21話 それからの 三千風家
そろそろ、覚醒編おわる・・のか?
鈴は、ご飯の買い物に行くため、部屋を出ていった
数年前まで、住んでいた場所であって
近場のスーパーや、お店は未だ把握しているだろう
そして、良い素材を探すために、かなりの時間を要する事は
蘭も紫音も理解していた
蘭といえば、腕を組んで目をつぶり、何かを考え巡らしていた
それは、先程、紫音からの告白の事柄だろう
今の紫音は、前世での人格も有しているが
蘭にとって、紫音は紫音である、しかし、そんな事はどうでもいい
それより、紫音から聞いた、紫音の前世が居た場所での
魔法原理に頭を悩ませていた
その原理を、どう現代の科学魔法に組み込めるかをだ
紫音も、難しい事を考え出した蘭の顔をみて
どうせ、何時ものように、仕事の事か魔法の事を考えているのだろうと
ほっておく事にして、台所に顔を向ける
そこには、長いこと使われていないシンクがあった
たまに蘭の実家の使用人が掃除に来ているので
それほど、汚れてはいないのだが
前回の掃除が何時だったかは紫音は知らないし
どこまで綺麗になっているかは想像の域をでない
なら、少し掃除でもしておこうかと
その場から立ち上がり、一歩ふみだす
そして・・・いきなり、その場に膝から崩れ落ち
両腕を床に付けて、うなだれる
紫音が崩れ落ちた音に気づき
蘭は、何事かと、紫音を見つめ
「紫音どうした?大丈夫か?身体に異変がおきたか?」
「ぁ・・・・あぁ・・いや・・・だ、大丈夫」
紫音の返事に、焦る蘭は聞き返す
「本当に大丈夫なのか?お前、さっき体がボロボロになって死んでたんだぞ
それの後遺症か?それか、まだ身体の何処か痛いのか?」
「いや、身体は大丈夫なんだけど・・」
「だけど?なんだ?」
「・・・・・・・俺・・・・
前世では、メイドが・・リルとか、マリアがいてさ・・・・
掃除なんか、シナカッタノニ・・・・・・
それなのに・・・
紫音の記憶が、10年に渡る習慣が・・・
身体に染み付いた、感覚が・・・
うらめしい・・」
両方を落として、うなだれる紫音の姿をみて
蘭は、笑いながら
「ハハハ、紫音?お前、金持ちだったのか?」
「・・・街を1個、納めてました・・・
それなりの豪邸にも住んでもいました
好き勝手、気ままな、バカな領主でした・・・・・
なのに、なのに、なぜだ!俺が掃除だと!なんでだ?」
地べたに座り、上半身を起こし、両手を震し叫ぶ紫音
そんな姿の紫音に現実を突きつける蘭である
「すまんな、家 (うち)の家政婦は、お前だ紫音
前世が、なんであろうとな
と、言うか?紫音、お前掃除好きじゃなかったのか?」
蘭の言葉に、ガクッと首を倒し
大きく、ため息をはき、首を傾け蘭を見て
「はぁ~~・・・・・いや、掃除が好きなんじゃなくて
汚いのが嫌いなだけなんだけどね
だけど前世では、掃除なんか、まともにした覚えがないよ・・
まぁ、鈴の美味しい、ご飯を食べるために掃除はするんだけどね」
ため息を付きながら、紫音は立ち上がり、笑いながら台所に向かう
「紫音、あの、ちっちゃいのは、お前のメイドじゃないのか?
あれにやらせれば、いいでないのか?」
「・・・ああ、蘭さん、先に1ついいか?」
「なんだ?」
「リルは、ああ見えて、前世では、普通の女の子でな (本当はハーフエルフだが)
今のあの小さな姿に、コンプレックスが、多少あるらしいんだ
できれば、名前で、【リル】と呼んでやってくれ」
「そうなのか?ちっちゃくて可愛いのにな
わかった、【リル】だな」
『やっぱり、殺してもよろしいでしょうか?』
『・・・・・・・』
頭の中に、リルの念話が届くが、完全無視の紫音
「うん、ありがとう
後、リルは、あれだ
不器用なんだ、色々あって、水回りの仕事はできなかったんだよ
俺と同じで、料理もできないしな
皿なんか洗わそうなんて思うと
落として割るの覚悟で頼まないとダメなレベルだからね
まぁ、その分、普通の掃除や
ど・・ (奴隷はマズイな)街の子供達の世話がメインだからね
ああみえて、世話焼きで、優しいからな
街のみんなや、子供達には、けっこう頼りにされてたんだよ」
「そうなのか?今の姿からは、想像できんな」
「俺もそうおもうわって事で、台所掃除するよ」
「あぁ、後、風呂掃除もな」
「はぁ~いって、風呂もかよ」
「どうせ、するつもりだったんだろ?」
「まぁ、そうだったんだけど
って、だから、なんで俺が、掃除をしないといけないんだ!」
ぶつぶつと、文句を言う紫音だが
すでに、その手は、布巾を掴みシンク周りを綺麗にしていたし
そして気分よさそうに、リズムを取りながら身体を揺らす
そう、紫音はすでに鈴の作る料理を先読みし
鈴が使うであろう、包丁や、フライパンを、綺麗にしていく
蘭は、自分のノートPCを取り出し
頭の中でまとめた事を、記録していた
そんな中、紫音が台所を掃除しながら、声を掛ける
「そうだ、蘭さん、聞いていい?」
「なんだ?」
「あの、井門圭人って?なんで蘭さん狙ったの?」
蘭は、キーボードを叩く指を一瞬止めるが
引き続き、キーボードを操作しながら、紫音に応える
「紫音には難しい話・・・・ではないか
それなりの知識は、有るんだったよな・・・・
なら、紫音、クローンに関してどう思う?」
「クローン?あまり興味はないね」
「前世の世界には、クローンは無かったのか?」
「その必要性がなかったし
この世界ほど、化学は発展してないから
クローンと言う概念が元々ないんだよ
でも、この世界で言うクローンって
どう考えても、医療目的って言うより
やっぱり戦争目的の方が強い?」
「まぁ、そうだな、戦争目的だ
そして、どっかの組織が、クローンを成功させたんだ」
「おぉ それはすごいね」
「あぁ事実、国際法で禁止されてなければ、ノーベル賞ものなんだが
いかんせん、闇組織だからな、そしてな紫音
クローンの大量精製できれば、軍隊ができあがる
現代の戦争に置いて、一番お金が掛かるのは、人件費だ
人員徴兵、訓練、戦争に置いて死ねば、見舞金
怪我をしたり、もし通常生活に戻れないほどの、肉体破損
精神崩壊があれば、その後の保証金にいくら掛かるかは解らない
それが、国家戦争なら、掛かる費用は軽く兆を超え、京に届くだろう
だが、クローンには人権がないからな、使い捨ての安上がりな兵器
精製までの時間しだいだが
国家師団に匹敵するであろう十士族に対抗できる力を手に入れる事ができるんだ
だがな、その組織は、クローン人間は作れた・・・が
そのクローンに、意思、記憶、感情、知識、脳にかんする機能が全てなかったとしたら?
そう、動かないんだよ、クローン人間はできても
そのクローンは、動くことがないんだよ
それは、使い道のない動かない、デク人形だ
いや、発想の転換、もし頭の良いやついれば
医療に使える、新鮮な肉体が手に入るんだ
引手あまただろうが、だ
クローンは禁止されている
まぁ、そのへんは、緯度経度みたいな交渉人が活躍する現場だ
私には、解らない世界だな」
「そうか、それで、蘭さんの研究【記憶の移植】が必要なのか
もし医療に転換できても、闇組織が喜ぶだけか」
「さすが、物分りがいいな
私が大学時代書いた【記憶の移植】
当時の大学のボロい器具での成功率は、数%だったが
あれから10年以上たった今の最先端技術なら
その成功率は50%は軽く超えるだろう
私の頭の中では、人間への移植も成功の目処はできているからな
だが、今はその研究も国際法で禁止されたけど
その研究を欲しがった研究所や、組織は、アホなほど居るってわけだ
その1つの闇組織の、交渉人が、あの緯度経度だ
奴の会社は、小さな会社だが、ああいう交渉人を数人抱えてるらしい
まぁ、奴も奴の会社も末端の存在だから
その、クローンを作った研究所や、その組織の存在すら良くは知らないんだろうがな
今回の事から、その組織も切羽詰ってるって感じだよな」
蘭は、言葉を止めると、険しい顔をして考え込む
「そういうことか、大体の仕組みわかったよ
だが、大元の組織が分からない事には・・・」
そして、紫音も、何かを考え込むように言葉は尻窄みになっていくが
何かを切り替えるように
「よし、風呂掃除してくる」
「あぁいってらっしゃい」
風呂場に足を向ける紫音
先程まで、台所のカウンターで、紫音を見ていた、使い魔のギンは
行きよい良く飛ぶと、シオンの右肩に飛び乗った
「お!ギンも来るか」
「コン」
そして、紫音は風呂掃除を開始する
そして・・・・・・・・
カチャ
「ただいま~、いいキャベツあった~」
玄関のドアを開けて入ってきたのは、鈴である
今、買い物から帰ってきたのだ
そして、玄関で靴を脱ぎ部屋に入ってくる
「3つ向こうの、スーパーに、なんと岡山産のキャベツがあったの
甘味もあるし、火が通った時の食感がいんだよねぇ~」
そして、リビングに入っていくと
ソファーがあるのに、床の絨毯に並んで座る、蘭と紫音
同じような格好で、テーブルの上に広げた、ノートPCで何かの作業をしている2人
誰が、どう見ても、それは親子である
そんな姿を鈴は見て、フフフと笑う
紫音がなんと言おうとも、紫音は蘭さんの息子であり
私の双子の兄なんだと
その横で、TVを見ている、琥珀色の子猫と、小さな白狐の生き物
紫音が作り出した、使い魔と言っていたが
子猫と、小さなおもちゃの様な狐が?何のために?
小さな疑問が沸くが、どうせ紫音の事
くだらない事で作ったんだろうと、納得する
それ以上に・・・・
「 た・だ・い・ま ! 」
その声に、やっと気づく2人と2匹
「鈴おかえり」
「おかえり、台所掃除しといたよ」
「にゃぁ」
「コン」
その返事に鈴は、ニコリと笑い
「はい、ただいま、紫音ありがとう
今日はおいしそうな、岡山産のキャベツがあったから
野菜炒めにするね、あ、紫音車から、お米とってきて」
紫音は、目を見開き、びっくりした!と言う顔を鈴に向け
「マジで・・・・・また、俺・・前世では、けっこう偉かったんだけど」
鈴は、紫音の、変顔をみて、笑いながら答えた
「ん?知らない、紫音は紫音でしょ?」
「はっはっは、紫音、お前はどこまで行っても紫音だからな
私と鈴は、お前に対する態度を変えることはないぞ」
「もう、諦めた・・・お米とってくる・・・
ちょっとまて、鈴、なんでお米もってきてんだ?」
鈴は、まるで、何意味わからないことを言ってるんだと、言わんばかりに
首を傾げ、紫音の言葉に返答した
「ん?・・・・とりあえず?」
「紫音そんな事もわからないのか?」
「蘭さん、なんでかわかるの?」
「あたりまえだろ、だって鈴だからな米くらい持ってくるだろう」
「・・・・・・だね・・・・」
そんな、やり取りの中、鈴は台所で
買ってきた食材を並べ
その腕を披露する
数年前まで住んでいたマンション、慣れたものであるが
買ってきた食材は、牛肉、キャベツ、玉ねぎ、ニンニクくらいである
それから出来上がるのは、簡単な野菜炒めである
これは紫音の好きな料理でもある
鈴は、他の料理も、考えたのだが
数年前に引っ越してから、ここにある台所用品は数少なく
その選択肢は、かなり狭められ、その中で、鈴は野菜炒めを選んだのだ
その他の食材や、調味料は、なぜか、鈴のカバンから出てくる出てくる
最終的には、20種以上の調味料が台所のカウンターに並ぶ
鈴は、今日起きた事を紫音と蘭から聞いた
だが、紫音が何かを隠していることは鈴にはわかっていたが
だが、自分を助けるために、紫音が命を賭けてくれたことは間違いがない
その感謝の気持ちを込めて、紫音の好きな料理を作っていた
そうとは言っても、お米を、1から炊くため既に
買い物から帰ってきてから1時間は過ぎていた
料理が出来上がるまで
蘭はPCをつついたり、電話したり、鈴とじゃれあったりしていた
紫音は、リビングで、持ってきた、ノートPC相手に何か考え事をしていた
そして、先程、紫音から説明された2匹?の使い魔コハクとギンは
今だに、テレビの前でニュースを見ながら仲良く並んで座っていた
そして、リルと言う妖精の様な少女の姿は此処に無かった
「ご飯できたよ~~紫音~運んで~」
鈴の合図で、食卓が賑やかになっていく
「「「いただきまーす」」」
「おぉ、キャベツうまいね
肉もうまいけど、主役はキャベツだね」
「うん、味付けも、キャベツを引き立てるようにしてる」
「やっぱり、鈴の料理が一番美味しいな」
*************
「「「ごちそうさまでした」」」
「そうだ、紫音、鈴、明日は2人で、ばぁさん所に行ってくれ」
「「え?」」驚く2人
「今日の事ばれて、士族から呼び出しくらったから
私は、朝一で東京帰る、夜には戻ってくるから」
「ええ!」
びっくりする鈴を、ほっといて紫音が話し出す
「蘭さん俺からもいいか?
鈴の中の力の事だけど、いつ暴走するか分からんから
制御の仕方、鈴に教えるから、今月いっぱい
いや、新学期まで学校休まして」
「えええ!」
鈴はビックリして、真横に居る紫音に振り向くが
「あぁ、構わんよ、好きなだけ休め」
「ええええ!」
鈴は目を丸くして、蘭を見つめる
「そういうことだ、鈴、当分ここで暮らすから」
「えええええ!」
いきなりの事で、混乱する鈴
何度も、蘭の顔と、紫音の顔を見返す
それを面白そうに、蘭と紫音は笑う
少したって、落ち着いた鈴は
不貞腐れた顔で食事の片付けをはじめると
鈴の機嫌取りに、紫音は口を開く
「鈴そう怒るなって、片付けしとくから
蘭さんと風呂でも入ってくれば?」
「・・・・・・」
「鈴、久々に一緒に入るか?」
「うん」
嬉しそうに返事をする鈴に
蘭と紫音は、胸を下ろす
風呂場から、聞こえる楽しそうな声を聞きながら
洗い物を片付ける紫音は、ため息まじりに
「あぁなんだかなぁ~紫音の記憶がしみついてやがる
俺が、家事をするなんてなぁぁ・・・」
リルは、そんな独り言に、念話で入ってくる
『私と出会った頃は、していたはずですが?』
『あぁ、マリアが来るまでな、全部俺がしてたけど
お前は、何もしてないだろ・・・・今もな・・・』
『申し訳ございません、このサイズですと、お皿すら持てません』
そんな念話をしていると
蘭と鈴が風呂から上がってくる
今度は、紫音が風呂に入ろうとすると
「コン」「にゃぁ」
「お?2人とも、一緒に入るか?」
嬉しそうに頷く、コハクと、ギン
『それでは、私もご一緒致します』
『リル、お前は周囲警戒、地下駐車場と外に通じる非常階段
マンションのメイン入口と・・』
『シオン様、私は、マリアじゃないんですから、そんなには無理です』
『ああ、悪い、ついな、じゃぁ地下駐車場入口周りメインで警戒で
あと、風呂入りたいんだったら、後で、コハクとギンと交代して入ってくれ』
『そおいう意味で、言ったわけでは・・・・・・・』
『ん?』
『いえ、何でもありません』
紫音は、コハクとギンを連れて風呂場に向かうが
紫音の後を歩く、使い魔コハクの背に乗る、ギンは
背後に首を向け、誰も居ない空間に向かって
勝ち誇ったように、一度鼻で笑う
それは、偶然なのか?女の感なのか?
そこに居るはずもない、見えもしない
存在が確立していない、小さな少女は、小さな白き狐を睨みつける
そう、そこには、誰もいない
だが、居たのだ、次元と空間の狭間に、1つの生命体が
それは、紫音すら気づかない、気づけない
10年かん、そこに居て、誰もその存在に気付けかった
それは、ある意味、その狭間にいる少女にとって
絶対の領域であるはずだった
だが、リルは、ギンと呼ばれる、白き狐の化身と目があった気がした
そして、シオンと、一緒に入いる事を断られたリルに
自分は、一緒に入ると、勝ち誇ったように、鼻で笑われた気がしたのだ
相手が誰であろうと、私の存在が認知できるわけがない
ただの偶然・・・・そう思い込むが、握る拳に力がはいるだった
そして、次の日
朝一で、東京に帰ろうとする蘭を引き止め、ある事を告げる
リルが、空間転移魔法で、送るよと
リルが、一度でも行ったことがある場所限定なので
一度、東京の家に転移して、迎えに来てもらう事となった
また、今日一日、リルは姿を消したまま蘭の護衛をする事となる
コハクは、アパート周辺の警戒
ギンは、紫音のバックの中に収納された
そして、朝10時、アパートまで、蘭の母親
紫音と鈴にとっては、お婆さんに当たる人物が、2人を迎えに来た
その人間は、現、三千風 (みちかぜ)家当主、【三千風棗 (なつめ)】である
簡単に説明しておこう、呉服問屋、三千風、江戸時代以前から有る
静岡で一番古く、一番大きい、呉服問屋である、大金持ちである
そして、棗、紫音、鈴は運転手付きの車で
2人の誕生日プレゼントを買うために
静岡最大級のショッピングモールに向かう
蘭いわく
「紫音、鈴、言っておくが、安物は、ねだるなよ
金持ちのババァだからな、ここぞというほど、買ってもらえ
100万位、ポンと出すだろうからな」
事実、棗は、数百万であろうと、出すだろう
それは、棗の子供は、蘭1人である
その蘭は、家業を継ぐつもりは無いのは判りきっていた
だからこそ、棗は初孫である、紫音か鈴を、とくに紫音を跡取りにしようと
常に模索している、今回も、10歳の誕生日と言うことで
無理やり蘭を、脅迫し、お祝いをすることになったのだ
ちなみに、棗と蘭は、仲が悪い
それ以上に、蘭の夫とは、もっと仲が悪い
そして、鈴が棗に、誕生日プレゼントとして選んだのは
刀工【吉光】作の和包丁7本セット、その額、79万
蘭にさえ、料理をさせた事のない棗は、それに度肝を抜かれる
あの娘 (蘭)は、こんな年端もいかない子供になんて物を持たせるのかと
料理なんて、危険極まりないものをさせるのかと
ちなみに棗は包丁を握ったことすらないのだから、びっくりするのも当たり前である
危ないと鈴を説得するも、和包丁に一目惚れをした鈴は引き下がらない
そして「これ以外なら、私はプレゼントいらないと」言ったものだから
渋々、棗は、包丁を買う事になる
そして、紫音は・・・・
もし1日前の紫音なら、玩具、ゲーム、アニメDVDと
数多くの物を、棗に頼んでいただろう
だが、今の紫音は、ある物を棗にねだる
それは、魔法デバイスである
この世界の魔法法則を昨晩見直した紫音は
今、鈴が使っている、デバイスでは許容量が少なすぎると感じていた
その原因は、鈴の中にある魔核が規格外であることから分かる
今後、その力を鈴が使えるようにするにあたって
現在使っている、デバイス能力では、限界があると
そして、その業界では、トップクラスのメーカーである
【フェイス・システム】の巨大店舗に足を伸ばし
数個の子デバイスをプレゼントとして、棗にお願いした
これに関して、棗は、大喜びする
自分の孫は、家の跡取りは、勉強熱心だと
礼儀正しく、優しく、賢い、この子は、さぞ立派な当主になると
中身は、何度も転生を繰り返してきた、おっさんである
それなりに、猫を被って、良い印象を棗に与えていた
その後は、紫音と鈴の願いで
美味しい和食が食べたいとの願いを叶えて
棗が良く行く、高級料亭での、遅めの昼食を取る
棗は、不思議な光景を目にすることとなる
紫音は、小さい時から、はしゃぐ性格でないのは知っていた
鈴は逆に、おしゃべりである
人見知りせず、誰とでも会話をする
ここまでの、移動中でも、あれやこれやと、棗と会話をしていたが
料亭の個室、そこに料理が運ばれてくると、鈴はぱったりと話すのを止めたのだ
そして、料理に集中して、黙々と、運ばれてくる料理を真剣に食べる
あるときは、食べる前に、じっくりと料理を観察し
また、あるときは、一口食べては、じっくりと味を確認する
時に頷き、時に首をかしげる
その光景に、美味しくないのか聞くと、とても美味しいと帰っては来るが
その光景は、いささか不思議な光景であった
時折、紫音が鈴に、料理を指して「これとこれ」とか言っていたが
棗には、何の事か理解できずにいた
この時から、鈴の和食のレパートリーが一気に増え
和食に関して、その味が数段、美味しくなったのは、言うまでもない
その後、紫音と鈴は、棗のお願いを聞き
有名ブランドの子供服の店に行き
棗の趣味で、2人合わせて20着、小物類を20個ほど買う
呉服問屋だけあって、服装に関するセンスは、とてもいいのだ
そして、最後に、棗の店、本店でもある
【呉服問屋・三千風】に行くこととなる
紫音と鈴が、静岡に住んでいた時、数度来たことのある
静岡の中心部から少し離れた安倍川の近く
古い平屋の大きな日本家屋である
棗が店に入ると、一斉に、声がかかり
店の中に緊張が走る
その光景から、厳しくもいい店主であるんだろうなと、紫音は理解した
そして、すでに用意されていた、着物を着ることとなる
まだ、紫音は男物なので、すぐに終わったが
鈴にいたっては、棗と、店子さんの、着せ替え人形と化していた
助けを求める鈴の視線を、紫音は気づかないふりをしながら
出された、お茶と和菓子を楽しんでいた
そして、疲れきった鈴を開放しながら
棗と紫音・鈴は楽しい時をすごした
そして、夜7時、店も片付けを始める頃
蘭が2人を迎えに来る、実際、本家に泊まれはしなかったが
元々1泊して今日帰る予定なのだ
ひと悶着あったが、棗は渋々納得し、蘭たち家族は帰ることとなる
東京にではない、昔暮らしていた静岡のマンションにである
帰りに、鈴が食材を買い込んだのは言うまでもない
すでに、この晩、料亭で出てきた簡単な和食を、数種再現してみせた
まだ、本物と比べると、再現率は90%を切るが
今までの鈴の料理からしても、一段上の出来栄えであり
なかなかの物あった、この調子なら、完全再現も近く
それを越えるのも、時間の問題だと、紫音は食べながら頷くのであった
今日あった出来事を話しながら
棗に買ってもらった物を、蘭に報告しながら、夜は更けていった
深夜3時
『シオン様・・・・』
『シオン様・・・・・・・』
『ふあぁぁ・・・・なに?』
『不審車両2、今、地下駐車場に入ってきました』
『マジできたか・・・・』
『そのまま監視、人数と、移動ルートわかり次第教えてくれ』
そして、紫音はゆっくりと目を開ける
隣に寝るのは蘭である
先日と同じく、著しく拒否ったのだが
蘭と鈴に無理やり言いくるめられ
昨日と同じく、3人並んで寝ることになったのだ
真ん中に蘭、左右に紫音と鈴が寝ている状態である
その魂年齢は、千歳に及ぶ紫音だが
現在の自分の母親と一緒に寝るのは、かなりの抵抗があったのだ
いや、本当は母親の記憶がないシオンは
ただ単に恥ずかしかったのだが、それもすぐに心地よいものとなる
無理やり、一緒に布団に入れられた紫音
蘭は最愛の子供を片手に1人づつ抱き寄せる
鈴は喜んで、蘭にしがみつくが
紫音は半ば強制的に抱き寄せられたのだが
そこには、母の心音と、母の身体を通して聞こえてくる鈴の心音
その2つの鼓動は、紫音の身体に染み付いた記憶を蘇らせる
生を受け、母のお腹の中で10ヶ月の時ずっと聞いていた鼓動
大きく力強い母親の鼓動と、優しく鳴る、双子の妹の鼓動
それは、紫音の身体に、穏やかさと、安心を思い出させ
紫音は、今日もゆっくりと眠りに付いた
そして、今、リルの念話で起こされたのだ
紫音は、蘭と鈴が寝ている事を確認すると
静かに寝室を出て玄関に向かう
前の紫音は、普段、家では、パンツ1丁にTシャツだったが
母の実家に帰るので、よそ行きの薄い水色のパジャマを用意してあった
恥ずかしながら、そんな姿で家の外に出ることになる
そして、玄関のドアを開けると、その足で非常階段にむかった
リルからの連絡で、車両2、運転手2人は、車で待機中らしい
それは、すでに、コハクの支配下であり、逃げ出すことは不可能であった
ちなみに、ギンは、蘭と鈴を守るため部屋の前で警戒中である
そして、残りの人物は、非常階段から上がってくる5人の男
リルが、不審人物達の会話を聞く上では
井門圭人が居た会社の人間が、新しく闇組織の傭兵を雇ったと
だが、井門と同様、その人物達は蘭の誘拐が目的で
深くまでは、詳細を知りえないだろうと言うことである
その男達を、迎え撃つため、アクビをしながら、歩く紫音
その歩調は、寝ぼけているのか、右や左にと不安定であった
外の非常階段に通じるドアを開け
3月入ったばかりの寒い深夜に
震えながら、両腕を組み柵にもたれかかる
カカン カツカツ カッカ
足音を立てないように、階段を上がってくる男達
だが、シオンの、スキルの感度をあげた耳には
彼らの足音が手に取る用にわかる
一番前で、階段を上がってきた男と、紫音は、出くわすこととなり
その男は、すぐさま、子供の男の子に拳銃の銃口を向け
拳銃を持っていない手で、後続の人間を止めた
「お前達、三千風蘭を誘拐に来たんだよな?」
「・・・・・・・・・」
「まぁ、その様子じゃぁ、忠告は聞いてなさそうだから
なら改めて忠告をしよう、このまま帰るなら、俺は何もしない
でも、歯向かうなら容赦はしないよ
ああ、忘れてた、俺は三千風紫音、蘭さんの子供だ」
5人の男達は、すでに聞いていたのだ
いや、紫音が井門に伝えた、警告のことではない
他組織の人間ではあるが、あの●●山 (やまさんと呼ばれた男)をも凌駕する子供がいると
それは、捕獲対象、三千風蘭の息子、9歳
だが、だれ1人として信じてはいなかったのだが
それを聞いていた男達は、階段でであった、少年に躊躇なく拳銃を向けた
そして、拳銃を持つ男は、軽く脅せば、小便をチビって動けなくなる物と自分を疑わない
視線は、紫音を見据えたまま、ほんの少し銃口をずらし
威嚇射撃を行なった、サイレンサー付き、魔法弾
それは、発砲時、多少の光を伴うが、完全無音で発射された
正しい選択の1つである
任務遂行するため、無駄な話はしない
●●山と、渡り合える格闘術がもしあるとしても
拳銃は回避不能、威嚇ではあるが、もし当たっても死ななければいい
もし死んでも自分たちの知ったことではない、まずは動けなくする事が
最優先と、子供相手でも躊躇なく、男は行動する
他の男達も、同じような行動をしたであろう
井門達と居た寄せ集めの人材とは、プロ意識がちがったのだ
紫音は見ていた、銃口が自分から、そらされるのを
そして、引き金を引く、その指までもをだ
そこから判断する、子供だと思って
威嚇射撃で脅そうという事が、すぐに解る
そんな事で、怯むことは、ありえない紫音は、何の警戒もなく動かない
そして、男の銃口から魔法弾は発射された
実弾と違い、その速度は多少遅い、それでも秒速200mは超えていただろう
発射された瞬間、紫音は意思加速を使い弾道計算をする
まったく、驚いたことに、その弾丸は当たるではないか
紫音の左肩付け根に、この男どれだけ下手くそなんだと
内心びっくりしながら、紫音は身体を右にずらし弾丸を回避する
そのはずであった
弾道計算を済ませた時にはすでに、弾丸は銃口から、1mほど離れていた
紫音の左肩に当たるまで、5mほど
意思加速、数十倍から、一気に数百倍まで上げて対処する紫音だが
その意思に身体はついて来ないのだ、昔の体なら、動ける速度
事実、あの【ザ・ワールド】魔法結界の中では、数倍の動きができたのだ
その感覚のまま、今身体を動かそうとするが、まったく動かないのだ
『うごかねえ!まじか?』
紫音の意思加速での叫びに、リルが反応する
『なにがでしょか?』
『体が、意思加速についてこねぇ』
『私は動けますが?』
事実、リルの身体は、その存在は信じられない速度で動くことができた
それは、10年にも渡る、あの空間で生きて来られた証でもあった
『俺は、動けんなんでだ?』
『さぁ、わかりませんが、此処に魔核がない為か?
その身体はこの世界の物な為か?』
『マジでか!?』
実際に、リルの言葉は当たっていた
あの時は魔核の補助があったため、この世界の体でも数倍の速度で動けていたのだ
あの結界内で有ったことも、大いに関係してもいた
そして、あちらの世界の紫音としては、使い慣れていない、この世界の体では
いきなりの加速に体が付いてこれなかったのだ
そして、威力より貫通に特化させた魔法弾は、紫音の左肩を貫通する
プロである男達は、それを見ても、何一つ表情抱えない
そして、紫音が叫ばない用に取り押さえるため
紫音を撃った男の後ろに居た4人の男は
すかさず行動にでるのだった
左肩を打ち抜かれようが、男たちが迫ってこようが
そんな事は気にしない紫音
そんな事より、想い通り動けない自分の事の方が重大であった
男達が紫音に掴み掛かる瞬間男たちの後ろで静かな呻き声が上がった
近くにいた、2人の男性は後ろを振り返ると
そこには、拳銃を撃った男が崩れ落ちようとしていた
何かの違和感を感じる2人
いきなりの出来事に、崩れ落ちる男に右腕が無いことに気がつかずにいた
それ以上に、振り向いた男の目を引いたのは
崩れ落ちる男の後ろから現れた
空中に浮かぶ、15cmほどの少女
横に広げた右腕の先には、空中に浮く、成人男性の右腕が存在していた
そして、その命をも奪うかの勢いのリル
「シオン様を、傷をつける事は、許されません、許しません
その罪、その命で償いなさい」
「待て!」
その言葉で、リルは動きを止める
2人の男は、後ろから聞こえた、声の主に振り返る
その先には、先ほどのパジャマ姿の子供
足元には、その子供を襲った2人男性が倒れていた
後ろを振り向いた一瞬の合間に
紫音は音もなく、襲ってきた2人を無力化していた
「リル空間魔法が使えるなら、あれに似た事はできるか?」
「あれとは?」
「あれだ、あれ、えぇ~~と、そう、マジックポケットだ
空間にアイテムを収納できるあれだ」
「はい、それでしたら、虚数空間を作れば
そこに、アイテムを保存することは可能です」
「おう、なら、そこに生き物を入れたならどうなる?」
「実行してみないと、どうなるか分かりませんが
多分、そこに入った瞬間から、その存在の時間経過が止まるものと
生きたまま、保存ができると、思います」
「わかった、なら確認も兼ねて。こいつら全員つっこんどけ
死んでも構わん、後で使うから捨てるなよ」
「わかりました」
2人の男達を挟んでしていた、シオンと、リルの会話は終を迎える
2人の男にとってみれば、理解できない事が多かったが
すぐに、紫音とリルに向けて臨戦態勢をとる
それは、紫音とリルを、敵だと認めた証でもあるのだろう
だが、それも無駄と帰す
リルと対峙した男は、気づかないうちに
リルの作った、虚数空間の中に取り込まれる
紫音と対峙した男は拳銃を紫音に向ける
紫音は左肩を撃たれ、左腕の機能は低下し
右腕しか、まともに動かないが、そんなこと紫音にとって些細なことであり
男に向けて、一歩、また一歩と足を進めていく
男は紫音に銃口を向けたまま、何かの威圧感に、額から滝の用に汗をかく
今までに、感じたことのない恐怖に支配され
拳銃の引き金を引くことすら許されずにいた
ある程度まで、近づいた紫音は、軽く右腕を大きく横に振るう
それは、スキルを使った技の1つ
頭を触って脳震盪を起こす技の1段階上の技、空気振動のみで相手の脳を揺らす技
それを今、実験的に使ってみたのだ
だが、男を倒すまでに至らない
少し脳を揺らしたか?目に映る視界を歪めたか?くらいであろう
それを確認した紫音は・・一言
「こんなもんか」
その言葉を聞くと同時に、男は、リルの虚数空間に引きずり込まれていった
「やっぱり、この身体に俺自身が、慣れていない事ってことだな」
「そのようですね」
リルは、すでに、5人全員を虚数空間に取り込み、紫音の側に浮いていた
「リル、地下駐車場の奴らも、たのむ」
「シオン様」
「なんだ?」
リルは、両手を胸の前で組み
上目遣いで、ある想いを紫音に聞きただす
「ご褒美は?ご褒美は無いのですか?
昨日も、今日も、すこしは、シオン様のお役にたてたはずです
それだけでは、ダメなんでしょうか?」
「ん?ダメじゃないが、なんで、ご褒美なんだ?」
リルは、シオンの言葉に
瞳に涙が溜まり
両手で目頭と口を押さる
涙ながらに、シオンに訴える
「昨日から、ずっと我慢しているんです
・・・・・・・・・
10年の長いあいだ、ずっと待っていたんですよ
シオン様が私の事を思い出すことを
シオン様に出逢える事を
シオン様に触れれることを
ずっと・・・・まっていたんです・・・
それなのに、シオン様は
家族を守る為にまた、その命を散らそうとする
やっと出逢えたのに、すぐさま別れとなる私の・・・・
本当に・・・わかりますか・・・・
私の気持ちが・・・
・・・・・・・」
しだいに、声がしぼんでいく、リル
胸にある想いを、一気にシオンにぶつけようとするが
そのままならない感情に、言葉はつまり
両目から大粒の涙を流し
「だいたいですね、シオン様は・・・
シオン様は・・・・・・・
シオンさま・・・・・」
そして、リルは紫音の左肩に飛びつき涙で濡らす
「シオン様・・・・・・
私のシオンさま・・・・
大好きです・・・
愛しています
シオン様
シオン様
・・・・・・・・」
紫音は、リルを揺らさぬよう、非常階段の手すりに、もたれかかる
朝焼けを迎える景色の中
そんな景色を、ずっと眺めながら
泣き続ける少女と同じ時間をすごす
そろそろ、オープニングな、どうでもいい話も終わり
本編に入ります・・・。
あぁ、長い序章だった・・・
はっきり言って、もう少ししたら始まる、学園での話が面白い!
てか、爆笑青春学園物の話なのに、一回も学校行ってないと言うのはどうかと思います。
あ、ブクマ、感想、評価おねがいします。




