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18話 家族会議

 


 

【北狐亜種 (シルバーフォックス)】の背に乗り

シオンは頭を掻きながら、バツの悪そうな顔で、地上に降りていく


そこには、4mを超える、猫型の使い魔の傍で

意識がない鈴を抱き抱える、蘭の姿があった

どれだけの涙を流したのだろう、その瞳は赤く充血し

目の周りは腫れ上り、化粧は落ちていた


蘭や、西神虎亜達が見守る中、シオンは道路に降り立った

人間と言う生き物は、知性があり、そのため常識と言うものが根付いている

だが、その常識を逸脱した出来事、想像すら出来ない、出来事とであうと

人間と言うものは、思考が停止し体は固まる

そう、今、蘭と、西神虎亜以外の人間は、その動き、その思考を止めていた


【北狐亜種 (シルバーフォックス)】の背から降りたシオンは

固まった男達を見回し、その驚いた表情を見て、シオンの口元が緩む


そして、調子にのって、他の人間の驚いた顔を見ようと、視線を泳がす

それは、油断であった、元よりお調子者のシオン

楽しいこと、面白い事となると、1秒前の事ですら忘れてしまう

そう、鳩が豆鉄砲食らった様な顔が、面白可笑しくて

今現在一番視線を合わせたく無い人物と、視線が合ってしまったのだ


そう、蘭と視線が合ってしまったのだ

それも、大きな火花を散らすように、バチバチっと


(いやん、これはもう、運命の出逢い

ビビッときてしまったわ、結婚してください・・・・・

 なんて、言おうものなら、確実に潰される・・・・・な・・・)


今の今まで、他人の顔を見て、心の内で、大笑いしていたシオンだったが

その、引きつった唇は、えもいわれぬ恐怖で凍りつく


シオンと視線の合った蘭は、無言のまま、その真剣な視線を動かさず

ゆっくりと右手を上げ、シオンを手招きをした


その行動を目にした、紫音の体は、シオンの意思とは別に

全身に緊張が走り、身震いしたのだ

それが、紫音だったなら、理解出来ただろう

だが、シオンは、自分の体感している事が、半ば理解できていなかった

シオン、その魂は約千年の時間を生きてきた

そして、ここ500年以上、その体が恐怖で凍りつく事も

何かに対して、緊張で身震いしたことはない

それが、神と対峙した時であろうと

魔王と言われる相手と、命を懸ける争いをした時であろうと

勇者と呼ばれる者に、負けた時であろうとだ


それが今、数百年ぶりに、えもいわれぬ感覚を体感する


そして、シオンの頭に在る言葉が浮かんでくる


【パブロフの犬】


そして、シオンは理解する


(すり込み・・・条件反射・・・か・・・・)


紫音として生まれて10年、色々な出来事があった

小さい頃から、すでに、その人間としての個を確立していた

それは3歳の時には、妹の面倒すら見ていた事から分かるだろう

だが、そうしなければ、ならない現状だったのだ


俺と鈴が生まれてすぐ、その両親は育児放棄に近い状態であった

出来ちゃった婚した2人、それも初めての子供が、双子という

普通より手がかかり、時間を圧迫され、自分の時間が取れない2人

育児ノイローゼか、苛立ちか、徐々に、オカシクなる若き両親達


お腹がすいて、泣き叫ぼうが、放置する両親

いや、数日に一回しか家に帰らない2人の親

そんな両親を持つ子供が

何度も栄養失調となり死にそうになったのは

両親の【セイ】でなは無いだろう

機嫌が悪ければ叩いて黙らす両親

その矛先は、男の子である紫音に向けられる

いつしか、両親の顔色を伺い、兄妹で部屋の片隅で震えていたのは

両親の【セイ】では無い

その環境は、普通の家庭環境と比べれば

ほんのちょっと、悪かったのかもしれない

そして、いつしか、子供より自分、育児より、趣味・仕事をとるようになった2人

その中で、生きていく為に、双子の妹を守る為に

紫音は自身の確立をしなければいけなかったのだ

全ては両親の【セイ】でも、両親が悪いのではない

自分の事くらい自分で出来ない自分が悪いのだと

それこそが、紫音が紫音となった、始めの一歩だったのかもしれない

そして拙い知識を手に入れ、それを行える練習をした

そして、3歳の頃、両親に向かって、ある提案を持ちかける



  自分達の事は自分で出来ると

  鈴の事は自分が付いていますと

  自分も鈴も、2人の事が笑顔が好きだから

  蘭さんも、お父さんも、したい事をしてくださいと



それは、両親に育児を放棄してくださいと

自分達の事は、ほっといてくださいと

遠まわしに言葉を操る、紫音の最大の抵抗

それは、どんな状況に置いても両親を大好きと言い続ける

鈴の心を、その両親を愛する想いを守るために

紫音が考え抜いた言葉だった


それからと言うもの

家族と言う鎖から解かれた両親は好き勝手に生きていく

だからこそ、良かったのかもしれない

育児という苦痛から開放された2人は、徐々に優しさを取り戻す

そして1年、2年と過ぎる頃には

昔の出来事は、嘘か幻かの如く、両親は子供を溺愛するようになる

鈴と両親が、まともに会話し、楽しい時間を過ごすのは週に数時間だが

それは、たまに遊びに来る、お爺さん、お婆さんみたいなものだ

無責任に可愛がり、遊び、甘やかす

そんな、歪 (いびつ)ではあるが、これが三千風 (みちかぜ)家の形となった


だが、紫音の記憶の片隅にある

幼年期に刻まれた、痛みと恐怖、それらは、確実に紫音の身体に刻まれていた



そして、今


手招きをする

蘭の真剣な瞳

その身に突き刺さる様な視線

それは、紫音の身体に刻まれた

記憶さえ薄い過去の恐怖と痛みを思い出させるには十分であった


シオンは、背筋を汗で濡らし

今起こった事をどう説明しようかと頭をフル回転させる

そして、一歩、その足を進める


銃で撃たれた傷の回復


鈴を包んだ黒い渦


この世界に居ないであろう存在、羽の生えた小さなリル


使い魔として作り出した、2匹の獣


そして、10秒前には、ボロボロの消し炭となって

その生命活動を終わらしていた、紫音の自身


そして、傷一つない体で、生き返った事・・


本当の事を言っても、多分理解できないだろう


そして又、一歩、その足を進める


何をどう説明すれば良いのかと、考えを巡らし


又、一歩と・・・


何を聞かれても良いように、考えを巡らすが

最適な言葉が、説明が、何一つ浮かばないまま


気が付けば、額に汗を流し裸のまま

鈴を抱き抱える蘭の元まで、足を進め

その歩みを止める


シオンと目線が合ってから、一度も瞬 (まばた)きをせず

一切視線を外さなかった蘭

その蘭の右手が、シオンに向けて伸ばされる

その行動に、シオンは身を震わせ、目を閉じた



その瞬間、シオンは蘭に抱き寄せられた


それは、とでも暖かく、とても優しく


その力強さに母の愛を、その肌で感じる


蘭は両手に、鈴と紫音を抱き、静かに涙する

抱きしめられ、目を丸くし驚くシオンだったが

静かに目を閉じ、その身を蘭に委ねるのだった


シオン、その一番古い記憶

それは、10歳位の時に、草原で目を覚ました事から始まり

転生を繰り返し今に至る

それは、自身の母親の記憶が、両親の記憶が無い事を意味していたが

今、紫音の記憶を借りて

母親の温もりを、母の想いを、その身に感じていた


だが、それは、転生して記憶を融合したといっても

しおんの物で、シオンの物ではなかった

蘭さんにとっては、辛いかもしれないが

その説明もしなければならなかった


いや、それ以前に、今の現状を、先に進まさなければ成らなかった

それは、何時ここに、高速交通警察が来てもおかしくはなかった

それほどまでに、時間が経過していたのだ


シオンは蘭に抱き寄せられたまま、蘭の耳元で口ずさむ


「蘭さん、急がないと、警察が来る

 いや・・十士族の緊急部隊が来る可能性も

 急いで、この場を離れないと、捕まって・・いや、保護されても

 この世界では説明出来ない事が、ありすぎるんだ

 できれば、俺達の身分が、報告されていない、今なら誤魔化せる

 他の人間が来るまでに、移動したい」


そう、井門の指示で、救助ヘリが呼ばれている事をシオンは聞いていた

その内容もである、重傷者2名、これは名前が出ていない以上、気にはしていなかった

だが、十士族関係者と言う、報告が上がった

それは、最悪、十士族の部隊が来る可能性を示唆していた


それを、理解した蘭は小声で


「・・・・・・・・わかった、でも、現状逃げ切れないぞ」


「大丈夫それは、こっちでどうにかするから

 蘭さんは、鈴を車に、後は運転席でまってて」


そう伝え、蘭の腕を外し、裸のまま、その場に立ち上がる


蘭は、意識の無い鈴を抱き立ち上がる

なぜか、そこには、蔓延の笑顔の鈴の寝顔

微かに笑い、鈴の言葉を思い出す

「紫音がいるから大丈夫」

そう、まさしくその通りとなったと

何故だか、今の紫音は大きくみえた、まるで別人のように

いや、本当に紫音なのか・・・・・


そんな想いを抱えながら

周りの目線を気にせず、車まで歩き

鈴を後部座席に寝させると、運転席に乗り込み

紫音を待つ


紫音は周りを見渡し

右手を前にだし、指を鳴らそうとするが


・・・・・・・・・・・・・・


「チッ・・・・・・・発動すらしねえぇ・・・・・・

 よかったな、お前ら、俺の魔力切れに救われたな」


ぶつぶつと、誰にも聞こえないだろう、小さな声で

何を誤魔化すように嘘をつく

それが誰に対してかは、わからない

そして、前に突き出した右手を下ろす


シオンは、目撃者を全て殺そうと

発動させようとした魔法を、その寸前で辞めた

前世でのシオンなら、躊躇なく、殺していただろう

自分の家族に手を出したのだ、それくらいは当たり前だと


その反面、感謝もあったのだ

その始まりは何であれ、シオンは目覚めたのだ

そして、リルと出会えた、それは、いったいどれだけの奇跡だろうか

それには、ここにいる全員が居てこそである

一人でも欠けると、今に至らなかっただろうと考えると

自然に、魔法を下すその手が止まったのだ


そんな自分自身を、おもしろオカシク、鼻で笑い


「お前ら、見逃してやる、今日見たことは忘れろ

 まぁ、誰も信じないだろうがな

 ただ俺は、お前達を殺す事に罪悪感なんてないぞ

 害虫を殺すように殺せる

 ttだ、今の俺は機嫌がいいから見逃すだけだ!

 あぁ、それと、デブ、お前だ!」


シオンは、自分を見つめる、太った男、西神虎亜 (にしがみこあ)を指差す


「あの魔法は、お前には、この世界にも早すぎる

 使いたいなら次元関干渉法則をきっちり学ぶべきだ

 それか、まだまだ改良は必要だが、自身の干渉にだけ、使ってみろ

 それだけで、個の戦闘力としては、人間最強クラスに踏み込める」


「ああ、俺様は天才だからな

 何時しか、完璧なあの魔法を完成させる

 その時は、もう一度、君に挑戦させろ」


虎亜は、既にシオンに殺気が無いのを理解していた

だからこその返答でもあったのだ


「ああ、だが、その魔法の完成と共に気がつくだろう

 そこは、まだ、入口にしか立っていない事に

 終わりない道に続いていることにな」


クスクスと笑いながら応えるシオン


少し離れた所で、意識を取り戻した、やまさんと呼ばれた男

その会話を耳にする

シオンの魔法で拘束され、意識が少し跳んでいた

そして、自分の力の位置付けに、歯を食いしばる

今朝まで自分の力が、1番だと思っていた

自分より強い人間は、師匠クラスの人物だと

そんな人間、そう居はしない、いても十士族の戦闘部隊の一部

そんな人間そうそう居るわけがない

だが、違った、3人掛りで、どうにか対等に戦えた、三千風蘭

何の魔法か分からないが、虎亜の魔法に手も足もできず

子供には、魔法で押さえつけられた

自分は何をしてきた、自分の力を振るいヤクザ紛いの事をして

毎日の用に街で遊びまくっていた

無駄にした

時間を無駄にした

上には上が居る、もっと力をつけなけれな

俺のプライドが許さない

とくに、あのブタに負けることだけは

誰よりも強い力を持ってやる

だけど・・今は、気を失ったふりを・・・


もし、シオンが、やまさんの近くにいたなら

狸寝入りをキメている、やまさんの頭を笑いながら踏んでいたところだろう


「最後に、お前、緯度経度

 お前らの組織に伝えろ、蘭さんと交渉するのは構わない

 その選択に、乗るか乗らないかは、蘭さん次第だからな

 だが、これ以上蘭さんや、俺の家族を傷つける事があるなら

 それは、この俺に敵対するとみなす

 全ての物を失う覚悟で、手をだすんだな、と」


「わかった、伝えよう

 だが、俺は今回のことで、首を切られるだろうし

 今後、三千風先生と、交渉する事も、会うこともないだろう

 そして、すまなかった

 傷つける気は、無かったんだ

 言うこと聞かない、バカ達と

 暴走した、ガキの事は

 俺が全責任をとる、本当にすまなかった」


そういい、井門圭人は

深々と頭を下げた


「ああ、それは、いい、いい

 終わったことだし、気にしてない

 あれは、あれで、色々と楽しかったからな

 死んだ自分の姿は、久々に笑わしてもらった

 ある意味では、お前達に感謝もしてるしな、きにするな」


右手を左右に軽く振り、笑いながら応えるシオン


「なんでだ?1度は、いや、2度死んだかもしれないんだぞ」


「ん?ああ、気持ちよく死んだよ

 まぁそれも、あれだ

 ん~~~~~と、あれだ

 終わりよければ、全て笑いとばせ?

 そんな所で、俺達は、お暇 (いとま)するよ

 じゃぁな」


シオンは、右手を振り挨拶すると

蘭達が待つ車に振り返り、足をすすめた


『フフフ、シオン様、真っ裸では、カッコつきませんね』


それは、すでに車の上空で待機しているリルからの念話である


『だまれ、うるさい、わかってんだよ

 こんな姿では、カッコつかないこともな

 リル、車1台くらい、転移できるか?』


『そうですね、今の新しい力の具合ですと

 転移できる範囲は、この世界基準で、東京ドーム10個は大丈夫でしょう』


『ほう、ドーム10個か、それは豪勢だなって

 おい、ちょっと待て、それは、世界基準じゃないぞ』


『そうなんですか?よくTVでやってるもので』


『TVっておい・・・・・・・

 まぁいい、色々聞きたいことが有るが、それも後だ

 それで、転移先の場所だが、どこに行ける?』


『シオン様の行った事のある場所なら、どこにでも転移できます』


『どういうことだ?』


『言葉通りですが?何か?』


『俺の行った事ある場所ならだと?』


『先程も言いましたが、ずっと側にいましたからですが?』


『ずっとだと?いったい、いつからだ?』


『だから、ずっとですが?

 この世界に転生してきて、気がついた時には、シオン様の魂の側にいました

 そして、シオン様の魂が、あの女の体内の、受精した卵子に吸い込まれ

 その細胞分裂による、双子になって

 小指ほどの、シオン様が、こう徐々に成長していき』


『待て、リル・・・・・・

 もういい、やめてくれ・・・・頭が痛くなってきた・・・』


『そうですか?このあと、シオン様の誕生という、素晴らしい     』


『だから、もういい・・・想像しただけで、頭が割れそうだ

 なら、昔住んでいた、静岡のマンション行けるか?

 車が置けるように、地下の駐車場がいい、人目に映らないようにだ』


『可能です、転移出現前に、出現位置及び、周りの生命反応確認します』


『よし、後は【西表山猫 (ヤマピカリャー)】【北狐亜種 (シルバーフォックス)】』


『にゃぁー』 『コン』


『お前達に、名前をやろう、色々考えてたんだが、そう【色々】な

 その結果、見た目で名付けることにした

 【西表山猫 (ヤマピカリャー)】その見た目から【琥珀 (コハク)】』


『にゃぁーーーーーーーーーー』


『【北狐亜種 (シルバーフォックス)】は

 その元名、ギンギツネと、その見た目から【銀 (ギン)】』


『コーーーーーーーーーーーーーン』


『そうか、そうか、2人共、嬉しいか、ハッハッハ』


『シオン様、それは、見た目というより、色では?』


『だから・・・色々考えたと・・・いったじゃないか

 それより、コハク、ギン、お前ら、でかすぎ、小さくなれないか?』


『にゃ』


コハクは、静かに4mを超える巨体を震し、徐々にその身を縮めていく

体長30cm、尻尾をいれて40cm程の子猫となった


『ココン』


ギンは、その場で大きくジャンプし、その巨体を一回転させ消える

そして、シオンの肩に出現した

その大きさ、尻尾を入れても10cm

ディフォルメされ、まるで、小さな、キツネの、ぬいぐるみとなった



『ギン!あなた、どこに出現するのです

 そこは、私の場所、シオン様に触れていいのは私だけです』


ギンは、鼻で笑うかの用に『ココン』と笑う


そんな、やり取りをしながら

シオンは蘭の待つ車に乗り込こむ


(それにしても、コハクも、ギンも

 普通に、意思加速の念話を使いやがる

 あの2人は、いったい何処に向かっているんだ?

 普通の使い魔だろ?末恐ろしいな・・・・

 それで言えば、リルの奴も、翼生えてたし、いったい何になる気だ?)


そんあ事を考えながら、助手席から後部座に上半身を突っ込み

自分の荷物を開け、自分の洋服を探り出しながら


「蘭さん、昔住んでいた、静岡のマンション、まだ使えるよね?」


「あぁ、契約はそのままだ、私の荷物置きにしてるし

 みんなの昔の荷物も残ってるが、それがどうかしたか?」


「よかった、なら其処へ、行って一旦落ち着こう、リル、行ってくれ」


「シオンどういう事だ?それに、うわぁ」


その瞬間、蘭は、視界が揺れた用に感じ

次の瞬間、車の外にコンクリートの壁が現れた

びっくりして、周りを見渡すと

それは、昔見た見慣れた景色

数年前まで蘭はそこに住んでいた、家族と共に

旦那と結婚して、ここで一緒に暮らしだした

そして、シオンと鈴が生まれ、2人が小学生になるまで住んでいた

懐かしの場所、である


「ここは、昔住んでいたマンションなのか?」


シオンは、軽く返事をし、蘭に鈴をお願いして

鈴と自分の荷物をもって、車を降りた


そして、昔住んでいた、10階の部屋に移動する

部屋に付き、窓を開け、軽く空気を入れ替えたら

押入れに締まっていた、布団を出し、軽くホコリを払うと鈴を寝かす

そうしてまた、車まで荷物や、お土産のお菓子や、食べ物を取りに行く

そうやって、ごそごそとしているうちに、蘭もおちついてくる


リビングも多少片付き、蘭は、ソファーに腰を掛け


「さて、紫音、お前も座れ

 それと、リルだったか?

 お前もこっち来い

 2人に、聞きたいことが山ほどあるんだ」


「だよね・・・・・その前に、鈴起こすよ

 鈴にも聞いといてもらわないと、何度も説明するのめんどくさい」


蘭は布団で寝ている、鈴を起こすが、しばし状況が飲み込めなかったが

元気な蘭の姿に、飛びついて涙をながした


鈴が落ち着くまでの数分間

シオンは、どこまで2人に打ち明けるか考えていた


そうして、蘭・紫音・鈴・リルを交えての話し合いが始まった



シオンは、右手で頭を掻きながら、話し出す


「どこから、話せばいいのか

 まず、最初に言っておかないと、いけない事があるんだ

 俺は・・・・シオンだけど、紫音じゃない

 とりあえず、俺は“S”とするかな

 簡単に、説明すると

 紫音は、あの、やまさんと言う男に蹴られた時に死んだ、脳死だけどね

 そして、紫音の前世である俺“S”の記憶がよみがえったと

 で、紫音の記憶が、Sの記憶に吸収された?って訳だ

 まぁ、まだ完全融合してないかな、微妙な違和感もあるしね」


それは、あまりにも辛い告白だと、シオンは内心おもっていたが

首をかしげる蘭から出た言葉は・・


「で?」


「え?だから、しおんと言う人間は死んで、今の俺は紫音の前世の人間だと」


「だから?結局、紫音なんだろ?」


「え?」


蘭は鈴の顔を見て


「だってなぁー」


「ねぇーー」


屈託のない笑顔で、鈴は蘭に返す

そして蘭は、当たり前の事を言う

 

「私から見れば、多少大人ぶった、いや、お兄さん風吹かせた紫音だぞ

 いつもと、かわらん?」


「うん、僕が俺になったくらい?」


その言葉に、シオンはびっくりする


「どーゆうこと?」


「何百年たとうと、シオン様の精神年齢は、お子様だと言う事ですね」


「マジか!!」


シオンは、横から口をだした、リルに振り返り、硬直する


「ちっちゃいの、わかってるじゃないか

 結局、紫音なんだよ、事実、その肉体は私が腹を痛めて産んだんだ

 だから、お前は、私の息子そして鈴の兄でいいんだ

 細かいことを気にするな」


シオンはため息をしながら、頭を掻き


「ならいっか」


その行動を見ていた鈴は、クスクスと笑いながら


「やっぱり、紫音、諦めの早さも、癖も何ら変わりない」


そして、真剣な眼差しで蘭が、話し出す


「それでだ、シオン、本題だ」


まて、息子の死とか、前世とか前振りかい


「その、リルだったか、ちっちゃいの解剖していいか?

 あ!ちがった、その、ちっちゃいのお前は何だ?

 お前達が使った魔法はなんだ?」


「蘭さん、欲望丸出し・・・・

 こいつは、前世での、家 (うち)の奴隷かな?リル自己紹介」


「先程、蘭様には、ご挨拶をしましたが

 鈴様も居られますし、正式に、ご挨拶させていただきます

 私は、リトル・L・アンシャンと申します

 【リル】と!お呼びください

 そして、シオン様の前世での、妻でございます」


「まて!お前は毎度毎度、嫁や妻だと、言いやがって」


「なにが違うのですか、そんな様なもんでしょう」


「全く違う、お前は、俺の子供のようなもんだ」


しばし、シオンとリルの、前世でいつもやっていた、言い合いが始まり

1分ほどやっていると、蘭が口をはさんでくる


「うるさい、そんな事どうでもいい」


蘭の一喝、そして


「ちっちゃいの、お前は何だ?妖精か?精霊か?」


そして、リルの動きが止まり

シオンに高速念話で、語りかける


『・・・・・・シオン様・・・・・・』


『なんだ?』


『やっぱり、この女、殺していいですか?』


『おい・・・・・・・』


『世界に存在出来き、あの力を得た事で、1秒も貰えれば

 あの女を殺せますので、1秒目を瞑っていて貰えますか?』


『まてまて、何を怒ってるんだ?』


『何を? 私が怒っていると? 私は全く怒っていませんよ

 ええ、怒ってませんよ

 ほんの少し、あの女を殺したくなっただけです 

 シオン様が生まれてから今まで

 シオン様が、あの女に、25062回、叩かれようと

 シオン様が、あの女に、11628回、蹴られようと

 シオン様が、あの女から、1627回、物を投げられ怪我をしようと

 シオン様が、あの女から、数万回以上罵倒されようと

 私は気にしませんでしたよ

 ええ、まったく気にしませんでしたよ

 ですが、あの女は、私のことを【ちっちゃい】と言ったんですよ

 だから、殺しても構いませんよね?』


『おい・・・・・マジか!数えてたのか?

 それより、誰が見ても、お前は小さいだろ?

 それが、何がだめなんだ?

 大体、俺がそれだけ、殴られても気にしないのに

 ちいさいって言われただけでか!』


『そうですかやっぱり、あの女を庇うのですね

 そうでしょうとも、シオン様は、あの巨乳が好きなのですよね

 生まれてすぐ、あの女の巨乳に・・あの巨乳に・・・・くそ

 シオン様は、生後約半年間で739回も、あの巨乳に・・・・

 吸い付いたのを覚えていないと?

 私も、マリアほどあれば、シオン様の顔を胸にうずめて、パフパフしますのに

 あぁ、悔しい、羨ましい、あの女は、まるで自分の胸を自慢するかの如く

 私に、胸がちっちゃいと言い放ったのですよ

 まぁ、あの女からすれば、多少小さいかもしれませんが

 すでに5回も、胸がちっちゃいと言ったのですよ

 1回目2回目は、あの女が、この世界でシオン様を生んだ女って事で

 我慢はしましたが、計5回も言ったのですよ

 それはすでに、殺されても仕方がない事では?』


ちょっとまて、お前の胸は見るからに無い、全く無い

小さいと言うより無いんだよリル、それに気づかないのか?

そういえば、前の世界でも、かなり気にしていたな

一部の子供達の間では、リルに胸の話はタブーとされていたな

その手の話は、マリア専門だったきがする・・


そんな事を思い出しながら、どうにか説得しようとするシオン


『いやまて、たったそれだけの理由で殺す気か?

 だいたい、お前は、妖精の子供くらい身長が、小さいだろ?

 これから成長して、身長も伸びて、胸も大きくなるぞ』


『ほんとうですか? シオン様!

 いや、知ってましたよ、そうなんです、私もまだ子供なんです

 これから、どんどん大きくなるんですよ

 シオン様待っててください

 すぐに大きくなった胸でその、お顔をうずめてさしあげます』


よかった、機嫌が直った・・・

だが、リンよ、その身体は多分成長しない・・・


『ああ、期待してまってるよ、だから、蘭さんを殺すなよ』


『それと、これとは、話が別です

 私はシオン様の妻兼、メイドとして、丁寧に接していますのに

 名前すら、呼ばないとか、失礼極まりありませんし

 どちらの存在が上かと言うことを、はっきりしとかないとダメですね

 なので、お仕置きをしていいですか?』


『リル、もういい、席を外せ』


『いえ、ここは、はっきりさせないと、他の子供たちに示しがつきません』


『この世界には子供達は居ないから、席を外せ』


『・・・・・・わかりました』


そんな念話を終わらせ

シオンは口を開く


「蘭さん、その前に言っておくことが

 俺の前世の事なんだけど、そこは、ファンタジーの世界と言ったらいいかな

 魔物と呼ばれる存在、スライムとか、ゴブリンとか、竜とか居る世界なんだ

 そこには、精霊や、妖精も居たんだが

 リルはそのどっちでもない、その生物名は俺も良くわからん

 というか、リル、そろそろ追跡が入るかもしれん、周囲警戒たのむ

 それと、コハクお前も行って来い」


それとなく、理由を付けて、リルを厄介払いする


「わかりました、周囲を見回ってきます」


そういい、リルは、一瞬にしてその姿を消した


そして、コハクは、「にゃ」と一声鳴き

空気入れ替えの為開けていた窓から、外に出ていった


「まぁいい、魔法の事を教えろ」


食い気味に、迫ってくる蘭を宥め


「先に軽く何が起こったか、鈴に説明してからね」


そして、簡単に適当に、何が起きていたかを鈴に説明し

魔核や魔法の事も、適当に嘘を交えながら、説明する





************************




世界にある力、それは大きく分けて3分類される


1つは、正しき力、神力、天力と言われる力である

その元となるのは、信仰心であるが、その解釈は色々であり

それは、神でなくてもいいのだ、天使であっても、勇者であっても

邪神であろうが、その信仰する存在が悪であっても、

真剣に信じる事で、その力は生まれるのだ

その一方、その力を使える存在は、正しき神の加護を受けた者でしか使えない

その為、ひと握りの存在、天使、勇者、又は、各宗教の上位の役職者である

 

2つめは、中立にある力、魔力である

その力は、あらゆる物に変換されたり

または、色々な物と混じり使われる

魔法・魔術・法術・妖術・陰陽術、他にも色々ある

これは、その使う人物の資質により左右されるが

ある程度は、どんな種族であろうと、知識ある者であるなら、使うことができる


3つめは、負の力、呪、1つめの力の相反する力である

それは、怒り、憎しみ、妬み、嫉妬、負の念から生まれる力である

それらは、呪法、禁忌、死霊術、ブードゥーに使われる

だが、それらを使うと、多少その負の力は術者にも影響をもたらす

その為、身代わりに、寄り代を立てたり、贄を用意するのが一般的でもある



ちなみに、神・天使は、1つめの力を主に使うが

邪神や堕天使、悪魔は、2つめの魔力を使う

だがまれに、3つめの力を使うこともある

悪魔とは、その存在自体は負の存在ではない、基本中立である

悪魔を呼び出し使役する人物の9割以上が、私利私欲の為に悪魔を使う

その為、悪魔=悪い存在となっただけである

だが、その属性が悪に傾いた人間が呼び出せるのは

同じく属性が悪に傾いた悪魔が多いいのは確かである



そして、正・中・負の3つの力は

世界によってや、地域によってソレの分布は変わってくる


前世の世界では、神や、天使・勇者は、確実に存在していた

その為、信仰心も強く、現世より多少つよいが

現世も、色々な宗教があり、宗教戦争を起こすほど、各宗教の信仰心はつよい


対比的には、前世10:現世8ほどである


魔力は、確実に前世の方が多いい

その為、魔物という存在が生まれるほどに


対比的には、前世10:現世4ほどである


そして、負の力に限っては、逆転する

前世では、各国間の戦争より、魔物の方が驚異であり

国同士や、種族間の戦争は少ない

数人いる、魔王も牽制しあってはいるが

大きな戦争をすることはない

魔王自体も、自身の領土があり、そこでは悪行を尽くす事はない

そして、神や天使、勇者の存在の為、負の念は少ないのだ


その反面、現世では、終わらない各国間の争い

枯渇していく資源の奪い合い

宗教戦争、テロ、内紛と、世界各地で、争いが絶えない

何処で戦争が起こってもおかしくない

また、裕福な国の平和ボケした、人間は

友達や家族であっても、些細なことで、争い、妬み、怒り、恨む

人間の負の念は、同種族人間に対して向ける物であり

1つの種族しか居ない世界にとって、それは必然でもあった

そして、その力を消費、使う存在が、全くと言っていいほど居ない事で

地球を覆うほど、その負の力は存在し続ける


その対比は、前世3:現世10となる



そして、シオンとリルが使った魔法に関して


まずリルの使った魔法は、1つ目の魔法であると

何かの加護を持っている、リルだから使えるのであって

普通の人間には、使えないと


そして、シオンの使った魔法

呪法にかんしては、蘭も多少知識があったので納得にいたった


浮遊魔法に関しては、シオンは前世で使えていたが

現世では、使えないことに対して

憶測ではあるが、魔法が使えるよになってからの歴史が浅い為

浮遊魔法が、使えるまでに、この世界の人間は体が対応しきれて無いのだと

だが、科学魔法でなら、できるかも知れないと、そこは要勉強だと


そして、前世と現世では、魔法理論が全く違う道を進んでいるため

どこまで、この世界の魔法に干渉していいのか、現時点で解らないと蘭につげる

またシオン自身で検証し、大丈夫そうなら

できる限りの知識の提供をすると約束した

それが、どれだけ時間が掛かるか分からないとも

数年後か、10数年後か・・・・・・・

10年後には、シオンが死ぬ運命で有る事は内緒にしたまま




*****************


そんな話を適当に、一通り話し

いくつかの、蘭の質問にも、適当に返し

話し込んでいると

外は、すでに暗くなっていた

蘭の携帯には、祖母から、数十件に及ぶ着信履歴がのこっていた


「蘭さん、そろそろ、終わりにしてくれ

 腹も減ったし、さすがに1日に2度も死ぬと、クタクタなんだけど

 それに、おばあちゃん所行かなくていいの?」


「「あ!」」


祖母の事をすっかり忘れていた蘭は声をあげた

それと同時に、腹も減ったの言葉に反応した

うつらうつらと、蘭の膝で半分寝ていた鈴も声をあげた


「紫音、鈴、ばあさんの所、明日でいいか?

 今日はここに泊まろう、私も疲れた」


「うん、じゃぁ私、何か食材買ってくるね」


「鈴、肉がいい肉」


「わかった、あ!リルさんと、その子は何食べるの?」


「リルは、多分、食事を必要としないから、無くていい

 ギンも必要ないから、いいよ」


「ハーイ、じゃぁ行ってくる」


元気よく返事をした鈴は、玄関に走っていく


そして、蘭は、祖母に電話し、携帯越しに喧嘩していた



そして、シオンは、あぐらを描いた太腿に乗っていた

ギンの頭を人差し指で撫でながら


今日起きた出来事を振り返り

一度、大きくアクビをする


「あ~~~~~・・・・・・・・めんどせ」


そして、クスクスと一人で笑い出した


『リル居るんだろ?』


『はい、側におります』


『まぁ、あれだ、元気でよかった、これから、どうなる解らんが、よろしくな』


『・・・・・・・ありがとうございます

 誠意いっぱい、命尽きようと、シオン様の御側に使えさせていただきます』


涙まじりの声で、返事をした、リル

たった一言の、シオンの何気ない言葉は

10年間側にいて、何も出来ず

辛く悲しい時間を過ごしてきた、リルにとって

その言葉は、何よりも嬉しく

込み上げる想いを隠せず、涙し返事をし、言葉は震えていた


そんな、リルの念話を聞きながら

クスクス笑う


『それと、コハク、ギンもよろしくな』


『にゃ』 『コン』


魔物も魔王も神も居ない世界

10歳の子供が武器を銃を持たない、戦争の無い国

平和ボケした国民、そうそう争いごとに巻き込まれる事はないだろうと

早々と、家から独立し

シオン・リル・コハク・ギン、4人で

おもしろ、おかしく、きままに、日向ぼっこしながら

残り10年、隠居の用に暮らしていこうと、考えながら

鈴の美味しいご飯を待つシオンの、姿がそこにあった



 

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