表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/166

22話 それからの、やまと呼ばれた男

やつが・・・!

幼き時のヤツが!!!

 



高速道路の作戦から約ひと月

3月も終を迎える、3月29日、日曜の午前10時位だろう

一人の男は、とある場所へ辿り行く


2ドアのスポーツタイプの外車から

サングラスを掛けた、柄の悪い男が降りてくる


「また、ここに来るハメになるとは・・・」


そして、その男は、通い慣れた大きな屋敷の、大きな古き門の扉を開く

これから起こる事を考えると、ため息しか出ないが

それでも、この柄の悪い男にとって、避けては通れぬ事でもあった


そして、そこには手入れの整った庭が、広がっていた

そこに、一人の子供、まだ小学生だろうか?

10歳ほどの男の子、どこかに向かう途中だったのか

後ろを振り返るように、首を後ろに回し

家の門に立つ男をじっと見つめていた

小さいながらも、整った体格と、整った顔立ち、短い赤髪を立たせた攻撃的な髪型

大きくなれば、きっと、ハンサムに成るであろうと思わせる少年であった


「そこの君、師匠はご在宅か?」


「・・・師匠? あぁ、ジジィか、いるぞ、それより、お前・・・」


男の問に返事をした少年は、ゆっくりと男に近づき

男の周囲をくるっと、品定めするように、一周し

小声で、ぶつぶつと、つぶやいていた


「気のせいか・・この微かに残った覇気

 こんな弱そうな奴が、あいつな訳がないし

 あいつがこの世界に来ている何て事はないか・・・」


少年の行動の意味が分からず、見ていた男は

その、つぶやきの一部が聞き取れた


「俺が弱いだと!」


「ん?本当の事を言って何が悪い?

 弱いから、じじぃの所に入門しにきたんじゃないのか?」


「小僧、お前に、強さの何がわかる」


「そうさな、それは、ライオンに

 ネズミと、モルモットのどっちが強いと聞くようなもんだぞ」


「小僧、お前が誰だか知らんが、俺を侮辱するつもりか!」


この男、先日この少年と同じような子供に、完膚なきまでに負けたのだ

その事もあって、普段なら、子供相手にイラ付く事は無かったが

今の、この男の精神状態は、いつもと違い

目の前の少年の些細な言葉にすら、イラだちを覚える


そして男は自分をネズミか、モルモットに例えられた事に一気に怒りが込み上げ

むき出しの戦意を、少年に向けた

だが少年は、それを全く意に介さないかの如く佇み

戦意を向けてきた男に、ニヤリと笑う





「おぉ~にぃ~いちゃ~~ん、おばぁ~ちゃんがぁ~おやつだってぇ~~」


少年を探しに来た、少女の緊張感の無い、声が2人の耳に届く

少年は、その声に、振り返り少女を確認すると

一度、突然の訪問者に、視線だけ戻し

もう少年の興味は、おやつに移ったのか?

すでに、目の前の男に興味が無くなった少年は、少女に声をかける


「おう、さくら、じじぃは、どこにいる?」


「みんなぁ~、居間に~いるよ~」


「わかった、すぐいく」


「はぁ~~いぃ」


「そういうことだ、おっさん、じじぃ呼んできてやるよ」


そう言い残し、少年は、呼びに来た、綺麗な桜色の髪をした少女と、家の奥へと消えていった

数分後、現れたのは、齢 (よわい)70近い老人だが

どう見ても、もっと若く、50代にしか見えない男性であった


その男性は、柄の悪い男を見るないなや


「はぁ・・おまえか・・・富士山 (ふじやま)、その様子では負けたんだな」


「・・・・申し訳ありません、師匠・・・・

 前回稽古をつけて頂いたのに・・・」


「おじぃ~ちゃぁ~ん」


老人の足元で、服の裾を引っ張りながら、老人の顔を見つめる、先ほどの少女

その少女の背中を軽く[ポンポン]と叩き、老人は口を開く


「わかったわかった、ちょっと待ってくれ

 富士山、道場で待っとけ

 そうだな、孫とお茶してからになるが、できるだけ早く行こう」


老人は側にいる少女に、視線を移し

それは、嬉しそうに、少女に声をかける


「はいはい、みんなの所にもどろうね」


そうして、頷く少女と老人は、再び家の中に消えていった





男は、今畳で敷き詰められた道場の中に、一人座り

道着に着替え、師匠を静かに待っていた


男の名前は【富士山一輝 (ふじやまかずき)】

先の三千風蘭、拉致作戦において、やまさんと呼ばれていた人間である


そして、富士山が師匠と呼ぶ人間

それこそは、空手の世界では名前の知れた人物

【鼓仁 (つづみじん)】

この道場、古武術・鼓流、前当主である

現役時代は、鬼の鼓とも、鬼鼓とも呼ばれ恐れられた人物

現在は当主を、長男の【智之 (ともゆき)】に譲り、隠居生活である


30分ほど、静かに待っていると

袴すがたの、仁が、先ほどの少女と一緒に、道場に入ってきた

上座に当たる場所まで進み、その場に座った

そして、その横に同じように、少女は、ちょこんと座る


「またして悪かったな、富士山、用事はなんだ?」


「師匠、もう一度、私を弟子にしていただきたい」


「ん?それは、智之に言え、ここの今の道場主は智之だ」


富士山は、両手を付き頭を下げる


「智之さんの実力は、知っております

 言いにくいのですが、その実力は

 長女の礼子さんや、次男の信次さんに劣り

 そのお子さん達すら、師匠と比べると、未だ数段の実力差が・・・

 だからこそ、師匠に稽古をつけて頂きたく、お願いしに参ったしだいです」


「でもな、富士山、お前はその智之の足元にすら届いてないんだぞ」


「ですが・・・・」


一旦、唇を噛み締め、高速道路でであった、少年、三千風紫音を思い出し


「あれに、勝てる力を付けないと

 あれを・・あれと戦えるだけの

 あれに勝てる人物は、師匠以外に思い当たらないんです」


「ほぉ~? それは、あれか

 今回負けた相手?

 以前、発勁を欲しがった時言っていた

 硬化の魔法を使う男の事か?

 その人物は?息子達より強いというのか?」


強い相手と聞き、嬉しそうに聞く

それは昔の感情が蘇ろうとしていく証だろう


「・・・・・・・いえ、詳細は・・・

 ですが、その硬化魔法を使う男ではありません 

 私自身の手で、あれを倒したいのです

 どうか、私を師匠の手で稽古してもらえませんか?」


富士山は、頭を下げたまま微動だにしない

仁は、しばし考えまとめる為、口をつむんでいたが

そんな2人の沈黙を破ったのは、少年の一言だった


「じじぃ、そんな弱い奴相手にするだけ無駄だろ?

 それより、俺の相手してくれよ、今日こそ一撃入れてやる」


「蓮 (れん)もうちょっと待て、この男にだって、色々あるんだ」


富士山は上半身を起こし、正座の状態に戻り


「師匠、この少年は?」


「富士山は、初めて会うのか、信次の子供達でな

 そっちが、蓮、それで、この子が妹の桜

 蓮が、次6年生で、桜が5年生だ、春休みで帰って来てるんだ

 2人とも、可愛いだろ、富士山、子供はいいぞ、お前も早く結婚しろ」


「師匠、お孫さん相手もいいですが、子供遊びより

 私を弟子にお願いします」


「弱い奴を、弟子にとって、じじぃに何の得があるんだ?」


蓮を睨みつける富士山


「そうだな、富士山、その子、蓮に勝てたら

 その実力を認めて、弟子にしてやってもいいぞ」


「うわ、いやだ」


仁は、笑いながら、条件を提示するが

先に返事をしたのは、蓮である

それを聞いた富士山は心にも無いことを口にする


「私も子供を、いじめるのは気がひけます」


「おっさん、言っておくが

 弱い奴の相手をするのが嫌なのは俺のほうだ」


蓮の言葉に、内心、ニヤリと笑う

先程であった時の、態度や「うわ、いやだ」の言葉に、イラついた富士山は

少年を、同じ土俵に引き出そうとした

手合わせを始めれば、多少痛めつけても師匠ならば、何も言わないだろうと

大人の怖さを教えてやろうと・・そして


「そこまで、いうなら、相手をしてやろう

 手加減はしてやるから、安心しろ」


その言葉に、仁は心の中で落胆した

相手が子供だと、慢心して、その実力を図ろうともしない

富士山の悪い癖であると


「はぁ?なんで、俺が、おっさんと・・・・

 ん?そうだ、桜、お前が相手しろ」


「えぇ?いぃぃ~の~~~」


「ダメだダメ、可愛い桜に、そんな事させられるか!」


「ちょっとまて、さすがに、こんな、小さな女の子を殴れないぞ」


乗り気な、桜に、やめさせたい仁

さすがに、可愛らしい女の子を殴れないと、本心を口にする富士山


だが、やる気満々で、立ち上がる桜と

楽しそうに、ヤジを入れる蓮に、仁も観念し

富士山に立ち会うよう、促した

富士山も、最大限の手加減をしようと

打撃よりから、軽い投げにしようと、使う技を模索する


そして、桜と蓮は道着に着替え、準備を整え、軽い準備運動をはじめる頃には

現当主、智之を始め、午後からの稽古があり、自主練の為、早めに道場に来た

門下生も20人近く集まっていた

そして、道場中央


簡単なヘッドギア、手足には、グローブをし

富士山と、桜が、向き合って立つ

それは、見るからに、子供と大人、事実そうなのだが

その2人が、手合わせすると、そんな子供の遊びと

笑う人間は、ここには、蓮しかいない


それは、富士山に違和感を与える

どう見ても、自分が勝てることは明白である

自分は、数年前に、この道場で師範代まで努めた実力がある

今、ここにいる門下生も顔見知りが数人いるが

だれ一人、小さな少女と真剣勝負する自分を笑う者がいない

それどころか、蓮以外の全員が、真剣な眼差しで見ている


そして、仁の合図で、勝負が始まった


桜の踏み込みからの、右突き

それは、富士山の目を覚まさす一撃

ギリギリ避けたものの、その一撃で背中に冷たい汗をかく


先程までの、流暢な動き口調とは、裏腹に

その一撃は、型も何もない、まっすぐな一撃

いや、それ以上に力任せの一撃でもあった

それは、桜自身が、その一撃の威力で体ごと持っていかれるほどである


そして、戦いを静かに見守っていた、門下生から歓声があがる


「やっほーーーさくらちゃーーん」

「いけいけ、さくら、いけいけ、さくら」

「さくらちゃん、かわいいーーー」

「いっきに、いっちゃえ」

「さくらちゃん、だいすきだぁーーー」

「がんばれーー」


いくつもの、歓声

その瞬間、富士山は気づく

誰1人、この少女が自分に負けると言う事を、考えていかった事に

それは、自分が師範代まであがった、実力者だと知っている人間達までもが

少女の勝利を疑っていなかった


気を入れ替えて、構えを取る

そこに、また真っ直ぐな攻撃が飛んでくる

どこに、そのパワーがあるのかと思うほどの一撃

3度・4度繰り返す、桜の攻撃は段々と正確さを増し

徐々に富士山の動きを捉えていく


そこに、仁は言葉を掛ける


「試合前にも言ったが、強化魔法使ってもいいぞ」


そう、使っていなかった

女の子相手に、使ったとは、一生の恥だと思い込んでいた

だがちがう、この少女も何らかの魔法を使っている

でいなければ、この攻撃の説明が付かないと

富士山は、強化魔法を自身に掛ける


肉体強化1.5倍、速度強化1.8倍

自身の技が最大限に生かせる、強化割合

富士山は、すでに、この少女を、あの人物に置き換える

あの少年より、この少女が強いわけがない

あの少年の用に、この少女が魔法を操る事はないだろうと

なら、勝てる手段はあるはずだと

見栄も外聞も捨て、本気になる


先程まで、攻撃を避けるので、精一杯だった富士山は反撃に移る

反撃と言っても、小学せいの彼女に打撃を入れる事は出来ず

攻撃してくる彼女の腕を取り、クルっと畳に転がす


転がされた桜は、ダメージは無い

回転に身を任せ、それを利用して立ち上がり

次なる一撃を富士山に叩き込む為に、又一歩、踏み出す


そんな事を2度3度繰り返し

2人は、距離を置いて、動きが止まった・・・・


攻撃が当らず、良いように転がされ

不機嫌になっていく桜は、チラット蓮に視線を送る


連は、それに気づくと、首を横に振る

それを見た桜は、ほっぺたを、リスの用に膨らませる


そして、蓮は前に出ながら声をかける


「ちょっといいか?」


「なんだ連?」


「このままでは、埒があかねえ

 まず、おっさん、手を出せ、きちんと攻撃、打撃を入れろ

 後の線で、転がすだけなら、今すぐ家に帰れ

 試合 (しあう)上で、骨の1本や2本折れても、文句は言わない

 そう言うふうに、桜には小さい時から、教え込んでいるから、本気で殴れ

 (その言葉に桜は頷く)

 もし、過剰攻撃であるなら、俺か、じじぃが止める

 そして、桜、なんだ、あの一本調子の攻撃は

 あれでは、赤ちゃんでも避けるぞ、きちんと考えろ

 それに、相手に集中しすぎだ、周りの声も聞け

 皆が的確な指示を出してくれてる

 勝てない相手じゃ無いはずだ

 って事で、おわり」


言う事だけ言って、元いた場所に戻る蓮


「2人とも、そういうことらしいぞ

 それでは、再開、はじめ」


再度、仁は合図だず


富士山は、小さく構えを取り、静かに息を吐き切り

踏み込むと同時に軽いジャブを撃つ、ダメージを目的としたわけではない

当てることを優先した攻撃である


少女相手のそれは、少し打ち下ろし気味に撃つ

速度強化したそれは、当たるはずであったが

桜はそれを、軽く右手で弾き、そのまま、左手で攻撃する

それを躱し、富士山は攻撃の手を緩めない

二人の攻撃のやり取りは、十数度続く


徐々に富士山の額に汗が湧きててくる・・・

それは、速度強化した攻撃が全て防御されているのだ

身長が低い相手の為、多少は打撃の当てにくさは有るものの

速度強化した攻撃が、まったく、クリーンヒットしない事に信じられない富士山


桜は、攻撃の全てを、受けきり

富士山を攻撃するが、腕のリーチが短いため、踏み込みながらの攻撃

先程と違うのは、蓮の指示通り、回りの声をきちんと聞く

それは、周囲の桜を応援する声の中、的確な指示の内容の声もある

その声を聞き、桜は動きが変わっていく

攻撃をコンパクトに、直線的な攻撃を辞め

足技を増やし、横への攻撃を増やしていく


桜の両親は共に、格闘家であるため

桜も、幼くして格闘技に興味を持ち、それを始めた時

まず防御を重点的に教え込まれたのだ

女の子であるため、身体に傷を残したくないと

両親の愛であるのだろう、その為だろう桜の防御は厚いのだ

富士山が、その牙城を、ただの攻撃で崩す事は、ほぼ無理である


均衡する2人のやり取りは、いつまで続くかと思われたとき

富士山は、ある賭けにでる

大ぶりの前蹴り

桜はそれを、弾き一瞬動きが遅くなった富士山に

踏み込み気味の左肘打からの左掌底を打ち込む

富士山は気を、一点集中し、それを受ける

その為ダメージは少ないが、ワザとバランスを崩し、後ろに数歩下がり

掌底を受けた箇所に手をやり、スキを演出する


ここを好機と感じた桜は

試合開始当初と同じ、右拳の力任せの直線的な攻撃を繰り出す

そう、それを待っていた富士山は、軽く横に避ける


そして、桜が、自身の攻撃で、バランスを崩した、その瞬間

富士山は、キメにかかったのだ

打撃のみの最速コンビネーション“昇龍乱舞”

左右左の拳での3擊から

上半身を前のめりに倒し身体を回転させての右拳での打ち下ろし裏拳

回転着地からの、右拳打ち上げてからの、右足中段蹴り

そして、中段蹴りからの回転運動を最大限に乗せた、最後の一撃は

打ち上げ気味の右廻し蹴りである


その勢いは畳の藁床を引きちぎり

一撃一撃の度、その踏み込みの力で畳の埃を叩き出し

空中に巻き上げた


いささか、やりすぎ感は否めないが

きっと、現当主である、智之ですら

初見では、その乱舞の全てを交わしきる事は出来ないだろう

その数発は、食らう事となるだろう、それほどの、コンビネーション

そして、後半に来る、どの一撃でも、致命傷になりかねない打撃である


そして、最後のキメ技である、廻し蹴りに

見物人の一同が、湧く


「おおおおおおおおぉぉぉぉぉ~~~~」


振り抜くはずの、富士山の右足が空中でビタっと止まっていた

それは、桜の右手で、がっしりと受け止められていたからだ


富士山の、コンビネーションを全て見えていた人物は4人

仁・智之・蓮・そして桜である

そう、桜はその全ての攻撃を受けきってみせたのだ

そして、右手で富士山の右足を完全固定したまま

空いた左腕を脇締め気を貯め、動きの止まった富士山に攻撃しようとした瞬間


「勝負アリ!」


仁の一声

そして、勝負は終わることになる

門下生に囲まれ、可愛がられる桜と

道場の端で、全身から力が抜け、屍のようになった富士山


その屍に近づく少年

その少年の口から出る言葉は、その屍に止めをさす


「おっさん、自分の実力が理解できたか?

 どうも、ここの連中は、桜に優しくてな手を抜きやがるからな

 桜にも、いい実戦経験となっただろう

 じじぃの弟子、弟子って言っていたが

 最低でも、桜と対等以上でないと、じじぃにとっては赤子以下だからな

 一からやり直すんだな、ククク」


半分笑いながら、蓮は皆の方に振り向き歩き出す

一歩、二歩と、すすんで、足を止め、屍に振り向き


「おっと、言い忘れたが、桜は魔法を使わしていないぞ

 あれは、素の力だからな」


そう告げ、蓮は桜を褒めるため、歩き出す

富士山は、自分が〔井の中の蛙〕だと言う事に初めて気が付く

そして、頭の中が真っ白となり、だたそこに有りつづける


そして、湧き上がった道場は、普段通りになっていく

門下生は、自主連に励み、あるものは準備運動や、柔軟に励み

あるものは、軽い組手、技の確認をしている中


富士山の屍の目の中にある人物達が映る


先程、富士山と桜が、試合った場所に

この道場元当主、仁と、先ほどの赤頭の少年が対峙していた

そして、数人の人間は、その手を止め

先程と同じように、道場中央の2人に視線を集める




仁の手招きから、それは始まった

いっきに踏み込む蓮

その攻撃の速度は、先ほどの富士山のコンビネーションと同じであるか

それ以上であった、そして、それを難なく躱し、受ける仁

幾度となく攻撃するが、ヒットすることがない、蓮の技の数々

たまに、仁の攻撃、いや、攻撃ではない、蓮のスキを付いて

頭や、肩や、腕に、軽く触る、そして、悔しがる少年は

その度に声を張り上げる

 

「くそがぁぁぁーーーー」


「じじぃーーーーぶんなぐる!!!」



そして、富士山は気が付くのだ、あの蓮と言う子供も、化物だと

あれは、きっと魔法なしでの戦い、だが

それ以上なのは、師匠、あのお人は、どれだけ強いのかと

次元の違う、強さに呆然とする


そんな屍姿の、側に近寄り

壁を背にしもたれ掛かる人物、現当主、智之


「富士山、久しぶりだな

 あの子達すごいだろ、信次の子供達なんだぞ」


「・・・先程聞きました

 化物ですね、それ以上に、師匠の化物度は底がみえないですね」


「ああ師匠は、日本に数人しか居ない聖人の1人、拳聖だからな」


聖人それは、達人よりもっと上のクラス、最上級のクラスであり

日本が認める【道を極めし者】に送られる称号である

数人いる聖人の中で、鼓仁は【拳聖】の名を送られたのだ

現役時代の、仁は度々、軍隊や、十士族にも技術指南として務めた事のある人物でもある


「聖人ですか、あそこまで成るのは無理なんでしょうか?」


「どうだろうな、でも達人クラスなら、誰でもなれると思うぞ

 今のお前でもな、そこから、上は今のお前では無理だ

 成れるかどうか何て考えてる時点で負けてる

 それに、以前のお前の実力なら、桜に勝てただろうに

 鍛錬をサボるからだ、どうせ、お山の大将にでもなって

 あぐらをかいていたんだろう

 あの子を見ろ、実力はマダマダだが

 相手が聖人だろうと何だろうと関係ない

 ただ、強くなりたい勝ちたいんだとよ

 自分が、誰かより弱い事が許されないらしいぞ

 あの調子で、強くなっていかれたら

 僕もすぐ抜かれそうだしな」


「・・・・・・・・・・」




「おい、智之、代われ、疲れてきた」


「はいはい・・かわりますよーー

 富士山、まぁこれから、どうするかは、ゆっくり考えろ」


「じじぃ、逃げんのか?」


「じじぃは、歳だからな、少し休ましてくれ」


「しかたない、さっさと回復しろ、おい智之さっさと相手しろ、先にお前を潰す」


全然攻撃がヒットしない事にイラつく蓮


「おいおい蓮、智之さんだろ、桜ちゃんも一緒にやるかい?」


「はぁ~~いぃ」


そして、智之 対 蓮・桜 となるが

先程と同様、蓮と桜の攻撃は智之に届くことがない


富士山は、この智之の事を過小評価していた事に気づく

3人姉弟の真ん中として育ち、3人の中では一番優しい性格の為

姉弟の中では、一番弱いと思われているが

その実、仁も認めるほどの実力があるのだ

だがそれは、競技の枠を出ない範囲である

優しすぎるため、必要以上にその実力を出すことがないのだ


そして、優しいが為、蓮と桜を同時に相手をする

それは、蓮の苦手である、他人との連携を覚えさせる為

自分勝手な蓮に、連携相手の行動を読み誘導をさせる

そんな高度な連携を覚えさせる為

たまにしか遊びに来ないからこそ

たまにしか組手が出来ない今だからこそ


智之は、ぎこちない動きの少年と

力任せな真っ直ぐな少女の相手をする


その事を理解できるのは、仁ただ1人



門下生の人間は、そんな師匠達の動きを目に焼き付ける



ただ1人、屍となった人間を除いて


所詮、富士山はアマチュアである

少し強くても、その道のプロには負けるのだ

その道の人間には、鼓道場の出身者だと言えば、逃げていくだろう

そうやって、街の裏で幅をきかせ犯罪者紛いな事していた

そうやって名が売れて、どんどん歯向かう人間も減っていく

久しぶりに歯向かってきたのは、あのチビブタ、西神虎亜くらいだ

運が良かったのだ、プロに目をつけられなかった事や

達人クラスの人間と出会わなかった事が、富士山一輝を増長させた


そして、小さな組織のある作戦に参加する

そして、この男の運も尽きる・・・・いや

運が良かったのだ、それは、あの少年に敵対して生きて居られたのだから


そして、今日決心して、師匠に頼みに来た

強くなるために、あの子供を倒すためにだ


倒したはずの少年に、何も出来ずただ、敗北を突きつけられた

あの出来事は、富士山の精神に楔を打った

そして、富士山は、初めての圧倒的敗北感を植えつけられ

精神が、安定せず何もその手につかず

数日は寝ることさえ出来ないほど

その精神は、追い詰められていた


そして、気がついたのだ、あれを倒さないと自分は一生負け犬のままだと

今の位置からすすめないのだと

前に進むためには、もう一度、あの少年と対峙し戦わないと

その為にも、強く・・・・あの少年よりも


そう、強くなるために・・・・


強くなるため


強く


強く


強く

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ