7話 朱莉親衛隊
鈍い音と共に、人が飛ぶ・・・
それは、半無意識で、桜が蹴り飛ばした人物であった
腹部を蹴られらだろう人物は、空中で体をくの字に曲げ
重力と言う物理的法則を無視し、気持ちいいほど一直線に飛んでいく
それは、柱の陰で、今まさに、三千風鈴を襲うため
一歩踏み出そうとしていた、舞姫と呼ばれる彼女の目の前を通り過ぎていく
(え?・・・)
鈴の姿を、首を動かし、その目で追っていた彼女は
優美達の後ろから、気配を消し、近づく人影に気がついた時には
すでに、桜色の髪をした少女の蹴りが、その人物を襲う寸前であった
そして、その人影は、近づいてきたその廊下を、吹き飛びながら戻っていく
それを目で追う、彼女は、吹き飛んでいく先に居る人物を視界にいれると
(先を越された・・・・)と、心で呟くのだった
そして、その音と共に、振り向いたが、何が起きたか、分からず
廊下を滑空する、人物にその視線をうばわれた4人
それとは別に、蹴り飛ばした本人は、我関せずである
吹き飛ばされた人物もそう長くは飛ぶことはなかった
その人物は、ある男に受け止められたのだ
体格の良い、その男子生徒は、まるで、ドッチボールのボールを受け取るかのように
飛んできた人物をその身体で受け止めたのだが
「この、やくたたずが!」
彼は、そう小さく呟くと、その腕の中で、呻き苦しむ男を横に投げ捨てた
鈴は、突如吹き飛ぶ男性も
それを受け止めた男性も、記憶に無い
それどころか、いつの間にか
受け止めた男のそばには10人程度の人間が集まろうとしていた
いや、すでに、自分達を挟んで反対側にも10人程度の、見知らぬ顔が集まる
そう、鈴達は、通路の前後を、20人程の人物に塞がれたのだ
ざっとみ、6人ほど女性が居るもの、鈴の知る人物は、そこにはいなかった
鈴は、中等部2年で、それなりに有名人であり
人の顔と名前を覚えるのが早い鈴の知らない人間となると
第一に考えられるのは、2年生では無いだろうと言うことであり
2年のクラスの前まで来る事からには
3年で有る事は、ほぼ間違いは無いだろうと、瞬間的に鈴は判断したのだった
だが、なぜ?3年がここに?
そんな事を思い浮かべる以前に
そのワケは、今、仲間であろう人物を横に放り投げた男子生徒であり
この3年の集団のリーダーであろう男子生徒が口を開いた
「フッ・・・・さすがは、我らが女神であられる
朱莉様と対抗しうる、実力は兼ね備えているみたいだな
一目見てわかったぞ、お前が、三千風鈴だな!」
その男は、仲間を蹴り飛ばした人物である
桜色のくせっ毛を揺らす少女を指差すのだった
「・・・・・・・・・・」
指を指された桜は、その言葉の意味が分からず、キョトンと首をかしげた
その光景を見ていた、鈴達や、舞姫と呼ばれる人物
ひいては、2年の教室の中や、廊下から、見ていた人物は
こう思っただろう
【このおっさん、何も知らずに来たのかよ!】
壮大な勘違いの為、どう対応していいものか悩む鈴達
そして、数秒の沈黙の時間が流れる中
堂々と堰を切った男に対し
仲間であろう人物が、近づき気まずそうに近寄り耳元で囁く
それに耳を傾けた男は
「一目見てわかったぞ、お前が、クズ達のお山の大将の、ティオーノの妹か」
恥じらうこともせず、ドヤ顔で言い直した・・・・
その言葉に、桜は横に居る人物を確認し振り向く
そして自分より一回り小さい少女、鈴に小声で話かける
その言葉に、鈴は唖然とするのだった
その内容は【お山の大将ってなぁにぃ~?】なのだから
それくらい知っておいてよと、思うが桜だからなと
諦めその意味を簡単に説明するのだった
【簡単に言うと、クラスのリーダー的存在?って事かな】
それを聞くと、小声で「ニャ!」とはっし
ニンマリと嬉しそうな顔を浮かべるのだった
鈴には見えた、猫のような耳を立たせ、嬉しがる桜が
そして、桜は両手を腰にあて【自分の兄はすごいんだぞ!】と言わんばかりにドヤ顔を決めた
ちがうの桜、ほめ言葉じゃないのよ・・・それは・・・
男は、そんな桜を見て、口元をピクピクさせると
「ふん、まぁいい、今回は、お前に用事があってきたんだ、三千風鈴」
そして、その男は、ある女性を指差すのだった!
そう、私の視線の遥か上を
まるで、私を無視するかのように
となりに居る、かんなを指差したのだ
私は聞きたい、お前の目には私の姿がどう見えているのかを!
そして、指差された、かんなの雰囲気が、一気に変わった事は
かんなを見なくても分かった・・・・
うん、これは悪乗りする前兆だと・・・
「よくわかったわね、私が三千風鈴だと」
「誰が見てもわかるだろう、そこに居るのは、四条様
そして、小早川に、奴の妹と、ガキが1人
あと、のこるは、お前だけだ、三千風鈴」
小早川? 優美ちゃんの事は知ってて当たり前として
なっちゃん (小早川夏目)の事を知っている?
っていうか、かんな、ノリノリだね・・・
なっちゃんも面白がってるし、桜は蓮さん褒められてウキウキだし
優美ちゃんは・・・悩んでるね・・・
無駄に・・・色々と・・・・
そして、あの男の周りの人間は気がついたみたい
三千風鈴となのったのが、違う人間だと
いや、初めから私が三千風鈴だと知ってる人間はいるみたいだし・・・
そう、前に出てきて会話をする男
仲間の人間が、その男に話しかけようとするも
「今は俺が話してるだろうが、後にしろ」と
仲間の静止を振り切って会話をすすめる
それはそうだ、かんなが、自分を三千風鈴と認めたのだから
勘違いだとは、思いもしないのだろう
あって数分も経ってないけど、頭が固く、プライドが高く
人の話を聞かない、思い込みの激しい人間だと言う事は
誰の目にも明らかだろう
「まぁそうだよね、そうなるわよね、うん、褒めてあげるわ
それで、そういう貴方はだれなのかしら?」
かんな、私ってそんな喋り方なの?
まるで、あの男をバカにしたような口調・・・
でも、バカにしたい気持ちは重々わかるんだけど
腑に落ちない!!まったくもって、腑に落ちない!!!
「ふん、我等は【柊朱莉】様のファンフラブの精鋭で結成された
朱莉様の親衛隊である
そして、俺は、ファンクラブ及び親衛隊、中等部リーダー【児玉三郎】
さっそくで、悪いが三千風鈴、お前に罰を下す」
「罰をくだす?私が何をしたと言うの?
もしかして、あの合宿の事?
あれは全て、そう、あの女!生徒会長の柊朱莉が、悪いんであって
私が罰を受ける、いわれはないのはずだけど?」
そう、私は悪くないけど、かんな・・・・あの児玉って人顔真っ赤だよ
そう、児玉と名乗った男は、顔を真っ赤にし、今にも爆発しそうであった
「あの女だと・・・・・・・・・・我らが女神であられる朱莉様を・・
粛清だ!お前を粛清してやる!!!」
流石に「あの女」は、此処に居る親衛隊のみなさんの感にさわったのか
いっきに、雰囲気が悪化していく
そう、すでに、この親衛隊と名乗る人間達の標的は
かんなに移り変わろうとしていた
児玉は、親衛隊に号令を出すため、右手を上げ
そう、児玉は、三千風鈴を痛めつけ、謝罪させるため
その武力を掲げ、いっきに攻撃しようとしていた
「お前ら!」
「すこし、お待ちを」
そこに口出したのは、夏目であった
「お久しぶりです、児玉先輩」
「・・・小早川・・・」
「さて、魔法剣術部、主将であられ
3年の上位ランクに名前を連ねる先輩が
後輩を、それも女生徒1人相手に、20人近い人数でですか?
多少のデュエルや、模擬戦を了解している学園であっても
この、イジメと思われる行為は
貴方が尊敬する柊朱莉さんの名前を傷つけるのではありませんか?」
その言葉には、頭に血が上った児玉や
親衛隊と名乗る人間達も動きが止まる
そう、朱莉様の親衛隊を名乗ったからには
その行動は朱莉様の評価に直結するからだ
すでに、児玉は、数度同じ様な事をして
朱莉から、お叱りを受けていたからだ
児玉もこれ以上、自分の評価を下げる事を避けたかった
児玉は、夏目を睨みつける
(小早川か・・・こいつは、高等部おろか、大学院、学園卒業生にも顔が利く
俺の上の兄貴も、あまり関わるなと言っていたが・・)
大勢で、1人の後輩を、痛めつけるのが無理であるなら
相手は、小娘1人、自分が出れば事が足りると
無い頭を巡らすのだった
「なら、俺が相手をしてやる、かかってこい三千風鈴!
模擬戦で、朱莉様が手も足も出ず、負けたと言う、お前の強さを見せてみろ!」
さて、私は3年の間で、どんな風に噂されているのか気になる所だけれど
私は、戦っていい人間ではないし
かんなが演じる私を対戦相手に選んだみたいだけど
かんなも多少戦えても、学園で行われる
シミュレーション戦闘や、個人デュエルでの総合ポイントで
格付けされる、学年別個人ランク
中等部の各学年の約360人中の上位30に当たる
学年上位ランクと呼ばれる人間に勝てるほど強い訳ではない
かんなも、だけど私や夏目も、ランク外だし
3年の上位ランクの相手と戦えるのは
同じく、2年の上位ランクである、優美ちゃんか、桜だろう
その事は、かんも分かっているはずだけど?
「たかが、上位ランクの児玉先輩が、私の相手を?
なかなか面白い事をいいますね
生徒会長であって、学年ランク、トップ10に入る柊朱莉を倒した私に
貴方と、デュエルをしろと? フッ、格が違いすぎますよ
そうですね、この子、桜を倒せるようでしたら相手をしれもいいですよ」
「にげるのか!俺は、お前ら2人を相手してもいんだぞ」
「それは、この子に勝ってから言ってください
桜、私が三千風鈴の名前によって命令します
全力で彼を倒しなさい」
まって、かんな!
あの生徒会長を倒した?いつ?だれがよ?
貴方の中で、私ってどんな存在なのよ!
それに、桜に対して、今まで1度だって
そんな風な命令をしたことも
そんな事を言った覚えはないよ!!
てか、勝手に私の名前で桜を戦わせないで!
あぁぁぁ・・・桜やる気だ・・・
小刻みに身体ゆらして、リズムとってるよ・・・・
朝から、何故か機嫌良かったから、もう止まらないよね
それに・・・すでに手遅れなんだろうね・・・
野次馬が桜をけしかけてるし
やめさせたい鈴の想いとは関係なく
状況は徐々に悪化していく
騒ぎに気づいた2年の教室の人間達は
すでに、鈴達が対峙する廊下側に集まり野次馬と化していた
その場にいる全員が見守る中
桜はその場から一歩踏み出し、児玉を相対する
児玉は、自身に強化魔法を掛け
木刀を取り出し、その木刀にも魔法を付着させた
魔法剣術部主将である、児玉
魔法を駆使し戦う、魔法格闘部とは、少なからず因縁のある部活でもあった
それは、生徒会長の柊朱莉の側に常に居座り続ける
生徒会副会長であり、魔法格闘部主将【草壁大樹 (くさかべだいき)】とは仲が悪く
事あるごとに、2人は比較されてきたからに他ならなかった
魔法格闘部も武器は使うが、これは素手を守る篭手や軽い防具は使う事はあるが
基本的な戦い方は、無手である
魔法剣術部、彼等が使う武器は
日本刀、剣から槍、戟、薙刀と多種多様であるが
児玉は今、一本の木刀を手にしていた
得意武器は、別の打撃武器なのだが、その武器は、柄が長く
校内では、使い勝手が悪いため、普段は木刀を所持していた
刀身が無く、打撃武器に近い木刀は
土魔法の硬化魔法を得意とする児玉にとって相性が良い武器でもあった
そして硬化魔法を掛けた、木刀のその硬度は
鋼鉄ですら軽く凌駕する物になっていた
その一方、桜は魔法を掛ける様子も無く
スカートのポケットに、おもむろに手を突っ込み
ある物を取り出し、その手に装着しだした
デジャブ?・・・・なんだろうか?最近同じような光景を見た気がする
どこだったか・・・・・
そんな事を考える鈴だったが
桜と優美の会話で、それがなんだったか思い出すことになる
桜の手にするグローブ、それを見た優美は数日前の記憶が蘇り
その綺麗な声を震わせる
「さ・・桜、それは・・・・」
「んとねぇ、りるちゃんにぃ~、新しいのもらったのぉ~」
それは、今朝早く、リルがティオーノ家に赴き
蓮と桜に、紫音が作り直した武器を2人に手渡した
まずは、蓮に、おなじみの魔法刻印付き木刀を
そして、桜に、桜専用ナックルを手渡し
軽く以前の物と違う事を説明する
今回は超振動の魔法刻印は無く
桜専用ナックルとして、拳の保護、ナックル内側における衝撃吸収と
特殊な金属を使い、壊れない事を重点に置いた
どちらかといえば、防具に近い物になっていると
(リルは口にしないが
前回、壊されたのが、よほど悔しかった紫音が
壊せるものなら壊してみろと
他の作業を後回しにして、速攻で作り上げたのが
今回手渡した、ナックルである)
新しい武器を貰った桜は、朝から上機嫌であった
そして今晩、兄である蓮と、この武器を使って組み手の約束もしていたのだが
兄と組み手をする前に、このナックルが使えると
まるで、新しいオモチャ箱を開けたように、興奮する
そして今桜は、リルに貰った、ナックル付き指抜きグローブを両手にはめ
軽く指を動かし、装着感を確かめる
その行為は、優美のトラウマを呼び覚ます
それは、自信をもって展開した複合の防御魔法陣を
そのナックルで穴を開けられたのだ
そう、優美がそのナックルを、忘れるわけがなかった
そう、そのナックルを装着した桜の破壊力を
鈴と優美だけが知っていたからこそ、2人に緊張が走り
額に嫌な汗がにじみ出ようとしていた
そして、2人の思いは・・・・
「桜、できるだけ手加減をしてよ、あの人殺さないでよ」であったが
今回は超振動の魔法刻印を使っていないので
攻撃対象を粉砕する事は無い
だが桜にしてみれば、このナックルなら
どんな鋭い武器や、物理的攻撃も防御可能であり
どんな武器相手でも、どんな強固な防具、盾相手でも
拳を気にせず攻撃できるのだから
素手から考えるなら、その戦闘力と、戦術は、素手とは別物になっていた
そして、桜がこのナックルが壊れないと核心しているのは
そのナックルを見た、桜の兄・蓮は、その金属が何であるか一目で理解し
その硬さに、コレは壊れないぞ、と太鼓判を押したのだ
これを防備した時に限って、【人体以外】への攻撃に対し
その力の半分くらいなら使ってもいいぞと、お墨付きももらっていた
元々、桜が負けるわけがないと思っている、鈴達4人
だからこそ、かんなは、桜を児玉にけしかけたのだ
だが、グローブが、あの時のグローブだと分かると
優美も、流石の鈴も緊張が走る
震える優美の声、そして、瞬間であったが硬直した鈴の態度
それを感じ取る、かんなと夏目に、違う意味で緊張が走った
かんなの頭の中をよぎったのは
鈴が緊張してる?もしかしたら
それほどまでに、この児玉と言う男が強いかと
だが、桜の強さは別物であるが、もしかしたら
桜が負けないまでも、苦戦するのかと
もし桜が、怪我をしたらと
かんなは珍しく、軽はずみな自分の行動に
後悔が頭の中をよぎるのだった
夏目は、眉間にしわを寄せた
優美が声を震わした?何かを恐れている?
児玉は、学年個人ランクでも20位前後だったはず
だけど、接近戦では、中等部最強と言われる
副生徒会長であり、魔法格闘部主将、学年ランクも10位前後である
【草壁大樹】先輩と同等の強さを誇ると噂もある
もしそれが、本当なら、桜では勝てない?
優美は、児玉の実力を知っていた?
桜が負けて傷つくことを恐れている?
そうであれば少しまずいことに・・
そして、此処にもう一人悩む人物がいた
柱の陰で優美達を見つめ
鈴を襲撃するべく待ち構えていた舞姫と呼ばれる少女
いや、すでにその柱を追い越し
柱の方向を振り向いている鈴達の視界には
柱の角に両手の指を引っ掛け
無理な角度で首だけを此方に向け、柱にへばりついている
制服の上から赤いストール羽織り幾つもの貴金属を身につけた
オリエンタル系の雰囲気を可持ち出す
舞姫の後ろ姿がはっきりと見て取れていたが
今、彼女は自信の姿を気にしている状況ではなかった
彼女は三千風鈴の襲撃を、朱莉親衛隊に、先を越されたのだ
そして、繰り広げられる脳内イメージ・・・・
「朱莉様、我等朱莉様親衛隊ガ、ニックキ三千風鈴ヲ、ボコボコニシ
朱莉様ニ対シ、土下座ヲサセ、謝ル姿ヲ、ココニ録画シ
持ッテマイリマシタ」
「オオ、流石ハ、私ノ愛スベキ親衛隊
良クヤッテクレマシタ
児玉及ビ、親衛隊ノ皆様ニハ
何カゴ褒美ヲアゲナケレバナリマセンネ」
「我等親衛隊ハ、朱莉様ノオ側ニ居ラレル事ガ幸セデアリ、誇リデゴザイマス
ソシテ、コノ映像ハ、朱莉様ノオ許シ有レバ
校内ネットデ今スグ流ス準備ガ出来テオリマス」
「ソウデスカ、スグニデモ校内ネットデ流ス事ヲ許シマショウ
ソレニ引キ換エ、舞ハ何ヲ、シテイタンデショウ」
「ソノ事デスガ、我等親衛隊ガ、現場ニ到着シタ時ニハ
スデニ【月陰舞 (つきかげまい)】ノ姿ハアリマシタガ
終始陰ニ隠レ、出テクル事ハゴザイマセンデシタ」
「イッタイ舞ハ、何ヲ考エテイルノデショウカ
モウ友人トシテノ縁ヲ、切ッテシマイマショウ
アンナ友人イリマセン
私ニハ、親衛隊ノ 皆様ガ居レバ、他ハ何モイリマセン」
「ソウデス、我等親衛隊ガ居レバ、アンナ女イリマセン」
「ソウ舞ナンテ、イリマセンワ、フフフフフフッフフフ・・・・・・」
「ソウデストモ、アンナ女イリマセンヨ ワッハッハッハッハッハ・・・・・・」
「フフフフフフ」
「ハッハッハッハッハ」
親友の朱莉から見捨てられる事を、脳内でイメージし
柱に張り付いたまま、その瞳に涙を貯める舞
そう、このまま、手柄を児玉に取られると、自分が捨てられると
ならば、児玉君の邪魔をしてやる
私と朱莉ちゃんの仲を裂く悪者を!
あいつを!
児玉君を!
私が倒してやる!
思考が混乱する舞は、まったく違う方向に
その次なる決意を固めるのだったが
彼女の行動より先に、児玉は動き出したのだった
「ぬぉおぉおおおおぉぉぉぉぉーーーーー」
児玉は、桜の準備が終わったと確認するや
いきなり声を上げ、最上段に木刀を構え襲い掛かる
だが、桜はその木刀を軽く弾くのだった
何時もなら、軽く躱す桜だが
ナックルをつけた今、躱すと言う行動は桜の頭には無くなっていた
児玉の手に伝わる衝撃
何か、とてつもない硬い物を打ち付けた感覚
(ありえない・・・・・)
だが、児玉の攻撃は止まらない
何度も何度も、木刀で桜を叩きつけるが
それは全て、桜のナックルによって防がれていく
「なぜだぁーーーーーーーー
そんな、ちっぽけなナックルが、なぜ砕けん!
硬化魔法を掛けた、この木刀はモース硬度で12以上
ヌープ硬度で2000は超えるんだぞ
厚さ10cmの鋼鉄の板でさえ、ヘシ曲げる事ができるんだぞ!!」
叫びながら、力任せに打ち付ける児玉とは対照的に
ナックルを徐々に手に馴染ませながら、全ての攻撃を弾き返す桜
桜にとって、児玉の攻撃を凌ぐ事は、造作も無いのだ
普段の稽古相手の蓮と比べるも無く
桜にとって、児玉の動きは遅すぎた
そして、流石に児玉の言っていた通り
木刀とは思えない程の硬さの武器の衝撃は
衝撃吸収を付けてると言っても、多少の衝撃と、痛みは伝わる
桜には説明してはいないが、紫音がワザと残している
やりすぎない為の、ある種のセーフティーである
そんな事お構いなしの桜は
弾き返すナックルに徐々に力を込め、反撃を開始する
力を20%・・・・・・
25%・・・・・・・
30%・・・・・・・
そして35%に差し掛かろうと言う時
児玉の木刀は、粉砕された
防戦いっぽうだった桜が、児玉の木刀を粉砕したのだ
野次馬からは、歓喜の声があがり
朱莉親衛隊からは、悲痛な叫びが上がった
児玉は、一旦距離を取り、仲間の元へと戻り
仲間の1人が、持っていた西洋の片手剣・ブロードソードを奪うのだった
そして、それに硬化魔法を使う
「フフフ・・・これは鉄の剣だ、その元なる属性は土だ
そう、硬化魔法との相性は、木刀より剣の方がいいってことを知っているか?
そうだ、今まさに、この剣は、ダイヤモンドの硬さに届くほどだ
モース硬度14以上、ヌープ硬度5000に達する
先ほどの木刀の比ではないわぁぁぁぁっぁぁ」
叫びながら、桜に突っ込んでくる
身体強化、速度強化、そしてダイヤに匹敵する硬さの剣が桜を襲うのだが
桜は、その攻撃を避けるわけでもなく、受け流すわけでもなく
正面からナックルで打ち返す
鈴以外は、流石に、あの桜の可愛らしい小さな手に装備された、ナックルでは
児玉がダイヤの硬さと言い放った剣は、相手が悪いと、2つの金属が衝突する瞬間
目を背けたり、手で顔を覆い目を塞いだりと、苦い顔をするのだった
かんなと夏目は、けしかけたのは自分達だと言わんばかりに
歯を食いしばり、じっと見つめる
だが、大きく弾かれたのは、児玉の剣であった
躊躇無く、右拳を突き上げ、振り抜く桜
ダイヤであろうと、なんだろうと関係ない
兄である、蓮がコレは硬いと、壊れないと、太鼓判を押したのだ
なら、壊れる訳が無い、そこに一切の揺ぎはない
そして鈴も、ある程度予測はついていた
桜が、リルから貰ったって言ったには
あれは、紫音が作った武器であり、前の奴が、この間壊された事から
あの新しいのは、紫音の性格からして絶対壊れない使用なのだろうと
たぶん相手が本物のダイヤモンドであっても
物理的な攻撃で、あれが壊れる事はないんだろうけど
たぶんアレ、オリハルコンか、アダマンタイン、クラスの金属・・・・
あっちの世界の金属か・・・・
こっちの世界の金属では、傷1つ付けれないだろうな
そう、鈴の考えは当たりである、この桜のナックル、オリハルコン製であり
それも、ただのオリハルコンではない
あちらの世界で、シオンが集め回った
レア、レジェンド、ゴットと呼ばれる武器防具
そのレジェンドと呼ばれる伝説級の武器と、レアと呼ばれる武器、2つを使い
その核となる金属を、リルの天力によって抽出する
それは、純度100%のオリハルコンであり
それを、リルの魔力によって成形していく
最後は、紫音の手によって、改良を加えられ
新しく生み出された唯一無二の武器である
そして、元々、2つのレアクラス以上の武器であった、このナックルは
その2つの武器が所有していた、その特性とスキルを受け継いでいたが
その事は、生み出した紫音さえ知らない
だが、まだ武器として熟成されていない、生まれたてのナックルは
その本来の力を全て解放するのは、少し先の事なのだが
今まさに、その片鱗を覗かせていた
紫音が、そのプライドを掛けて作り上げたナックル
レア級どころではない、伝説級の武器となっていた
それも、これも、その作り出した工程の90%以上を
紫音から【存在自体がチートだろ?】と言われる
リルが作ったからに他ならなかった
上段から繰り出された児玉の剣を、右拳を突き上げるように弾いた桜は
大きく左拳を後ろに引き、力を貯めた拳は児玉を襲う
児玉も、その攻撃を普通に受けるほど馬鹿ではない
手に持つ剣の背を斜めにし、攻撃を受け流しながら
児玉自身も、大きく後ろに飛んだ
衝撃を最小限にまで、とどめた児玉だが、そこまでしても
手に持つ、ダイヤモンドの硬さまで届こうかという
片手剣の刀身は、見るからに曲がっていた
大きく距離を取った児玉
素手での接近戦がメインである桜にとって
相手との距離が空くのは不利であり、嫌いでもあったが
唯一、その距離で攻撃出来る技があった
兄である、蓮が居ないからこそ使える技
使ったことがバレると、後でお仕置きを受けるだろう
封印された、桜の大好きな大技
桜は体を軽く右に捻り
「どっかぁぁーーーーーーーーーーーん」
大声と共に、右拳を前に突き出し、児玉に向けて飛んでいく
それは誰の目から見ても、ただの力任せの特攻であった
その瞬間、2人の戦いを遮るかのように
二人の間に現れた人影があった・・・・・
*************
*************
余談ではあるが
後日、桜のナックルについて、蓮が紫音に問いただした時
紫音は、数年ぶりに熱く語ることとなった
そう、桜に試作機であったナックルを壊された事を
紫音がシオンと1つと成って、そう時が経っていないとき
作り出した、【鉄板入りグローブ】
それを改良して作った【超振動刻印ナックル】であったが
それが壊れる事など想像してなかった
そして、その後、自身の武器を木刀メインにしてからは
ナックルの事を、忘れていた事を
だが、初期の刻印付き武器で、安定性は悪かったのかもしれないが
それが、使用者の力で壊された事は、シオンのプライドを打ち砕いた
ならプライドをかけて、壊れないものを作ってやる
そう、けっして壊れない金属、あの世界の金属、オリハルコンで作ってやると
あっちの世界で集めた、武器防具
俺の死後、街の連中がその存在を掛けて
何かの巨大な力と戦う時に、少しでも、その力になるようにと
レア・レジェンド、そして数少ない、ゴットと呼ばれる、武器防具である
(何十回も転生を繰り返してきたシオン
その中の数度、武器防具集めに燃えていた時があった
その目的は、神や魔王と戦う準備であった
その時集めた武器防具はシオンの記憶に残っているだ
だからこそ、前回のその世界で、難なく、集めれたのだ)
その中で、使い勝手の悪い、オリハルコンを使用した武器2つを取り寄せた
一本は、【エペ・レペ】言う伝説のレイピア
全長1キロを越える伝説の亀アダマンタートル
その魔法障壁を抜いてアダマンタイトの甲羅を割った
異世界の剣士が使ったという伝説の武器である
使い手を選ぶその武器は、その武器に特化した剣士じゃないと使う事ができず
シオンの周りには、誰一人として
このエペ・レペを使いこなせる人物がいなかったのだ
伝説で伝わる、その武器のスキルは【魔法抜き】と【重心固定】である
【魔法抜き】
攻撃特性突きに、攻撃対象の防御スキル・魔法を抜けて物理攻撃が出来る
相手の、スキル・魔法の破壊、無効化ではなく、無干渉での攻撃である
【重心固定】
使用者の重心を重力に無視して固定できるものである
地面に対し体が、どれだけ斜めになっていようと
使用者が自分は、真っ直ぐ立っている、地面が斜めだと思えれば
実際の重力を無視し倒れないと言うものである
現代風にいうならば、高性能のオートジャイロである
ただ、地面に対して、重力は真下にかかると言う
固定概念がある頭の硬い人間には、このスキルは使いこなせない
そして、異世界で空を飛べる事の出来る人間は
空中で留まれるため、この重心固定のスキルは、無用の長物であった
もう1つは、オリハルコンの短剣、レア武器である
こちらは、オークションで買った物で
鑑定スキルの持つ人材が、シオンの近くに居なかったため
その存在の有無は解らないが
オークション資料には付着スキルは無しであった
そう、この2つを、【チートだろ、お前?】と思わす、リルの手によって
純度100%のオリハルコンを抽出し、成形したのだ
そして、紫音が作り出した、黒龍のなめし革で作ったグローブと合わせ
桜専用ナックルを作り出したと
その性能は、多少の衝撃吸収と、硬いだけだと、誇らしげに言うのだった
そう、魔王クラスの魔力か、リルでないと
壊すことも、傷1つ付ける事もできないだろうと
それを聞いた、蓮が、自分にも、剣を作ってくれと言うのだったが
紫音は言うのだった、無理だと
そう、ナックルに関しては、打撃武器であり
特徴は硬いだけだから、リルでもどうにかなったが
剣や刀など、刃の付いた武器は、それなりの技術が伴うと
それは、さすがにリルでは、作ることも、メンテすることも出来ないのだと
そう、リルは、不器用であり、細かな作業はできないのだから
実際、今も、あっちの世界で、レジェンド武器防具を打てる人材を探してはいるが
未だ居ないと、告げたのだった
それは、さすがに蓮も納得いったのだ
あの世界で使っていた自身の愛剣も
レジェンド・伝説クラスの武器なのだ
そんなものが、チートだからって、ほいほい作られたら
たまったもんではないのだ
それに、桜なら、硬いナックルと言うだけで
鬼に金棒、その戦い方、戦術は、飛躍的に上がるだろうと紫音告げる
そして、更に恐ろしいことを、サラっと言うのだった
そう、素のパワーだけなら、自分 (蓮)より桜の方が上だと
蓮は生まれる以前、母親の胎内に居るときから
雷帝・レンとしての記憶があったらしく
妹である、桜が生まれてから、ずっと、魔力や覇気を送り続けていたらしい
桜は素の状態で、軽い覇気を纏っているらしいのだ
その為、力だけなら、蓮より上らしい
だが、蓮クラス、達人に近いレベルの戦いに置いて
力だけでは勝てないのも事実であり
組手に置いて力で優る桜でも、蓮に手も足もでないのだ
そして、桜も意思加速や念話、肉体加速・その他にも色々出来るのだと
普段は、蓮の許可なく使うことは禁止されているらしい
そう、もしも、その力を、リルのテリトリーの範囲で使うことがあったなら
桜の背後に、異世界の人間が居ることが、紫音の耳に伝わっただろうが
頑なに、蓮の言いつけを守った桜
そして、まるで覇気による、威圧や攻撃性の力の存在を感じさせない
あまりにも自然体でナチュラルな覇気は
リルに何も感じさせないほどであり
それは、知った後で
「信じられません、全く気付きませんでした
桜さんは、実は天才では?」と、心底驚くリルであったし
「あぁ、たぶん将来は、ウチのジジィ【拳聖】を越えるだろうな」
と当たり前の事の様に、蓮に言わしたのだ
紫音にしてみれば、日本において
数人しかいない武人の頂点【聖人】称号を持つ1人
【拳聖・鼓仁】を越える?
驚きのあまり、自分の耳を疑い、蓮に聴き直したくらいである
でも、最後には
「まぁ俺は、その先の次元に行くがな」と笑っていたが
この兄妹は、人間のその身で、何処まで強くなる気だろうかと
軽くわらう紫音だった
そして、頭に浮かぶのは
現状で、蓮と鉄雄・・・・
2人の強さを、身近で見ている紫音
戦闘スタイルの相反する2人が本気で戦えば
いったい、どっちが強いのか・・・
面白そうではあるが
それを口にすると、面倒事に巻き起こまれると
心の奥底にしまう紫音であった




