、デートのかかった高峰との戦いを続けたいと
ならば、蓮は自分に勝てば、ミカとのデートを認めると言い出す
本気の蓮に負けないまでも、簡単に勝てる気がしない鉄雄は
蓮に対し勝敗条件をだす
簡単に言えば、先ほどと、ほぼ同じ条件
意思加速10倍、肉体加速3倍、肉体系強化魔法の使用
そして、相手に攻撃を入れると1ポイント、3ポイント先取で勝ちと言うものである
そして、蓮はその条件なら、自分が宮守に負けるわけがないと
条件を飲むのだった
そして、昼食も終わると
高峰は、すくっと立ち上がり
鈴の前に来て正座をして、手を付き頭を下げる
「ワ(シの)・・(様な)・・・一(介の野武士に)・・・・・
これ・・・(ほどの・・・心遣い・・・・感謝す)る・・・・・」
そして、高峰は涙するのだったが
鈴が高峰の言葉をどれだけ理解したかは謎だが
「いや・・・そんな・・・・普通の事だから・・・
頭下げるほどの事じゃないんだから・・・・・」
そんな動揺する鈴を、笑い見つめる紫音たち
鈴は正座をしたまま、姿勢を正し
鈴は大きく息を飲むと
「大の大人が、お侍さんが、頭を下げない、はい、起きてシャキっとする」
高峰は言われる通り、頭をあげる
「はい、そう、胸をはって、背筋を伸ばす、お侍さんなら
こんな私みたいな、小娘に頭を下げない
高峰さんの志 (こころざし)が何か知らないけど
それを忘れない様に、曲げないよ様に、恥じない様に
頑張ってください
そしてまた、コッチに来た時は、ご馳走させてもらいますから
高峰さんは、高峰さんらしく、お侍さんらしくです」
にっこりと微笑む鈴
半分は、母親の蘭の受け売りだが
その母親の心意気は、紫音や鈴に根付いていた
高峰は、姿勢を正し、腰から10度ほど上半身を倒し礼をすると
「こ・・・(心より・・・感謝いたします)、鈴殿」
「はい、後で、お土産に、おむすびを作りますから
持って帰って食べてくださいね」
「か(たじけない)・・・・・・」
高峰は、この小さな少女に
その奥底に何者にも揺るがない強き心根を感じる
そして、料理もさる事ながら
見た目、120cmほど、10歳にも満たない少女
その立ち振る舞い、歩き方、姿勢までもが、鮮麗されていた
高峰も、この日の本つ国で、剣術を身につけた侍である
その振る舞いを、足の運び1つでさえ会得するのに
どれほどの苦行だったのかを理解していた
なによりも、その心配 (こころくば)りや、優しさ
侍である自分の立場や志にまで理解し
だが、その立場を超えて叱ってくれる
少女の信念に、その思いに、心を打たれたのだ
そして、それを教え込んだであろう
両親や、何かの師に対して、敬意を送り
もしも、この少女に何かあれば、力になりたいと心から願うのであった
鈴は立ち上がると
「くーちゃん、片付け手伝って」
「それでは、私も」と、ミーティアも手伝いを買って出るのだった
「それが・・・」
「お侍さんは、動かない」
食い気味に、鈴に怒られる、高峰であった
そんな姿を見守る、鉄雄が
「なぁ・・・・・もしかして、りんが一番強くねえか?」
「あぁ、胃袋を掴まれたら最後だ、だれも鈴に逆らえない」
紫音と鉄雄の会話に
蓮とミカは頷くしかなかった
蓮は、桜から鈴の料理の事を聞いたり
桜がたまに、お土産でもって帰ってくるケーキやお菓子を食べていたので
鈴が料理が上手いことは知っていたが
それは、冷たい料理や、スイーツ、オカシであって
作りたての料理が、これほど美味しいかと、感動していた
そして、桜が休みの度に、鈴の家に昼飯を食べに行くことの意味が理解できたのだ
ミカや、ミーティアにしてみれば
たまにリルが持参するオカシ位しか食べたことはなかった
きちんとした、手料理は蓮と同じく初めてであった
そして、3人とも、いやユーリも高峰も
胃袋を掴まれ、鈴の料理の虜になっていくのだった
そうして、立ち上がる蓮は、鉄雄を見下ろし
「さ宮守!庭にでろ」
「はいはい、わかってるよティオーノ先輩」
そうして、2人は、再び庭に出るのだった




