6話 決意
5月の連休も終わり
半日授業である、土曜日の午前中の授業も終わり
中等部本校舎、2-Bクラスで、その瞳に熱い決意を固めた少女がいた
そう、その少女は、右手の拳を固く握り思うのだった
(来週こそは、三千風紫音君を捕まえる)と・・・・
そして、そんな決意を、無視するかのように
友人達に、急かされる四条優美
そして急いで、帰り支度を行うのだった
優美の周りには、4人の友人達がいた
背の低い少女、鈴
その鈴に、抱きつき愛 (め)でる、かんな
その2人を、にこやかに見守る、夏目
体を左右に揺すりながら、その場でクルクル回る、桜
そんな友人を、嬉しく思う優美
5人は、午後から遊ぶ予定もない
一緒に帰るにも、5人は校門で別れるのだ
優美は御迎えの車が来ているし
かんなと夏目は、同じバスだが
鈴も桜も別々のバスなのだ
それなのに、校門まで一緒に行こうと待っていてくれるのだ
中等部に上がる、小等部での6年間、友人と言う友人が居なかった優美
クラスでも浮き、必要以上クラスメイトとも話すことはない
ただ、いつも1人だった、それを辛い寂しいと思ったことはない
それが、十士族・四条家に生まれた者のとして
逃れれない宿命と教えられた
そして、四条家の長女として覚悟していた
だが、今はそんな覚悟も
嘘だったかのような景色が目の前に広がる
ただただ、その光景が嬉しかった
手を止める優美に、再度友人達が、笑いながら帰り支度を急かすのだが
そんな些細な事すら嬉しい優美は、微笑みながら支度するのだった
「うわ!怒られて、ニヤついてる・・・優美ちゃんが壊れた・・」
「心配しなくても、かんなはすでに壊れてるから」
「壊れてない、りんが、かわいすぎるのが悪いんだ!」
鈴に後ろから覆いかぶさり、鈴は私のものと言わないばかりに抱きしめるのだった
そんな事、何時もの事だと、夏目は桜に声をかけた
「そういえば、桜?さっき、貴乃 (たかの)と話してたけど?」
「あぁ~~・・・・女子テニス部がぁぁ
試合近いからぁ主将のぉ練習相手ぇ~たのまれたぁぁぁぁのぉぉぉ~」
「なら、今日は、テニス部にいくの?」
「うん~後で遊びにいってくる~」
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部活動
基本、文化部と運動部と分かれるが
自由な校風で、個人の能力や、やる気を認めている学園では
部活動の掛け持ちを許されている
文化部に関しては、その部活によるが
人によって5個以上の文化部を掛け持つ生徒もいる
運動部は、運動部で、2種類に分類される
通常運動部、これは、魔法を使用しない部活動となる
魔法運動部、魔法を駆使し競技を行う部活動である
通常運動部に置いては、基本は魔法不可である
デバイスの持ち込みは、不可であり
魔法は、反則であり厳しく罰せられる
魔法監視システム、その名を、【ジャジメントシステム】
デバイス使用や外部からの魔法使用を見つけるもので
通常の監視カメラにも、搭載されているシステムである
試合会場等では、常に数台のカメラが魔法の有無を確認しているのだ
また、大きな大会では【ADS (アンチ・デバイス・システム)】が
備わっており、デバイスの起動が制限されている
また、国の機関や、役所・銀行と、このADSは広く配置されている
そして、このジャジメントシステムに見つかると
悪質であれば、即失格、数年に及ぶ出場停止
またその個人において、他の競技、部活にても出場停止と
かなり重い罰がくだされるのだ
魔法を使えば、100メートルを9秒を切る人間はたくさん居るのだ
そんな魔法を使わせないための、ジャジメントシステムでありADSなのだ
その反面、魔法運動部、魔法使用を目的とした競技もいくつもある
有名な所だと、魔法格闘部や、ポイントショット (狙撃)部、等だ
変わり種だと、フリーランニング部
魔法のみで戦う魔法戦術 (オールフリー)部などだ
だが、個人で、一流を目指す人間や
団体競技にいたっては、国体、インターハイを目指す人間に
そう幾つもの部活を掛け持ち出来る訳もなく
大概は、掛け持ちしても、2個が限度である
だが世の中には規格外と思わせる人間もいる、それは桜である
小等部から、学園に通う桜の運動神経は、運動部では有名である
そして、ものによるが、個人競技に置いて
桜は全国レベルでも通用出来る腕前であるが
その当の本人である桜は、帰宅部である
そして、中学全国トップレベルの、女子テニス部主将と
渡り合えるのは、中等部において、桜だけである
幾度か、勧誘されたが、桜は断っていた
テニスにいたっては、得点の計算が理解できないらしい
また、数多くの運動部からの勧誘も全て断っていた
断る理由は「日曜は遊びたい」と言って誤魔化すが
実際は、他人や友達がどれほど、桜が強いと、すごいとを褒めようが
家に帰れば、桜は一番弱いのだ
父は、拳聖と讃えられた人物の子供であり
母は、海外の、ある古流武術の流派を受け継ぐ人間である
兄は、兄で、無駄に上を目指す、格闘バカであるのだ
桜は、桜で、一歩でも、家族に追いつきたいと
自身の事で精一杯で、部活に時間を裂くことはないのだ
だが、今回の様に、頼まれれば、練習に付き合うし
時間があれば、練習試合や紅白戦でも参加するのだ
お分かりだと、思うが、鈴と優美も帰宅部である
かんなは、科学部や、デバイスシステム制作部と、趣味に携わる部活を数個行き来している
夏目にいたっては、いくつか所属しているが、その全貌は、いたって謎である
******
「桜は、テニスですか、鈴と優美は、何か予定は?」
「とりあえずは、ないかな?」
「連休中できなかった事や、習い事があるくらいでしょうか?」
「では、鈴が暇なら、買い物に行きませんか?」
「どっか行くの?」
「かんなが、又ガラクタを買うと言うので、アキバに言ってみようかと」
「ガラクタって言うな!でもりんちゃん暇なら行かない?」
「あ・・・・なら・・・・ちょっと待ってね」
鈴は何かを思い出したかのように
徐に携帯電話をだし、右手でパネルを操作し
どこかに電話をかける
「あっ!紫音?」
「・・あぁ、おはよう・・・で、なに?」
おはよう?寝てた?
「あれ、今どこ?」
「どこって、教室、今携帯の音で起きたとこだけど?」
うわ・・明らかに、寝起きで機嫌悪いな・・
それに、まだ学校に居ると、優美にしれたら、今すぐ走って行きそうかな・・
「そうなの?お昼ご飯どうするか聞こうと思って?」
「ん?昼?」
「うん、これから友達と、アキバに行こうかって話してて」
「いいよ別に、2・3日食べなくても死なないと言いたい所なんだけど
現状死にかけてんだよな、まぁ、かまわんよ気にせず、遊んでらぁ~」
「わかった、なら、晩飯は朝言ってた通りでいい?」
「おう、肉で、あ、牛ね、そうだな、すき焼きがいいな」
ん?電話の向こうが、盛り上がってる?
てっちゃんの声がする
電話の向こうで、紫音の携帯を奪う鉄雄
「おう、鈴か?」
「てっちゃん?どうかした?」
「すき焼き、俺の分もいいか?アレだったら、胡桃 (くるみ)にも聞いてみてくれ」
「いいよ、後で、くーちゃんに聞いてみるね」
「よっしゃぁーーーー肉だァァーーーーー」
てっちゃん、テンション高!
そして、電話を変わった紫音
「鈴どうせなら、いい肉で、リルも入れて、5人分
それと、牛ホルモン食いたい、買い物行くときに、リルに電話しろ
今回、俺が死にそうなのは、あいつが原因だ
移動と荷物持ちと、こきつかえ」
「はいはい、その時は頼みますよ」
「で、そんだけか?」
「うん」
「なら、俺はてつと、適当に昼飯食べて帰るわ」
「うん、わかった、じゃぁ後で」
「おう」
鈴は携帯を切って、ポケットにしまうと
「よし、それじゃあ、かんなの奢りで、スィーツって事で」
「くは!でも鈴ちゃんとデートだと思えば安いもんだ!」
「あら、ありがとう、私の分もおねがいね、かんな」
「飛び火した!」
そして、5人は、楽しく笑うのであった
帰り支度を終えた優美を入れた5人
かんなが、よく行く店のマスターから
[いい物入ったぞ]って、言うメール来たから
見に行くと、ウキウキで話す、かんなを連れて
優美を先頭に教室を出るのだった
教室を出た5人、その優美と桜を抜いた3人の視界の片隅に映るのは
校舎の屋根を支える本柱に、隠れる1人の女生徒である
中等部で、優美と同じクラスになってから、何度も見かける女生徒
鈴・かんな・夏目の間では、その彼女は優美のストーカーと認知されていた
そう、いつも物陰から、じっと優美を見る女生徒
彼女は、個人ランク上位につける有名人であり
3年の舞姫と呼ばれる生徒である
いつもなら優美を見つめる、その視線だが
なぜか今日は、その視線は、鈴に向けられていた・・・・・・・
いや、鈴に視線を送るのは、舞だけではない
土曜の午後と言うことで、多くの生徒がひしめいており
多くの生徒が、鈴に視線を送っていた
理由は、簡単であった、朝から視線を集める鈴
それは、連休中にあった、合宿での生徒会長【柊朱莉】との1件が
噂が噂を呼び、信じられない事になっていたためである
その為、鈴は朝から、誤解を解く為、苦労していたのだから
2年生の誤解は、だいたい解けたが
1年と3年の噂までは、鈴ではどうしようも無かったのだ
そして、今、舞姫と呼ばれる、彼女の視線など比べ物にならない程に
校舎のあちこちから、噂の人物が現れたと、視線を集めていたのだ
鈴は、そんな視線も・・・・・
【人の噂も七十五日】75日もまてないけど
そのうち、落ち着くだろうと、半分諦めていた
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ガラガラ
2-Bの教室のドアが空き
5人の生徒達がでてくる
それを、柱の陰で覗き見る女生徒がいた
(あぁ、、優美さん、今日もお綺麗です・・・
朱莉ちゃんの合宿いって、色々あったと噂で聞きましたが
お元気そうで、嬉しいです
でも、今日は、あのちびっこ【三千風鈴 (みちかぜりん)】
朱莉ちゃんを、合宿参加者の前で侮辱し蔑んだと
それどころか、汚い罠にハメ、デバイスを取り上げ
模擬戦で、泣き叫ぶ朱莉ちゃんを、大人数で、いじめたと・・
それ以外にも・・・考えるだけでも、悔しくて涙がでそう・・
許さない・・・・
そして、その場に居なかった自分が、かなしい・・・
役職が無い私は、合宿に参加できなかったし
用事で海外にいってさえいなければ
隠れてでも、優美さんを見にいっていれば
朱莉ちゃんを、そんな状況にはさせなかったのに・・・・・
私が、三千風さんを止めたのに
今更、遅いかもしれませんが、私は、三千風さんを許しません
この手で・・・この手で・・・・
朱莉ちゃんの屈辱を払わせていただきます・・・)
柱の陰で、身を隠したまま
固く拳を握り、仇討ちに信念を燃やす少女
その意志は固く
柊家に代々使える、彼女の家系ではあるが、そんな事は関係ない
彼女は彼女の、親友、柊朱莉の為に
今、まさに
颯爽と、5人の前に飛び出て、三千風さんを指差し
決闘 (デュエル)を申し込む・・・
イメージレーニンングを脳内で行う
そんな彼女の・・・
横を、楽しそうに会話をしながら、通りすぎる5人
夕食の献立が、すき焼きだとか、少女の耳にも聞こえてくるのだった
柱の陰に隠れ覗き見をしたまま、首だけを徐々に動かし、5人の姿を追う
(ダメ、こんなことでは・・・
でも、人前に出るなんて、恥ずかしすぎる
でも、朱莉ちゃんの為・・
そう、朱莉ちゃんは、もっと大勢の前で
恥ずかしめを受けたんです
私がここで、躊躇して言い訳がないのです
動け私、早くしないと、行ってしまいます
いっその事、後ろから・・いきなり・・・
さぁ動け私のあし・・・)
恥ずかしがり屋な彼女は、自身の弱い心を奮い立たせる
今、まさに、その決意とともに、小さな少女に確固たる敵意を向けて
柱の陰から一歩踏み出そうとしていた
******
そんな事は、全く知る由もない5人組みは
何時もの様に、優美のストーカーを無視し
教室を出て、1階へ続く階段を目指し、歩き続だした
かんなが疑問をなげかける
「りんちゃん、今晩はお肉?」
「聞こえてた?」
「うん、電話向こうで、肉だぁぁーーーーって叫んでたのわね
でも、あれって紫音くんではないよね?
イメージと合わない感じがする
それとも、本当はそんな性格?」
「ちがうちがう、あれは、幼馴染の子、たまたま紫音と一緒にいてね
元々、今日の朝から、紫音が調子悪くて、だるそうだったんで
晩飯は、肉にしてくれって話だったのね
それを聞いた、てっちゃん・・あ、胡桃ちゃんの、お兄さんね」
「あぁ、宮守君か」
「なっちゃん、知ってるの?」
「まぁ、小等部から、居る人間はね、何度か同じクラスになった事もありますし」
「そっかぁ、んで、まぁ晩ご飯が、すき焼きだって聞いて
てっちゃんも食べたいって事で、てっちゃんと、胡桃ちゃんも
呼んで、みんなで食べる事にしたの」
すき焼きと聞いて、嬉しそうに瞳を輝かせる桜がそこにいた
・・・・桜の無言の私も食べたいアピールが・・・
それ以上に無言ではい、かんなのアピールが・・
「よし、私も参加してしんぜよう、肉大好きです」
「ですが、お断りします」
「なぜ!」
「今日は無理かな、みんなが来ると
紫音が、ご飯も食べずに、どこかに出て行ってしまうから」
「シャイ?」
「そんな言葉は、紫音には無い、断言する
まぁ、そうじゃ無くて、気を使うの、桜が遊びに来る時もそうだけど
自分が家に居たら、友達も、思いっきり騒げないだろうとね」
「へー、変わってるね」
「変人だからね」
「だけど、今日以外なら、食べにいっても、いいのね?」
「それは、いいよ、桜なんて休みの度に、昼ご飯食べにきてるし」
「そんな、話は聞いてない、私だって鈴の手料理食べたい」
「そうですね・・・お弁当が、あれだけ美味しいなら
出来たての手料理となると・・想像ができませんね」
「おいしぃよ~昨日も~
ゆみちゃんも、いっしょにぃ~~
りんちゃん特性ハンバークチャーハン食べたァ~」
「優美!」
「優美ちゃん!」
「「うらぎりもの!」」
なんとも息のあった2人だろうか・・
「よ・・・用事があって、鈴に会いに行っただけで
ご飯まで、いただくつもりは、なかったんですよ
それに、弁当以外で鈴の手料理たべたのは私も今回が初めてでしたし」
「で、美味しかった?」
「それは、とても、何時もの弁当とは違い
お皿で出される、暖かい鈴の手料理は
我が家のシェフを越える美味しさでした」
目を閉じ、何かを思い出すかのように答える優美に
比べないでと、心底思う鈴そして
羨ましそうに、鈴を直視する2人
あぁ、、、かんなと、なっちゃんの視線が痛い・・・
「わかったから、こんど皆にご馳走するから」
「やった!さっそく明日で!」
「あした?」
「夏目も桜も優美ちゃんも、明日大丈夫?」
「何事が有ろうとも、行きますよ」
細い目を、より細くして眉間にしわを寄せ、かんなに良くやったと頷く夏目
「いくぅー」
用事があっても、振り切って来るだろう桜
「昼は会食が、入ってますので、夕食でしたら、参加したいのですが」
悩んだ末、無理やり夕食の時間を空けただろう優美
まぁ明日なら、いいかと観念する鈴であった
「わかった、じゃぁ明日の夕食でいい?
食べたいものの希望とかある?
言っとくけど、私にだって作れない料理もあるんだからね」
その言葉に、優美と桜は、おまかせと答えるが
夏目は、深くこだわらず、普通の夕食でいいと答えるも和食を勧めてくる
めんどくさいのが、かんなである
私の知らない、オシャレな名前の食べ物を次々と言うのだ
どこどこの店の、長ったらしい横文字の食べ物を
まず外食をする事がない私が、知る由もない
かんなの口から、次から次へと、出てくる
オシャレな、横文字の名前
うん、だから、全部知らないって・・・・
そんな、鈴達の後ろから、気配を消し、近づく人物・・・
それは、鈴に対して、確実に敵意をもち
身体強化の魔法を使い、彼女達に静かに確実に近づいて
そして、敵意むきだしで、鈴達に対し、デバイスを起動し魔法を発動させる
ドガァ!
後方で、鈍い衝撃音が、響くその瞬間
驚いた、優美・鈴・かんな・夏目は後ろを振り向いた
そこには、右足を後方に投げ出した、桜の姿と
桜に蹴られただろう、人物が勢い良く後ろに吹っ飛んでいく姿がそこにあった




