16話 魔核封印 そして 死
大きくジャンプした、シオンは、先程作り上げた結界魔法の中に飛び込んでいく
2つの魔法
【監獄領域(プリズン・フィールド)】
【時間凍結(フリージング・ゼロ)】
出来合の魔法ではない、シオン自身が1から組み上げた魔法なのだ
その理 (ことわり)と法則を知る、シオンにとって
2つの魔法を、キャンセリングする、対応魔法を自身に掛けることは朝飯前である
それ以前に、魔法を組み上げる時点で、シオン自身には効果が発動しないように作ってある
だが、今は紫音の体であり、その作用が有るか無いか判らないため
自身に対応魔法を掛けたのだ
何も無かったかのように、結界に飛び込み、鈴の下まで落ちていき
空中浮遊できない、今のシオンは、小さな鈴の身体を足場にし、着地する
そこには、未だ、魔法【フリージング・ゼロ】に抗い、蠕く魔核が存在していた
ここまでは、ほぼシオンの予定通りである
いや、使い魔の覚醒進化と言う嬉しい誤算もあった
後は、弱まった魔核を鈴から引き離し、シオンが魔核を吸収すれば終わりである
鈴の体の上に立ち、蠕く魔核を前に
シオンは、一番の疑問にたどり着く
弱まった魔核?・・・・・そんな事は有り得ない・・・
時間操作の影響は多少受ける物の、元々俺の魔核が弱まるなんて
その力は、地球をも破壊できるほどの物である
そんな力が弱まる?
未だに、魔核から漏れる力は、1%にも満たないのである
一体、魔核と鈴に何が起きているのかと
シオンの頭の中にずっと疑問が沸いていたが
その事を確認する時間も残されていない
いや、もしかしたら、このまま数分もつのかもしれない
だが、もたないのかもしれない
今は鈴の命が最優先である事はシオンが一番理解している
シオンは、軽く息を吸い
手と手を合わせる
「パン!」 と 勢いよく拍手し、大きな音を起てた
その音に、シオンは聞き耳を立てる
シオンは、その手に魔力を乗せて叩いた
それは、シオンのスキルである【波】を使った、超音波を使う為である
まず、音の反射を、そのスキルで感じ取る
音の反射角、音の広がり等で、その形を頭の中に構築し
反射した音の、音程や、大きさ等で、その反射した材質、服や肌を確認し
その目で見なくても、シオンは鈴と魔核の状態を確認した
だが、超音波だけでは、魔核の内部を確認できない
その為に、超音波と同時に魔力による、ソナー効果を、スキルで感じ取る
以前の世界では、普通に魔力や、魔素の流れを目視できたシオンであるが
今の紫音の身体では、魔力を見ることも、感じることも出来ずにいる為
魔力による、ソナー効果で、鈴と魔核に流れる魔力の形を確認する
一定の形を取ることがなく、つねに形を変える魔核
その、存在は、全てを飲み込む、ブラックホールの用でもあり
無限の魔素を作り出すその力は、原子力核融合炉のようでもあった
そして、吹き出す魔素は、2人の使い魔が、全て吸収している
そう、それが今の魔力の大きな流れ
そして、シオンは、その影に隠れている鈴と魔核の繋がりを感じ取る
魔核を包むように、身体を軽く丸める鈴
鈴の胸の中心部から、目に見えない魔力の太い管が伸び
その先には黒く底が見えない魔核の姿があった
鈴と魔核その繋がり、魔力の太い管
それは数万にも及ぶ魔術回路による物であった
その事を確認した、シオンは、少し、ほんの少しだが安心する
以前の、シオンの用に魔核が魂と同化していない事に安堵したからに他ならない
魂と魔核の同一化、もしそうであるなら
鈴からの魔核の切り離しも、魔核の消滅も出来なく
鈴を無事、助けるには
地球をも飲み込むであろう巨大な魔力を蓄える魔核の封印しか
手段がなかったのだから
鈴の魂だけ残し、魂と同化した魔核だけを封印なんて
前の世界のシオンですら、出来はしない
最悪の事態だけは、回避したと
だが、安心するのは、まだ早かった
シオンには、これから、魔核を鈴から切り離す作業があるのだから
魔術回路、それは全身を走る魔術の神経の様なものである
それによって、鈴と、魔核が繋がれていた
鈴の魔力適性試験の結果である
魔力と魔力量、10段階評価でどちらも10である
この結果は、この魔核が有ったためであるだろう
そして、その魔核を、魔術回路を切断して取り除こうというのだ
魔核を取り除けば、今ある魔力は無くなり
鈴本来の魔力となるだろう
確率的には、双子である、紫音と同程度となるであろう
そして、切り離す為に、鈴の魔術回路を切断する
下手に切断すれば、魔術回路は壊れ再生不能となる
その後遺症として魔術を使えなくなる可能性もでてくる
それを避ける為にも、シオンは魔術回路の切断に細心の注意を払う事になる
魔術回路、それは神経の様なものである
綺麗に切断し繋げれば、回復もするし、その再生も早い
シオンはそんな手術らしき事をした事はないが
シオンの技術とスキル、そして、紫音の知識を合わせれば
できるハズである、いや、しなければない
家族を、蘭と鈴を救う為なのだから
そんな事を想い、紫音は蠕く魔核を、押さえ込む為
その身に覇気を纏い、魔核を掴もうと左手を伸ばす
バチン!!
まるで、静電気がハジける用に、魔核はシオンの左手をハジイタ
「うわ! パワーが足りねえか・・・」
魔核を押さえ込むには、覇気だけでは、力が足りず弾かれたのだ
「なら、来い!【西表山猫 (ヤマピカリャー)】」
「ニャアァァーーーーーーーーーーー」
使い魔【西表山猫 (ヤマピカリャー)】は
必要とされた、その喜びに、5mにも及ぶ巨体を震わし
シオンの呼びかけに返事をし
シオンの元に駆け寄り、隣に位置する
「ハハ、でかいな・・・・まぁいい、力を貸せ」
イメージしたのは、60cm程の西表山猫、それを遥かに超えた大きさに
クスクスと笑いながら【西表山猫 (ヤマピカリャー)】に指示する
その2又に分かれた尻尾をシオンの肩にのせ
【西表山猫 (ヤマピカリャー)】と、シオンは、魔術回路を接続する
そう、その為に使い魔として作成し、【魔力吸収 (マジック・ドレイン)】を持たせ
魔力を蓄積出来るように生み出したのだから
その一方、2匹で、魔核の放出する魔素を吸収していたのを
【北狐亜種 (シルバーフォックス)】が、一匹で受け持つことになる
その為、吸収しきれなくなった魔素は
そのまま魔核を覆う黒い魔素となり渦を巻きだす
「く・・【北狐亜種 (シルバーフォックス)】20秒持たせろ、やれ!」
その上から目線の言葉は、【北狐亜種 (シルバーフォックス)】を奮い立たせる
全ての者を魅了する者として生み出された【北狐亜種 (シルバーフォックス)】にとって
神であるシオンの、強い上から目線の言葉は、背筋が震えるほどの快感であった
ココォーーーンと、大きく鳴き
九つに分かれた、その尾を大きく拡げた
そして、その尾1つ1つで、魔法陣を展開させる
それは、小さな【マジックブースター】
【北狐亜種 (シルバーフォックス)】の全面に展開された
【魔素吸引 (マナマテリアル・アブソーバー)】の周りに九つの、ブースターが装着される
それは、一気に吸引速度を上げる
空中に浮かぶ【北狐亜種 (シルバーフォックス)】
その魔法の吸引力により、ズレるその身を大きく4本の足を踏ん張り
シオンの命令に応える為に、全身に力を込める
【北狐亜種 (シルバーフォックス)】に命令を下したシオンは
その左手に、幾つもの魔法を掛けるのだ
強化外装、から始まり、魔法防御、魔力耐性と数種の魔法を掛ける
そして
「【西表山猫 (ヤマピカリャー)】ブーストしろ」
その言葉に応じて、【西表山猫 (ヤマピカリャー)】は
シオンの左手に、ブーストを掛け、大きく3段の魔法陣がシオンの左手を包む
シオンの左手は、魔法により青白く光る膜におおわれ
何重にも及ぶ魔法陣が展開されていた
そして、シオンは、魔核を掴むため、その左手を伸ばす
魔核と左手の間で、大きく音が弾け
バチバチと、スパークする、魔力を無理やり押さえ込むシオン
そして、右手で、魔力を使った、スキルを発動させる
それは、魔力による超高周波ナノマテリアルブレード
シオンのスキルと、紫音の無駄知識によって生み出された技である
それは、理論上、あらゆる物質が切断できる事は当たり前であり
目に見えない魔力であろうと、魔力が通うものであるなら切断できる
そして、その性質上、切れ味が落ちる事もなく、切断面は常に綺麗である
「悪いな魔核、戻ってきてもらうぞ」
そして、シオンは意思加速を使い
左手で押さえ込んだ魔核と、鈴の間にある魔術回路の切断にかかるのだ
魔術回路に対して直角に刃をあてるシオン
刃の進む速度は、ゆっくりであるが、千倍に近い意思加速のシオンは
かなりの時間と神経を使い切断していた
そして、魔術回路の束を半分も切り進んだ頃
ある言葉が、シオンの脳に届く
「・・・助けろ・・・・・この娘 (コ)を・・・・
我を・・・・・・・・こわせ・・・・・・・
・・・・・全ては・・・・・・・・・・・」
そんな言葉が、何度も繰り返される
『意思?
魔核に自我?だと・・・・
俺と1000年近い時を共にした時には、そんな事はなかった
鈴とたかが10年ほど共にいただけで?自我に目覚めたと?
何があったんだ?いったい何が?・・・・・
そうなんだ、オカシイんだ?
きっかけは何であれ、全ては、魔核を中心に事が起こっていたはずだ
そして、魔核に意思があるなら?あったなら?いや
全ての根源は、鈴なのか?
鈴に何かあるのか?
鈴の母を救いたいと願う想いが、魔核から流れ出す魔素に回復効果を与えたんだ
2人の使い魔に自我が覚醒したのは
自我を持った魔核から吹き出す魔素を吸い込んだ為なのか?
鈴と魔核の繋がりに何かあるのか?
鈴と魔核だったからか?
俺と魔核では、なかった何かが・・・・
なら、俺が再び魔核を吸収するより
鈴と共にあったほうが・・・・
おもしろい?
だな・・・・・・
(数千倍の意思加速の中、魔核に念話で語りかけるように)
ククク、悪いな魔核、壊せと言う命令は聞けんな
そして、もう一度、鈴の中に戻ってもらうぞ
今まで鈴を助けるために、その力を抑えてたんだろ
でなければ、すでに世界は終焉を迎えていただろう
なら、もう少し耐えろ、そして、俺様を舐めるな
魔核お前が、いたから、あの世界で絶対的な力を得た事は間違いはない
だがな、お前が居ようと居まいが、俺は俺だ
お前を壊さずとも、全てを助けてやる
鈴や、蘭さんだけでなく、お前もだ魔核
そして、その力、いや、その意思がある限り
鈴に力を貸してやれ、いや、鈴と共に生きろ』
そして、7割ほど、鈴の魔術回路を切断していた、右手を止め
魔核を押さえ込んでいた左腕も、引いた
そして、【西表山猫 (ヤマピカリャー)】に
再び戻って魔素を吸収しろと命令を下し
鈴の体を足場にして後ろに飛び退き、下で待つリルの左側に降り立った
心底楽しそうに、笑いながら
「ハッハッハ、なぁ、リル」
左腕を左腰に置き、右手を前に掲げ、世界を仰ぐ
「はい、なんでしょう」
「この世界は、本当に、おもしろいな
信じられない事が、山ほど起こる
知らない知識・・そう、知らない事が、まだ山ほど有るんだ
そして、何かの悪戯 (イタズラ)か
誰かの、思惑か、フッ・・・奇跡の大盤振る舞い
楽しいな
飽きないな
ああ・・・なんだろうな
あの世界には無い充実感が、ここにある
あぁ、、よかった、この世界に来て、本当に楽しかった」
「それは、よろしかったです
私も、その奇跡の片鱗を頂き
こうやって世界の片隅に存在を許され
シオン様と共に在れる事を心から嬉しく思っています」
「あぁ、ここにマリアが、居ないのが、少し残念なくらいだが
俺の家族、リル、そしてマリア、だが今は、鈴や蘭さんもいる
さっき、宿敵とか言っていたが、仲良くやれそうか?」
「はい、シオン様の命令とあらば」
「命令じゃなく、お願いだな、これから、一緒に居ることになるんだ
仲良くやってくれ、それと、何かあったら、助けてやって欲しい」
「はい・・・・・・?」
リルは、返事をするも、首をかしげる
楽しそうに、クスクスと笑いながら会話をする、シオンに、違和感を感じるリル
だが、前の世界では、シオンは常にこんな感じであった
いや、言うならば、もっと適当で、いい加減であった
まだ、紫音とシオン様の記憶の融合が終わってないのだと
自身の違和感に疑問を持ちつつ、納得する
そんな、リルの動きを横に
意思加速した念話で、ある魔法を、リルに送り込み
『できるか?』
『はい、できると思います』
『おう、いけ、やってしまえ』
『はい』と言う返事と共に、リルは、一気に上空へと駆け上がる
鈴のより、10mほど上に位置し、鈴を見下ろす形で
小さな身体を、大きく広げ、シオンから送られた魔法を発動させる
「ウルズ術式封印結界陣」
正三角形の魔法陣を組み上げる
「カケル4」
そうして同じ魔方陣を、リルの上下左右に計4個作り上げた
「術式操作、展開」
リルは両手を巧みに動かし、魔方陣を操作し
空中に浮かぶ鈴を中心とするように、4つの魔方陣は飛び回り
鈴を中心に1つの面を上辺とする正4面体を作りだす
「完成、ウルズ術式4面封印結界 (改) 」
シオンは、リルが飛び上がると同時に
右手を頭上にかざし、手のひらを上に向け
ある力を集める
そして、意思加速の念話で、独り言を喋るかのように・・・
『なぁ、魔核よ、知っているか?
この世界はな、科学魔法が発達したんだ
ソレによって、もともと存在していた、幾つかの物が廃れて行った
いや、それぞれの元となる物であったり、根本であったり、その本家は未だあるんだが
その1つが、あの世界にもあった呪法、呪いと言う物だ
人を妬む心や、恨む心、又は未だ世界各地の貧困や、争いによって生み出される力
魔力でも無く、魔素でもない、まったく違う力
【呪】ある意味、悪に近い力、負の思念だ
それは、この世界では、使われる事もなく、消化されることも無い
それは、空に溜まり、何百年の時間を掛け、徐々に宇宙へ溶け込んでいくんだ
だが、ソレすら間に合わないほど、この世界では、ソノ力は生み出されている
俺の考えと紫音の知識を合わせると
今まさに、ソレは、地球を飲み込み犯している
それは、今、オゾン層破壊という現象を起こしている
まぁ、余談だがな
そんな有り余った力を使える人間がいるとしたら?
知っていると思うが、ソレを俺は使える
ただあの世界では、ソノ力は弱くてな、使い勝手悪かったんだが
この世界では、その力は、高密度の魔素に匹敵するんだよ』
シオンは大きく跳躍し
リルの魔法の完成と共に、その封印結界の上に降り立った
『見とけ、魔術だけが魔法出ないことを見せてやる
呪力圧縮・・・・・』
天に掲げた右手を前に差出し、手のひらを下に向ける
「呪玉、排出」
シオンの右手から
黒色と深い紫色の混ざる、どす黒い玉が4個放出され宙に浮く
「呪玉操作、展開」
その4つの玉は黒い糸を引きながら飛んで行き
1つは鈴の真上に、あと3つは鈴の下に等間隔で位置する
「発動、呪式4点封印結界」
4つの玉は、それぞれに対し、黒い帯を伸ばしていく
そして、ソレは繋がり、黒い帯で囲まれた正三角形を作り
その面を黒く薄い膜で覆う
底辺を三角形とする、正4面体を作り出したのだ
リルの作り出した【ウルズ術式4面封印結界 (改)】
頂点を下にする、正4面体
シオンが作り出した【呪式4点封印結界】
頂点を上にする【ウルズ術式4面封印結界 (改)】と同じ大きさの正4面体
その2つが合わさることで、作り上げた
複合多面体、またの名は、星型8面体
シオンは、その上に立ち、叫ぶ
「来い【北狐亜種 (シルバーフォックス)】」
その言葉に反応し、【北狐亜種 (シルバーフォックス)】は、シオンの側に飛んで来て
「コーーーーーーン」と、1度鳴く
その鳴き声は、本来、呼ばれた嬉しさに、高く響くはずだった・・・・・が
何故か物悲しさに、低く響いた
「気にするな、ソレより、力を貸せ」
「コン」
静かに鳴くと、シオンの左腕を軽く舐め、シオンの後ろに並び立つ
その星型8面体の上に立つシオンと【北狐亜種(シルバーフォックス)】
そして、その中心に、魔核を抱える鈴の姿があった
「さて仕上げだ、リルは、そのまま待機
後の調整は俺がする、魔術回路接続【北狐亜種(シルバーフォックス)】力を借りるぞ
さあ行くぞ魔核」
シオンの呼びかけに、リルと【北狐亜種 (シルバーフォックス)】は返事をする
そしてシオンは、魔核を封印するために、右手を前方にかざし
【北狐亜種(シルバーフォックス)】の魔力を使い
【ウルズ術式4面封印結界 (改)】を操作する
そして左腕を前方にだし、呪詛を使い【呪術式4点封印結界】を操作する
その姿を確認したリルは、シオンに対して大声で叫ぶ
「シオン様!左手は、その左手は、どうなされました!」
「うるさい、さっき魔核を押さえ込んだ時に、持ってかれただけだ」
シオンの左手は、手首から先が存在していなかった
魔核を押さえ込んだ時、左手に何重にも掛けた魔法であっても
その魔核のパワーに耐えられず、焼け落ちていた
いや、それだけではない【西表山猫 (ヤマピカリャー)】の力を借り
強化したその力に、左手が耐えられなかった
そして今まで、巧みに、リルの視界から、左手を隠していたが
とうとう見つかってしまったのだ
「シオン様、わかっていらっしゃいますか?
私の力では、失った肉体は回復できないんですよ
この世界では、肉体再生を行える人間はいないんですよ
もう少し、自身の身体を気遣ってください」
「うるさいなぁ、リル、お前は、あの2人を見習え
奴らは、分ってても何一つ言わないぞ」
【西表山猫(ヤマピカリャー)】と【北狐亜種(シルバーフォックス)】
2匹の使い魔は、シオンの左手が徐々に焼け崩れていく様を見ていたが
何も言わなかった、主であり神である、シオンの行動に口を出すことはない
それは使い魔として許されない事であり、あってはならない事であった
本来、魔法生物として生み出された2匹の使い魔には、意志は無かったはずである
それが意志を持ったと言っても、シオンに逆らうことは有り得ないのだ
リルも、シオンに、そう言われると、その後の言葉が出ない
だが、言わなければならない、それが、リルの役目
絶対服従の使い魔ではない、部下と言う立場でもなく
シオンの家族として
「わかりました、ただ、ムチャだけはしないでください」
「はっはっは、イヤだ、断る」
「わかっています・・・けどね・・・」
リルは、ため息をこぼす
それを感じ、シオンは、軽く鼻で笑う
そんな、やりとりの中、シオンは2つの封印結界を融合させる
「完成だ、俺式・即興オリジナル魔法
【魔・呪・混縁、星型8面体封印術式(ステラ・オクタンギュラ・クロスオーバー)】
魔核、てめえも、意思があるなら、鈴を助けたいなら、共に有ろうと願うなら
おとなしく封印されろ!」
そうして、右手から魔力を
左腕から呪力を、封印術式にながしこみ
その魔法【ステラ・オクタンギュラ・クロスオーバー】星型8面体を徐々に小さくしていく
この魔法、魔導法則を無視して、その内にある、魔を圧縮封印するのである
シオンのオリジナル魔法であるが
その魔術の根本は、シオンの魔法の師である、ウルズの魔術理論
そして、シオンの前の世界、リルとマリアと共に居た世界
その世界で【ある呪い】を解くため、あらゆる呪法を研究し得た、呪術理論
そして、紫音の無駄知識が合わさった、唯一無二の魔法である
その魔法は、数秒で手のひらサイズまで、小さくなる
シオンは、宙に浮かぶ鈴と対峙するように
【北狐亜種(シルバーフォックス)】の背に乗り
その今は無き、その両手に【ステラ・オクタンギュラ・クロスオーバー】を包み込む
そう・・・すでに、シオンの両手は無い
その身に覇気だけの強化で
【ステラ・オクタンギュラ・クロスオーバー】の操作を行った代償である
右手は、【北狐亜種(シルバーフォックス)】から送られてくる
魔核から吸収した、高濃度魔素を使った事により、肉体が耐えれなくなり
魔力焼けを起こし、その右手は指の先から、肉体が沸騰し蒸発していった
未だ、魔力焼けを起こす右腕はすでに、肘まで蒸発していた
そして左腕と、シオンの体は、呪力を使うことにより、蝕まれていく
呪法、これが世の中から廃れていった最大の理由がこれである
呪法それは、この混沌に満ちた世界では、絶大である
だがその力を完全使用できる人間はいなかった
その為か、それ以前の問題か、その巨大すぎる力に気づく人間もいなかった
そのハズである、呪法、強い力ではあるが、その根源は呪いなのだ
その呪いは対象者だけでなく、使用者にも降りかかる
使えば使うほど、その力に体は蝕まれていき、死に至る
だからこそ、呪法は廃れ、今は使える人間も皆無であろう
それは、シオンですら例外ではない
その肉体は、この世界の子供なのだから
魔核から放出された、回復効果ののった魔素の中ですら
その呪法の枷から逃れる事はできなかった
そしてシオンは、有り会えない程の、高密度の呪力をつかったのだ
その代償は、計り知れない物であり、たった十数秒使っただけで
シオンの左腕は、すでに蝕まれ、左肩まで腐食し崩れ落ち
シオンの内蔵はすでに、生きている事が不思議なくらい蝕まれていた
だが、その事を承知の上で、シオンは呪法を使ったのだ
魔核を封印し、鈴の身体に戻す、それを決めた瞬間に覚悟を決めたのだ
いや、シオンにとって死とは、日常茶飯事であり
覚悟も恐怖もない、目的の為なら
自分の命すら、駒の1つとして捨てる事に何の躊躇すらないのだ
【ステラ・オクタンギュラ・クロスオーバー】を使い
魔核を完全封印していくシオンを、涙を流しながら、何も出来ず見守る、小さな少女
リルは前世での記憶がよみがえる
あの世界で、天使の結界に包まれ
死を迎えようとしていた、シオンと
今、その強力な魔素と呪詛により
ボロボロなりながら死に向かって進んでいく、その姿が重なる
前世では、私やマリアの為に、自ら進んで死んでいった
そして今は、妹を助けるために、その身を犠牲にする
そう、シオンは、家族を助けるためなら、笑いながら、その命すら投げ出す
そんな姿に、止めど無く涙が溢れてくる
だからこそ、忠告はした
だが、それくらいで止まるシオン様ではない・・・わかっていた
そして、時間が経つにつれ、シオンの体が朽ちていく
肉体復元は出来なくとも、回復魔法はつかえる
だが、それを使うのには遠すぎた
リルは【監獄領域(プリズン・フィールド)】【時間凍結(フリージング・ゼロ)】
この結界の内に入ることは出来ないのだ
シオンと違い、リルはこの結界に入れば
自身の時間が凍結する事を、理解しているのだ
その為、シオンの横に寄り添い、回復することが許されない
ただ、あの時と同様、今は見守る事しかできなかった
そんな、リルと、2匹の使い魔の見守る中
シオンは、魔核の完全封印に成功した、それは手の平サイスの大きさとなる
シオンは、静かに鈴に近づき無い腕を動かす
そこには、肉体の腕はないが、霊体となった腕は有り、それを未だ覇気が覆う
それは薄く青く神秘的な輝きを放つが
それが見えるのはシオンとリルの2人だけである
そんな肉体の無い両手で星型8面体に封印された、魔核を包み込み
鈴の胸の中に仕舞う用に、そっと押し込んでいく
そして、【ステラ・オクタンギュラ・クロスオーバー】は、完全に鈴の身体に収まり
魔核の完全封印、そして、その封印は、そのまま鈴の身体に定着し
魔核は沈黙する
鈴は魔核の制御下から解放され、空中で浮遊していた鈴の体は地面に落ちていく
リルは、すかさず【西表山猫(ヤマピカリャー)】に命令を下そうとするが
それよりも先に【西表山猫(ヤマピカリャー)】は行動に出ていた
空中を駆け、落ちていく鈴の服を軽く噛み落下を止め
そのまま首を振り、その背に鈴を乗せ、ゆっくりと地面を目指し降りていく
鈴を助けたのを確認し、シオンは
静かに【北狐亜種(シルバーフォックス)】の背中に崩れ落ちた
「シオンさまーーーーーーーーーーーーーーーー」
リルの叫びの中、シオンの高速の念話が届く
それは、その肉体は呪詛に犯され、死に直面しているにも関わらず
気持ち良いほど、清々しかった
『最後まで、うるさいな、リル
さすがに、無茶しすぎた、いやぁ笑うしかないな
思った以上に、この世界の呪詛の力は強いな次回は、その辺も考慮して
身代わりとなる寄り代か何か用意しないとダメかな
まぁそれでも、鈴も蘭さんも、ついでに魔核も、助けたから良しとするかな
って、事で、俺はこのまま死ぬわ
前にも言ったが、10年サイクルの転生、まぁ宿命ってやつだ
俺の記憶が戻ったのが、さっきだったから
これから10年あると思ってたんだが、そう都合よく行かないらしい
紫音としての、10年だったみたいだな
まぁ、後の事は頼む、蘭さんと、鈴と仲良くしろよ』
『何を言うんです、あんまりです
私は、やっと・・・・やっと、シオン様と触れ合えたんです
これから本当の意味で、一緒に居られるはずだったのに
なのに、死ぬなんて、また私の前から居なくなるなんて許しません
どんな事をしてでも、助けます、もうすこし待っててください』
『それは、無理だろ、もう心臓がとまる、いや止まったかな
リルもわかってるだろ、お前の力では失った肉体は戻らない
そして、呪詛で受けたダメージは、お前の回復魔法では治らない事を
まぁあれだ、色々言ったが、好きに生きろ、前の世界と違い
自由に生きれるだけの力と、身体が、あるんだからな
あ・・・そろそろ、終わるか
じゃぁ、またな・・・いや・・・バイバイ』
『シオンさま、シオンさま、返事を、返事をしてください、シオンさま』
そして、今、その瞬間、シオンの心臓は止まった
それにより、シオンが発動させていた魔法である
【監獄領域 (プリズン・フィールド)】
【時間凍結 (フリージング・ゼロ)】
【野薔薇の蔓 (ローズ・ウィップ)】は解除された、消失する
使い魔として作られた、2匹の【マジック・イーター】も
多少の蓄積している魔素があろうと、消えるのは時間の問題であった
消え失せた、結界魔法を目の当たりにして、リルは驚愕する
それこそ、シオンが死んだ事を表した証拠であるのだから
心臓が止まったシオンの体は
力なく【北狐亜種 (シルバーフォックス)】の背中からずり落ち
20メートルは上空から、落ちていく
それを、助けようと、飛び出す1人と1匹
それを・・・・その、ボロボロとなった紫音の姿を見て青くなる女性、蘭
彼女、そして彼等は、魔法陣に力を込める傍ら
常に上空を見つめていた
そして、大きな星型8面体の結界魔法
その姿は見る物の何が起こっていおるのかは
誰一人理解は出来ていなかっただろう
だが、大きな猫種の動物が、鈴を背に乗せ降りてくるのを見て
鈴が助かった事を理解し
蘭と井門は、緊張がほぐれ、全身の力が抜け
そうしてようやく、喜びが浮かび上がってくる
虎亜は、全身の震えが止まらない
たった1分ほどの出来事、それが、何一つ理解できなかった
助かった鈴の姿を確認するも、震えが止まることはなく
その視線の先には、紫音の姿を捉えていた
そして、予告なく消える魔法陣
九尾の魔物から、ずり落ちる、ボロボロの肉片
それは、すでに人の形を成してはいなかった
両腕は無く、、その身体の右半分は焼き爛れていた
そして、身体の左半分は、黒いモヤに包まれる用に腐食し朽ちていた
蘭はその少年を見て、それが紫音だと認識するまで、約1秒
そして頭から血の気が引き、蘭は、生まれて初めて悲鳴をあげた
そこに居た、誰もが、そう蘭を含む全員が認識してしまったのだ
あの、両腕のない子供のような形の、ボロボロの肉片は
子供の男の子|(紫音)だと、上空で何が起きていたか分からないが
あの男の子は、死んだのだと
妹である、女の子|(鈴)を助けるために、その身を犠牲にしたのだと
ボロボロの肉塊となり、その生命活動を終わらした、シオン
蘭の、悲鳴の中
リルの、叫びの中
その身を崩しながら、地上へ落下していくのだった。




