1話 にゃぁ~ コン
優美が2年のクズクラスに、乱入してから数日
優美たち5人は何故か、用事が無い時は、クズクラスで
お弁当を食べる事になっていた
はっきり言ってしまえば、ニニスの我儘なのだが
そして、今日も楽しくお弁当を食べるのだが
今日は、鈴が、クズクラスのみんなの分の
炊き込みご飯で握った、おにぎりを用意してきたのだから
その場に居合わせた、生徒たちは大喜びであった
とうぜん、ニニスや桜達の分もである
だが、そこには紫音の姿はない
なんという危険察知能力・・・ではなく
ただ、めんどくさくて、昼休みなるたびに逃げていただけである
だが、それを良しとしない優美は
時間があれば、放課後も、このクラスに顔を出す始末
優美が、クズクラスに初めて来てから数日だが
違和感の無い程に、馴染んでいた
それは、優美のクラスである、2-B組よりもである
2-Bでは、会話をする相手は、鈴達や、数名の女友達だけで
男子生徒となると、その確執から、四条優美と話したくても
声をかけれないでいたのだ
だが、このクズクラスは違う
相手が、十士族であろうが関係無しである
クズクラスに顔を出すと、誰かしら声を掛けてくれるのだ
たわいのない事でもだ
優美は、クズクラスに顔をだすと毎度の様に
「紫音君いますか?」と聞いてしまう
きっと他のクラスでは、「いません」で終わるだろう
だけど、このクラスでは
「しおん?逃げたぞ!もしかして、四条さん嫌われてる?
俺にしてみれば、羨ましい限りだが
明日もくるなら、足の1本でも折って、捕まえとくけどどうする?」
そんな、冗談交じりで会話してくれるのだ
それは、優美が夢にまで見ていた学園生活の1つでもあった
鈴や桜、夏目にかんなと出会い、気兼ねのない友達となった
それは、優美自身が諦めていた、普通の友人、友達であった
そして、このクラスの人間達は、私を一個人として扱ってくれる
そんなクラスに、優美は無意識に心惹かれていた
だが、当初の目的である、鈴の双子の兄、紫音君の姿は無かった
でも・・私は諦めない
鈴の使った、召喚魔法や
あの合宿での騒動の結末や
先日のクズクラスでの私の魔法への対処
それを知れば何かが見えてくるはず
私の心に、引っかかってる何かの答えを・・・
結局、月曜の昼に会ったきりで
何度クズクラスに通おうが紫音に会えずじまいの優美であった
そして、今日も紫音を捕まえれなかった優美は
鈴達と共に、下校するのだ
今日は、用事があると、小早川夏目は学園に残ったが
優美、鈴、桜、かんな、4人は楽しそうに中等部本校舎を後にし
バス停や、駐車場に向かうのだが
学園の校門近くに差し掛かると
校門横の高さ4メートルは有ろう石柱に
数十人が生徒達が集まっているのが見えてくるのだった
そして、その中心で騒いでいる人物
いやその姿は見て取れないが、その声を鈴達は知っていた
そんな中、桜はその視界に、とある存在を見つけるや
その集団に潜り混んでいったのだ
鈴達も、見知った声が、言い争っている現状に
桜の後を追うのだった
「ごめんね、通してもらえる?」
その声に気づく集団
そして、声の主で有る鈴と、その横に居る四条優美の姿を見るや
まるで、海が割れるかのように、道を開けたのだった
そして、その中心で言い争いってた人物が、視界の中に現れたのだった
それは、制服の違いから、数人の高等部の男子生徒だと解る
夏目が居れば、それが誰なのかが解っただろうが
面識の無い人間を覚えているはずもない鈴達3人が解るはずもない
だが、その男子生徒と言い争っていた女子生徒達は
鈴達が、最近知り合った中等部1年生であった
そう、生徒会の合宿で、ひとつ屋根の下で共に過ごした
かわいい後輩達であったが
その姿は、高等部の男子生徒相手に怖かったのか
2人肩を寄せ合い手を繋ぎ
怯えるようでもあった
「雫 (しずく)ちゃんに、千秋ちゃん、どうしたの?」
「え?鈴先輩に皆さん、どうして此処へ」
「騒ぎの中で2人の声が聞こえたから
来てみたけど、どうしたの?」
学園でも有名な、十士族の四条優美の仲良しグループと
2人の女子生徒が知り合いだと分かり
言い争っていた、男子生徒は、少し嫌な顔をするのだった
鈴は、そんな男子生徒達を一睨みすると
「2人共、何があったか説明できる?」
「はい、実は校門の石柱の上に子猫が居るんですが
降りれなくなったみたいで、上に登ったまま動かないんです
私達が一番に気がついて、猫ちゃんを呼んでみたんですが反応なくて
魔法で、助けようにも、驚いて落ちて怪我したらと思うと手が出せなくて
どうしようか悩んでいたら、人が集まってきて相談してたら
そこの高等部の人達が、面白半分に石を子猫に投げ出して
かわいそうだから止めてっていったら、なんか怒り出して・・・・」
そうか、だから、桜はさっきから石柱の所で
にゃぁ~~にゃぁ~~言ってるのか・・
「高等部の先輩方、何か言いたいことは有りますか?
私の後輩が間違った事を言っていると思うなら聞きますが?」
「ちょっと、ふざけただけだろうが!」
「別に、当たってないし、どうせ野良猫だろうが
そこまで気にする事かよ、文句あるなら飼い主連れて来いよ」
「そうだ、文句があるなら、相手してやろうか?
中等部の1、2年の、お前らが、俺達高等部3年に勝てると思ってるのかよ」
6人ほどの男子生徒は、口々に文句を言いだしたのだ
四条優美は有名人であり、彼女が中等部2年と言うのは
知っている人間は皆しっている事実であり
そこの後輩となれば、中等部1年で有る事が理解できた男子生徒達
彼等にしてみれば、さっきまで言い争っていた中等部の1年は
怯えきっており、相手にも成らないと
そして、グダグダ言って来たのは小学生並の身長であり、どうにでもなると
もう一人の女も所詮、中等部の2年だと
危険なのは、上位ランクの四条優美、ただ1人だと
それでも、高等部3年の俺達6人も居れば、楽勝と喧嘩を吹っかけてきたのだ
優美は、雫ちゃんと千秋ちゃんを庇うように、前に出てきた
その態度から、怒っていることは確実であり
かんなは、怯える2人を守るように抱きしめていた
そして2人に「もう大丈夫だから、お姉さんに任せなさい」と
先輩ぶっていたが、声の感じからして、怒っているのは確かである
かく言う私も、少し頭に来ていた
「先輩方、私はとても弱いので戦えませんが
幾つか言いたいことがあります
1つは、私のかわいい後輩を怖がらせたこと
1つは、子猫に石を投げたこと、ふざけていたとしても
物事の善し悪しくらいは、判断できるでしょ
最後に、逆ギレして、私達を脅して来たこと
反省してください、あやまるなら、許しますが
謝らないなら、少し痛い目を見てもらいますよ」
「たかが、ちょっと猫に石を投げただけで
なんで、お前達に謝らなけれないけないんだよ」
「なら、もう一個言っておきます
あの子猫は私の家族です
その私の家族に石を投げた事に対しては謝って貰いましょうか」
「お前のペットだと?どこにそんな証拠がある」
「こはく君おいで」
そう言うと、石柱の上にいた、30センチ程の琥珀色の子猫は
軽く飛び上がると、4メートルはあろう石柱から飛び降りたのだ
そして、何食わぬ顔をして、鈴の足元まで歩み寄るのだった
そして、琥珀を追いかけるように桜がやってくる
「にゃぁぁ~~こはくにゃぁぁん」
「そ・・そんな事知ったことかよ!」
「だからどうしたって言うんだ」
「俺達に文句あんのかよ」
「痛い目だと、お前戦えないんだろ、どうするって言うんだよ」
「それは、優美ちゃんと桜とかんながいれば」
「ちょっと待ってくれないか」
後ろからの声に
鈴達が振り向くと、そこには高等部の制服を来た男性が立っていた
その男性を知っていた優美は、口をひらいた
「六道 (ろくどう)さん、どうして此処へ?」
「やぁ、四条さん、申し訳ないが
こいつらの処分は、僕に任してもらえないだろうか?」
優美より頭一つ程高い男性、185cmほどだろうか
体格もよく、顔立ちもよく、サラサラの無造作の髪といい
特徴がありすぎて、ないような
蓮とは、まったく違うベクトルのイケメンの好青年
その彼を見た6人の男子生徒は、顔を青くするのだった
「優美ちゃん、この人は?」
「簡単に紹介しますね、私と同じく、十士族の六道さんです」
その男は、袖に有る、腕章を見せながら
「初めまして、十士族と言っても、四条さんとは違い
分家なのでね、一般人と変わりないよ
えっと、高等部2年、そして風紀委員の六道歩 (ろくどうあゆむ)です
この6人は、高等部の風紀委員で、きっちりお灸するから
任してもらえないかな?それに、ここで喧嘩をされては
喧嘩両成敗って事で、四条さん達に非がなくても
何らかの処罰を受けてもらうことになるのでね」
鈴は優美の顔を伺うと、優美は一度頷く
それならばと
「わかりました、私も事を荒げたくないので
私達の後輩に、謝ってさえ貰えば構いません」
「で、3年の小谷先輩方、どうなされます」
「「「「「「すいませんでした!!!」」」」」」
一斉に謝る6人
そして、六道は
「この6人の処分は、後で四条さんにメールででも送らせてもらいます
もし、不満があったのなら、教えてください、それでは失礼します」
と言い残し、6人を連れて、高等部の校舎に向かうのだった
そして、拍手が巻き起こる
それは、騒ぎを収めた、六道や四条達にでもあるが
6人もの高等部男子生徒相手に、勇気を振り絞った
中等部1年の2人に対してであった
それは、拍手と歓声の中
「よく頑張ったぞ、2人共!」
そんな声が多く聞こえてくる事から、確実である
そんな中、鈴は、怖くて見ていただけの人間に褒められても・・・と
やるせない気持ちになるが、ここは、現実の世界、あの世界ではないと
押し殺すのだった、そして騒ぎも収まり
集まっていた生徒たちも解散すると
鈴は雫と千秋の2人に優しく声を掛ける
「2人ともありがとうね、家 (うち)のこはく君を守ってくれて
こはく君、2人にお礼」
「にゃぁ~」
「鈴先輩のペットだったんですか、無事でよかったです」
「うん、ありがとうね、そうだね、桜以外は、知らないんだよね」
「はい、鈴がペットを飼っていたとは初めて知りました」
「わたしも、この間家に遊びに行ったときは居なかったよね?
それに、ペットを飼っている雰囲気もなかったし」
「うん、分け合って、知り合いの所にずっと預けてたの
近々帰ってくるのは聞いてたんだけど、今日とは知らなかったし
迎えに来てくれるなんて、思っても見なかった」
鈴は膝を折って姿勢を低くすると、琥珀の頭を撫でるのだった
琥珀は嬉しそうに、目を閉じて気持ちよさそうにするのだ
その琥珀の姿を見て桜が呟く
「うぅぅぅぅ~~こはくにゃ~~~ん、さわりたいにゃぁ~~ん」
「鈴、私も少し・・・撫でて見たいのですが・・」
優美の、その言葉に、かんなも、雫、千秋も、触りたいと言い出すのだが
「ん~~~~ん・・・・無理かな
家の子だけど、紫音が連れてきた子供だから
紫音にしか懐かなくて、それに
こはく君は、ちょっと気位が高い性格なんで
私でも、(人前では)頭を撫でる位しかさせてもらえないから
まず、他人が触る事すら出来ないと思う
現に桜も、こはく君に触った事すら無いからね」
その言葉が終わる前に、琥珀に飛びつく桜だが
ひらりと、難なく交わす琥珀
「桜の腕から逃げれる子猫だなんて、どんな子猫だよ!」
うん、まったくもって、かんなの言う通り何だけど
当然と言えば当然なんだよね、だって紫音の使い魔だし
千秋は、カバンからお菓子を取り出し、琥珀の目の前にちらつかせるのだが
一向に靡かない琥珀
「千秋ちゃん、それも無理かな
こはく君は私以外から食べ物受け取らないし
おもちゃで気を引こおうとしても、絶対靡かないのよ
まぁ、ご主人の紫音と一緒で、変わり者なんだよね」
「でも、先ほどから鈴の言う事を聞く様子から
頭の良さそうな子猫、えっと、こはく君ですね」
「うん、とても頭がいいのよ」
こはく君を褒められ、鈴は嬉しそうに答えるのだった
暫し鈴達3人と雫達2人は、楽しく井戸端会議を開き
桜は、琥珀と鬼ごっこしていたが
優美の帰らなければならない時間も押し迫り
帰る事となった
そして、優美は鈴にある提案を持ちかける
「鈴、こはく君は、バスに乗れませんよね?
もしよければ、こはく君共々、お家まで、私の所の (送迎)車で
送りますが?」
「気を使わなくても大丈夫だよ、こはく君は勝手に帰ってくるから
だいたい、学校まで迎えに来るような子だよ
私がバスに乗れば、自分の足で家まで帰ってくるよ」
バス停に向かう鈴の足元の前を
一定距離を開けて先導する様に歩く子猫の姿を見れば
優美も鈴の言葉を納得するしかなかった
後で、優美ちゃんに聞いた話だと
六道さんは、ああ見えてかなり怖い人らしい
中等部に成った時から、風紀委員となり
中等部2年ですでに委員長となるほどの優秀であり
高等部では、幹部になると、ディスクワークが多くなり現場に出れないと
高等部風紀委員委員長の席を辞退し
現場優先とするほどの厳格な性格である
【天童学園・風紀に六道あり】と言われるくらい有名である
そして、普段は性格は温和で物腰優しく、イケメンであり
分家と言えど、十士族・六道家の身内であるのだ人気が無いわけがない
優美も年に片手でも足りる位しか会うことも無いが
優美は、皆から慕われる
この六道歩を尊敬しているとも口にしていた
********
紫音は、帰りのバスに乗り
自宅近くのバス停で、バスを降りる
そして、この界隈では、見慣れた光景が繰り広げられる
紫音は、全身をほぐす様に、体をくねらせながら歩く
その姿は変質者そのものだが
そんな姿を何年も見てきた、近所の人間は気にもしない
紫音は数十メートルほど、くねくねと歩くうちに
学園でのだらしない姿から
じょじょに背筋の伸びた姿へと変貌していく
最後に両手を大きく上に伸ばし背伸びをすると
最期に、自身から発していたスキルをOFFにする
******
人間が不快と感じられる周波数と言うものがある
それは、男であったり女であったり
年齢の違いもあったりで、ばらつきが在るのだが
その幾つもの周波数をシオンは意識して使う
又、人間にとって気持ちいリズムと言うものがある
生命を宿して、一番初めに体感するリズム
それが母親の心音なのだ
約1分間120回刻むそのリズムは
どんな人間の心も癒すと言われる
だが、そのリズムを微妙に速くズラす事で
緊迫感をあたえ、違和感が生まれる
たまに、リズムを崩すことで、神経を苛立たせる事もできるのだ
紫音は、現代の科学でその事を熟知し
リズムを速く、そして遅くと、無意識下で、イラツカせるリズムで
人間の耳には聞こえない、不快な周波数を発している
これこそが、紫音がスキルを使い悪乗りして作り上げた
周囲の人間を、不快にさせるスキル
【俺って嫌われ者!イヤッホー!】
である、そして、今それを切ったのだ
だが、逆を言えば
アルファー波の様な人間が気持ちよくなる様な周波数を
気持ち良いリズムで発するならば
他人に好意を向けられる人間となるのだ
紫音は以前の世界での繰り返しの人生で
このスキルを使って、ハーレムを作ったことも数度あるのだった
******
「うし、完了!」
そして、ご近所さんしか、知らない
変わり者の三千風さん家の、変人紫音君の出来上がりである
スキルを使ってないので、嫌われてはいないが
変人は何処まで行っても変人であり
だいたい、すでに両親が変わり者と認識されてるのだ
紫音が変人なのは、当たり前である
だが、そんな両親と紫音を上回る三千風家、唯一の良心が、鈴なのだから
誰もが目をつぶると言うものである
「さて、てつの所に行く前に、荷物を置きに一度帰るか」
紫音は、自分の家に戻り、玄関のドアをあけると
「よう、おかえり」
「コン、コンコココンコーーン」
玄関で、お出迎えしたのは、10cm程の大きさの狐である
「おう、ただいま、1年少しぶりだな、元気だったか、あれコハクは?」
「コンコココンコン」
「そうか、鈴の所にいったか
ギンは、外に出れないから家でお出迎えか
ありがとうな」
そう言って、ギンに右手を差し出すと
ギンは、軽く飛び上がり、紫音の掌に収まるのだった
紫音は、ギンを目の前に持ってきて
ギンを、あらゆる方向から、舐めまわす様に観察する
「うん、毛並みも良さそうだし、体調も良さそうだ
1年以上、異世界に行く事で
俺との魔力的な繋がりが絶たれても2人とも無事だし
存在維持の魔力補充も鈴が居なくても、自分でできるな
これなら、俺が死んでも、あっちの世界で、やっていけそうだな」
「コン・・・・」
ギンは寂しく鳴く
紫音はそれを、あやすように右手の上に居るギンを
大きく持ち上げたり、下ろしたりするのだった
実は1年以上あちらの世界に使い魔である、ギンとコハク2人を送り
紫音と魔力的繋がりを断ち
この世界での魔力供給源である鈴とも
離れ生きていけるか実験をしていたのだ
「まぁ、たまに、あっちの世界に行ってもらう事もあると思うが
基本、オレが死ぬまで、ずっと一緒だ!」
そういって、ギンを肩に乗せると
「分かってる分かってるって、リルもずっと一緒だ」
と、念話で騒ぐ人物に、フォローを入れながら自分の部屋に足を進める
荷物を置くと、適当に私服に着替える
肩に居る、ギン子さんが
俺のほっぺたに顔をスリスリと合わせてきて
着替えに邪魔だったが、俺は何も言わない
ギン子さんは、念話でリルと口喧嘩していたので
俺は空気を呼んで、介入しない事にしたのだ
ギンを肩に乗せたまま、紫音は
三千風家の数件離れた、宮守建設へと足を向ける
そして、挨拶もせずに、事務所のドアの両手で勢いよく開けると
「さぼってやがる!仕事しろ」
「ちっ、ワシの仕事は
くるみちゃんと遊ぶ事に決まってるだろうが!
シッシ、邪魔者はあっちいけ、どうせ鉄雄に用事なんだろ
奥の作業場に居るから、さっさとイケ!」
事務所入ってすぐに、置いてある応接用の
おおきな、ソファーに並んで座る
ヒゲの怪物とお姫様いた
「この親バカが!」
「お前のオヤジよりマシだ!!」
「なっとくだ!!」
「しーくんに、リルちゃん、こんにちは」
「よ!って、リルいつのまに!」
「?ずっと居ましたよ?
私は、胡桃さんに会いに来たのですが
剛樹 (ごうき)さん、少し胡桃さんを
お借りできますか?」
「リルのお嬢に言われたんでは、仕方ないの
奥で暇つぶしでもするかの」
「おっさん、一升瓶置いてけ!」
「お?」
ソファーから立ち上がるその手にあるのは一升瓶
そのラベルに、地酒【娘の涙】
どこの地酒だよ!と、突っ込みたいが
ヒゲの化物は、一気にラッパ飲みをし、カラにすると
「あぁ、うめぇぇ~~」
いい顔をして、一言ほざき
応接用の机に、一升瓶を置いて事務所の奥に消えていくのだった
「何時もながら、あのおっさん、すごいな
ってか仕事しろよ」
「ふふ、自慢のパパです
明日の朝から京都に出張で
今日はもう作業終わって、これから支度なんだって」
「くそ、舞子に芸者遊びかよ!うらやましい・・・
まぁいいや、てつの所行くかな」
「では一緒に参りますか」
そういって、リルは胡桃に手を差し出し
2人は手をつないで、紫音の後をついていくのだった
人見知りの胡桃だが、何故かリルに懐いているのだ
元々、前の世界にいた頃から、子供の扱いは慣れてはいたリルだが
たった、3年ほどで、ここまで人見知りの胡桃と仲良くなるとは
紫音も思いも寄らなかったのだ
「まったく、いつの間に、仲良くなったことか・・・」
「それは、2人だけの内緒です」
「2人だけの内緒です」
リルの真似までして・・・
まぁ、気兼ねしないから、リルも出てくるわけだし
いいっちゃぁ、いい事だな、だが、解せない!!
工場の奥に進むと
鉄雄は一間半 (約3メートル)もある木材に、かんなを掛けていた
かんなは、木材の表面を平にするために、削る道具だが
その削る薄さは、0.01ミリ以下という薄さである
「よ!」
「おう、紫音来たか」
紫音は、削り出された、かんなくずを手に取ると
自分の来ていたシャツを捲り胸にあてると
「さすがに、この薄さは凄いな、乳首が透けて見える!」
「紫音の乳首なんぞに、興味はねえ!!
どうせなら、ボインボインのねーちゃんの乳首が見てえ!」
そんな、バカな話を数分繰り広げると
女性陣2人の冷たい視線が、突き刺さる、バカ2人
「まぁ、それで要件はコレなんだけど」
そう言って、リルに空間にしまっていた
折れた木刀を鉄雄に渡す
「これは、銃弾の跡か?それに、切られたのか?」
「やっちゃいました、アハ!」
紫音は人差し指をほっぺたに当て、可愛くいってみる
「うわぁぁ~~かわいくねぇ!」
「こっちも、お侍さんに真っ二つにされた木刀っす
新しいの、作ってください、エヘ!!」
紫音は舌をだし、可愛く言ってみるが
2度目は無視する鉄雄
「拳銃に?侍?・・・なにその、面白そうな事
俺も呼べよ、だいたい・・ん?その木刀見せろ」
そう言って、紫音の持っていた、一刀両断された木刀を奪い取る
「これは・・・・・・相手は、宮本武蔵か小次郎それか、柳生か
それ以上に、この切れ味なら、普通の業物以上の刀か?」
「見ただけで、そんな事もわかるのか?」
「あぁ、だいたいこの木刀の原木は
紫音が異世界から持ってきたもんだろ
原木事態に魔力が溜まってるからな
木刀に加工するのも、手間が掛かったんだが
それを、一太刀で真っ二つとは
この科学魔法時代にまだ、そんな侍がいたなんてな
それに、見ろよこの断面
たぶん元々はミクロン単位の歪みもなかったはずだ
これを見ただけでも、刀の善し悪しは分かるぞ
胡桃お前も、見とけ」
嬉しそうに語る、鉄雄は
そういって、持っていた、木刀を胡桃になげる
受け取った胡桃は、ジッと木刀の切り口を見つめると
「本当だ、コレすごいね、よっぽど手入れしてある刀なんだろうね
刃先に、ミクロン単位の歪も傷も無さそう」
「お前ら、何故解る!だが、それは、どうでもいい
新しい木刀作ってくれ」
「いくら出す?」
「は?ちょっと待て、前に2千万横取りしただろうが!」
「そんなもん、いつまでも在ると、思うなよ」
*******
それは、数年前、紫音と鉄雄が小学生だった頃
あるマフィア間の争いを解決した事がある
東京に、とある業界の巨大な組織ある
その組織は、海外から入ってきた、違法ドラッグを潰すため
海外のマフィアと対立することになり、大きな抗争となった
そして、東京を人間を若者を・・・・・・守るため
だが、守る物が多すぎた・・・・
その内に秘めた任侠を通し続けたが
組織は数日で半壊してしまったのだ
その組織の長である50歳前半であろう男には既に
元々あった貫禄は消え去り、疲弊しきっていた
そして、覚悟を決め、若い者にこの場を去る様に伝え
年を取った幹部だけを残し、最後の戦いに挑もうとする時
男の元に、一本の電話が、掛かる
そして、その電話の相手は、飄々とした声で
「えっと、今日例の件で、アポとってたんですが
なんか、お忙しそうですよね?
え~と、又、後日改めてご連絡させて貰います
あ、そうそう、もしもですが・・・本当にもしもですが
人手が必要であるなら、言ってください
その現状を打破できる、悪魔と天使でしたら
私の知り合いにいますので」
そして、男は電話の相手である、7:3メガネに
「この街を守ってくれるなら悪魔とだって契約してやる」と・・
そして、紫音が介入するのだが
たまたま、一緒に遊んでいた鉄雄が付いて来るのだった
そして、全てを終わらし、一同はある部屋で介する
ひょっとこのお面を被る、紫音
おかめのお面を被る、リル
リーゼントに、サングラス、顔の下半分を覆い隠す、カラスマスクをした、鉄雄
そして、ビシッとキメた、7:3メガネの、井門圭人 (いどけいと)
助けを求めた、組織の会長である50代前半の赤城雅紀 (あかぎまさき)
そして、幹部であろう、赤城と近い歳の男性が2人
男は、その立場も忘れ、頭を下げて、顔を隠す人物達にお礼をいう
そして、命をも差し出す覚悟を口にするが
紫音は、言う
俺の為に、もう一度組織を立て直せと
以前より、より強固に、より強く作り上げろと
そして、俺の為に役に立てと
首を縦に振る男に対し
紫音は、その場に、5億もの金を出現させ
目の前の男に差し出すのだった
男達は涙を流し
心の仲で、この少年達こそ、本当の仁義の精神を持っていると
顔を隠す、少年と少女、3人に忠誠を誓う
いい話?であった・・・・はずが・・・
その場で、鉄雄は怒りだす、自分にも金をくれと
死にそうな目にあった自分がタダ働きなのは、納得が行かないと
紫音は、勝手に付いてきた奴に
なんで金をヤらないといけないんだと
その場で、殴り蹴り会いの喧嘩をしだしたのだ
そう、先ほどまで、100人を越える外国マフィアの屈強な相手に
死闘を繰り広げた2人がだ
まるで、先ほどまで準備運動だったかのように
信じられない程の死闘を繰り広げだした
それに驚いた赤城は
ならばと、ひょっとこのお面の彼が、納得するなら
このお金から、持って行ってくれと
鉄雄はそれを聞くと
片手に1千万の塊を、両手で2千万を横取りしたのだった
*******
「あれから、3年も経ってないぞ
金使い荒すぎだろ・・・まぁ、いいや、1千万でいいか
その代わり、10本な」
「おう1本100万か!ボロ儲けだ!」
「そうだ、ちょこっと試験的に、追加で一本頼む」
「いいぜ!って、試験的?」
「あぁ日本刀打ってくれ」
「アホか!俺は大工だ、刀匠じゃぁねえよ」
「ちっ、使えねぇ」
「どっちがだよ、とりあえず10本だな、一週間ほどでいいか?」
そんな話をしていると、何かを思い出したかの用に紫音が
「あぁそうだ、くるみ」
「なに?」
「誕生日プレゼント何が
パコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
作業場に、気持ちよい音が響く
それは、鉄雄が木刀の素材にと、リルから渡された原木で
紫音の頭を殴った音である
そして、気持ちよく、木材はその半分を木っ端微塵に粉砕された
それは、紫音の超振動の防御スキルによって、粉砕されたのだ
紫音に至っては、多少の衝撃のみである
そして、半分を粉砕され
手元に残った木材の片方で自身の肩を叩きながら
何事もなかったのごとく
「はぁ、それを聞くかな」
「まったくです、デリカシーと言うものが」
「ん?こないだ鉄雄に聞いたら、本人に聞けって?」
「それは、武器の話だろうが」
「そうか?まぁ、きにするな、で、くるみ何がほしい?」
「誕生日プレゼント・・・なら・・・・」
「ん?肩たたき券とか?」
胡桃はモジモジしだし、顔を真っ赤にして意を決する
「ネズミーランド行きたい」
それは、千葉県にある、ネズミの様なキャラクターを主軸に
世界的有名なキャラクターのアトラクションが幾つものある
巨大な、テーマパークであるが
紫音は、そのキャラクターを1つも知らない
「ああ、いいけど、俺は行ったことがないから
よく知らんぞ?」
「私は何回も行ってるから、教えてあげる」
「あぁなら頼むよ」
嬉しそうに答える胡桃に、にっこり笑い応える紫音だった
胡桃の誕生部は7月であるが
学園の小等部も、高学年になれば、学期末試験と言うものがあり
それは、7月上旬にある、それが終わったらと約束する紫音
そして、原木を一本破壊した鉄雄に
一本100万だったな、なら、弁償で100万引い900万なと
紫音の言葉に、食ってかかる鉄雄だった
じゃれあっていると、そこに剛樹が顔をだした
その片手には一升瓶、地酒【娘の寝顔】
だから、どこの地酒やねん!!と・・・突っ込まない紫音
「まだ、バカやってるのか」
そんな言葉を吐きながら
鉄雄がさっきまで削っていた木材を、ススっと触ると
「まだまだだな、その目に頼りすぎだな
ただ、平面にすればいいてもんではないぞ
指先の感覚を最大限に引き上げろ
木目、蓄積水分、気温、その他色々、そして
この木材が何に使われるかを頭に入れて、かんなかけろよ」
「紫音が来たから、手を止めただけだ、それはまだ、途中だ」
「いいわけしよって」
そんな時、剛樹の目に入ってきたのは
銃弾の後の残る、真っ二つに切断された木刀である
「おい、この木材はなんだ?、それに、コレは・・」
「かわった、木だろ、紫音がどこからか持ってきたんだ」
鉄雄の言葉に、無言で、手に取って眺める剛樹
そして・・・
「弾痕?、木刀で銃弾を叩き落としたと?
まぁ、鉄雄でも、できるだろうから
坊主にできても、おかしくはないが
それより、こっちか・・・」
持っていた、半分の木刀を
何かの攻撃を、受けるように横にし頭上に構える
「おい、紫音」
「ん?」
「この状態で、上段からの真剣を受けたんだな」
は?何故解る!
その木刀は、アメリカ被れの侍の初太刀を受けたときに
切られた木刀だ、そう、上段からの、何気ない攻撃を
だいたい今のおっさん、形で受けたはずだ・・・
前々から知ってたが、この家族は、おかしいぞ?
「まぁ、そうだけど?」
「なら、お前も斬られただろう
そういう起動の太刀筋のはずだ」
「おっさん!何故解る!変人かよ
まぁいいや、まぁ、相手も本気で殺す気じゃ無かったみたいだし
俺も死に物狂いでよけたし、あっちも刀先の起動変えたみたいで
今も無駄に、生きてるよ」
「ほう、達人級ってことか、会ってみたいもんだな
おい紫音、これ貰っていくぞ」
そういい、一升瓶を持っていない方の右手で
切断された、木刀を握り作業場の奥へと消えていったのだった
「だな、俺ものその侍に会ってみないな」
鉄雄も父親の言葉に賛同する
そして、紫音は、その侍の姿、格好を鉄雄と胡桃に教える
そう、大きなテンガロハット、赤のTシャツ、デニムのジャンバー
太いハカマの姿の、アメリカかぶれの侍の事を
そして、3人で爆笑するのだった
紫音の頭の中で
そういえば、剣術教えてくれるって言ってたのにどうなったのか・・
ミカが連絡先知ってるらしいから、蓮にきいてみるか・・・
そんな事を思いながら、楽しい時間は過ぎていった




