10話 それからの、桜
桜は、鈴達と別れて、まずは購買に向かった
買い込むは、両手いっぱいの食べ物だ
それを、1つ、また1つ、口に運びながら、目的地に向かうのだが
購買についてから、桜は、頻りにその手を振るのだ
それと言うのも、中等部、運動部に置いて桜は有名人である
部活は入ってないものの、幾つもの運動部に顔をだし
手伝いや、練習相手、はたまた、練習試合の助っ人など色々こなしているのだ
そして、今日は、土曜日で、授業は午前中で終わり
食堂で昼食を取る生徒や、購買部で食べ物を買うのは
午後から部活動に励む生徒たち、それも運動部所属の生徒がおおいいのだ
そんな生徒達は、1人でいる桜を見つけると声をかけるだった
桜が友人と・・・・
いや、あの四条優美といたなら、声を掛ける事などいできないであろう
そして、三千風鈴といたなら、その可愛らしさから、男が声を掛けようものなら
彼女のガーディアンである、かんなに殺されるだろう
それでも、桜は、知り合いと目が合えば手を振る位はするだろうが
今日は、桜1人である
ここぞとばかり、皆が声をかけるのだった
そう、1人が掛ければ、30人居ると思え!と、言わんばかりに
「桜ちゃん、こんどバレーにも顔出してよーー」
「ティオーノ、こんど空手部きて、俺の相手してくれや」
「桜さん、先日はありがとうございましたと」
「今日は、どこ行くの?たのしんできてね~~」
その他にも、数え切れないほど
ひっきりなしに、声がかかるのだったが
桜の対応は、にっこり微笑んで、手を振るだけである
彼ら、彼女らは、そんな桜に
「返事くらい、しろよ」とは、思わない
それは、桜の性格を、その性分を分かっているからだ
あぁ食べ物を買い込んでるから
今日も何処かの部活に、行くのだろうと
そして、桜が、独特のテンポで会話をすることも
あれこれと、喋るのが苦手だということも知っているからだ
だからこそ、返事をしなくていいよと
これから、手伝いなんだろと
頑張ってこいよと
そして、又時間があれば、また頼むと
そんな、意味で、声をかけていたのだから
ただ、たまに、声を掛けられても、返事もしないと
桜の態度に、懸念を抱く生徒も居るが
それは、桜の実力も、性格もしらない、モグリか
桜が、顔を出したことのない部活の部員達であろう
*******
テニス部は、中等部校舎から、少し離れた所に有り
そのコートの近くに部室がある
何面かあるコートの1つに
すでに軽い準備運動を終え、柔軟を始める生徒が居た
彼女の名前は、岡田杏 (おかだあん)
テニス部、部員達が陰でオカンと呼ぶ
面倒見のいいテニス部主将その人である
その姿は、女子テニス部とは、思えない、ジャージ姿
いや、彼女以外は、男子生徒が喜びそうな
肌の露出が多いい、ミニスカート状のアンダースコートを履いていた
そんな、ヒラヒラのスコートを履く、貴乃と共にコートに現れたのは
体育の授業で着用する、体操着の少女、桜
テニス部、部室で貴乃と合流した桜は、着替えをすませ
今、コートを包むフェンスの門をくぐる
そして、コートの手前で、一度足を止め
軽く一礼
そして、再び歩き出し、コートで待つ女性に手を振り
「おひぃさしぃ~~」
「桜さん、今日は無理言って、ごめんね」
「だいじょぉうぶぅう~」
「ありとうね、私の、個人シングルの大会が近くて
強い練習相手いなくて、本当に困ってたのよ
本当にありがとうね
えっと、準備運動しとく?」
「かるくぅ~動いてきたぁからぁ、いらなぁ~~いぃ」
「それでは、時間が許す限り、お願いするね」
「はぁ~~いぃぃ、7時にぃむかえくるぅう、それまでぇならぁぁ」
「は?7時?マジ?・・・・・・」
テニス部主将、岡田杏、彼女が、前回桜と練習した時は
平日の授業終わりであり、その対戦時間は3時間に満たないほど
その時ですら、ボロボロとなった
次の日筋肉痛で学校に来るのすら、大変であったが
その経験と忍耐力は、彼女の実力を1段階上げたことは
彼女自身が、分かっており
だからこそ、今回も、お願いしたのだが
前回3時間で、ボロボロだったのよ?
今、1時半?・・・7時まで?・・・5時間ちょっとって?マジ?
いや、無理、死ぬ・・・私・・・死ぬって・・・
岡田杏の、そんな思いを無視するように
桜は、コートの反対側に、移動を開始していた
その後ろ姿は、軽く左右に体を揺らし、リズムを取るように・・
そして・・・
地獄の練習が、始まった
技術と経験で優る、岡田
身体能力とスタミナで優る、桜
初めは、岡田有利で始まった
そう、終わりの見えない地獄が・・・
基本ルールは、知ってる桜だが
未だに、1ポイントとると、0-15?なのかが
それも、15-30-40なのかも、意味分からない
そう、桜はテニスに置ける点数計算ができない
だからこそ、ポイントも、ゲーム数、無視の、終わることのない練習が始まった
貴乃や、マネージャー達、数名の部員が、2人のサポートに追われる
途中水分を取るくらいで、常に打ち合う、岡田と桜
テニスの試合は、2時間を越えることもある
それも真夏の炎天下のしたでだ
岡田も、それなりの体力を有しているが
さすがに、ぶっ通しで休憩無く3時間を越える頃には
動きが鈍くなる、それでも、その腕と戦略で桜と渡り合うが限界である
すでに、何度か転けて、ジャージも、汗と埃でボロボロである
前回の反省点を生かした、ボロボロになってもいいジャージなのだが
そんな姿の岡田相手でも、桜は止まらない
岡田も、そのテニス部主将の、プライドをかけて止まらない
一言「終わりにしようか」と言えば終わっただろう
だが、彼女も止まらなかった
疲れて、息が切れる、足もすでに、ガタガタだ
だけど、テニスは、ここからなんだ・・・・と
匠に計算した、ボール運びで、桜を左右に振る
だが、無尽蔵のスタミナを誇る、桜のスタミナが切れることはない
ならばと、桜の動きを計算して、その裏をかく
岡田は思うのだ、桜が取れないコースなら
いったい誰が取れるだろうと
そう、桜も人間である・・・・たぶん
コートの右から左へ一瞬で移動できるわけもない・・・・たぶん
走る方向の逆を付けば、急反転して追いつける訳が無い・・・・たぶん
どんどん、思考が飛躍していく岡田
最後には、桜に勝てれば、ウィンブルドンでも優勝デキルとまで!!
いつしか時間も、午後6時半となり
ようやく、それは、終を迎えた
岡田は、コートの真ん中で
転がり息を切らしながら
大声で叫び、大笑いを始めた
そう・・
「もう、うごけねーーーーーーーーーーーーー」と
そこには、女らしさも、女子力も何もなく
ただの、おっさんが存在していた
さすがの桜も
「つかれたぁぁ~~~~」
と、叫びコートに倒れるのだった
後日、テニス部に所属する、クラスメイト、貴乃が
笑い話の様に鈴達に、話す
テニス部主将が言うには
国体、Uー18の強化合宿よりキツかったと
おかげで、誰と試合しても、試合が何時間長かろうと
桜を相手した、あの地獄の5時間よりマシだと、言い切ったらしい
そう、桜は午後1時半から、午後6時半まで
一切の休憩を挟まず、主将の相手をした事実を聞かされた
鈴達は、桜はバケモノだね・・・・と思ったが
最後まで、その桜と主将が、いい試合をしたと聴き
テニス部、主将も、バケモノかと思うのだった
そして、この主将、岡田杏は
全中、(通常)シングルテニスで
他を寄せ付けない強さで個人優勝する事となる
*******
そして桜は、迎えに来た、ミカの車で嬉しそうに帰っていくのだった
車内での会話は、いたって桜の兄である蓮の悪口であった
ミカの運転する車は、ある場所へ向かって進んでいく
そう、ミカとミーティアの住む古ぼけた屋敷の在る場所へと
桜が、この家に来たのは初めてである
ミカも、細かくは言わない
桜も、聞かない
進められるまま、玄関へと通され
出迎える見慣れた女性が出迎え、リビングへと通される
「桜、来たか、テニスは楽しかったか?」
「たのしかぁたぁぁよぉ~~ここどこぉ~?」
その桜の言葉に、蓮は説明を始めた
この場所は、彼女達の住んでいる場所だと
蓮がここ1年ほど前から、実家に寄り付かなくなったのは
この場所に来ている事を
そして、三千風鈴の双子の兄も、ここに良く遊びに来る事を
そして、大事な事を桜に聞くのだった
ゴールデンウィークに、四条優美が何者かに襲われた事実
今後、四条優美や、三千風鈴が、何者かに襲われたら
何か困ったことがあったとき、桜はどうしたいかと
友達だからといって、自身が危険に飛び込むのが嫌で助けないのか
自身の危険より友達を助けたいか?と
桜は迷い無く答える
「助けたい!
でもぉ・・・戦うしかぁできないからぁぁ
もっとぉ~強くなりたぁぃぃ」と
それは、蓮の予想どうりの答えであり
蓮は心の中で、固く固くその拳を握りこんだ
そして、この瞬間から
桜は、紫音の作った武器を使い実践で戦える訓練を開始するのだった
今まで、鼓道場で実践形式で稽古をつけてはきたが
それは、何処までいっても、安全な稽古なのだ
だが、今日からは違う、本物の訓練である
一歩間違えれば、骨の1本・・・いや腕の1本吹っ飛ぶ程の・・・
現状の桜は、意思加速10倍程度、肉体加速3倍、念話可能で
あとは、蓮にとっては、微妙なティオーノ家に伝わる技が使えるくらいである
この時すでに、蓮と紫音の間では
この世界の人間では、意思加速は10倍程が限度であり
肉体加速も3倍が限度だろうと、話していた
鈴は特別使用であるので、例外ではあるが
鉄雄も胡桃も、現状で桜と、ほぼ同等であった
そして、意思加速10倍の鉄雄は、その視界に銃口を捉える事が出来るなら
拳銃の弾さえ、避ける事も、叩き落とす事もできるのと聴き
桜にも、近々拳銃の弾くらいは、弾ける程度にはしようと考え中である
だが、紫音に言わせれば、意思加速10倍のみで
拳銃の弾を補則できても、それに対応する事は、不可能に近い
斯く言う紫音でも、意思加速10倍だけでは、出来ないと断言した
だが、蓮に言わせると、この世界の人間を、いや桜を舐めるなと
生まれる前から、魔王【雷帝・レイ】の力を分け与えた来た
あれは、鈴と同じく規格外だと、あれの限界はまだまだ先だと
今までは、桜はその性格から、戦いを楽しんできた
だからこそ、現状で満足していた感があった
家族以外に、負ける事はない
その本気をだせば、そう意思加速を使えば
すでに達人と対等に戦えるレベルなのだから
達人クラス、その殆どが、意思加速に近い技を持っている
集中する事により、脳の情報処理速度を上げる
それにより、見える物の速度が遅くなり
スローモーションに感じる事ができる
それは誰しもが持つ力、死ぬ瞬間に見ると言われる走馬灯の様なものである
それを自らの意思で使うことができるからこそ
達人の域まで、上り詰める事ができるのだ
桜は、そのレベルまで足を踏み込んでいた
中学2年のその年齢で、達人クラスと戦えるなど
前代未聞である、元異世界の人間達を除いてはであるのだが
だからこそ、桜は自身の強さに満足していた
そう、それこそが、最近蓮が抱えていた悩みでもあった
強さに満足した人間を
向上心を失くした人間を
その先の次元に連れて行く事などできるはずがないと
だが、今回の件で、桜のスイッチが切り替わろうとしていた
あの時の、ボーンウォーリア、倒しても倒しても
復活してきて、桜ではどうしようも無かった
2人を助けれない、桜は、自身の力では
未知の存在相手に、その意味を成さない事を知った
そして、幾度も見た事のある、鈴の双子の兄、紫音の姿
それは、いつもと違っていた
その一本芯が通った立ち姿、無駄のない足運び
裸に、ロングコート言う、一風変わった服装
だが、そんな事よりも
たった一撃で、再生不可能な程、ボーンウォーリアを粉砕した
その未知なる力に惹かれたのだ
そして、紫音の本当の強さを、肌で感じ、直感で理解するのだった
その強さは、私の知らない強さ、そして、その後どう決着が付いたか謎ではあるが
自分達が、紫音によって救われたことを、桜は桜なりに分かっていた
そして、今、蓮の問いかけに
その決意を、口にする
戦える力を、友を守れる力を
心の底から欲したのだった
そして、更なる事実が桜を襲う・・・・
武器を持った蓮の真実の強さを
組手では、常に素手であった
だが、前世である、雷帝・レンのその武器は、伝説に名を連ねる剣であった
そう、蓮は剣を持つことにより、その戦闘力は一気に上がるのだった
そこには、桜の知らない、兄の強さがあった
今までは、兄との実力差は有る物の
それは何時しか手の届く場所だと思っていた桜だが
今、その浮ついた希望が崩れ去る音が桜の耳にひびくのだった
兄は、強かった、その実力を計る事すらできないほどに・・・
そして、驚く事に、蓮の友人達である、ミカとミーティアですら
桜の手の届かない強さを誇っていた
そして桜は聞くのだった
1年少し前から、兄、蓮と友達になった鈴の兄の事を
「紫音君もぉ~つよいのぉ~?」
「あぁシオンか、そうだな
言うなら、全力の俺と組手ができる、数少ない人間だろうな」
その言葉に、背筋を震わす桜
やっぱり、紫音君はつよいんだ・・・・
でもなんで、普段は、あんなに弱そうなんだろう・・・
「おっと、桜、そのことは内緒だからな」
「ん?」
「ついでに言うとな」
「なぁにぃ~?」
「シオンと鈴も、意思加速と念話が使える」
「!!!」
「それから、桜も面識があるだろうが、宮守の鉄雄と、妹の胡桃も使える
とうぜん、この、ミーティアとミカもだ
そういうことで、このメンツ相手なら念話を使っていいぞ」
桜は、知っているのだ意思加速
技でありスキルである、この意思加速
使えない人間に対しては反則級の、物であり
意思加速が使える人間に、使えない人間が勝てる事は有り得ない程に
だからこそ、普段は蓮の許しがない限り、桜は使わない
物心着いた時からの兄妹の約束であり
家族にも、誰にも知られては行けない事だった
そして、この反則級である意思加速を使える人間もいることを
達人クラスの武人ではなく、身近にいた事に驚くのだった
それも、先日まで、強いと意識した事の無かった人物達にだ
親友でもある【三千風鈴】今までそんな素振りをしたこともない
体育の授業でも、シミュレーション授業でも
鈴の成績は、上の下から中の上である
今まで隠していた?私も隠していたから、おあいこ?
でも、兄から許しがでたなら、聞いてみようと、思う桜
それでも、鈴の兄【三千風紫音】に関しては、理解できなかった
意思加速ができるから強い訳でもないのはわかる、だが
兄の蓮と同等の強さを持つなら、日々の紫音の態度が理解できない
色々考えてみるも、理解できないものは、理解できない
それも、これも、鈴に聞けばいいやと
最後は全て鈴だのみとなるのだった
そう、心の中で頷く桜
彼女は今、背中に冷たい汗をかきながら、その両腕を振るっていた
「集中しろ
相手の攻撃を正面から受けるな!
確実に受け流せ、そして受け流した後の起動も常に把握しろ」
蓮の激が飛ぶ
桜は、ただ一本の木刀相手に、死に物狂いで、相対していた
それは、蓮が片手で、自由気ままに振り回す木刀である
そう、ただ一本の木刀相手に、攻めあぐねる桜
いや、攻める余裕などない、防戦一方であった
そう、肉体強化を掛け、速度強化を使い
意思加速を最大まで使ってまでも
蓮の攻撃を防御するのがやっとであった
それは、昼に相手した、児玉とは違う
その全ての攻撃に意思が有るかのように
桜の読みを超えてくるのだ
木刀を弾き、一歩踏み込めば、攻撃が通るはずが
弾いた木刀すら、次の瞬間には自分を襲う凶器となる
そう、その一歩が遠いかった
「うぅぅぅ、ひきょうぅぅだぁぁ」
「そうか?俺は、意思加速5倍ていどで、加速も2倍程度だぞ
そんなんで、強くなっていたつもりか桜?」
「うぅぅぅ・・・」
「もう1つ、武力、その格闘術に置いて、桜は鈴より強いだろうが」
そういって、蓮は木刀を持っていない左腕から、魔力弾を放出する
突如の事に、防ぎきれずに、まともに腹部に受け
後ろに吹っ飛ぶ桜
その姿を見て、笑いながら
「シオンが言うのには、鈴は、魔力で俺の上をいくらしいぞ
その力を本気で解放すれば
今の俺では、鈴に近づくことなく負けると言ってたからな
一度は、鈴と戦ってみたい気もするがな
ハッハッハッハ」
ほっぺたと膨らまし
恨めしそうに兄を見つめる少女の地獄の訓練は
まだまだ続くのであった




